【2023年10月の自動運転ラボ10大ニュース】北米でレベル3まもなく始動

中国でも高速道における自動運転ガイドライン策定



海外では、北米でもついに自動運転レベル3の商用利用がメルセデスによって始まるようだ。レベル4サービスが先行する中、オーナーカーにおける自動運転がどのように進化していくのか注目だ。


対する日本国内では、米中との差を懸念する声が一部政治家から上がり、規制改革などの取り組みに改めて注目が集まることになりそうだ。

2023年10月にはどのようなトピックが飛び交ったのか。10大ニュースを1つずつ振り返っていこう。

■自動運転向け保険が続々!解禁された「レベル4バス」に商機(2023年10月5日付)

NECファシリティーズと三井住友海上火災保険がレベル4の自動運転バス運行に関する保険の開発に着手した。

自動運転バスの運行業務においては、トラブル発生時の乗客などの移動にかかる代替交通費や、事故現場への駆け付け費用など従来の自動車保険では補償できないより充実した内容での保険手配が必要と考え、運行業務に関連する保険の開発を進めるという。


損保各社が自動運転に対応した商品の開発・改善に力を入れているようだ。既存の手動運転車もADASの高度化に伴い、少しずつ重大事故が減少していくことが予想される。100年に一度の大変革と言われる時代、自動車保険を取り巻く環境も大きく変化し、保険業界もしっかりと対応していかなければならないようだ。

■GMの自動運転車、ひき逃げされた女性を下敷きに 無人走行中に避けきれず(2023年10月5日付)

サンフランシスコで営業走行を行う米GM傘下のCruiseの自動運転車が、ひき逃げされ倒れこんだ被害者を巻き込む事故が発生したようだ。

報道によると、交差点の横断歩道を渡っていた被害者が一般車両にはねられて隣車線に飛ばされ、そこにCruise車が出合わせる形となった。停止が間に合わず、被害者を巻き込む形で停止したという。

この件の過失割合などはまだ不明だが、完全無人のため車体の下にいる被害者に対し即座の対応はできなかったようだ。

また、ロイターによると、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)はCruiseから報告があった2件の事故やSNSなどにアップされている事故などを踏まえ、同社に対し歩行者保護に十分な予防措置を講じているか調査を行うという。

自動運転車が関連する事故はニュースになりやすく、また自動運転車が現状どこまでの事故に対応できるかといった点ではまだまだ多くの課題を抱えている。ただ、手動運転車はそれ以上に事故率が高いのでは……という点を踏まえ、公平に自動運転の是非を問うていきたい。

■日本最強ユニコーンPreferred Networks、損失30億円超 第9期決算(2023年10月7日付)

日本を代表するAI(人工知能)開発スタートアップのPreferred Networksの最新決算を扱った記事だ。国内有数のユニコーンとして、さらなる躍進に期待が寄せられる。

自動運転関連では、過去にトヨタから出資を受けているほか、2022年に三井物産が設立したレベル4自動運転トラックによる幹線輸送サービスの実現を目指すT2に出資・技術提供を行っている。ロボティクス関係の開発も盛んに行っており、近年は大規模言語モデルの研究開発にも力を入れているようだ。

水面下でAIソリューションの提供を行う場面が多い印象だが、徐々に水面から顔を出し、さまざまな分野の事業が本格化し始めた感も受ける。うわさが絶えないIPOの動向などとともに、同社の取り組みに引き続き注視したいところだ。

■河野太郎氏、自動運転の規制に苦言「利益が出る状況じゃない」(2023年10月9日付)

政府における自動運転推進の旗頭的存在の河野太郎氏。法的環境は整ったものの、現状について「規制があって商業的に利益が出る状況になっていない」と指摘し、さらなる規制改革に臨む構えのようだ。

当10大ニュースの次のトピックでも触れているが、米国や中国などと比較すればその差は歴然で、たとえ法整備面で先行していたとしても中身が追いついてこなければ意味がないのだ。

規制改革を担当する河野氏だけでなく、国交省や経産省を交えながら公道実証を促進する策やサービス導入を促進する策などを改めて考えていかなければならないのかもしれない。

スピード感が求められる分野だけに、河野氏の次の一手に期待したいところだ。

■日本の自動運転「なんちゃってレベル4」で出遅れ鮮明 下山哲平の現状解説(2023年10月10日付)

国内でも実用化が始まった自動運転サービス。ただ、米国や中国における取り組みとは依然大きな差があり、現在の日本のレベル4は「なんちゃってレベル4」とする記事だ。

横展開が限定的な磁気マーカー式や低速走行、レベル2からなかなか進展しない公道実証など、日本における取り組み状況に疑問を投げかけている。米中では自動運転タクシーの開発・実用化が主体となっており、柔軟な横展開を視野に入れた開発と技術の向上が進められている。

近い将来、技術のグローバル化が本格化し始めた際、この差が目に見える形で国内企業を襲う。独自のシステム開発を批判する気はないが、5年10年後にガラパゴス化することがないよう早期に検証するとともに、どのようにすれば米中のように公道実証を盛んに行うことができるか、再検討が必要なのかもしれない。

■自動運転推進派の政治家・議員・知事一覧(2023年最新版)(2023年10月12日付)

最近ライドシェア是非論をめぐる国会議員発言が活発化しているが、イノベーションを伴うような新たなサービスや技術の導入において政治家のリーダーシップは欠かせない。自動運転の導入もしかりだ。法的に解禁されたとは言え、さらなる規制緩和や自治体の首長による鶴の一声があってこそ導入に向けた取り組みが加速するのだ。

国会議員では、規制に係るポストに就く河野太郎氏の発言が目立つ。地方では、早くから自動運転に関する取り組みを進め続けている愛知県知事や静岡県知事、そしていち早く定路線への自動運転バス導入を実現した茨城県境町長などがピックアップされている。

交通課題や移動・物流サービスが抱える課題の解決はもとより、自動運転導入を契機に企業誘致を進めたり他の政策課題と絡めたりするなど、推進する手法はさまざまある。

右に倣えで単純に導入を検討するのではなく、独自の政策をもって世論を巻き込み、自動運転技術の効果的な実用化を推進してほしい。

■中国の「自動運転指針」、百度・アリババ・華為が策定に参画(2023年10月12日付)

中国政府が「自動運転を支援する高速道路設備に関する技術ガイドライン」を発表したようだ。ガイドライン作成には、百度やアリババ、ファーウェイが関わっているという。

ガイドラインは、高速道路における自動運転実現に際し、必要となるインフラや通信に関する技術指針などについて取りまとめたもののようだ。

自動運転技術で先行する百度や通信技術を有するファーウェイ、クラウドサービスを展開するアリババなど、それぞれが強みを発揮して中国政府の政策に協力した形だが、ある意味自社が進めようとする開発・サービスに対し、中国政府のお墨付きを得たような格好だ。

中国ではこれまで北京や上海などの市単位で自動運転ライセンスが発行されているが、今後、各エリア内、そして各エリアを結ぶ高速道路における自動運転も本格化していく見込みだ。高速道路におけるレベル3やレベル4の実用化の動向に注目したい。

■自動運転レベル3、米国初展開は独メルセデス!テスラのメンツ丸つぶれ(2023年10月13日付)

メルセデス・ベンツがついに北米で自動運転レベル3を本格導入するようだ。2023年後半にもカリフォルニア州とネバダ州でレベル3搭載のEQSセダンを限定投入する。

また、正規ディーラーを通じて2024年初頭に自動運転システム「DRIVE PILOT: First Class」を搭載した「MY2024 EQSセダン」と「Sクラス」をさらに導入していく予定としている。

「DRIVE PILOT: First Class」は、上記モデルに米国のMercedes me connectストアを通じてサブスクリプションサービスとして、2,500ドル(約37万円)から提供する。

最高時速は40マイル(約64キロ)に抑えられており、ホンダ・レジェンドのレベル3同様高速道路渋滞時の利用を想定したものだ。

GMやフォード、そして自動運転開発を喧伝するテスラはあっさりとベンツに先を越された格好となったが、今後は、制限速度を満たす本格的なレベル3の実用化にも注目が集まる。各社がどのように巻き返していくのか、見どころは多そうだ。

■人材大手パーソル、自動運転ビジネスに参入 「ベンチ型」を子会社が開発(2023年10月21日付)

パーソルクロステクノロジーがベンチ型自動運転モビリティ「PARTNER MOBILITY ONE」を開発し、「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」に出展する。

PARTNER MOBILITY ONEは観光向けの自動運転モビリティで、パーソルグループで技術系エンジニアリング事業を手掛けるパーソルR&Dと久留米工業大学のインテリジェント・モビリティ研究所、Le DESIGNが共同開発した。

同研究所が実証を進めてきた対話型AI自動運転システム「Intelligent Mobility System」を搭載し、パーソルR&Dが設計開発、Le DESIGNが車体デザインを担った。

テーマパークや公園、ショッピングモールなどでアプリで呼び出すことができ、時速3キロで自律走行する。2、3人が乗車可能で、XRやプロジェクションマッピングなどと連動した観光ガイドを行うこともできる。

移動に付加価値をもたらすスローモビリティで、新しいモビリティスタイルを提案していく構えだ。

■トヨタ章男氏、ウーブン株の売却リターン「たった2%」の1億円 企業価値低迷か(2023年10月21日付)

トヨタがウーブン・バイ・トヨタを完全子会社化する。豊田章男会長所有の株式を取得し、100%子会社化するのだ。

ウーブンはこれまで自主開発を進めてきたが、今後はトヨタからの委託開発体制に変更する。これに伴い利益相反の懸念が出るため、章男氏の株をトヨタが買い取ったのだ。

おそらく、ウーブンは引き続きAreneの開発やWoven Cityの運営などを担っていくことに変わりないものと思われるが、独自判断による、とがった研究開発の余地をどこまで残せるか……など気になるところだ。

AreneやWoven Cityなどは2025年に事業が本格化する見込みだ。今回の戦略変更がどのような影響を与えるか、要注目だ。

■【まとめ】新たなフェーズへの移行始まる

国内では、河野氏主導のもと自動運転実用化に向けた取り組みに変化があるのか、要注目だ。海外では、米国におけるメルセデスのレベル3や中国の高速道路における自動運転など、新たなフェーズへの移行が進み始めているようだ。

来月はどのような変化・進化が話題となるのか。11月の動向からも目が離せない。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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