【2024年6月の自動運転ラボ10大ニュース】テスラのインターン給与、トヨタの正社員超え

自動運転タクシーの参入障壁撤廃?



インターンにも高額報酬を設定しているテスラのイーロン・マスクCEO=出典:Dunk / flickr (CC BY-SA 2.0 DEED)

埼玉工業大学が2025年度、自動運転専攻を新設する計画という。高まり続ける開発熱を背景に、即戦力となり得る人材育成を図っていく構えだ。

一方、米国ではテスラやWaymoなどがインターンに高額の報酬を設定するなど、新卒の段階でエンジニア争奪戦を繰り広げている。日本も国際的な開発競争を見据え、AI(人工知能)系を中心にエンジニアを取り巻く環境を変革しその価値を高めていくことが必須と言える。


ライドシェア云々で足を引っ張りあうのではなく、AIの力でどのように安全性を高められるのか、運行効率を上げられるかなど議論してほしいところだ。

2024年6月の10大ニュースを振り返り、モビリティ業界の「今」に触れていこう。

■Uber日本撤退の引き金に?ライドシェア完全解禁、「棚上げ」決定(2024年6月1日付)

本格版ライドシェアの解禁が棚上げ状態となっている。規制改革担当大臣である河野太郎氏を中心とする推進派に対し、国土交通大臣の斉藤鉄夫氏は慎重な姿勢を崩さず、議論は水平線を辿っているようだ。法制度を含め事業の在り方を見定めるため、期限を設けず継続議論する方針という。

最終的に解禁見送りとなれば、Uber Technologiesに代表される海外プラットフォーマーはどうするのか。現状はタクシー配車事業を軸に展開しているが、そのうち日本の市場に見切りをつけることも考えられる。


ライドシェアを無条件に全面解禁する必要はないが、次世代モビリティの在り方を総合的に勘案すると、「ことなかれ」的にライドシェアに蓋をしてしまうのも危険だ。今後、何らかの課題を有する新モビリティが登場した際も安易に蓋をしてしまう可能性が高まるためだ。

どのような結論に達するにしろ、交通イノベーションを妨げるような結果だけは避けてもらいたいところだ。

■テスラのインターン給与、トヨタの正社員超え!自動運転部門で募集(2024年6月3日付)

テスラのインターンの報酬が、年収ベース・日本円換算で約1,500万~2,300万円となっているようだ。日本ならば、熟練エンジニアがもらえるかな?……という水準で、物価や為替の影響を差し引いても破格の待遇と言える。

参考までに、Waymoが2024年2月までに募集していたインターン求人では、修士号取得者が10万5,000ドル(約1,600万円)、博士号取得者は12万5,000ドル(約1,900万円)となっている。NVIDIAやアマゾン、マイクロソフト、アップルなども月7,000ドル以上を提示している。

大学における研究環境や意識の違い、エンジニアに対する価値観の違い、雇用制度の違いなどさまざまな理由がありそうだ。日本の大手では、人材、特に新卒に対してはやはり「育てる」意識が高いものと思われるが、米テック系では「育っている」ことが前提となっている印象だ。

学生のうちに専門知識を習得し、その上でその技術の応用や生かし方も身に着ける層が日本でも増加すれば、徐々に環境は変わっていくのだろうか。少なからず、AI系エンジニアの価値と需要はまだまだ増加する。大学などにおける学習・研究環境の整備もまた急務となりそうだ。


■自動運転化、エヌビディアは「だれが勝っても」儲かる説(2024年6月7日付)

時価総額3兆ドル超でマイクロソフトやアップルに肩を並べたNVIDIA。堅調な半導体需要とAI開発に向けた高性能ソリューションの需要を背景に業績を大きく伸ばしている。

自動車分野では、SDV(ソフトウェアデファインドビークル)化の進展とともに自家用車のコンピューター化が進み、半導体需要は右肩上がりが続く見込みだ。ADAS(先進運転支援システム)の高度化とともに、高性能SoCの需要も上がりそうだ。

自動運転分野も同様に伸び続けることは間違いない。生成AIの活用なども本格化しており、高性能SoCの需要やデータセンター向けソリューションの需要などはまだまだ伸びそうだ。

ほぼすべての自動車メーカーや自動運転開発事業者と関係を持つNVIDIAは、どの企業が次代の覇者になろうと勝ち残るほどのネットワークを構築した。伸び続ける同社の躍進はいつまで続くのか、要注目だ。

■ライドシェア解禁、「反対勢力」一覧(2024年6月10日付)

通称日本版ライドシェア「自家用車活用事業」に続き、タクシー事業者以外が運行主体となる本格版ライドシェア解禁に向けた議論が進められているが、その先行きは不透明だ。

日本では、タクシー関連組織や労組などを中心にライドシェアに反対する声が根強く、国会議員の中でも意見が割れている状況だ。絶対的反対派の説得は難しく、意外と数が多そうな慎重派をいかに引き込むかがカギを握ることになりそうだ。

こうした状況を踏まえると、無条件の全面解禁はまずあり得ず、安全面や事業性などを考慮しどのような運用ルールを示せるかが重要となる。

自家用車活用事業の実績を踏まえ、今後どのような方向に議論は進んでいくのか。要注目だ。

【参考】詳しくは「ライドシェア解禁、「反対勢力」一覧」を参照。

■万博の自動運転バス、国内新興EVメーカーが「全ルートで採用」の快挙(2024年6月12日付)

EVモーターズ・ジャパンのEVバスが、大阪・関西万博で計画されている自動運転バスの全ルートで採用されるようだ。新興EVメーカーとしては異例の大口受注で、万博を契機に躍進が期待される一社だ。

万博に向けては、大阪メトロと小型コミュニティEVバスと大型路線EVバス計100台を受注したことが発表されており、すでに納車が始まっている。このうち大型6台、小型EV4台の計10台が自動運転バスとして万博期間中に使用される。

阪急バスもEVモーターズ製の中型観光バスタイプ1台を導入し、自動運転化する計画だ。

自動運転技術は先進モビリティなどの技術が活用されるようだが、EVモーターズ・ジャパンも自動運転開発に意欲を示している。万博を契機に自動運転開発事業者との提携が始まり、自動運転バス量産化に向けた取り組みが一気に加速することも考えられそうだ。

■時代を先取り!日本初、大学に「自動運転専攻」が誕生 埼玉工業大が発表(2024年6月13日付)

埼玉工業大学が、2025年度から工学部情報システム学科に新たに自動運転専攻を設ける予定という。同大は早くから自動運転研究に力を入れていたが、取り組みをさらに強化して人材育成を図っていく方針だ。

同学科にはIT専攻・AI専攻・電気電子専攻があるが、ここに自動運転専攻を加え4専攻とする計画だ。同大によると自動運転専攻は国内初で、当初の募集人員は40人としている。

また、機械工学科にはIT応用機械専攻とAIロボティクス専攻の2専攻を新設するとしている。時代のニーズにマッチした研究体制で、不足しがちなエンジニアの育成を図っていく。

同大は2019年、学長直轄の研究組織として自動運転技術開発センターを設立している。自動運転バスの開発や全国各地の実証への参加など積極的に活動している。

■自動運転タクシー、自動車メーカーの「単独参入」可能に!規制緩和の方針判明(2024年6月18日付)

自動運転タクシー実用化に向け、国土交通省はタクシーの運行管理に係る規制を緩和する方針のようだ。実現すれば、自動車メーカーら自動運転開発事業者が直接自動運転タクシーを運行可能になる見込みだ。

ビジネスモデルに対応した規制緩和の一環で、タクシー運行管理の受委託に係る規制・ルールを年内をめどに明確化する。タクシー運行管理の受託は、従来は事実上タクシー事業者に限られていたが、自動運転タクシーにおいては自動運転の専門性を有することも重視される。

良くも悪くも規制が多いタクシー事業だが、自動運転タクシーを契機に大幅な見直しが進められていくことになりそうだ。

■テスラ、本社を中国に移転か 自動運転のテスト認可で現実味(2024年6月22日付)

テスラが再び中国との距離を縮めているようだ。「FSD(Full Self-Driving)」の公道走行ライセンスを上海で取得したという。

中国に本社を移転云々はさすがに過剰だが、米国の規制当局から厳しい締め上げを食らう中、中国市場に本腰を入れてもおかしくはない。本社云々並みの憶測を交えるならば、例えばテスラを契機に中国政府との関係を強化し、宇宙事業(SpaceX)の展開において米国と中国を天秤にかける……と言ったことも考えられなくもない。

そもそも、マスク氏が米国にこだわる必然性はない。ビジネスしやすいから米国を拠点にしているだけであって、グローバル目線、宇宙目線をベースに考えれば、よりよい環境を目掛けて新天地を求めてもおかしくはないだろう。

妄想はさておき、BEVメーカーとして新鮮味が薄れたテスラは、次のフェーズに向かうべく新たな戦略を採用しなければならない。EV販売に留まらず、各種ソリューション・サービス分野に注力する可能性も考えられる。マスク氏の言動と同社の動向に引き続き注目したい。

■「ワイヤレス給電」普及へ協議会!自動運転で「ほぼマスト」の注目技術(2024年6月24日付)

EV(電気自動車)向けワイヤレス給電の普及・事業化に向け、「EVワイヤレス給電協議会」が発足した。充電作業を簡素化する技術だが、カーシェアや自動運転などでの導入に期待が寄せられる。

ワイヤレス給電・充電は、充電ケーブルを接続することなく、地上に設置された送電パッドの上に車両を停車すれば充電できる技術だ。自宅に帰ってきてわざわざケーブルをつなぐことなく、駐車すればOKというのは非常に楽だ。

この技術を応用すると、道路にコイルを敷設することでその上を走行する自動車に給電することも可能になる。走行中給電はすでに実用実証段階に入っており、米国などでは実装が始まっている。日本でも千葉県内(柏の葉)で実証が始まっているほか、大阪・関西万博で導入される計画が明かされている。

ワイヤレス給電は、いわば充電作業を無人化する「無人化技術」だ。カーシェアのように1台を複数人が共有する場合や、自動運転などとの相性が非常に高い。充電インフラが乏しい日本だが、こうした動きをきっかけに再度国や業界の熱が高まることに期待したい。

■トヨタWoven City、「独自決済システム」導入へ TOYOTA Pay誕生か?(2024年6月25日付)

ウーブン・シティの運営を担うウーブン・バイ・トヨタの求人が非常に多岐に及んでいる。自動運転開発は当然として、決済システムや物流センター、エネルギーマネジメント、都市設計など、もはや本業がぼやけてしまうほどだ。

求人内容を拝見すると、決済システムの開発や物流センターの構築・運用などを専門的に担う職を募集している。シティを一から構築するにあたり、既成概念にとらわれず次世代の都市の在り方を模索・実証できる環境を整備するため、自動車業界とは異なる人材を欲しているようだ。

こうした取り組みこそがトヨタが目指すモビリティカンパニーへの第一歩かもしれない。自動車の製造・販売というこれまでの事業の垣根を取っ払い、さらには移動・輸送サービスといったわかりやすいモビリティサービスの枠を超えてモビリティの可能性を追求する上で、異業種との連携や研究は必須となる。

ウーブン・シティを通じてトヨタはどのような答えを導き出し、どのような道をたどるのか。必見だ。

■【まとめ】前向きな議論、取り組みを継続

自動運転タクシー関連の規制緩和案など、前向きな議論が進められていることがわかった。こうした動きがあると、開発事業者も将来の参入を見据え取り組みやすくなることは間違いない。引き続き自動運転社会を見据え課題の抽出・改善に尽力していただきたい。

万博における自動運転の概要も全貌が見え始めた。予定通り開催できるのか万博そのものの懸念は残るが、万博後も生きる技術・サービスとなるだけにこちらも引き続き実証を積み重ねて質の向上を図ってほしいところだ。

早くも下半期に突入する2024年7月にはどのようなニュースが飛び出るのか。必見だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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