870万円で無人タクシー製造!2022年3月の自動運転ラボ10大ニュース

ビジョンファンドにも大きな動き



2022年に入ってからも社会実装に向けた取り組みが加速し続けている自動運転業界。米国や中国、そして韓国では自動運転タクシーの実用化に向けた取り組みが一段前進したようだ。その一方、ロシアによるウクライナ侵攻の影響も一部で出始めている。


2022年3月の10大ニュースを1つずつ振り返っていこう。

百度の自動運転タクシー、もう7都市目!日本なら東名阪札仙広福(2022年3月2日付)

中国のIT大手・百度(Baidu)が、着々と自動運転サービスを拡大している。このほど深センでもサービスインし、これで中国内7都市を網羅した。

7都市での自動運転タクシーサービスは世界最多だが、同社のロビン・リーCEOは2021年開催の年次カンファレンスで3年以内に30都市でサービスを開始する目標を公言しており、攻勢はまだまだ続くものと思われる。

中国では百度以外にもWeRideやAutoX、Pony.ai、Momentaといったスタートアップ勢がサービス実装に力を入れており、その勢いは米国勢を凌ぐほどだ。


国を挙げて自動運転の高度化・実用化に取り組む中国。2022年もどこまで進展するのか要注目だ。

■自動運転、韓国の大本命は42dot?ソウルでロボタクシー展開(2022年3月2日付)

韓国の首都ソウルで、有料の自動運転タクシーサービスが始まったようだ。同市の事業のもと、2019年設立のスタートアップ42dot(フォーティートゥドット)が認可を受け、サービスを提供している。

設立からわずか2年ほどで自動運転タクシーの有料サービスにこぎつけた42dotの技術開発力もさることながら、ソウル市の取り組みも目を見張るものがある。「ソウル自動運転ビジョン2030」を策定し、2030年までに世界トップ5に入る目標を掲げ事業を推進しているのだ。

韓国では、宅配ロボットのサービス実証なども進んでおり、自動運転で先行する米国、中国を追いかける第2集団に位置付けられる。日本もこの第2集団から引き離されぬよう、開発、サービス、法規制の各方面でもう一段ギアを上げたいところだ。

■たった870万円!中国アポロの自動運転タクシー、製造コスト判明(2022年3月5日付)

自動運転開発プロジェクト「アポロ計画」を主導する中国Baidu(百度)は、量産型自動運転タクシーの製造コストを48万元(約870万円)まで引き下げることに成功したという。自動運転サービスは導入時におけるイニシャルコストが足かせとなりそうだが、早くも低価格化に向けた取り組みが活発になっているようだ。

最新の高性能コンピュータやセンサーを搭載する自動運転車は、研究開発コストの転嫁分も含め高額となることに異論を持つ者はいないと思われる。初期の量産化も限定的で、本格的に価格が低下するのは大規模な普及期に入ってからだ。また、その頃には毎年のように最新モデルが登場し、高価格帯が維持されるのも世の常だ。レベル4車両の価格は数千万円とも言われている。

このような中、現時点で1,000万円以下の製造コストを実現した功績は大きい。販売価格は不明だが、乗用車におけるフラッグシップモデル並みに収まる可能性もある。アポロ計画による開発や製造の効率化は、今後まだまだ進む可能性が高い。こうした自動運転車の製造コストや価格にも注目だ。

■世界で実用化進む自動運転タクシー、米加州も「運賃取ってOK」(2022年3月7日付)

世界の自動運転開発企業が集う米カリフォルニア州で、ついに自動運転タクシーの有償サービスがまもなく始まりそうだ。WaymoCruiseがドライバーレス走行と有償による商用展開許可を取得したのだ。

両社は現在、サンフランシスコなどで住民を対象としたパイロットプログラムや無料サービス実証を進めているが、おそらく2022年中に有料化に踏み切るものと思われる。米国では、アリゾナ州に次ぐ2番目のドライバーレスサービスの商用化となる見込みだ。

米国における自動運転タクシーサービスはWaymoの独壇場が続いていたが、ついに本格的な競争が始まる見込みだ。今後、Argo AIやMotionalなども無人化・有料化と段階を踏んで追随するものと思われる。

競争が開発をいっそう加速させ、サービスの質を向上させる。今後の各社の展開に要注目だ。

■ロシアYandex、アメリカでの自動運転実証を一時停止(2022年3月10日付)

ロシア軍によるウクライナ侵攻を背景に、自動運転開発を手掛ける同国のYandexが苦境に立たされている。同社はロシア国内のほか、米国やイスラエルなどで自動運転実証を進めているが、国外での活動に大きな制限が課されているようだ。

米国でフードデリバリー事業を展開するGrubhubは2021年7月、複数年にわたるパートナーシップのもとYandexが開発した宅配ロボットを活用した配送サービスを大学キャンパス内で開始したが、今回の情勢を受けサービスを停止した。一部報道によると、契約を打ち切ったという。

侵攻が長引くにつれ、こうした動きは世界各地に広がっていくことが予想される。これ以上悪い方向に進まないことを祈るばかりだ。

■上場直後にGM超えも!Mobileye、時価総額500億ドル級へ 自動運転開発企業(2022年3月11日付)

米インテルはこのほど、自動運転開発を進める傘下のイスラエル企業・モービルアイの再上場に向け、米国証券取引委員会(SEC)に目論見書を提出したと発表した。上場時期は2022年中旬としている。

同社はもともとニューヨーク証券取引所に上場していたが、2017年のインテル買収時に上場廃止した。当時の最終的な時価総額は約139億ドル(約1兆5,300億円)だったが、今回のIPOで同社の企業価値は500億ドル(約6兆円)規模に達するとの見方が出ている。

同社の業績はインテル買収後も順調に伸び続けており、従来のADAS製品やシステムオンチップ「EyeQ」シリーズをはじめ、自動運転システム「Mobileye Drive」を搭載した自家用車の開発や自動運転バス・タクシーなどの開発が世界で加速している。

大型IPOとなることはほぼ間違いなく、IPOに合わせて大型契約などのビッグニュースを発表する可能性もある。同社の動向に引き続き注視したい。

トヨタ出資の自動運転企業Pony.ai、企業価値が1兆円到達(2022年3月15日付)

自動運転スタートアップの中国Pony.aiがシリーズDの初回ラウンドにおける資金調達を完了し、企業価値が85億ドル(約1兆円)に達したと発表した。投資家や調達額などの詳細については、シリーズ終了後に発表する予定だ。

同社は2021年、米国株式市場へのIPOを予定していたが、米中貿易紛争を背景に計画を凍結している。このような状況下での資金調達において、企業価値100億ドルのデカコーン一歩手前に達したこともあり、注目度が高まっている印象だ。

同社は一汽グループや広汽グループなどの中国OEMをはじめ、トヨタともパートナーシップを結んでいる。2020年のシリーズBでトヨタから出資を受けたほか、トヨタの海外向けミニバン「シエナAutono-MaaS」に自動運転システムを統合し、2022年に公道実証を開始する計画を発表している。

資金面やトヨタとの連携を含め、今後の動向に要注目だ。

■「サービス売上」の伸び鮮明!自動運転シャトルの仏NAVYA、前年比23%増(2022年3月17日付)

自動運転シャトルの開発を手掛ける仏NAVYAが2021年の業績を発表した。シャトル販売台数は前年から4台少ない19台にとどまり、売上高は前年比5%減の1,016万ユーロ(約13億4,000万円)となった。

特筆すべきはその内訳だ。車両部門の売り上げは前年比17%減の604万ユーロ(約7億8,000万円)だったが、これを補うようかのようにサービス部門は同23%増の412万ユーロ(約5億4,000万円)と数字を伸ばしているのだ。

自動運転車両を販売して終わりにするのではなく、ライセンス化やメンテナンス事業などを通じて継続的な収益化を図る取り組みを進めているのだ。

自動運転関連市場はまだ花を咲かせ始めたばかりで、今後どのような方向で市場を肥大化させていくかはまだまだ未知の領域だ。秘めたポテンシャルをビジネス面でどのように発揮するか、大きな可能性が眠っていそうだ。

■自動運転車の解禁、世界で加速!米当局、ハンドルなし車両を認可へ(2022年3月18日付)

米運輸省道路交通安全局(NHTSA)が、ハンドルなどの手動制御装置を備えない新規格の自動運転車の実用化を見据え、連邦自動車安全基準(FMVSS)の改訂に動き出したようだ。

日本で言うところの道路運送車両法の改正に近いイメージで、安全走行を行う上で車両が満たすべき基準策定を進めているのだ。従来の自動車は、人間による手動運転を前提に自動車の構造や装備などが定められているが、自動運転車は必ずしも人間による運転を前提とするものではない。

従来の型にはまらない新規格の自動運転車が満たすべき基準はどのようにあるべきか。国際基準面を含め、世界的な議論が今後加速しそうだ。

■孫氏、売却益12億ドルか 自動運転企業Cruiseの株式売却で(2022年3月24日付)

自動運転開発を手掛けるCruiseの未公開株をめぐり、親会社のGMがSVF(ソフトバンクビジョンファンド)所有の株を取得すると発表した。対象となる株式数は不明だが、取得額は21億ドル(約2,500億円)だ。

SVFはこれまで、最低でも9億ドル(約1,000億円)をCruiseに出資している。仮にこの9億ドル分をGMが21億ドルで取得したならば、単純計算でSVFは12億ドル(約1,500億円)相当の利益を創出したことになる。

正確な利益はSVFの決算発表待ちになりそうだが、気になるのはその背景だ。当初予定されていた第2の投資期を迎えたタイミングでの株式譲渡は、資金繰りに問題がなければ戦略上何かしらの相違があったのでは?――と勘繰りたくなる。

その有力候補がIPOをめぐる意見の相違だ。GMはIPO慎重派であり、IPO推進派だったCruiseのCEOを事実上退任させた。この辺りに要因が隠されているのではないかという見立てだ。

■【まとめ】自動運転実用化に向けた取り組みは着実に前進

着実に自動運転の実用化に向け各国・各企業の取り組みは前進しているようだ。一方、日本国内のニュースは乏しい印象で、新年度の巻き返しに期待したい。

2022年度は、日本をはじめとした各国でレベル4解禁に向けた動きが明確になるものと思われる。こうした動きに合わせ、開発各社やサービス事業者の動向もいっそう激しさを増しそうだ。

新年度が始まる2022年4月はどのようなニュースが業界を賑わせるのか。さらなる活性化に期待大だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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