ソフトバンク、5G戦略の系譜 自動運転で「通信会社」から脱皮

アメリカで苦肉?の経営統合



超高速かつ大容量の通信を実現する第5世代移動通信システム「5G」は、完全自動運転車の普及には不可欠であると言われている。自動運転では、位置情報や周辺環境の情報をクラウド上と瞬時に送受信したり、遅延を抑えた車車間通信をしたりする必要があり、高速移動時の遅延も少ない5Gは通信インフラにおいて最も重要な役割を果たすと言える。


孫正義社長が率いる通信大手ソフトバンクグループ株式会社(本社:東京都港区)は、5Gを2020年から提供することを目標に掲げ、既に実証実験などを通じた研究開発を進めている。その先に見据えるのはやはり、5Gによってリアルタイムで車両を制御することをできるようにし、完全自動運転や隊列走行などを実現することだ。

ソフトバンクグループは2018年3月27日、茨城県内で5Gを活用したトラックの隊列走行デモを実施した。縦列走行する3台のトラックを5Gの無線通信で接続し、遅延を1ms(1000分の1秒)以内に抑え、車車間での高精細映像のリアルタイム伝送に成功した。

5Gを活用しながら隊列走行するデモ車両=出典:ソフトバンクグループ株式会社プレスリリース

【参考】トラックの隊列走行デモに関する詳しい内容は、ソフトバンクグループの「プレスリリース」を参照。

2017年11月には、ホンダと5Gを活用したコネクテッドカー技術の共同研究を開始している。共同研究では、通信する基地局を高速移動中に安定的に切り替える「高速ハンドオーバー技術」や圏外域での「リカバリー技術」などの開発を進めている。


孫正義社長は自動運転車やコネクテッドカー事業と5G事業の親和性の高さに着目し、2016年4月にSBドライブ株式会社(本社:東京都港区/代表取締役社長:佐治友基)を設立し、この分野への参入を果たしている。最近では毎月のように自動運転EV(電気自動車)バスの実証実験やデモンストレーションに関する報道発表を行っており、事業が一層本格化している印象だ。

【参考】SBドライブ社における自動運転EVバスの取り組みに関しては、「SBドライブ、自動運転バス実用化へ小田急電鉄・神奈川中央交通と協定|自動運転ラボ 」も参照。SBドライブの佐治友基社長は、孫正義氏の後継者育成プログラム「ソフトバンクアカデミア」の第1期生。30歳の若さで代表として同社をスタートさせている。詳しくは「自動運転・AI業界、偉人21人の肖像 年齢順、神童から重鎮まで|自動運転ラボ 」も参照。

■5G導入がスタートするアメリカで覇権争いの渦中に

アメリカにおける5G事業の覇権争いにおいて、ソフトバンクグループもその渦中にいる。

ソフトバンクは米国第4位の通信キャリアであるスプリントを傘下に置き、第3位キャリアのTモバイルと経営統合に関する交渉を進めてきた。孫社長は経営権を譲らずにいたが、最終的にはTモバイル親会社のドイツテレコムに筆頭株主の座を譲る形で決着した。

孫社長はなぜ経営権を保持することを諦めたのか。その理由としては、アメリカ国内で5G競争に勝つためには一刻も早く経営統合をし、2社による設備投資費の拠出が必要という考えも働いたと言われている。アメリカでは2018年後半にも5G導入がスタートする。もう残された時間は少ない。

■通信会社を枠を越え、新産業分野でさらなる躍進

自動運転を5G分野で支えるだけではなく、自動運転事業にも乗り出しているソフトバンクグループ。ライドシェア世界大手も次々と傘下に収め、通信会社という枠を越えて新産業分野でのさらなる躍進を目指す。孫社長の今後の経営手腕に注目が高まる。

【参考】ソフトバンクグループのライドシェア事業については「【速報】ライドシェア乗車数、1日3500万回 ソフトバンク傘下Uberなど4社|自動運転ラボ 」も参照。


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