【2022年10月の自動運転ラボ10大ニュース】モービルアイがIPO申請、業界最大規模の上場へ

明暗分かれる自動運転業界



世界経済が混乱する中、自動運転業界も混迷を極めているようだ。モービルアイの上場申請発表といった明るいニュースとともに、アマゾンの宅配ロボット実証中止やLiDAR企業の破産申請といったマイナスのニュースも飛び込んできた。


さまざまな話題が飛び交った2022年10月の10大ニュースを1つずつ振り返っていこう。

■スペイン警察、中国EHangの空飛ぶクルマ導入!試験をパス(2022年10月5日付)

スペインが空飛ぶクルマを警察業務に導入するようだ。国家警察が中国のEHangとのパートナーシップのもと同社が製造する「EH216」の実証・各種テストを実施し、全てのテストフライトに合格したため導入を正式に決定したようだ。

現状、法整備などが追い付いていないため使用用途は限られそうだが、警備や捜査業務においてドローンや空飛ぶクルマが活躍する未来は想像しやすい。ヘリコプターなどより陸に近く、かつフレキシブルに空を移動できるためだ。

ビジネス用途はもちろんのこと、警察や救急、災害対応など、公的な面でもエアモビリティが活躍する未来の社会に期待したい。



テスラ、「FSD β版」を世界展開へ!自動運転機能は未実装(2022年10月5日付)

テスラがADAS(先進運転支援システム)「FSD(Full Self-Driving)」の世界展開を早ければ年内にも始めるようだ。同社の自動運転開発の加速につながるか、注目が集まりそうだ。

FSDは、利用者からの各種走行データを収集・解析し、フィードバックを重ねることで進化を遂げる。現在はADASにとどまるが、改良を積み重ねて完全自動運転を実現する狙いだ。

テスラの開発力は別として、こうした仕組みは自動運転開発において非常に有用だ。自動運転開発に必要不可欠なさまざまな走行データを一手に収集することができるからだ。モービルアイも独自のマッピング技術「REM」用途で画像データの収集を早くから進めており、成果を上げている。

許諾やプライバシーなどへの配慮が必要だが、一般オーナーからデータを集める手法は今後スタンダードなものとなっていく可能性がある。自動車メーカー各社の今後の動きにも注目したい。

■動き加速!ラストマイル&ミドルマイル、進む自動配送化(2022年10月6日付)

モノの輸送を担う自動運転トラックや自動配送ロボットなどについて、ミドルマイルとラストマイルに焦点を当てて解説した記事だ。

小口多頻度化が進むラストマイルは世界共通の問題で、主に歩道を走行する小型の自動配送ロボットを中心に世界各地で開発・実用化が進められている。

一方、一般車道を走行するミドルマイルは実証段階がほとんどだが、小売大手や配送大手とのパートナーシップのもと、米国などで実用実証の段階まで開発が進んでいる印象だ。

いずれも、自動運転業界以外のパートナーシップが重要となる。国内では、法改正とともに開発各社の取り組みが加速することが予想されるが、協力的なパートナー企業の争奪戦もそのうち火ぶたを切ることになりそうだ。

■業界最大4兆円IPOへ!Intel傘下Mobileyeの自動運転事業を徹底解剖(2022年10月8日付)

インテル傘下のイスラエル企業モービルアイが、株式再上場に向け一歩踏み出した。潤沢な資金調達で自動運転ビジネスの展開を本格化させる構えだ。

2022年中に上場を果たすか定かではないが、企業評価額は、300億ドル(約4兆3,000億円)~500億ドル(約7兆円)相当となることが予想されており、実現すれば同年における最大級規模のIPOとなる見込みだ。

同社はADASソリューションやSoCで業界におけるシェアを堅実に拡大しているほか、「Mobileye Drive」などの自動運転ソリューションを軸にまもなく世界各地で自動運転サービスに着手する予定だ。インテルはMaaSプラットフォーマーMoovitも買収しており、世界各地の関連企業とパートナーシップを結びつつも自ら自動運転サービスに本格参入する可能性が高い。

ドイツをはじめ、イスラエルやドバイ、日本などで早ければ2023年にもサービスインする計画で、IPOの動向とともに今後の事業展開に大きな注目が集まりそうだ。

■自動運転とSDGsの関係性(2022年最新版)(2022年10月10日付)

SDGs(Sustainable Development Goals)と自動運転の関係について解説した記事だ。道路交通事故による死傷者半減やエネルギー関連インフラ・クリーンエネルギー技術への投資促進、持続可能な輸送システムへのアクセス提供など、さまざまな面でSDGsと自動運転業界(自動車業界)は関わっている。

道路交通事故による死傷者半減は目標年度(2020年度)を過ぎているものの、自動運転技術の普及が大いに貢献することは間違いない。手動運転車を上回る数の自動運転車が道路上を席巻する将来、交通事故や死亡事故がどれだけ削減されるか、あるいは新たな問題が発生するのかなど注目したいところだ。

CASEに話を広げれば、シェアリング・サービスやEV(電気自動車)化も大きく関連する。シェアサービスをはじめとするモビリティサービスが浸透し高効率の交通が実現すれば、環境負荷が低減されることは言うまでもない。エネルギー面に貢献するEV化の流れも、電力源の問題が内在するものの方向性としてはベクトルが一致する。

地球環境を掲げると大義名分に聞こえがちだが、自動運転をはじめとするCASEの潮流は時代の要請と合致しているのだ。

【参考】詳しくは「自動運転とSDGsの関係性(2022年最新版)」を参照。

■自動運転向けLiDAR開発の独Ibeo、債務超過で破産申請(2022年10月11日付)

LiDAR開発を手掛ける独Ibeo Automotive Systemsがハンブルグの破産裁判所に破産を申請した。さらなる成長資金を確保できなかったことを理由に挙げており、新たな投資家のもと再スタートを切りたいとしている。

同社は1998年設立とLiDAR開発企業の中では古参の部類で、自動車大国ドイツを中心にオランダや米国に拠点を設けているが、次々と台頭するスタートアップに押され存在感を発揮しきれなかったようだ。

これまでの出資者には、サプライヤー大手ZFの子会社や音響機器の製造を手掛ける中国AAC Technologiesなどがいるようだ。2020年に長城汽車にソリッドステートLiDARが採用されている。

新たな資金調達が成功し、事業を継続することができるのか。LiDAR需要の増加とともにますます競争が激化する中、生き残りに向け早くも正念場を迎えているようだ。

■中国NIOが「テスラ式」採用!自動運転チップを自社開発(2022年10月12日付)

新興EVメーカーの中国NIOが、半導体の独自開発に乗り出すようだ。自社開発力を強化し、激化する競争を勝ち抜く構えだ。

従来の自動車業界は垂直統合型が主流で、自動車メーカー主導のもと、自社グループ内で製造・生産を完結するモデルが大半を占めていた。しかし、ADASの高度化やコネクテッド化、そして自動運転化などに伴い必要とされる技術が多様化し、徐々に水平分業の動きが強まっている。

LiDAR開発事業者など新規参入するサプライヤーの増加が水平分業を促す一方、テスラに代表される新興EVメーカーの中には垂直統合を目指す動きも出始めており、今後こうした2極化が顕著となる可能性も考えられる。

どちらが正解・不正解というものではないが、垂直統合型は一般的に膨大な開発コストが必要となる。NIOがどこまでの開発力と体力を持ち合わせているのか、要注目だ。

自動運転タクシー、米大手GM「増台したい!」 州当局「う〜む」(2022年10月13日付)

カリフォルニア州サンフランシスコで自動運転タクシーを展開するGM Cruiseの前途に暗雲が立ち込め始めているようだ。自動運転フリートの拡大や「Cruise Origin(クルーズ・オリジン)」の導入を目指す動きに、サンフランシスコ市が難色を示しているという。

Cruiseは2022年2月にサンフランシスコで自動運転タクシーサービスを開始したが、複数台が同時に車道上で立ち往生したり、ヘッドライト無灯火で走行したり、緊急出動中の消防車の行く手を阻んだり――とトラブルが相次いでいる。6月には交差点で事故を起こし、ソフトウェア改善に向け自主的にリコールも実施している。

この状態でのフリート拡大は、さすがに虫が良すぎると言われても仕方がないのではないだろうか。ハンドルなどを備えないオリジン導入についても、リスキーと判断されても文句は言えない。

GM、Cruiseとの協業のもと、日本国内で実証を開始したホンダも気が気ではないのではないだろうか。こうしたトラブルの影響は社会受容性の低下に直結する。GM、Cruiseは、信頼性を高める方向にかじを切り、一つひとつの問題をしっかりと解決してから拡大路線を歩むべきだろう。

■目指せテスラ超え!将棋AI開発者ら、95%自動運転で北海道1周(2022年10月18日付)

自動運転開発を手掛ける国内スタートアップのTURINGが、自動運転で北海道を一周する長距離走行プロジェクトを実施した。総走行距離は1,480キロに及び、このうち約95%の道のりを自動運転モードで走行したという。

同社は2022年夏に千葉県内で公道実証を開始したばかりだが、一気にステップアップしたような格好だ。詳細は明かされていないが、もしかすると高精度3次元地図を使わない実証を行った可能性も考えられる。

多くの公道実証では、事前に高精度3次元地図を作成してから自動運転に臨むが、今回の実証の規模と準備期間を考慮すると、地図なしで走行した可能性が考えられる。同社は完全自動運転となるレベル5の実現を目指しているため、マップによる制限を排除した自動運転技術を開発しているのかもしれない。

設立からわずか1年。ますます加速度を増す同社の取り組みに要注目だ。

■実は役立たず?米Amazon、自動配送ロボの公開テスト中止(2022年10月21日付)

米メディアによると、EC大手アマゾンが自動運転配送ロボット「Scout(スカウト)」の実証を中止したようだ。400人規模の開発チームは解散し、ほとんどが別部門に移ったという。

スカウトのサービス実証は2019年にスタートし、丸3年が経過した。この間、ワシントン州やカリフォルニア州、ジョージア州、テネシー州など実証エリアを拡大し、2021年にはフィンランドにスカウトの開発センターを設立することを発表している。同年には、有人配達車両を拠点に配送ロボットが宅配する仕組みについて特許申請を行うなど、実用化に向けた動きは間違いなく加速していた。

アマゾンは2022年、2四半期連続で赤字計上しており、業績改善に向け先行投資的意味合いが強いロボット開発を停止した可能性が考えられる。

ただ、ロボットの存在意義も経営効率化に向けたものであるほか、2022年9月付でスカウト開発向けの求人を出していることから、開発を諦めたとも思えない状況だ。

体制を一新し、新たな形でロボット実用化に向けた取り組みを再加速することに期待したい。

■【まとめ】モービルアイの世界展開が各社の戦略に影響?

モービルアイの上場は、自動運転業界の構図を大きく書き換える可能性がある。Waymoを筆頭に米中企業がけん引してきたこれまでの流れに対し、モービルアイが一気に世界展開を仕掛けることで、各社の戦略に大きな影響が及ぶ可能性がある。

一方、アマゾンやIbeoのような負の話題も、今後増加する可能性が高い。世界経済全体の影響もあるが、業界における競争激化で淘汰の動きがいっそう活発になり、サービス・ビジネスモデルの転換を行う動きなども出てくることが予想される。

話題が尽きない自動運転業界。11月はどのようなトピックが飛び交うのか、引き続き注目したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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