GM Cruiseの自動運転戦略(2023年最新版)

ホンダとタッグ、日本国内でも事業展開へ



出典:GM Cruise公式サイト

自動車メーカー直系の自動運転開発企業として世界をリードする米ゼネラルモーターズ傘下のCruise。米国内で自動運転タクシーサービスを実用化し、先行するWaymoを猛追するほか、海外展開を視野に入れた事業戦略を推し進めている。

当初から高い期待を寄せられていたが、ついに実態を伴った成果を出し始めたCruise。同社の軌跡を年代順にたどりつつ、その将来性に迫っていこう。


<記事の更新情報>
・2023年5月10日:2022年以降の動向について追記
・2021年7月10日:記事初稿を公開

■2013年:Kyle Vogt氏らが創業

Cruiseは米カリフォルニア州サンフランシスコで創業した。創業者はKyle Vogt(カイル・ヴォグト)氏らだ。Cruise創業当初は自動運転技術をはじめ、後付けのADAS(先進運転支援システム)キットなどの開発を進めていた。

ヴォグト氏はマサチューセッツ工科大学在学時、米国防高等研究計画局(DARPA)主催のロボットカーレース「DARPA グランドチャレンジ」に参加していたことでも知られる。

■2016年3月:GMに10億ドルで買収される

2016年3月にGMに買収され、GM Cruiseと社名を変えた。買収額は10億ドル(約1,100億円)超と報じられている。


■2018年5月:ビジョン・ファンドから2,400億円を資金調達

GM Cruiseは2018年5月、ソフトバンクグループの投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」から、総額22億5,000万ドル(約2,500億円)の出資を受けた。この資金調達によって、自動運転技術を大規模に商用展開する計画を前進させるとしている。

■2018年10月:ホンダが850億円を出資、パートナーシップも

2018年10月、ホンダから7億5,000万ドル(約850億円)の出資を受けたほか、今後12年にわたって事業資金約20億ドル(約2,240億円)が投じられるパートナーシップが発表された。

ホンダ側から見たこの出資とパートナーシップの目的は、無人ライドシェアサービス用の自動運転車を開発するためだとされている。また、ホンダとGM、GM Cruiseの3社で、無人ライドシェアサービスを世界展開する計画も説明された。

■2018年11月:GMナンバー2がGM CruiseのCEOに

2018年11月、GM CruiseのCEO(最高経営責任者)として、GMナンバー2のダン・アマン氏が派遣されることが発表された。Cruiseの創業者であるカイル・ボークト氏は最高技術責任者(CTO)となった。

【参考】関連記事としては「GM、自動運転子会社にCEO派遣 クルーズ、企業価値1.6兆円に」も参照。

■2019年7月:自動運転タクシーサービスの開始延期を発表

GM Cruiseは、2019年内に予定していた自動運転タクシーのローンチを、安全を重視するために延長すると発表した。その際、延期後のローンチの目標時期には触れられなかった。

この時期、GM Cruiseは米サンフランシスコで自動運転のテスト車両を増やす計画を発表しており、先行するWaymoに負けじと商用サービスを早々にスタートするのでは、との期待感が高まっていた。

■2020年1月:オリジナル車両「Origin(オリジン)」を発表

GM Cruiseは2020年1月、自動運転モビリティサービス専用のオリジナル車両「Origin(オリジン)」を発表した。ハンドルやペダル類がなく、車内のシートは中心に向かい合って配置されている車両だ。

USB端子やモニターも備えているほか、鍵穴の代わりにナンバーを押す装置が装備されているという特徴も注目を集めた。

Originは完全電動化されており、GMが新たに建設するEV専用工場「Factory ZERO」で最初に生産される車両に選ばれたことが報じられている。

【参考】関連記事としては「GM Cruise、ハンドルなしオリジナル自動運転車を発表!」も参照。

■2021年1月:米Microsoftと戦略的提携、Azureを採用

2021年1月、米Microsoftとの戦略的提携が発表された。この提携によっては、GM CruiseはMicrosoftのクラウドサービス「Azure」を自動運転技術で活用していくことが明らかになった。

またMicrosoftは、すでにGM Cruiseに投資しているホンダとともに20億ドル(約2,100億円)以上の出資を行うことも発表している。この出資によってGM Cruiseの企業価値は約300億ドル(約3兆3,000億円)になるとされた。

■2021年1月:日本での事業展開へ、ホンダとの協業に合意

GMとGM Cruise、ホンダの3社が、日本における自動運転モビリティサービス事業に向け、協業することに合意したと発表した。

シボレー・ボルトをベースにしたGM Cruiseの自動運転車両を使い、2021年中に日本での技術実証を開始する予定で、将来的にはOriginを活用した事業展開を目指すとした。

■2021年3月:技術開発力の強化に向け、同業の米Voyageを買収

GM Cruiseはさらなる技術開発力の強化に向け、同業の米スタートアップ企業Voyage(ボヤージュ)の買収を発表した。

2017年カリフォルニアで設立したVoyageは、高齢者向けの自動運転移動サービスに特化して取り組みを進めてきた企業だ。買収によってVoyageの従業員60人のうち約半数が、GM Cruiseのメンバーに加わることになった。

■2021年4月:米Walmartが出資、無人宅配サービス実現に期待感

2021年4月、GM Cruiseが実施中の投資ラウンドに米小売大手Walmart(ウォルマート)が参加し、株式を取得する形で投資を行ったと発表した。両社による無人宅配サービスを実現に期待感が高まった。

ちなみに両社は2020年11月からパートナーシップを結んでおり、2021年に入ってから自動運転車を活用した非接触配達の実証プログラムをアリゾナ州スコッツデールで実施している。

【参考】関連記事としては「自動運転開発のGM Cruise、3兆円企業に!ウォルマートも出資」も参照。

■2021年4月:ドバイでの自動運転タクシーの独占的運行を発表

GM Cruiseは2021年4月、ドバイで自動運転タクシーを独占的に運行する契約をドバイ道路交通局と結び、2023年からドバイで自動運転タクシーの運行を開始すると発表した。

車両にはOriginを使い、緊急時であっても人間による対応を前提としない「自動運転レベル4」(高度運転自動化)以上の技術で運行するとした。当初は使用台数やエリアを限定するものの、2030年までに4,000台にまで運行規模を拡大し、サービスエリアも拡げる計画のようだ。

■2021年6月:米カリフォルニア州でドライバーレス許可を初取得

GM Cruiseは2021年6月、米カリフォルニア州からドライバーレスでの自動運転タクシーのサービス許可を取得したと発表した。この許可を取得したのはGM Cruiseが初めてだった。

自動運転タクシーでは米Waymo(ウェイモ)が「世界初」の称号を手にしているが、Waymoはアリゾナ州でサービス展開をしているもののカリフォルニア州ではまだで、カリフォルニア州ではGM CruiseがWaymoに先行してサービス展開を開始することになりそうだ。

■2022年2月:サンフランシスコで自動運転タクシーサービス開始

米カリフォルニア州でドライバーレスによる走行許可を取得後、従業員らを対象にサービス実証を重ねていたCruiseは2022年2月、対象を一般住民に拡大し、サンフランシスコで自動運転タクシーサービスを開始した。

サンフランシスコではWaymoも同サービスに着手しており、ついに米国内で自動運転タクシーの競合が始まった。

当初は無料でサービスを提供していたが、Cruiseは6月にカリフォルニア州公益事業委員会(CPUC)から有償サービスの許可を取得し、乗客から対価を得る本格的な自動運転タクシーサービスを開始している。

なお、交通量の多いサンフランシスコでは、午後10時から翌日午前6時まで(2023年5月時点で午前5時半まで)の夜間に限り、走行速度も時速30マイル(約48キロ)までに限定してサービスを提供している。

利用にはCruiseのアカウントが必要だが、当面はタクシー台数に限りがあるため、Cruiseの「順番待ちリスト」に登録し、招待コードが届いてからアカウントが作成できるようだ。

【参考】Cruiseの自動運転タクシーサービスについては「Waymoから3年2カ月遅れ、GM Cruiseが自動運転タクシーの展開スタート」も参照。

■2022年3月:GM追加投資、ソフトバンクグループは株式売却

親会社の米GMは2022年3月、Cruiseに追加投資を行うと発表した。ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)が保有するCruise株を21億ドル(約2,500億円)で取得し、さらに13億5,000万ドル(約1,600億円)を追加投資する内容だ。

SVFは過去、Cruiseに最低9億ドル(約1,000億円)を出資しており、また、完全自動運転車の運用を将来開始した際に13億5,000万ドルを追加投資する約束を交わしていたが、これをGMが引き継いだ格好だ。

投資事業の改善が急務となっているソフトバンクグループとしては、追加投資を行う余力がなく、収支改善を優先したものと思われる。

また、IPOの是非をめぐる経緯も影響を及ぼした可能性が考えられる。2021年末にIPO推進派のダン・アマンCEOが退任し、創業者のカイル氏が再度CEOに就いた経緯がある。

現在の株式市場低迷を踏まえると、IPOを選択しなかった決断は結果として正しかったと言えそうだが、自動運転サービスや量産化が本格化するだろう近い将来、再びIPO議論が巻き起こることは間違いない。どのタイミングで決断するか、要注目だ。

【参考】Cruiseへの投資については「孫氏、売却益12億ドルか 自動運転企業Cruiseの株式売却で」も参照。

■2022年9月:アリゾナ州フェニックスとテキサス州オースティンにサービス拡大を発表

カイルCEOは2022年9月、自動運転タクシーサービスを年内にもアリゾナ州フェニックスとテキサス州オースティンに拡大していく方針を明かした。

まだまだ投資段階が続き赤字前提の事業運営となるが、売上高を2025年までに10億ドル規模まで上げ、収益性を高めていく狙いのようだ。

実際にフェニックスとオースティンでいつサービスインしたのかは定かではないが、2023年5月時点で両市ともサービスを提供している。オースティンは午後9時から午前5時、フェニックスは午後7時から午前5時となっている。

【参考】Cruiseのサービス拡大については「WaymoとGM Cruise、自動運転タクシーでガチンコ勝負」も参照。

■2023年2月:無人運転による走行距離が100万マイル突破

Cruiseは2023年2月、無人運転による走行距離が100万マイル(約160万キロ)に達したと発表した。サンフランシスコで無人走行に着手して以来、15カ月での大台突破となった。

現在、1日あたり5ペタバイトのシミュレーションデータを処理し、AIモデルのトレーニングを積み重ねている。ソフトウェアの向上により、データ収集効率は当初の7倍の速さまで、上がっているという。

【参考】Cruiseの動向については「完全自動運転で100万マイル!米Cruise、実走行データでAI強化」も参照。

■2023年3月:バスに追突し自動運転システムをリコール

Cruiseの自動運転車両がバスに追突する事故を起こした。同社はリコールを届け出て即座にソフトウェアを改善し、再発防止策を講じた。

自動運転車が走行中、バス停を出発したバスが前方に出てきて停車したところ、ブレーキが間に合わず時速10マイル(約16キロ)で追突したという。

このバスが連結されたものかは定かではないが、Cruiseによると連結された車両の動きを不正確に予測する可能性があったとしている。フロント・リアの両セクションを認識した場合、リアセクションでフロントセクションが遮蔽され、その挙動を不正確に予測する恐れがあるという。ソフトウェアアップデートで対策済みだ。

Cruiseのリコールは、把握されているものだけで2度目となる。2022年6月、交差点左折時に対向車と衝突する事故を起こし、リコールを届け出ている。

Cruiseの自動運転車両をめぐっては、過去にも複数台の自動運転タクシーが複数車線を占拠する形で停止したり、消防車の行く手を阻んだり、交差点で歩行者の進行を妨げたりとさまざまなトラブルを起こしている。

お世辞にも完成度が高いとは言えないが、2022年12月からは毎月最新のソフトウェアリリース情報を公表し、進化・改善の度合いを目に見える形で提供している。

この1年余りでどのような進化を遂げたのか、利用者の生の感想が知りたいところだ。

【参考】Cruise車の過去のトラブルについては「住民唖然!Cruiseの自動運転タクシー、深夜の「道路封鎖」」も参照。

■【まとめ】注目点多いCruise、自動運転システムの進化に要注目

現在3都市で自動運転タクシーの事業化を進めているが、今後どのような拡大路線をたどるのか。また、ドバイや日本をはじめとした海外展開をどのように見据えているのか。さらには、自動運転専用に設計されたOriginの導入をどのように進めていくのか。自動運転技術をタクシー以外のモビリティにも広げていく展開はあるのか。IPOも視野に入れているのか。

――注目点は非常に多いが、サンフランシスコの自動運転タクシーを見る限り課題もまだまだ多い印象だ。クオリティの高さは必須となるだけに、さまざまな交通環境に適合した自動運転システムの構築に向けどのように磨きをかけていくのかにも要注目だ。

▼GM Cruise公式サイト
https://www.getcruise.com/

(初稿公開日:2021年7月11日/最終更新日:2023年5月10日)

【参考】関連記事としては「自動運転タクシーのフロンティア「Waymo」の年表」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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