中国IT大手のBaidu(百度)が主導する、オープンソフトウェアプラットフォームを活用した自動運転開発プロジェクト「アポロ計画」が止まらない。参画企業はもとより、百度自身も自動運転車の開発・生産活動を本格化させ、次々と自動運転車を生み出している。
その開発スピードもさることながら、注目すべきは製造コストの低下だ。百度が2021年に発表した自動運転タクシーの主力モデル「Apollo Moon(アポロムーン)」の製造コストは、1台当たり48万元(約870万円)という。
高い開発力と製造能力、そしてサービス展開力に裏打ちされた百度の自動運転戦略が本格化の兆しを見せているようだ。この記事では、自動運転タクシーを中心に百度の取り組みに迫っていく。
記事の目次
■自動運転分野における百度の取り組み
百度は2013年ごろに自動運転開発に着手したとされる。これまでに、第一世代(2013年)BMW3、第二世代(2015年)奇瑞EQなど、第三世代(2017年)林肯MKZ、第四世代(2019年)紅旗E-HS3と開発を続け、2021年に第五世代のアポロムーンにたどり着いた。
2017年に発表したオープンソフトウェアプラットフォーム「Project Apollo(阿波羅)=アポロ計画」を契機に他社を交える形で開発を大幅に加速し、中国における自動運転開発を主導する位置まで成長を遂げた。
2020年にApolloGoスタート
自動運転タクシーの実用化に向けた公道実証は、2018年ごろから大きく加速していく。北京や上海など中国の主要都市はそれぞれ公道実証要件を策定し、テストコースにおける試験を通じて開発各社に公道走行ライセンスを付与する形で開発を後押ししている。
百度は2019年末までに北京や長沙、滄州など23都市で走行実証を行っており、総走行距離は300万キロメートルを超えたという。この数字は開発各社の中でも抜きん出たものとなっている。
2020年4月には、一般客を対象とした自動運転タクシーサービス「Apollo Go Robotaxi」を長沙市で開始した。その後、北京や滄州などでもサービスインしている。
また、同年中に北京や長沙で無人走行ライセンスを取得し、ドライバーレスへの道を切り開いた。無人サービスは2021年5月までに北京市でスタートしており、乗客から利用料金30元(約500円)を徴収する有償サービスとして本格的な自動運転タクシーサービスの実装に着手している。
7都市でサービスイン、2025年までに65都市を目指す計画も?
百度は、2022年3月時点で北京、上海、広州、重慶、長沙、滄州、深センの7都市で「Apollo Go」を試験運用している。
アポロの自動運転システムは、2021年4月時点で中国内の20都市の都市道路と高速道路をカバーしており、2023年までに100都市をカバーする計画という。また、2023~2024年までに国内30都市で自動運転車サービスを開始する予定としている。
一部報道によると、ロビン・リー会長兼CEO(最高経営責任者)がアナリスト向けの電話会議でApollo Goを2025年までに65都市、2030年までに100都市で展開する目標を語ったという。サービス提供エリアはまだまだ拡大の一途をたどるようだ。
アポロムーンの製造コストは車両本体含め870万円
百度は2021年6月、自動車大手BAIC傘下のEV(電気自動車)ブランドARCFOXと共同開発した自動運転サービス向けの量産車「Apollo Moon(アポロムーン)」を発表した。ARCFOXの純電気自動車「α-T」をベースに自動運転仕様に改造したモデルで、製造にかかるコストは車両本体分を含め48万元(約870万円)としている。
百度によると、このコストは業界における平均コストの3分の1という。技術の急速な進歩と費用対効果の向上により、アポロが供給側の改革を真に実現するとしている。
■自動運転車の価格競争の始まりか
自動運転サービスの事業化は、安全性とともに費用対効果・収益性が求められることは言うまでもない。高い安全性とドライバー不足を補う利点は大きいが、ある程度収支を均衡させられなければ事業に継続性を見出しにくい。無人化によって削減可能な人件費とイニシャルコストを考慮し、損益分岐点がどこにあるのかを見定める必要があるのだ。
自動運転車の価格は、一般的に数千万円と言われている。自動運転タクシー向けのレベル4車両は一般販売されていないため正確な価格は不明だが、2千万~3千万円ほどを相場と見る向きもある。
こうした価格は、量産化・普及が進むにつれてさらに低下していくことになり、価格の低下がさらなる需要を生む好循環が育まれる。一度軌道に乗れば、ブームが到来したかのように売り上げは右肩上がりを続けることになるだろう。
百度は、この好循環を自ら生み出そうとしているのかもしれない。製造コストの低減を図りながら、自らサービスエリアを拡大して量産化を後押ししているのだ。
【参考】百度の自動運転タクシー戦略については「百度の自動運転タクシー、もう7都市目!日本なら東名阪札仙広福」も参照。
LiDAR同様、業界における技術水準が一定レベルに達すれば遅かれ早かれ価格競争が始まる。革新的な先端技術搭載モデルと普及モデルに分かれ、後者を中心に低価格競争が始まるのだ。
百度がこうした競争の仕掛け人を目論んでいるかは定かではないが、現時点においてコスト競争力とサービス展開力がずば抜けていることは確かだ。こうした百度の取り組みは、近い将来訪れるだろう価格競争に向けた「狼煙(のろし)」となるかもしれない。
■【まとめ】自動運転車の価格破壊は思いのほか早く訪れる?
インテル傘下のモービルアイは2022年1月、消費者向けのレベル4車両を2024年にも中国で発売する計画を明かしたが、この際のプレゼンで自動運転システムにかかるコストを「5,000ドル(約58万円)以内」に抑える目標を掲げている。
眉唾物の数字に感じられるが、近い将来実現可能であるからこそ示された数字と思われる。自動運転車の価格破壊は思いのほか早く訪れるのかもしれない。その仕掛人(企業)として、百度やモービルアイなどが先陣を切っていく可能性が高そうだ。
▼Apollo公式サイト
https://apollo.auto/
【参考】関連記事としては「百度(Baidu)自動運転開発の年表!アポロ計画推進、中国で業界をリード」も参照。