人間に代わって機械が自動車を操作する自動運転。ドライバーが目で見て脳で判断し、手足で操作する一連の作業を機械が行うためには、自動車に搭載されるセンサーやAI(人工知能)のみでは完結せず、外部との情報のやり取りが必須となる。
ADAS(先進運転支援システム)に代表される運転支援においてもさまざまな情報通信が行われているが、どのような通信手段でどのような情報がやりとりされているのか。完全自動運転が実現すれば通信における質も量も膨大なものになることが予想される。
そこで今回は、データ通信に焦点を当て、自動運転に必要な技術を探っていく。
■クルマが利用する無線システム
コネクテッドカーをはじめ自動運転で使用される通信手段は一つではなく、さまざまな無線通信の連携・協調があって初めて成り立つものであり、多岐に及ぶ要求条件に適切に応える無線通信ネットワークを作りあげることが必要となる。
一部重複する部分もあるが「放送利用型」「V2I型」「V2V型」「携帯電話型」に分類し、それぞれの特徴を説明する。
放送利用型:VICSに代表される一方通行の情報配信
音声や文字、映像などの情報を電気通信技術を用いて一方的かつ同時に不特定多数に向けて送信する方法で、代表的なものにVICS(道路交通情報通信システム)がある。
VICSは高速道路や主要幹線道路に設置されている電波ビーコンや光ビーコンから渋滞情報や所要時間情報、交通事故情報などを走行車両に配信している。
後述するV2I型に含まれるが、通信に双方向性はなく一方的に配信する仕組みで、放送エリア内であれば常時接続できる。
V2I型:双方向通信が可能な路車間通信
「Vehicle-to-roadside-Infrastructure」の略で、道路に設置された対応機器と自動車が通信を行う路車間通信を指す。ETC(電子料金収受システム)などがこれに当たる。
放送利用型と異なり専用周波数を用いた狭域無線通信が主流で、常時接続性はないものの双方向の通信ができ、クラウドとの連携も可能だ。
V2V型:自動車同士で通信し合う車車間通信
「Vehicle-to-Vehicle」の略で、自動車同士が通信を行う車車間通信を指す。ITS(高度道路交通システム)専用周波数を用いた狭域無線通信のほか、将来的には携帯電話型の通信システムを応用する可能性もある。
電波の届く範囲であれば常時接続でき、双方向の通信も可能。自動車同士が直接通信するため、遅延も低い。
携帯電話型:次世代移動通信システム5Gを活用 さまざまな場面で応用
今後普及が進むであろう第5世代移動通信システム「5G」が有力視される通信方式で、大容量・超高速の通信が可能。コネクテッドカーをはじめ、自動運転における多くの通信を支える技術で、常時接続性、双方向性があり、クラウド連携も可能だ。
■データ通信が必要な場面
V2I:路車間通信で交通環境全般の情報をやり取り
路側機と車載機との通信により、信号情報や交通規制情報、歩行者情報などを入手し、必要に応じて運転支援を行うシステム。
見通しの悪い交差点において信号の情報や対向車の存在を知らせたり、渋滞や事故など前方の交通状況、右折時における直進車両や歩行者の存在なども通知できる。
広義に捉えれば、自動車に搭載されたカメラなどのセンサーが道路標識を認識し、ドライバーに通知する機能などもV2Iに含まれるだろう。
V2V:車車間通信で周囲の自動車や道路の状況をやり取り
車載機同士が直接通信を行い、周囲の自動車の位置や速度などの情報を入手し、必要に応じて運転支援を行う。
先行車両の情報を活用して適正な車間距離を保つ通信利用型レーダークルーズコントロールや、救急車などの緊急車両の接近を通知する機能などがある。
将来的には、前方を走る路線バスから乗降客への注意を促す情報が通知されたり、前走車両が検知した道路上の障害物情報が後続車両に通知されたりするなど、安全な交通環境構築に向けたさまざまな情報をやり取りできるようになる。
また、実証実験が進むトラックの隊列走行などもV2V技術を用いており、無人後方車の周囲状況の確認や先頭車を適切に追従するための制御情報などをやり取りする。5G回線を使う実証なども進められているようだ。
【参考】隊列走行における5G活用については「ソフトバンク、5G戦略の系譜 自動運転で「通信会社」から脱皮|自動運転ラボ」も参照。
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自動走行車の管制:自動運転レベル4で活躍する遠隔操作システム
自動運転レベル4(高度運転自動化)以上の無人自動運転車が実用化されれば、限定区域において車両の状況を確認したり、遠隔操作などの制御を行う広域通信システムも必要となる。
新たな狭域無線を用いるか、5Gのような移動体通信を用いるかはケースバイケースになりそうだ。
ダイナミックマップ:リアルタイムでマップを更新 自動車も常時接続
自動運転に欠かせないダイナミックマップにおいても大量のデータ通信が必要になる。ダイナミックマップを提供するセンター側では、路面情報や車線情報、3次元構造物などの静的情報をはじめ、交通規制情報や道路工事情報などの準静的情報、事故情報や渋滞情報などの準動的情報、ITS先読み情報や周辺車両の情報などの動的情報を随時マップに反映させなくてはならない。
また、自動車も搭載センサーが検知した情報とマップの情報を突合させながら走行するため、常にセンターと情報をやり取りすることになる。
【参考】ダイナミックマップについては「ダイナミックマップとは? 自動運転とどう関係? 意味や機能は?|自動運転ラボ」も参照。
コネクテッドサービス:5G確立でさまざまなサービス誕生
「つながるクルマ」はまさにデータ通信そのもので、自動車そのものが通信システムに組み込まれる。前述した車車間通信などもコネクテッド機能の一つと言えるが、リモートメンテナンスサービスやエンターテインメント機能など、通信できるからこその多彩なサービスが提供され、5G確立により質の高いさまざまなサービスの誕生が予想される。
【参考】コネクテッドカーについては「コネクテッドカー・つながるクルマとは? 意味や仕組みや定義は?|自動運転ラボ」も参照。
「つながるクルマ」…基礎から各社開発進捗まで解説&まとめ AI自動運転にも欠かせない通信技術、トヨタ自動車や日産の参入|自動運転ラボ https://t.co/bDjF770hJC @jidountenlab #つながるクルマ #コネクテッドカー #まとめ
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■自動運転向けデータ通信を開発する企業
通信キャリア各社を中心に自動運転技術やコネクテッドカーにおける5G活用案が積極的に提案しており、さまざまな実証実験に取り組んでいるようだ。また、インフラ型の通信設備も進化を遂げていくことになるだろう。
NTTグループ:5G移動通信システムの実証実験を先導
通信大手のNTTは、同グループのAI技術「corevo」の知見を活かした運転アドバイスや音声インタラクション技術などの研究開発を行っている。また、NTTドコモは5Gの自動車向けの標準化を推進するとともに、5G移動通信システムの実証実験を先導している。
NTTデータは、データ収集・蓄積・分析基盤に関する技術開発を行っており、NTTコミュニケーションズはIoTに最適な次世代グローバルインフラの開発を進めるなど、グループの総力を挙げて5Gやコネクテッド領域における新たな通信システムの開発に力を注いでいる。
【参考】NTTの取り組みについては「コネクテッドカーのサービス開発で協業発表 NTTドコモと仏部品大手ヴァレオ|自動運転ラボ」も参照。
ソフトバンク:隊列走行実験に5G活用
通信大手ソフトバンクグループも5G事業の確立に躍起となっている。自動運転分野においては、トラックの隊列走行実験において、後続車両に搭載されたカメラで撮影した映像を、車両間の直接通信により先頭車両に配信する大容量映像のリアルタイム伝送に成功しているほか、基地局を経由したリアルタイム伝送も行っている。
【参考】ソフトバンクの取り組みについては「孫正義の事業観(4)譲った経営権、米国5Gと孫社長 ソフトバンク特集—ライドシェア・5G・AI自動運転」も参照。
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KDDI:遠隔操作システムを実証
KDDIは、無人自動運転車の遠隔制御の実現に向け、5Gの周波数帯候補である4.5GHz帯を用いた車両からの4K映像リアルタイム伝送実験に取り組んでいる。
2017年12月には、アイサンテクノロジー、ティアフォーと共同で、遠隔制御型自動運転システムを用いた全国初の公道における無人自動運転車の遠隔制御に成功したほか、2018年5月にはエリクソン・ジャパンの5G実験装置を使用し、運転席などに設置した計4台のフルHDカメラの映像情報のアップリンク伝送に成功している。
沖電気工業:インフラ協調ITSサービス実現へ
ETCやVICSなどのITS関連のインフラ整備を手掛ける同社は、ITS既存システムをコアとしたV2Xネットワークの開発を進め、インフラ協調ITSサービスの実現に向けて取り組んでいる。
同社が2017年11月に発売したSaaS(Software as a Service)型のITSサービス「LocoMobi2.0(ロコモビ2.0)」は、車両関連事業者向け業務サービスをはじめ、車両での決済サポートサービスや車両での収集情報を活用したサービス、各種社会実験向けのサポートサービスなどを提供する。
日産など6社共同:セルラーV2Xの実証実験に着手
日産自動車とコンチネンタル・オートモーティブ・ジャパン、エリクソン、NTTドコモ、沖電気工業、Qualcomm Technologies(クアルコムテクノロジーズ)が2018年からセルラーV2Xの実証実験を行っている。
セルラーV2Xは車両とあらゆるものをつなぐ通信技術で、ミリ波レーダーやLiDAR(ライダー)、カメラシステムなどの車両に搭載されたセンサー技術の補完として、見通し外となる環境においてもより広い通信範囲やクラウド通信を利用できる特徴を持っており、車両の通信能力向上に期待が持たれる。
【参考】セルラーV2Xの実証実験については「日産の自動運転戦略や技術まとめ EV、コネクテッド化も柱」も参照。
■5G技術の確立により自動運転は大幅に進化
さまざまな場面でデータ通信が行われており、自動運転の実現には通信環境の進化が必須であることがわかった。とりわけ、大容量・超高速の5G技術は適用範囲も広く、自動運転における多くの場面で必要とされる技術になる。
自動運転時代が到来すれば、道路には自動車だけではなく目に見えない大量のデータが行き来することになる。このデータが「渋滞」を起こせば自動運転車も立ち行かなくなるため、インフラを含めた通信環境の整備は最重要課題の一つと言えるだろう。
【参考】自動運転のデータ量については「AI自動運転のデータ量、インテルが1日4TB以上と試算 LiDARなどのセンサー群が一因|自動運転ラボ」も参照。
1日4TB以上…!? AI自動運転のデータ量 処理技術、スタートアップのイノベーションにも期待 https://t.co/0zr7BgYAOU @jidountenlabさんから
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) July 15, 2018