自動運転技術の実用化に向けた取り組みが世界で加速している。米国と中国が先行する中、これを追いかける第2集団の動向にも注目が集まるところだ。
この第2集団において、近年は韓国が存在感を増し、めきめきと頭角を現しているようだ。この記事では2022年6月時点の情報を分析し、韓国政府や企業の取り組みを解説していく。
■韓国政府などの動向
2016年に公道実証制度を導入
韓国は2016年、自動運転車の公道実証に向け臨時の運行許可制度を導入した。国内外の自動車メーカーやIT系企業、スタートアップ、大学などが運航許可を取得し、2020年ごろまでに計120台以上が走行しているという。また、無人による実証は、2022年5月時点で5社が実施しているという。
韓国政府は2019年9月、「規制自由特区、地域が主導する革新成長の中心」をテーマにした懇談会を開き、規制自由特区7地域を発表した。この中で、BRT(バス高速輸送システム)専用道路が発達した世宗市は自動運転バスの運行に最適とされ、「自動運転規制自由特区」に選ばれた。2021年を目途に道路や公園、住宅団地で自動運転バス20台を運行し、2023年までに200台に増やす計画としている。
2027年に全国主要道路で自動運転商用化を目指す
2019年に発表した「未来自動車戦略」では、韓国を世界一の自動運転国にすることを目標に、2024年までにレベル4に対応した制度を整備し、2027年には高速道路をはじめとした全国の主要道路で自動運転車の商用化を実現するとしている。
5,500キロに及ぶ高速道路のマッピング化やV2Iシステムの搭載を進め、その後2030年までに11万キロほどの道路のマッピングなども進めていく計画のようだ。
2020年には、レベル3搭載車両の走行を実現する「自動運転車の商用化の促進及び支援に関する法律」が施行されたほか、改正自動車損賠償補償法も公布された。自動運転車に関連する事故責任や原因究明を行う事故調査委員会制度を導入し、自動運転車の商用化に向けた制度基盤を積み上げている。
同年、国土交通部は自律走行自動車倫理ガイドラインやレベル4自律走行自動車製作安全ガイドラインを策定・発表している。開発者や運営者、利用者が自発的に遵守することで、レベル4商用化に向けた取り組みを安全に進めていく狙いだ。
2022年5月には、「自動運転車の商用化の促進及び支援に関する法律」の改正案が早くも公表された。国際基準との整合性を高めることが目的で、自動運転の解除方法の明確化・具体化や運転切替要求(テイクオーバーリクエスト)基準の改善、自動運転システム作動状態通知方式の改善、自動運転解除時の映像装置の自動終了規定などが盛り込まれている。
国際基準で定められた上限速度(時速60キロ)については適用せず、各道路の制限速度までの運行が可能となっている。
実証都市「K-City」開設
国土交通部は、自動運転実証をはじめとしたスマートシティ構築に向け、実証都市「K-City」を開設した。敷地面積は36万平方メートルに及ぶ都市に高速道路やトンネル、商業施設などを建設し、5Gを活用した各種走行実証を可能にするという。
【参考】K-Cityについては「韓国に自動運転テスト向けの「K-City」登場 総工費12億円」も参照。
国家道路網総合計画を策定
2021年から2030年に渡る第2次国家道路網総合計画では、自動運転車やエアモビリティといった未来のモビリティを支援するデジタル道路網(ITS、C-ITS)を拡充していくこととしている。
自動運転モニタリングやインフラ運営管理などリアルタイムで交通管理を行うAI(人工知能)交通情報センターの構築や、車両センサー情報以外にもC-ITS情報を融合しリアルタイムで道路交通環境を認知できる技術開発やインフラの構築、車両とインフラ・センター間の信頼性の高い情報交換やハッキングを防止するV2Xセキュリティ認証管理システムの構築、安価な車両センサーで道路上の位置を容易かつ正確に認識できる高性能塗料や路面標識などのデジタル道路施設の開発・適用などを挙げている。
また、道路建設から維持管理までの全過程にわたり、自ら診断·管理が可能なインフラへの衣替えも進めていく方針で、AIやIoT、ビッグデータ、ロボットなどを活用した建設・維持管理の自動化·無人化や、車両·インフラ情報を融合させ自動運転車と一般車がともに円滑に走行できる交通運営·管理体系を構築していくとしている。
2024年までに空飛ぶクルマの実証路線を指定
空飛ぶクルマ関連では、韓国政府が2024年までに仁川国際空港や金浦国際空港、清凉里駅、総合展示場・COEXなどを結ぶ実証路線を指定し、2030年から本格運用する計画であることを2020年に発表している。
2024年までに通信環境や気象条件などの運行条件などを整理し、韓国型の運行基準を策定するほか、1人乗りの試作機の開発を2023年までに完了させ、400キロまでをカバーする2~8人乗りの中長距離用機体の開発も検討していくこととしている。
2020年11月には、中国Ehangが開発した「EH216」を活用し、ソウルの汝矣島で実証試験を実施している。
駐車ロボットを2022年9月にも制度化
国土交通部は2022年5月、規制サンドボックス制度のもと運営している駐車ロボットを制度化する「機械式駐車装置の安全基準及び検査基準等に関する規定」改正案を同年9月に施行する予定であることを明らかにした。
駐車ロボットは、駐車場入り口で運搬機(ロボット)が車両を持ち上げ、駐車場床のQRコードを認識して経路に沿って駐車区画に移動して駐車するタイプのもの。出庫の際は、利用者が出庫区域で車両番号を入力すると、駐車ロボットが自動運転で車両を運んでくる。
韓国では、富川市の路外駐車場で2020年10月から実証が行われており、駐車ロボットの位置・経路認識、安全装置などの運営システムの検証を進めている。駐車時間の短縮や事故低減、駐車スペースの効率化が見込まれている。国土交通部によると、鉄骨やレール、チェーンなどの装置が不要となるため、機械式駐車場に比べ初期設置費用も約20%程度削減可能と予測している。
■ヒョンデ(ヒュンダイ)の取り組み
2015年に米国で公道実証を開始
早くから自動運転やコネクテッド技術、EV(電気自動車)などCASE分野の開発に着手している現代(ヒョンデ)。韓国内で自動運転実証環境が整ってない2015年に米ネバダ州で走行ライセンスを取得し、公道実証を開始している。
2017年には、中国の百度(Baidu)とコネクテッド分野でパートナーシップを結んだと発表した。Baiduのコネクテッドナビゲーション「MapAuto」と音声認識技術「DuerOS」を中国市場向け車両に搭載するほか、音声認識やAI、コネクテッドカー、自動運転技術の各分野において共同で取り組む可能性を探ることとしている。
2018年には、米新興企業のAurora Innovationと戦略的パートナーシップを結び、2021年までに自動運転車を市場投入する計画を発表した。オーロラの自動運転技術をヒョンデの車両に統合して実証を重ね、長期的には世界中の市場で展開するとしている。
Aptivと合弁「Motional」設立
ヒョンデは2019年9月、米Aptivと自動運転サービスの実用化に向け合弁を立ち上げると発表した。両社は計40億ドル(約4,400億円)を拠出し、レベル4~5の自動運転技術の設計や開発、商業化を推進していく方針だ。
2020年に完全無人の自動運転実証を開始し、2022年にロボタクシープロバイダーやフリートオペレーター、自動車メーカーが利用可能な自動運転プラットフォームを構築する計画だ。
合弁は「Motional」と名付けられ、202年3月までに設立が完了している。Motionalの取り組みについては別記する。
Pony.aiとロボタクシーのパイロットサービスに着手
2019年11月には、中国Pony.aiと米Viaとともに自動運転タクシーサービス「BotRide」のパイロットプログラムを米カリフォルニア州アーバインで開始した。KONA Electric SUVをベースにPony.aiと共同で自動運転システムを構築し、Viaとオンデマンドライドシェアアプリケーションを開発した。
同年には、機械学習ベースのスマートクルーズコントロール技術「SCC-ML」の開発も発表している。ドライバーのパターンをADASに組み込むことで、半自動運転機能の実用性を劇的に向上させるとしている。
フロントカメラやレーダーなどのセンサーが運転情報を取得し、集中型コンピューターに送信する。集中型コンピューターは、収集された情報から関連する詳細を抽出し、AIを活用してドライバーのパターンを識別する。
運転パターン情報は、ドライバーの最新の運転スタイルを反映して定期的に更新される。SCC-MLは、安全ではない運転パターンの学習を回避し、信頼性と安全性を高めるようプログラムされているという。
ソフトバンクグループからロボット企業を買収
2020年12月には、ソフトバンクグループからロボット開発を手掛けるBoston Dynamicsを買収すると発表した。ロボットコンポーネントの製造からスマートロジスティクスソリューションに至るまで、ロボット工学のバリューチェーンを構築するとしている。
技術見本市「CES 2022」では、ロボット工学とメタバースを統合した新しい「メタモビリティ」のコンセプトを発表したようだ。高度なロボット工学によって可能となる将来のモビリティソリューションを想定し、このモビリティソリューションをメタモビリティにまで拡大してくという。
2022年にレベル3を市場投入
ヒョンデは2022年中にもレベル3を搭載した市販車を市場投入する計画を明かしている。自動運転技術の開発担当責任者が講演で語っており、新型「Genesis G90」に搭載する予定のようだ。
【参考】ヒョンデのレベル3については「韓国ヒュンダイ、2022年に自動運転レベル3の市販車を発売へ」も参照。
■その他のトピック
Motionalは米国で自動運転サービス開始へ
Motionalは、ヒョンデのEV 「IONIQ 5」をベースにしたロボタクシーを開発し、2023年に米ラスベガスでサービスインする計画を発表している。配車サービス大手Liftのプラットフォーム上でサービスを提供する見込みだ。
2021年12月には、Uberとのパートナーシップのもと2022年早期にUber Eatsの宅配に自動運転車を導入する計画を発表している。ロボタクシー車両を宅配向けに改造し、カリフォルニア州サンタモニカで自動運転配送サービスに着手する計画だ。
いずれも米国内の取り組みとなるが、環境が整えば韓国内におけるサービスインも視野に入れているものと思われる。今後の動向に要注目だ。
【参考】Uberとの取り組みについては「トヨタ、Uberに浮気された?自動運転の相棒はMotionalなのか」も参照。
起亜が自動運転システム「AutoMode」を発表
起亜自動車(KIA)は2022年、自動運転システム「AutoMode」を搭載したEVを2023年までに展開する計画を発表している。
AutoModeは高速道路でドライバーの介入なしに走行できる「Highway Driving Pilot」機能を搭載する予定という。当初はハンズフリーが可能な高度レベル2として市場化し、OTAアップデートでレベル3を実現する方針のようだ。
【参考】起亜の取り組みについては「韓国KIA、自動運転機能「AutoMode」搭載EVを2023年発売へ」も参照。
スタートアップも続々と頭角現す
2019年設立のスタートアップ42dotが自動運転開発で頭角を現している。ネット大手ネイバー(NAVER)の元CTOが立ち上げた自動運転開発企業で、2021年12月からソウル市内で有料の自動運転タクシーサービスの実証を進めている。
また、2017年設立のMars Autoも自動運転トラックを開発し、2022年中の実証実験を経て2023年にも商用化を実現する方針を示しているようだ。
【参考】42dotについては「自動運転、韓国の大本命は42dot?ソウルでロボタクシー展開」も参照。Mars Autoについては「韓国ベンチャーMars Auto、自動運転トラックを2023年に商用化へ」も参照。
自動走行ロボットも実証が加速
韓国では、自動走行ロボット実用化に向けた取り組みも加速しているようだ。2017年設立のスタートアップNeubilityは自動走行ロボット「NEUBIE」を開発し、韓国セブンイレブンをパートナーに2021年11月ごろから公道実証を行っている。
フードデリバリーサービス大手Woowa Brothersも2019年に大学キャンパス内で実証に着手し、2021年にはヒョンデなどとの提携のもと新型ロボット「デリロボット」を開発し、屋内外を通して配送する実証などを進めている。
【参考】韓国における自動配送ロボットの取り組みについては「韓国でも活用進む「自動宅配ロボ」!法改正で公道走行解禁へ」も参照。
KPMGのランキングで7位に躍進
コンサルティング世界大手のKPMGが毎年発表している「自動運転車対応指数」の2020年版では、国別順位で韓国は7位に位置付けられている。前年の13位から大きく飛躍した格好だ。
要素別では、政策と法律16位、テクノロジーとイノベーション7位、インフラストラクチャー2位、消費者の受容性10位となっている。
KPMGによると、4G対応エリアで最高評価を得ているほか、テストエリアの増大やライドシェアサービス利用の増加、社会における技術利用度合いと消費者のICT利用などを背景とした受容性の向上などが評価されたようだ。
【参考】KPMGのレポートについては「自動運転指数、なぜ車産業がないシンガポールが1位なのか」も参照。
■【まとめ】韓国政府やヒョンデを中心に取り組みが大きく加速
世界一の自動運転国を目指す韓国政府の取り組みと、ヒョンデを中心とした民間の開発が大きく加速しているようだ。スタートアップの台頭も著しく、開発競争を刺激している印象だ。
何かと比較されることが多い隣国に対し、日本も負けてはいられない。実用化に向けた環境整備をいっそう進めるとともに官学民総出で日本の技術を結集し、世界に誇れる自動運転技術の実現に期待したい。
■関連FAQ
2016年のことだ。自動運転車の公道実証を実施できるようにするため、この年に臨時の運行許可制度が導入されている。その後、運行許可を取得した自動車メーカやIT企業、スタートアップなどが公道実証を行っている。
韓国政府は自国を「世界一の自動運転国」にすることを、2019年に発表した「未来自動車戦略」で掲げている。自動運転レベル4(高度運転自動化)に対応したルールを2024年までに整備し、全国の主要道路で2027年には自動運転車の商用化を実現させる方針だ。
自動運転技術のテストコースを含む実証都市のことを指す。韓国の国土交通部(※日本の国土交通省に相当)が開設した施設で、敷地面積は36万平方メートルに及ぶ。
現代自動車(ヒョンデ)は韓国において自動運転技術の開発をリードする大手企業だ。アメリカで2015年から公道実証を行っており、米Aptivと合弁会社を設立して自動運転タクシーの商用展開にも挑んでいる。オーナーカーに関しては、自動運転レベル3の車両を2022年中に市場投入する計画を明らかにしている。
42dotやMars Autoなどが挙げられる。42dotはネット大手ネイバー(NAVER)の元CTOが2019年に立ち上げた自動運転開発企業だ。Mars Autoは2017年に創業したベンチャーで、自動運転トラックを開発している。
(初稿公開日:2022年6月7日/最終更新日:2022年6月23日)
【参考】関連記事としては「自動運転、アジアの最新事情」も参照。