トヨタが攻めに転じた?自動運転関連ニュース、2021年10月の記事まとめ

e-Palette発売計画、都市OS開発も



2021年10月――秋が深まる季節を迎えたが、自動運転業界ではまだまだ春が続いている。国内ではトヨタが依然元気で、新規事業に向けた意欲が求人情報からも読み取れる。グループ企業による買収も盛んに行われているようだ。


一方、海外では自動運転向けの人工衛星生産や自動運転デリバリーサービスの話題が挙がっている。2021年10月の10大ニュースを一つずつ振り返っていこう。

■トヨタ子会社、「米企業を毎月1社買収せよ」の大号令?Renovo Motorsも買収(2021年10月1日付)

トヨタグループのウーブン・プラネット・ホールディングスによる買収攻勢が止まらない。2021年7月に米Lyftの自動運転開発部門「Level 5」、8月に高精度地図・道路情報解析技術開発を手掛ける米CARMERAの買収をそれぞれ完了したばかりだが、9月には自動車向けOS開発を進めているRenovo Motorsの買収も新たに発表した。Renovo Motorsの技術により、車両開発プラットフォーム「Arene」の開発を強化していく方針だ。

同グループは買収のほか有力スタートアップなどへの出資も積極的に進めており、これまでに自動配送ロボット開発を手掛ける米Nuroや、欧州を拠点とするベンチャーキャピタルClimate Technology Sustainability Fund、アーリーステージのスタータアップに投資するUP.Partnersの新規ファンドなどにも出資している。

自社技術に世界の最先端技術を掛け合わせ、いっそう開発力強化を図っていく構えだ。今後も買収攻勢は続くのか、動向に要注目だ。



自動運転タクシー、現時点で世界で「617台」 米企業調査(2021年10月1日付)

米コンサルティング企業のMarketsandMarketsの市場調査レポートによると、2021年の自動運転タクシーの市場規模は617台となっているようだ。また、2030年までの年平均成長率(CAGR)は136.8%で、同年までに144万5,822台まで拡大する予測も発表している。

現在実用化されている自動運転タクシーは、Waymoによる米国と百度などによる中国が大多数を占めている。617台というリアルな数字も実態に限りなく近いものと思われる。

各国の法整備の進捗にもよるが、GM・CruiseやIntel・Mobileyeのように1~2年の間にサービス化を予定している企業も多く、今後市場規模は飛躍的に増していく可能性が高い。

ドライバーレスがスタンダード化し、車両生産や運用コストが低下すればその勢いはさらに増す。右肩上がりの成長が今しばらく続くことは間違いなさそうだ。

■自動運転のために人工衛星を飛ばす!中国・吉利が生産スタート(2021年10月6日付)

中国自動車メーカーの浙江吉利控股集団(Geely)のグループ企業が人工衛星の製造を開始したようだ。低軌道衛星による高精度位置情報などを活用して自動運転分野で役立てる構想のようだ。

日本では、独自の準天頂衛星システム「みちびき」の打ち上げが進んでおり、2023年までに7機を稼働させる計画だ。これまでは米国のGPSに依存していたが、導きの活用により誤差数センチレベルの高精度な位置情報を得ることが可能になる。

こうした位置測定技術は、自動運転開発においても非常に重要かつ有用で、Geelyは自らこのシステム構築に乗り出す構えのようだ。また、人工衛星の生産も年間500機を予定しているようで、人工衛星そのものをビジネス展開する可能性もありそうだ。

■トヨタWoven Cityで「空飛ぶモビリティ」も!?Woven Planetトップが言及(2021年10月8日付)

Woven Cityが位置する静岡県裾野市が開催した「これからのまちづくり説明会」にウーブン・プラネット・ホールディングスのジェームス・カフナーCEOがゲストスピーカーとして登場し、Woven Cityの概要説明や質疑に応じるなど、地域住民との交流を図った。

カフナー氏は「個人的には空飛ぶモビリティにも大変関心を持っている」と述べるなど、モビリティ全般に意欲的な姿勢を示したようだ。

Woven Cityではe-Paletteをはじめとした自動運転車のほか、地下道を走行する自動配送ロボットの実証も計画されるなど、モビリティ関連の取り組みには妥協がない。遅かれ早かれ空飛ぶクルマ導入に向けた取り組みも始まる可能性が高そうだ。

■トヨタ、自動運転EV「e-Palette」を発売へ 準備に向け人員強化(2021年10月8日付)

トヨタの求人から、サービス専用自動運転モビリティ「e-Palette(イーパレット)」発売計画が水面下で進められていることが明らかになった。

東京五輪・パラリンリックで活用された記憶が新しいe-Paletteだが、2020年代前半にも複数エリア・地域で商用化を目指す計画で、今後表立った実証の機会も増える見込みだ。

自動運転シャトルとしての活用はもちろん、小売りをはじめとした各種サービスなど多目的に利用できるのがウリで、実証の幅も大きく広がる。自動運転技術のポテンシャルを引き出す役目としても注目していきたいところだ。

テスラの自動運転ソフト、他社の利用を許容 「道義的に正しい」とマスク氏(2021年10月11日付)

EV大手テスラのイーロン・マスクCEOが、自社開発した自動運転技術を要望に応じて他社へ提供していく意向を示したようだ。

テスラの技術は、現状ADASにとどまるが、自動運転化に向けた熱意は高い。将来自動運転技術を確立した際、ライセンス方式など何らかの形で新たなビジネスにつなげながら技術の普及を図っていく考えと思われる。

自動運転の実用化が始まったばかりの現在において各自動運転システムを比較することは困難だが、そう遠くない将来、システムの精度やODDなどが比較可能になり、自動運転システムの淘汰が始まる可能性が考えられる。

その際、優れたシステムへの需要が高まり、自動運転システムのソリューション化が大きく進展することも考えられる。マスクCEOが示した意向は、自動運転システムの未来におけるスタンダードな考え方と言えそうだ。

■トヨタが「都市OS」開発、Woven Cityの土台に 求人情報から判明(2021年10月13日付)

トヨタ子会社の求人情報から、トヨタグループがWoven City向けのソフトウェアプラットフォーム「City OS」の開発を進めていることが判明した。マイクロサービス、ID、認証、プライバシー、セキュリティ、データブローキング、IoT制御などを連携させるための最先端のシステムで、Woven Cityにおける「デジタルハート」と位置付けているようだ。

スマートシティでは、地域課題の解決や利便性向上に向けさまざまな情報を連携・活用することが肝要となる。この情報連携の基盤となるのが「City OS」だ。地域社会全般に渡る情報を「OS」で統括する貴重な取り組みで、成果次第では各地で進められているスマートシティへの横展開も十分に考えられそうだ。

また、トヨタは「スマートシティプラットフォーム」の構築・運営に向けNTTと提携している。このプラットフォームと同一のものか、あるいは関連するものか――といった観点でも、今後の進展に要注目だ。

■ドバイで自動運転デリバリー開始へ 中国ベンチャー「Neolix」の車両採用(2021年10月19日付)

ドバイで自動運転車によるデリバリーサービスが開始されるようだ。ドバイ道路交通局の幹部が明かした。中東最大のECプラットフォーマーNoonと戦略的パートナーシップを結ぶ中国Neolixの自動運転車が導入される見込みだ。

Neolixは百度の「Project Apollo(アポロ計画)」のもと自動運転開発を進め、2018年に自動運転の最初のモデルを披露するなど早くから実用化に取り組んでいた。2019年には車体を製造するギガファクトリーも稼働している。

Noonとパートナーシップを結んだ際には配送ロボット5,000台を受注したとする報道も流れており、この取り組みがこのほど本格始動することになったようだ。

一方、ドバイはスマート交通の導入に積極的で、空飛ぶクルマや自動運転で動く無人交番など、さまざまな先進技術導入に向けた取り組みを展開している。2021年春には、ドバイ道路交通局が米GM・Cruiseと契約し、自動運転タクシーの運行を2023年にも開始する予定であることが報じられている。

自動運転技術を導入する先進国としても、その動向に要注目だ。

■自動運転が可能な車種一覧(2021年最新版)(2021年10月24日付)

世界各地で実装が進む自動運転サービス。数年前までは自動運転車と言えばコンセプトモデルが主体だったが、現在では量産化の動きも活発となり、実機としての自動運転車が出揃ってきた。

多くの台数が必要な自動運転タクシー用途は、市販車両を改造したモデルが多く、OEMにおける新たな販路となっているほか、開発サイドが自動運転技術をソリューションとして売り込むビジネスも増加傾向にあるようだ。

一方、自動運転シャトルはオリジナルモデルが多く、NAVYAのように早くから販売しているスタートアップも存在する。この分野に力を入れる自動車メーカー系も多く、トヨタの「e-Palette」のように多用途展開を見越したモデルも今後増加しそうだ。

百度と北京汽車集団系のARCFOXが手掛ける「Apollo Moon」のように、価格を抑える取り組みも今後注目が高まるものと思われる。自動運転の普及がコスト減を導き、コスト減がさらなる普及を後押しする時代がまもなく訪れそうだ。

【参考】詳しくは「自動運転が可能な車種一覧(2021年最新版)」を参照。

■Google、次世代自動運転カーの「コックピット」に照準!BlackBerryとタッグ(2021年10月26日付)

次世代コックピットシステムの開発に向け、GoogleとBlackBerry、そしてQualcommが手を組んだ。Qualcommのコックピットプラットフォーム「Snapdragon Automotive Cockpit Platforms」上で機能する「AndroidAutomotiveOS」を仮想化するQNXハイパーバイザーとVIRTIOベースのリファレンスデザインをBlackBerryが提供する内容だ。

3社は車載システムの統合プラットフォーム・ソフトウェア開発において競合関係にあるが、それぞれの強みを生かしてシェア拡大を図る構えのようだ。

自動運転車やコネクテッドカーの登場により、コックピットシステムは今後大きく進化していく。自動車の各種制御システムと連動する形で、スマートフォンやタブレットのようにさまざまな機能を柔軟に活用できるようになっていく見込みだ。

将来的にはエンタメ分野が大きく発展し、車内向けアプリのような形でさまざまなサービスが提供される可能性も高い。今後の開発動向に要注目だ。

■【まとめ】トヨタが次世代を見据えた取り組みに本腰 攻勢はまだまだ続く?

競争に左右されず、無理に開発を急がない姿勢を貫くトヨタだが、ウーブン・プラネット・ホールディングスによる買収攻勢をはじめ、Woven City関連の「City OS」やe-Palette発売に向けた求人など、新たな事業展開に向け開発強化を図っているのは間違いない。攻勢をどこまで続けるのか、引き続き要注目だ。

一方、海外に目を向けると、自動運転分野で先行する米国や中国、そしてドバイなどは開発や実用化のスピードを緩めることなく突き進んでいる印象だ。

2021年も残すところあと2カ月。さらなるビッグニュースの登場に期待したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事