自動運転指数、なぜ車産業がないシンガポールが1位なのか

KPMGレポート、気になる日本の順位は?



出典:KPMG International

世界中で実用化に向けた開発が進む自動運転。社会実装には、技術開発と実用化に向けた法整備やインフラ整備、消費者の理解などが欠かせない。コンサルティング世界大手のKPMGは、こうした各要素を国別に指数化した「自動運転車対応指数」を2018年から毎年発表している。

最新の2020年版では、シンガポールが1位に躍り出たようだ。自動車メーカーや主たるサプライヤーがいない同国は、なぜ1位に輝くことができたのか。







この記事では、KPMGのレポートをもとに、シンガポールや日本をはじめとした各国の自動運転に対する取り組み、及び評価に迫っていく。

■自動運転車対応指数(AVRI)の概要

AVRIは、世界30の国・地域の自動運転車に対する準備状況を測定するためのツールで、さまざまな情報源から抽出した28種類の指標をスコア化している。

指標は「政策と法律」「テクノロジーとイノベーション(以下テクノロジー)」「インフラストラクチャー(以下インフラ)」「消費者の受容性(以下受容性)」の4領域にまとめられており、各領域で変数を用いてバランスを調整するなどし、総合スコアを換算している。

政策と法律は、自動運転に対する規制や政府出資の実証実験、専門機関、データ共有環境などが指標となっている。テクノロジーは、産業提携や自動運転技術企業の本社の所在、関連特許、産業投資、イノベーション能力、サイバーセキュリティ、クラウドコンピューティングやAI、IoTの評価などが指標となっている。

インフラは、EV充電ステーションの密度や4G通信エリア、モバイル通信速度、道路の質など、受容性は、実証エリアの居住人口や消費者のデジタルスキル、個人の対応性、オンライン・ライドシェア市場の普及率などがそれぞれ指標となっている。

■ランキング上位を紹介

まず、AVRIの最新ランキング上位を見ていこう。カッコ内は2019年の順位となっている。

1位(2位)シンガポール
2位(1位)オランダ
3位(3位)ノルウェー
4位(4位)米国
5位(6位)フィンランド
6位(5位)スウェーデン
7位(13位)韓国
8位(9位)アラブ首長国連邦
9位(7位)英国
10位( – )デンマーク
11位(10位)日本

2年連続首位のオランダを抜き、シンガポールがトップに躍り出た。上位では、韓国が13位から7位へと躍進した以外に大きな変動は見られなかった。新たに調査対象に加わったデンマークが10位にランクインしたことで、日本は11位に順位を落とした。

前回調査した25カ国のうち、17カ国がスコアを伸ばしており、全体として技術や政策、社会受容性など自動運転社会に向けた取り組みは進展しているようだ。

出典:KPMG International
■シンガポールが1位となった評価のポイント
「政策と法律」と「受容性」で2冠

シンガポールは、政策と法律で1位、テクノロジー11位、インフラ5位、受容性1位で総合1位に評価された。

11位となった「テクノロジー」関連では、自国企業の取り組みはお世辞にも活発とは言えない。一方、1位となった「政策と法律」では、自動運転に対する規制や政府出資の実証実験、専門機関、政府の将来の広報性、変化に対する政府の対応性などで高い評価を受けている。

また同様に1位となった「受容性」では、実証エリアの居住人口が突出して多いことが評価された。

ちなみに政策関連では、2019年1月に自動運転の基準・規格などについてまとめたガイドライン「TR68」の草案や、AIガバナンスフレームワークを発表・策定した。自動運転実証エリアも同年10月に拡大され、対象エリアは総延長1000キロに及ぶ同国西部のすべての公道となっている。予算関連では、2020年2月の予算で自動運転実証に約430万ドルを割り当てている。

自動運転バスの安全管理へドライバーの訓練実施

また、2022年から3つのエリアで自動運転バスを導入する計画を立て、自動運転バスの安全管理に向けてバスドライバー100人の訓練を行っているという。開発を巡っては、南陽理工大学とスウェーデンのボルボ・グループが提携し、大型自動運転バスの開発を進めている。

シンガポールは国土面積が狭く、また都市国家として地方自治体が存在しないため、国として一体的な政策を推し進めやすい。一方、人口密度の高さから公共交通需要が高く、スマート化を図ることでより高効率な公共交通構築に向けた取り組みに対する国民の理解も高い。

こうした背景を抱えるシンガポールでは、他国に比べ政府主導で国全体の自動運転化を推し進めるのも容易と思われる。自動運転対応のインフラ整備も行いやすいだろう。

■2〜5位は欧米諸国がランクイン
2位:オランダ(政策と法律3位、テクノロジー10位、インフラ1位、受容性7位)

オランダは、政策と法律3位、テクノロジー10位、インフラ1位、受容性7位で総合2位と評価された。自転車専用道路の設置など交通意識や環境意識が高く、早くから自動運転に関する取り組みを推し進めているため、自動運転規制や政府が出資する実証実験、インフラ領域の整備などで高い評価を得ている。

実証実験は広範で行われており、人口の81%が実証エリアの近隣に住んでいるという。シンガポール同様、国土面積が比較的狭いことも有利に働いているようだ。

自動運転関連のインフラでは、ステータスを無線で自動運転車に送信し発進や停止のタイミングを知らせる交通信号などスマート道路装置の設置が拡大されている。

環境意識の高まりからEVへの移行を図る動きは、自動運転を普及する動きと重なる面が多い。充電ステーションの整備も自動運転に必須のインフラとして機能するため、自家用車の「EV化」を推し進めるのも大きなポイントとなりそうだ。

3位:ノルウェー(政策と法律10位、テクノロジー5位、インフラ3位、受容性5位)

ノルウェーは、政策と法律10位、テクノロジー5位、インフラ3位、受容性5位で総合3位と評価された。同国はEV普及が世界トップレベルで、2019年に導入された乗用車の56%がバッテリー式やプラグインハイブリッドという。充電ステーションの比率もオランダに次いで2位のほか、4G通信エリアなどのインフラも整っている。

自動運転は実証から実用化に向けた取り組みが進んでおり、首都オスロではすでに3つのバス路線が無人走行しているという。北極圏を含む雪国だが、極端な天候下における実証も行っているほか、自動運転ボートやフェリーなどの開発も盛んなようだ。

4位:米国(政策と法律6位、テクノロジー2位、インフラ9位、受容性6位)

米国は、政策と法律6位、テクノロジー2位、インフラ9位、受容性6位で総合4位と評価された。自動運転業界をけん引する同国では、調査で追跡した自動運転関連企業の44%にあたる420社が米国に本社を構えているという。実証も盛んであることは言うまでもない。

一方、同国では車体中心の開発が中心で、インフラに対する取り組みは比較的遅れている。また、自動運転導入に対する行政府の取り組みは州や都市レベルに集中しており、迅速な対応が進んでいる反面、標準化の度合いは低くなる可能性があると指定している。

5位:フィンランド(政策と法律4位、テクノロジー8位、インフラ11位、受容性2位)

フィンランドは、政策と法律4位、テクノロジー8位、インフラ11位、受容性2位で総合5位と評価された。特に政府に対する評価が高く、自動運転規制などでトップの評価を得ている。

自動運転実証は道路網全体に開放しており、新道路交通法も2020年6月に発効している。首都圏のエシポー市では、2019年4月に全天候型自動運転バスGachaの公共運行が始まっている。同市は、2021年までに自動運転シャトルバスを永続的な商業サービスとして運行させる計画としている。

なお、Gachaにはデザインパートナーとして良品計画が携わっているほか、BOLDLYも遠隔運行管理システム「Dispatcher」を提供するなど、日本企業の関わりが強い。

■なぜ日本は11位という評価なのか

日本は、政策と法律18位、テクノロジー3位、インフラ6位、受容性18位で総合11位と評価されている。

政策と法律関連では、2020年4月施行の道路交通法や道路運送車両法で自動運転に言及し、また2019年9月に自動運転実証に対する新しいルールも発表されたが、事故の調査方法や分析方法の規定、責任の所在の明確化など、自動運転による事故に対応する課題が山積みと指摘されている。

テクノロジー関連では、関連企業の産業投資やEV市場シェアなどが若干足を引っ張っているものの、関連特許数が韓国やドイツを抑えて1位に輝くなど全般的に評価は高い。インフラ関連も軒並み各項目が上位につけている。

18位と低迷している受容性関連は、消費者のICT利用や個人の対応性で好位置につけているものの、社会における技術利用度合いやデジタルスキルなどは低く、オンライン・ライドシェア市場の普及率に至っては0ポイントで最下位となっている。

課題は5G導入の遅れや、インフラ的なハードル

課題としては、5G導入で遅れがあるほか、道路網の中にトンネルや複数階層の高速道路、狭い都市道路が多く自動運転のナビゲーションのハードルが高い点や、AIを専門とするエンジニアが少ない点などが指摘されている。

法律や規制を変えることでさらに自動運転に対応でき、エンジニアリング能力の増強も図ることができるとし、レベル4以上の実証を行うための特区を公的機関と民間機関が整備することを提唱している。

■「テクノロジー」部門の1位はイスラエル

ちなみに、総合順位は16位だが、「テクノロジー」部門で1位となっているのがイスラエルだ。レポートによれば、自動運転を専門とする企業84社がイスラエルに本社を置いており、人口当たりの本社数ではアメリカなどを抜いて世界トップとなっている、

イスラエルに本社を置く自動運転関連企業としては、Intelが買収したMobileyeやMoovitのほか、LiDAR開発のInnovizTechnologiesもイスラエル企業だ。

ただしイスラエルは、「政策と法律」が19位、「インフラストラクチャー」が25位と、それぞれ順位が低い。特にインフラでは通信に関して他国に遅れをとっていることが鮮明となっている。

■【まとめ】安全重視の慎重姿勢とイノベーション推進の狭間にある日本

シンガポールは、自動運転を取り入れやすい国土面での環境や一体的な政策が高評価されているようだ。また、ランキング上位はEVや新モビリティサービス・MaaSの導入を早くから進めている国が目立つ。

日本も力を入れていることに間違いはないが、上位国と比較すると、ライドシェア規制に代表されるように新モビリティサービスに対する慎重姿勢はぬぐえないのが現状だ。自動運転実証に対する規制も同様だ。

安全性を何より重視する日本は、こうした変化に対する拒絶が根強い。そうした背景を踏まえると、自動運転やMaaSにおける近年の改革は相当頑張っているように思える。

2021年版のランキングはどうなるか。日本では、2021年3月にホンダが世界初となるレベル3量産車を発売したほか、レベル4移動サービスも徐々に実用化され始めている。規制緩和に向けた議論も活発に進められている。再度トップ10入りする要素は整っているはずだ。日本の躍進に改めて期待したい。

▼自動運転車対応指数2020 – 自動運転車に対する30の国と地域の準備状況分析|KPMG
https://assets.kpmg/content/dam/kpmg/jp/pdf/2021/jp-autonomous-vehicles-readiness-index.pdf

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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