トヨタ、Uberに浮気された?自動運転の相棒はMotionalなのか

トヨタ、Motional、Yandexらが複雑な関係に?



ロボタクシー開発などを手掛けるMotionalは、米配車サービス大手のUber Technologiesと手を組み、2022年早期にも自動運転配送に着手することを2021年12月に発表した。


Uberはもともとトヨタと懇意であり、トヨタ・Aurora Innovation陣営とライドシェアネットワーク向けの自動運転開発・導入を進めているはずだ。

浮気の疑惑が高まるUberだが、本命はどちらなのか。この記事では、Uber・トヨタ・Motionalの三角関係の行方に迫っていく。

■Uber×トヨタの結びつき
モビリティサービスから自動運転開発へ協業を拡大

Uberとトヨタの関係は2016年にさかのぼる。両社は2016年5月、ライドシェア領域における協業に向け検討を開始し、トヨタファイナンシャルサービスと未来創生ファンドからUberに戦略的出資を行うことを発表した。

この際の協業は、自動運転ではなくモビリティサービスを意識したもので、トヨタファイナンシャルサービスから車両をリースした顧客が、Uberドライバーとして得た収入からリース料を支払うサービス構築を目指す内容だ。


協業を自動運転分野に拡大したのは、2018年に入ってからだ。自動運転技術を活用したライドシェアサービスの開発促進や市場投入を目指し協業拡大に同意し、トヨタはUberに5億ドル(約550億円)を出資した。

トヨタの北米市場向けのミニバン「シエナ」を同社初の自動運転モビリティサービス「Autono-MaaS」専用車両に改造し、Uberのライドシェアネットワークに導入する計画で、コネクテッドカーの情報基盤として機能する「モビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)」に常時接続するとともに、Uberの自動運転キットとトヨタの自動運転技術「ガーディアン」を搭載し、冗長性を高めるとしている。

ご存じの方も多いと思うが、Uberはもともと自動運転技術の自社開発を進めており、開発部門・子会社の「Advanced Technologies Group(Uber-ATG)」に積極投資している。

2019年には、トヨタ、デンソー、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)が自動運転ライドシェア車両の開発と実用化を加速するため、Uber-ATGに計10億ドル(約1,100億円)を出資している。


当時、自動運転シエナを2021年にUberのライドシェアネットワークに導入する目標を掲げており、開発を継続するとともに、次世代自動運転キットの設計開発を共同で進め、本格的な自動運転ライドシェアサービス車両の量産化とサービス実用化にめどをつけるとしている。また、共同開発推進のため、トヨタは出資に加え今後3年間で最大3億ドル(約330億円)の開発費を負担することも発表している。

【参考】Uberへの出資については「トヨタやソフトバンク、米ウーバーの自動運転部門に1120億円出資」も参照。

混迷極めるUberの自動運転開発

トヨタとの協業と並行して自動運転開発を進めていたUberだが、その道は順風満帆とはいかなかった。2016年、グーグル出身のエンジニアであるアンソニー・レバンドウスキー氏らが立ち上げた自動運転トラック開発を手掛けるスタートアップOttoを760億円で買収したが、その後レバンドウスキー氏は機密情報を持ち出したとしてグーグル系Waymoから提訴された。

受け入れ側のUberも提訴され、最終的に自社株の0.34パーセント(約255億円相当)を譲渡することで和解した。また、Waymoのエンジニアを引き抜いたことでも訴えられており、Uberは別途グーグルに970万ドル(約10億6000万円)の仲裁金を支払うこととなった。

【参考】アンソニー・レバンドウスキー氏については「Googleの元自動運転プロジェクト創設者に、懲役3年の地裁判決」も参照。

2018年3月には、アリゾナ州で公道実証中のUberの自動運転車が、道路を横断中の歩行者と衝突する死亡事故を起こした。後にセーフティドライバーの怠慢が主要因であったことが判明しているが、Uberは同年12月まで公道実証中止を余儀なくされた。

【参考】Uberの自動運転車による事故については「Uberの自動運転死亡事故、やはり係員のスマホ動画視聴が原因」も参照。

AuroraがUber-ATG買収、トヨタと新たなパートナーシップ

受難続きの自動運転開発は、2020年に終止符を打つことになった。自動運転開発を手掛ける米Aurora Innovationが2020年12月、Uber-ATGを買収するとともにUberと戦略的パートナーシップを結ぶことを発表したのだ。

パートナーシップに基づき、UberはAuroraに4億ドル(約420億円)を投資し、Uberのダラ・コスロシャヒCEOがAuroraの取締役会に加わっている。

Uber-ATGに出資しているトヨタの立場が危惧されるところだが、この懸念は杞憂に終わった。Uber-ATGを引き継いだAuroraは2021年2月、トヨタとデンソーと長期に渡る戦略的パートナーシップを結び、自動運転車を世界展開すると発表したのだ。

シエナに自社開発した自動運転システム「Aurora Driver」を統合し、Uberをはじめとするライドシェアネットワーク上で稼働する自動運転車の大量生産や販売を行っていく計画だ。

Uber-ATGの自動運転システムをAurora Driverに置き換えて考えれば、Uberとトヨタの従来のパートナーシップが実質的に継続されていることが分かる。

Uberを介する形でオーロラとトヨタが結びつき、ライドシェア向けの自動運転車をより広範に展開していく戦略が形成されたのだ。

▼Aurora Innovation公式サイト
https://aurora.tech/

【参考】オーロラとトヨタの提携については「トヨタ×オーロラ、提携の真意は?自動運転ラボの下山哲平に聞く」も参照。

■UberとMotionalの取り組み

韓国ヒュンダイと米Aptivが立ち上げた合弁Motionalは2021年12月、Uberとパートナーシップを結び、Uber Eatsに自動運転車を導入すると発表した。

ヒュンダイの「IONIQ 5」ベースのロボタクシー車両を宅配向けに改造し、2022年の早い時期にカリフォルニア州サンタモニカで自動運転配送サービスに着手するとしている。

トヨタ・オーロラ陣営がライドシェア向け自動運転車両の開発・導入を進めるのに対し、Motionalは配送用途の自動運転車両を提供する流れだ。今のところ、きっちりと住み分けはできているようだ。

▼Motional公式サイト
https://motional.com/

【参考】UberとMotionalの提携については「Uber Eats、「人による配達」に終わりの予感!自動運転配送スタート」も参照。

■Uberを取り巻く自動運転開発

Uberはこのほか、東欧における配車サービスで協業するロシアのIT大手Yandexとも自動運転開発を進めている。両社が進める自動運転開発部門「Yandex Self-Driving Group(YandexSDG)」は2020年9月にスピンオフし、世界展開を見据えたロボタクシー開発を推し進めている。

また、Uberが2020年に買収した米Postmatesのロボット部門から独立したスタートアップ米Serve Roboticsとの提携も発表している。同社が開発した宅配ロボットを2022年早期にロサンゼルスなどでUber Eatsで使用する計画だ。

人の移動とデリバリーの両方を担う巨大プラットフォーマーのUberは、自動運転技術の実用化・商用化の受け皿として大きな注目を集めていると言えそうだ。

▼Serve Robotics公式サイト
https://www.serverobotics.com/

【参考】Yandexについては「Yandex、自動運転の年表!ロシアのGoogle、虎視眈々」も参照。

■開発企業からの注目高まる配車プラットフォーマー

配車プラットフォーマーでは、Lyftを取り巻く環境も複雑だ。同社は早くからCruiseやAptivとパートナーシップを結び、自動運転実証を進めてきた。Aptivの取り組みを引き継ぐMotionalとも手を組み、2023年に米国内の複数エリアでロボタクシーサービスを展開する計画が発表されている。

一方、フォードとArgo AI陣営も2021年7月、自動運転ライドシェアサービスの実現に向けLyftとの提携を発表している。2021年末から導入を開始し、5年間で少なくとも1,000台の自動運転車を展開する計画としている。

ロボタクシーで先行するWaymoもLyftと提携し、Lyftのユーザー向けに自動運転車を配車する取り組みを進めている。

さらに、トヨタ子会社のウーブン・プラネット・ホールディングスは2021年4月、Lyftの自動運転部門「Level 5」を買収すると発表した。

配車などで実績を積み上げてきたプラットフォーマーは、やはり自動運転開発企業から熱いラブコールがかかるようだ。

Uber同様Lyftも自動運転開発部門を切り離しており、自社開発するよりも個別の開発企業の自動運転車両を受け入れ、統合を図っていく方が効率的と判断したのだろう。

一方、自動運転開発企業側の観点としては、自動運転技術の商用化において、移動サービスのノウハウも地盤もないところに一からサービスを構築していくのは非常に困難だ。すでに地盤を持つプラットフォーマーと手を組み、協業のもとノウハウを蓄積していく方が賢明という判断なのだろう。

▼Lyft公式サイト
https://www.lyft.com/

■【まとめ】自動運転技術の受け皿として注目高まるプラットフォーマー

UberにおけるトヨタとMotionalの三角関係は、一見「浮気」に思われるがしっかりと住み分けができているようだ。ただ、Uberをはじめとするプラットフォーマーはモテモテのため、本命を絞ることなく二股、三股をかけてくる可能性が高い。同一のプラットフォームの中で、さまざまな自動運転車が共存していくことになるのだ。

配車プラットフォーマーやMaaSプラットフォーマーは、自動運転技術の受け皿として今後さらに注目を集めることになりそうだ。

【参考】関連記事としては「自動運転、Uberは後退、Appleは前進?」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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