自動運転とインド(2023年最新版)

膨大な市場と混沌とした交通環境が特徴



世界有数の自動車市場を誇る南アジアの大国インド。人口は中国を追い越す勢いで、自動車販売台数も日本を抜いて世界3位に躍進した。IT・テクノロジー分野の成長も著しく、将来中国のような躍進を見せるのか注目が集まるところだ。


では、自動運転分野における期待度はどのような感じなのか。中国は同分野でも大きな成長を遂げ、世界トップクラスの技術を有するまで至ったが、インドは果たして……。

この記事では、インドの自動車市場や道路交通環境などを交えながら、同国における自動運転の展望に迫る。

■インド経済の概要
人口は中国と並び、名目GDPは世界5位に

総務省や世界銀行などの資料によると、2020年におけるインドの推計人口は13億8,000人で、中国(14億4,000万人)に次ぐ世界2位となっている。国連の予測によると、2023年にも中国を抜いて世界1位に躍り出るという。世界の総人口80億人に対し、インドが約18%を占めているのだ。

次に名目GDP(国内総生産)を見ていこう。2021年の名目GDPは、高い順に米国23兆3,100億ドル、中国17兆7,300億ドル、日本4兆9,400億ドル、ドイツ4兆2,600億ドルと続き、インドは3兆1,800億ドルで5番目にランクインしている。


1人あたり名目GNI(国民総所得)は2,150ドルとまだまだ低いが、経済成長率は中国よりも高く予測されており、市場としてのポテンシャルは新興国の中でも随一だ。

周辺国が製造業を主体に経済規模を拡大してきたのに対し、インドは経済改革のもとIT分野を中心としたサービス業で成長を遂げているのも特徴だ。優秀な人材も豊富で、グーグルのCEO(最高経営責任者)職をラリー・ペイジ氏から引き継いだ現CEOのスンダー・ピチャイ氏もインド出身だ。

カースト制度の存在や富裕層と貧困層の格差など諸問題を抱えているが、政策次第では中国のように一気に躍進する可能性は十分考えられそうだ。

四輪販売台数は世界3位に


インドでは乗用車の普及率が一桁台ではあるものの、絶対的な人口数により市場は大きく、近年は中間層による購入も増加傾向にあるため、市場のさらなる成長に期待が寄せられている。

日本自動車工業会のデータによると、2021年の四輪車世界販売台数は中国2,627万台、米国1,541万台、日本445万台で、インドはこれに次ぐ376万台となっている。

また、インド自動車工業会によると、2022年は日本が数字を落とす一方インドは前年比25.7%の伸びを見せ、472万台で世界第3位に浮上したようだ。伸び代は大きく、中長期的には2位の米国を追い上げていくことになりそうだ。

なお、メーカー別ではスズキの子会社マルチ・スズキ・インディアがシェア40%超で首位を堅持している。2位はタタ・グループのTata Motors(タタ・モーターズ)だ。

同国自動車メーカーはタタのほか、マヒンドラ&マヒンドラ(マヒンドラ・グループ)やアイシャー・モーターズ(アイシャー・グループ)、ヒンドゥスタン・モーターズ(G.P-C.K ビルラ・グループ)、アショック・レイランド(ヒンドゥージャ・グループ)など複数が存在する。

タタは英ジャガーランドローバーを傘下に収めていることでも有名だ。

道路交通環境は「混沌」

インドの道路交通は、多くの人がイメージしている通り混沌としているようだ。道路線系が未整備な場所が多く、歩道との境目もあいまいだ。車線を守らず走行する車が多く、逆走や割込みなども日常茶飯事という。

二輪車の割合が多いだけでなく、牛が闊歩していることもある。歩行者は独特の「間」で道路を横断しようとする。大げさな言い方かもしれないが、多様な交通参加者が特にルールを守ることもなく好き勝手に走行している印象が強い。

交通事故における死亡者数は年間10万人台で推移しており、交通事故は年間40~50万件発生しているという。しかし、全てを把握した数字とも思えず、正確な実態は不明だ。

全てのエリアがこういった状況ではないと思いたいが、道路交通に対する意識が日本とはかけ離れたものとなっていることに違いはない。

インドで自動運転は無理……?

交通ルールが順守されていないエリアにおいて自動運転が有効か?……と問われれば、厳しいと言わざるを得ない。自動運転システムを構築する上での基準となる交通ルールが機能していないからだ。

本来のルール通りに自動運転システムを構築しても、周囲がルールを守っていなければもらい事故は避けられない。可能な限り事故を避けようとすれば、恐らく自動運転車は前に進めないだろう。

自動運転は、前提となる明確なルールと、それを順守する環境があって初めて成立するとも言える。

自動運転契機に道路交通改革の道も……?

インドでの自動運転実用化は現時点では限りなく厳しいが、道路交通に対するインド政府の目も年々厳しさを増しており、改善していく意向はあるようだ。

国民に根付いてしまった悪習慣を正すのは容易ではないが、自動運転導入を旗印に、抜本的な道路交通改革を推し進めるのも一手ではないだろうか。

自動運転を導入するモデル地区を指定し、一から道路インフラを整備するとともに、地区における規制を大幅に強化する。交通安全確保を大義名分に、自動運転が走行可能なレベルまで交通モラルや交通環境を改善していくのだ。

ある程度強権的な取り組みが必要となりそうだが、悪習慣を断ち切るには一定の強制力が欠かせない。自動運転を旗印にITS(Intelligent Transport Systems)化を推進するのだ。

こうした取り組みの成果は自国内にとどまらず、同様の道路交通環境が広がる東南アジア諸国をはじめ、道路インフラの整備が未発達な後発国に横展開できる。ビジネス性も確保できるのではないだろうか。

こうしたビジョンを明確にすることで、海外の有力企業が自ずとインドに集積し始める。自国内のテクノロジー企業と融合させながら、先進国を一気に追い上げることが可能になるかもしれない。

■インド企業の動向
タタ・グループは海外で活躍?
出典:Tata Elxsi公式サイト

インドを代表する自動車メーカー・タタモーターズは、傘下のジャガーランドローバーが本拠を構える英国の自動運転開発プロジェクト「Autodrive」に参加するなど、早くから自動運転開発に着手している。

その一方、インド国内での実証の話はあまり聞かない。国内導入におけるハードルの高さを意識しているのかもしれない。

ただ、グループ内のTata Elxsiが高度な自動運転向けのミドルウェアプラットフォーム「AUTONOMAI」を開発し、自動運転車の開発向けに世界の大手自動車OEMにライセンス供与すると発表している。

また、IT関連事業を手掛けるTata Consultancy Servicesは、仮想環境で自動運転開発を加速させるシミュレータやデータ処理プラットフォーム、遠隔医療システムを活用し移動が困難な人・場所へ医療を届けるAutonomous Mobile Clinicの開発など、さまざまな観点から自動運転領域の研究開発を進めている。

同社は、三菱商事とのパートナーシップのもと日本法人「日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ」を設立しており、自動運転開発シミュレータをはじめコネクテッドカーサービスや車載インフォテインメント、サイバーセキュリティなど、多方面でサービスやソリューションを提供しているようだ。

マヒンドラグループはMIHに参画

マヒンドラグループもタタ同様、グループ内のテクノロジー企業が自動運転関連ソリューションを開発し、また海外での取り組みを進めているようだ。

同グループのTech Mahindraは、AI(人工知能)開発の一領域として自動運転やADAS(先進運転支援システム)開発を手掛けているほか、2022年10月に台湾Foxconn が主導するEV(電気自動車)開発コンソーシアム「MIH」への参画を表明している。

MIHが開発するソフトウェア定義の自動車アーキテクチャやプラットフォームを支援し、EVや自動運転ソリューション、モビリティサービスアプリケーションの構築を進めていくとしている。

自動運転開発を手掛ける大学

大学関連では、インド工科大学が自動運転の研究開発に力を入れているようだ。同大デリー校は2021年、英MG Motorとパートナーシップを交わし、EVや自動運転の分野で共同研究を行うと発表している。

また、同大ボンベイ校には自動運転車の開発チーム「SeDriCa」があるようだ。後述するが、同チームにはAI開発を手掛ける日本のKudanが支援している。

Kudanによると、同チームは米国で開催されたUGV(無人地上車両)技術を競う国際ロボットコンペティション「Intelligent Ground Vehicle Competition」で優勝した実績を誇り、マヒンドラ主催のコンペティションにも参加しているという。

Kudanのほか、コンチネンタルやNVIDIA、Velodyneなどもスポンサーに賛同したようだ。

自動運転開発を手掛けるスタートアップ

自動運転開発を手掛けるスタートアップも存在する。

インド南部のバンガロールに本拠を構える2017年設立のGiscle Systemsは、コンピュータービジョン主導の自動運転開発を進めており、HDマップの作製や自動運転システムの構築などを進めているようだ。

思いのほかインド系スタートアップの情報が出てこない。ソフトウェア開発企業は多く存在するが、やはりお国柄なのか、自動運転に注力する割合は少ないのかもしれない。

■インドで活躍する企業
Kudanが大学の自動運転開発チームを支援

Visual-Lidar SLAMなどの自己位置推定技術で自動運転分野で活躍するKudanは2021年2月、インド工科大学ボンベイ校の自動運転開発チーム「Team SeDriCa」のスポンサーに就任したことを発表した。

チームにLidar SLAMソフトウェアを提供し、インドの特定区域内におけるレベル4相当の自動運転開発に向け、SeDriCaを継続的にサポートする。

変化に富んだチャレンジングなインドの道路環境で自社ソフトウェアの性能を実証し、注力分野の1つである自動運転領域におけるさらなる事業拡大を図っていくとしている。

【参考】Kudanの取り組みについては「Kudan、インド初の自動運転レベル4開発を目指すチームを支援!」も参照。

ゼロ・サムがITSソリューションを提供

ITS関連事業を手掛けるゼロ・サムはインドのグジャラート州アーメダバード市と契約を交わし、2018年にパナソニックなどとともに世界標準規格のUHF帯V2X通信技術を応用した緊急車両優先システムの実証を行った。

2021年には、名古屋電機工業がカルナタカ州都市交通局から受注したベンガルール都市圏のITS導入事業においても、交通情報システムを供給することを発表している。

日本の技術がインドの道路交通の近代化に大きく貢献しているようだ。

dSPACEがインド法人設立

自動運転分野でデータドリブンやシミュレーション開発などを手掛ける独dSPACEは2023年、インド法人dSPACE Indiaを設立した。

ECU開発を主力としてきた同社は、近年understand.aiやIntemporaを買収するなど自動運転分野のポートフォリオを強化している。インド法人設立は、自動車大国となったインド市場における業績拡大を視野に入れた取り組みだ。

ホンダはKPIT Technologiesとパートナーシップ締結

ホンダは2023年3月、インドのソフトウェア開発企業KPIT Technologiesとパートナーシップ締結に向け基本合意したと発表した。

自社のソフトウェアアーキテクチャーや制御・安全技術と、KPITのソフトウェア開発力といった互いの強みを持ち寄り、ソフトウェアがもたらす新たな価値の実現を目指す方針だ。

協業分野は、次世代電子プラットフォームのオペレーティングシステムや電動パワートレーン、先進安全、自動運転、IVI、コネクテッドの各領域としている。

ソフトウェア開発をインド企業にアウトソーシングする例は多いが、今後はこうした協業も加速していくのかもしれない。

■【まとめ】大きなビジネスチャンスも

インド国内で自動運転実用化に向けた取り組みを本格化させるのは時期尚早かもしれないが、究極の混在空間とも言えるインドの道路で自動運転を実現できれば、その技術は世界に誇るべきものとなる。

また、道路インフラが未整備であるため、この整備と組み合わせることで次世代ITSを実現しやすい側面を併せ持つ。ビジネス的にも魅力があると言える。

世界的な大国を目指すうえでは、道路交通などのルールも世界標準に近付けなければならないはずだ。インド政府が道路交通改革に本腰を入れれば、大きなビジネスチャンスが生まれることになる。

膨大な市場を抱えつつも独特の価値観を有するインド。その動向に引き続き注目したい。

【参考】関連記事としては「自動運転はどこまで進んでる?(2023年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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