自動運転とドイツ(2023年最新版)

世界初のレベル3・レベル4法制定



日本と並ぶ自動車大国ドイツ。フォルクスワーゲングループをはじめとするグローバル自動車メーカーや大手サプライヤーが多く、ひと際高い存在感や影響力を自動運転業界でも発揮している。


ドイツ連邦政府も、世界に先駆けて自動運転に対応した法改正を行うなど自動運転時代を見据えた交通政策に熱心な印象だ。

この記事では、自動運転分野におけるドイツ政府やドイツ企業の取り組みに触れていく。

■ドイツ連邦の概要
自動車大国ドイツ、日本との類似点が多い?

ドイツ連邦共和国は、人口約8,300万人で国土面積約35万平方キロメートル、名目GDPは4兆ドル余りで、EU最大の人口・経済規模を誇る。人口こそ開きがあるものの、日本と近い印象だ。

自動車産業をはじめとする工業立国である点も日本と類似している。現代に通じる内燃機関のガソリン車を開発したカール・ベンツ氏やゴットリープ・ダイムラー氏らを礎に早くから自動車産業が盛んで、両者の系譜を継ぐメルセデス・ベンツやダイムラー・トラックをはじめ、20世紀にはBMWやフォルクスワーゲンなどのメーカーも相次いで設立された。


四輪車の生産台数や世界販売台数は、中国インドといった新興国の台頭が著しい中、米国や日本などに次ぐ5位前後をキープしており、EU圏内でもフランスや英国を抑えて1位を堅持している。

日本自動車工業会のデータによると、ドイツにおける2021年の四輪車生産台数は331万台(日本785万台)で、四輪車販売は297万台(日本445万台)、四輪車保有台数は約5,200万台(日本7,800万台)となっている。

■ドイツ連邦政府の取り組み
世界初のレベル3法やレベル4法を制定

ドイツでは、交通・デジタルインフラ省が2013年に官学民を交えた会議「RTAF」を設置し、自動運転に関する研究を本格化させた。同会議の結果を踏まえ政府は2015年に「自動運転及びネット接続運転に関する戦略文書」を発表し、今後の政策課題としてインフラ整備や法整備、技術革新、ネット接続性の確保、サイバーセキュリティ・データ保護の5領域を設定し、より踏み込んだ議論を深めていった。

そして2017年、世界に先駆けて自動運転に対応した道路交通法を可決・施行する。自動運転レベル3に対応した内容で、ドライバーが一定条件下でシステムに車両制御を任せるための新たな規定が盛り込まれた。


議論はさらに進み、政府は2021年5月、「道路交通法及び強制保険法改正のための法律案」を成立させた。レベル4に対応した自動運転法で、自動運転機能を備えた車両に課される技術要件をはじめ、所有者や技術監督、開発メーカーに課される義務なども規定している。

2022年には、下位法令として「自動運転機能を備えた車両の認可並びに定義された運転エリアにおける自動運転機能を備えた車両の運転に関する規則(AFGBV)」という省令も成立したようだ。車両の型式認定や運転エリア、車両登録規則などについて定められた内容となっている。

レベル4法制定を受け、Mobileyeなど他国の開発企業がドイツ市場への参入を加速させている印象だ。

【参考】ドイツのレベル4法については「ドイツの「自動運転法」解説(2022年最新版)」も参照。

国主導の開発プロジェクトも多数

国主導の開発プロジェクトとしては、「Ko-HAF」や「Pegasusプロジェクト」、「@CITYプロジェクト」、「SecForCARs」などが挙げられる。

2015年にスタートしたKo-HAFは、V2I技術を活用した高速道路におけるレベル3の開発・実証に向け経済・エネルギー省が民間各社と取り組んだプロジェクトで、路側・車両それぞれのシステムやドライバー対応技術、試験手法などが検証された。

開発には、コンチネンタルを中心にBMWやアウディ、ダイムラー、オペル、ボッシュらが参画している。

PEGASUSプロジェクトは、自動運転システムの安全性評価基準を明確化・標準化する目的で2016年にスタートした。経済エネルギー省の呼びかけのもと、アウディやBMW、ダイムラーをはじめ産官学17団体が参加したという。

2017年には、@CITYプロジェクトが始まった。都市エリアにおける自動運転の実装を目指す取り組みで、ダイムラーやボッシュ、ヴァレオ、コンチネンタルなどの参加のもと、デジタルマップや交差点における自動運転、交通弱者とのインタラクションなど7項目について研究を進めた。

SecForCARsは「Security For Connected, Autonomous Cars」の略称で、自動運転におけるセキュリティの在り方を研究するプロジェクトだ。フォルクスワーゲンやボッシュ、インフィニオンらの参加のもと、2018年に取り組みに着手した。

日本とのパートナーシップも

日本では、2013年度の「世界最先端IT国家創造宣言」のもとロードマップ策定に向けた取り組みに着手し、2014年度に「官民ITS構想・ロードマップ」の初版が策定された。以後、官学民協調体制でさまざまな自動運転関連プロジェクトが展開されることとなった。

法整備面では、2019年にレベル3に対応した改正道路交通法が可決され、2020年4月に施行された。同様に、レベル4法は2022年に可決され、2023年4月に施行されている。

こうした点でもドイツと日本は同じような歩みを進めていると言える。

なお、内閣府とドイツの教育研究省は2017年、自動運転に関する研究活動で連携していく共同声明を発表しており、これまでに安全性評価やサイバーセキュリティなど複数の分野で取り組みを進めているようだ。

【参考】自動運転分野における日独連携については「日本とドイツ、自動運転の安全性向上などに向け共同研究強化」も参照。

■フォルクスワーゲングループ
アウディがいち早くレベル3を発表するも……

フォルクスワーゲンをはじめ、アウディやポルシェ、ベントレーなど数々のブランドを傘下に収めるフォルクスワーゲングループ。先進技術の開発・実装は主にアウディが担っており、2017年に発売したフラッグシップモデル「Audi A8」に世界初のレベル3システム「Audi AIトラフィックジャムパイロット」を「搭載可能」と発表している。

「搭載可能」とした理由としては、当時ドイツ国内のレベル3法は成立していたものの国際基準が間に合わず、機能要件などを満たす必要があるため実装を見送った経緯がある。ただ、国際基準制定後も実装されず、2023年6月時点でなぜか未実装のままとなっている。

存在感増すCARIAD、2023年にもレベル3実装へ

フォルクスワーゲングループは2019年、米フォードとのパートナーシップのもと、スタートアップArgo AIに出資し自動運転開発に新たな道を開いた。

商用車や自動運転サービスを見越した開発で、アウディ傘下の自動運転子会社「Autonomous Intelligent Driving(AID)」をArgo AIに統合するなど同社の開発に本腰を入れて支援していたが、計画通りに開発が進まず2022年に出資を引き上げている。

代わって存在感を増し始めたのが、グループ内において統合ソフトウェアプラットフォーム開発を進める子会社CARIAD(カリアド)だ。ソフトウェアファーストの時代を見据え、グループ全体で活用可能なソフトウェア基盤を開発するほか、ボッシュとのパートナーシップのもと自動運転技術の開発なども進めている。

ハンズオフが可能な高度レベル2のADAS(先進運転支援システム)をはじめ、高速道路におけるレベル3システムやレベル4の開発までを担っており、レベル3は2023年にも実装を開始する予定としている。

レベル4サービスに関しては、オンデマンドシャトルサービスなどを手掛けるMOIAを通じて、2025年にもハンブルクで開始する計画を発表している。

■BMW
チェコに自動運転テストコース建設

ハンズオフ機能搭載車種を拡大するなど高度なADASの普及を進めるBMW。一部メディアによると、開発責任ディレクターが2022年内にも北米でレベル3の実装を開始する計画を明かしたと言うが、2023年6月時点でまだ未実装のままだ。

近年、レベル4開発に向けた話題は乏しいが、2022年にはチェコ共和国内に自動運転開発などを行うテストコースの建設を進めていることが報じられたほか、2023年には仏ヴァレオとの新たなパートナーシップにより、レベル4に相当する完全自動駐車技術の共同開発を進めていくことを発表している。

自動運転関連ではこのほか、米インテル傘下Mobileyeと提携しており、オープンな業界プラットフォームの開発を進めているという。自動運転分野での躍進が期待されるMobileyeの技術を本格導入していくのか、今後の動向に要注目だ。

【参考】ヴァレオとの協業については「強力タッグで「完全自動運転駐車」!BMWとヴァレオが共同開発」も参照。

■メルセデス・ベンツグループ
レベル3エリア拡大へ、自動バレーパーキングの実装にも注目

メルセデス・ベンツは2022年、Sクラスなどを対象にレベル3システム「DRIVE PILOT」のオプション設定を開始し、ホンダに次ぐレベル3実装メーカーとなった。ドイツ国内のほか、2023年中を目途に米ネバダ州やカリフォルニア州などに拡大していく計画だ、

レベル4に関する大きな進展は見られないが、ボッシュと開発を進める自動バレーパーキング技術が2022年にドイツ国内での商用利用を正式に認められ、シュトゥットガルト空港などに導入されるという。

また、米国で開催されたカンファレンスの中で、同社CTOが「レベル4は2030年までに実現可能」で「個人所有のレベル4を将来的に考えている」と語ったという。どのタイミングでレベル4に踏み切るか、要注目だ。

【参考】ベンツのレベル3展開については「米国勢、「初の自動運転レベル3」をメルセデスに奪われる展開」も参照。

■ZF
自動運転シャトルの「フルサプライヤー」に

サプライヤー大手ZFも自動運転開発に本腰を入れている。オランダの自動運転開発企業2getthereを2019年に買収し、自動運転シャトルにおける「フルサプライヤー」を目指しているようだ。

技術見本市「CES 2023」で発表したレベル4走行を実現する次世代自動運転シャトルは、時速25~50マイルで走行可能で最大22人が乗車できる。

同社の自動運転シャトルは世界各地の実証で活用されており、ドイツ国内ではバーデン・ヴュルテンベルク州におけるプロジェクト「RABus」の一環として公共交通用途で導入されるという。

■コンチネンタル

フランクフルトでドライバーレスモビリティの実証に着手

サプライヤー大手コンチネンタルは、センサーユニットやコントロールユニット、V2X技術など幅広いソリューションで自動運転開発に携わっているが、「Continental Urban mobility Experience」をコンセプトに据えたドライバーレスモビリティを開発し、フランクフルトの自社事業所で走行実証を行っている。

ITS世界会議2021では、自動配送ロボット「Continental Corriere」なども発表している。

■【まとめ】レベル4法制定で国内外の開発プレイヤーが続々集結?

自動車メーカー各社のレベル3は今後1~2年以内に出揃いそうな印象だが、サービス用途のレベル4は他国の自動車メーカー同様、サプライヤーやスタートアップ・テクノロジー企業に先陣を譲り、どっしりと構えているようにも見える。

レベル4法制定により、今後他国の開発企業が続々とドイツ国内でのサービス展開を目指し流入してくることになるが、国内勢としてどのような戦略でこれを迎え撃つのか。

近い将来日本が直面する可能性が高い事象でもあるため、各社の動向にいっそう注目していきたい。

【参考】関連記事としては「アメリカの自動運転最新事情(2023年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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