テスラのロボタクシー、「急がば回れ」の典型例!人間的AIに固執

E2E開発でいずれ急激進化



テスラのイーロン・マスクCEO=出典:Flickr / Public Domain

テスラが米テキサス州でロボタクシーサービスをローンチしてから1カ月余りが経過した。早くから自動運転実現を公言してきたイーロン・マスク氏にとって、重要なマイルストーンとなったはずだ。

しかし、ADASを含むテスラの自動運転技術に対しては、常に高評価と悪評価が入り混じる。それはなぜか。実際のところ、テスラの技術はすごいのか、すごくないのか。


バイアスがかかりがちなテスラの自動運転技術の実態に迫る。

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■テスラのADAS・自動運転開発

マスク氏の発言でバイアスがかかりがち

結論から言おう。テスラはすごい。世界の名だたる自動車メーカーはテスラの足元にも及ばない……と言えるほど、自動車メーカーの中では抜きん出ている。

では、それほどすごいテスラの技術を批判する人が多いのはなぜか。それは、マスク氏のせいだ。多くの方がご存じの通り、マスク氏は早くから自動運転技術に目を付け、自動運転の早期実現をほのめかしてきた。

「今年中に自動運転技術が完成する」「来年には自動運転車を100万台生産する」――といった具合で、ビッグマウスを発し続けてきたのだ。


こうした発言の中身は今現在実現しておらず、もはや「いつものマスク節」くらいに受け止められているが、こうした発言に夢を感じる肯定派の裏では、信頼性・責任感の欠如を嫌悪する否定派が生まれる。

否定派は、現実の技術水準に基づき「テスラの技術はその域に達していない」という事実を突きつける。これは正しい指摘だ。テスラに対する悪評価は正しいのだ。

出典:Tesla公式サイト

FSDをレベル2+ADASとして見た場合、その技術は頭一つ抜きんでている

しかし、それはあくまでマスク氏の発言を物差しとした場合の評価だ。後述するが、現行FSDは市街地を含む広範囲でハンズオフ可能な自動運転レベル2+に相当するADASを実現している。自動車メーカー各社のハンズオフが、基本的に高速道路をはじめとした自動車専用道路にしか対応していないことを踏まえると、その差は歴然としたものとなる。

例えば、マスク氏が完全自動運転云々などビッグマウスを控え、現在の技術に忠実かつ誠実な発言で自社技術をPRしていたらどうだろう。「市街地でも広範囲にわたるレベル2+を実装しました。でも、自動運転ではなくあくまでADASなので、注意して運転してね」――といった具合だ。


素直にレベル2+の実装をPRしていれば、「テスラすごい!!」という反応が大勢を占めることは言うまでもなく、あくまでADASであることを前面に出していればアンチが顔を覗かせる隙もなくなる。

ある意味、マスク氏の魅力は半減するかもしれないが、自動運転の舞台ではなく自家用車市場の土俵でテスラの技術を評価すれば、その技術力が優れていることは誰も否定できない事実なのだ。

【参考】マスク氏のビッグマウスについては「イーロンマスク氏が毎年「自動運転は”来年”可能に」と語る皮肉動画が話題に」も参照。

イーロンマスク氏が毎年「自動運転は”来年”可能に」と語る皮肉動画が話題に

自動運転開発のアプローチがそもそも異なる

もう一点、テスラの技術が優れている点がある。それは、E2Eベースの自動運転開発により、現行水準の自律走行性能を実現している点だ。

Waymoをはじめとする自動運転先行勢のほぼすべては、ルールベースの自動運転開発によるものだ。ルールベースでは、自動運転におけるAI開発の過程において、エンジニアが一つひとつの定義(ルール)をAIに付与し、学習させる。

また、センサーによる認識をはじめ、それに基づく予測、判断、経路計画といった各工程がモジュール化されており、それぞれにルールベースによって設計されたモデルが導入され、全体を構成しているのが特徴だ。

一方、E2Eモデルは、認知から自動車の制御に至る一連の流れが、単一モデルで処理される。各工程がモジュール化されておらず、一体的にAIが処理するのだ。

また、AIに学習させる際、細かな定義付けも不要とされている。大量の学習データをもとに、AIが運転に必要な技能を自ら学んでいくため、現実の道路交通では滅多に発生しないようなレアケース・細かなシナリオにもアプローチしやすく、拡張性・汎用性が高い。

ルールベースはエンジニアが細かく一つひとつ定義付けするため、手間はかかるが特定の場面における完成度を高めやすい。一定ルートや一定範囲内を走行エリアとして定めた初期の自動運転バス自動運転タクシーは、この手法で確実性を高め、社会実装してきた。

さらに、走行エリア内をくまなくマッピングし、高精度3次元地図を導入するなど安全性・確実性を高めるための技術を惜しみなく使い、手間暇かけて自動運転サービスの実用化を推し進めているのだ。

【参考】E2Eとルールベースについては「自動運転モデル「ルールベース」「E2Eモデル」とは?」も参照。

レベル5への道を切り拓くE2Eモデル

一方、E2Eモデルは、センサーによる認識から車両制御に至るまで一体的にAIが処理するため、ある意味シンプルな構造と言える。

自ら学習を進めていくため、一定ルートや一定範囲内に縛られない汎用性の高い技術を身に着けることに期待が寄せられている。

言わば、より人間に近い学習方法と言える。人間のドライバーは、運転免許取得までに一定の交通ルールと制御技術を習得し、その後、実際の運転を通じて経験値を高めていく。経験を積めば、初めての道路でも特段の問題を抱えることなく走行できるようになる。

ルールベースの場合、初めて走行する道路においては、そのシチュエーション特有の注意ポイントを洗い出し、一つひとつ学習させる必要がある。しかし、E2Eモデルであれば、過去の走行経験から類推するような形で初めてのシチュエーションにも対応できる可能性があるのだ。

このE2Eモデルの開発には膨大な学習データが必要であり、かつ高い処理能力が求められるため、簡単な道のりではないことは確かだ。また、AIが独自に学習していくため、その判断根拠を人間が特定するのも難しくなる。間違った判断を修正する場合、その要因を解析するのに時間を要する。要するに、より高度な開発体制・技術が求められるのだ。

特定範囲に特化して完成度を高めることに長けているルールベースは、その範囲内において自動運転を実現しやすいが、新たなエリアに踏み出す際、再び入念な作業を行う必要がある。言わば、付加条件のあるレベル4は実現しやすいものの、付加条件のないレベル5には達しにくいのだ。

対するE2Eは、一般的に特定範囲などの制限をかけない形で学習を進めていくため、初期の開発・実装速度ではルールベースに劣りがちだ。しかし、積み重ねてきた経験値は汎用性が高く、どのようなエリアでも自律走行できるポテンシャルを有しており、基本性能が一定水準に達すれば、エリアの制限のない自動運転が可能になる。つまり、レベル5を実現する可能性を持っているのだ。

テスラは世界で初めてE2Eモデルを実装

テスラに話を戻すが、テスラは早い段階でこのE2Eモデルの開発に着手した。しかも、LiDARや高精度3次元地図を使わず、カメラとAI技術に特化するシンプルな形だ。これは、人間が「目(カメラ)」と「脳(AI)」で運転を実現しているのを模倣した結果だ。

シンプルな構成で、特段ODD(運行設計領域)を設定しない形で自動運転開発を進めており、その方針はFSD(Full Self Driving)に顕著に表れている。他社のレベル2が、高速道路や幹線道路限定などで設定されているのに対し、FSDは道路条件などを基本的に付していない。

それゆえ当初は粗さが目立ち、かつ自動運転を想起させるマスク氏のPR手法も相まって間違った使用を行うドライバーも出てきたため、「FSDは危険?」――という風潮が一部で広がった。

しかし、システム構成を一新し、E2Eモデルの本格導入を開始した2023年ごろからFSDは著しい進化を遂げ始めた。「Version 12」以降だ。自動車業界におけるE2Eモデルの実装は、テスラが初と言われている。

2024年末にリリースしたVersion13では、テキサス州内のギガファクトリーから顧客の自宅まで、実質無人の自動運転で納車する様子が公開されている。

工場から自宅まで約30分の距離を、ドライバー不在の「モデルY」が自律走行したというのだ。無人走行による納車の様子は動画で公開されているので、一度拝見してもらいたい。

【参考】無人自動運転による納車については「トヨタじゃ無理?テスラの完成車「自ら自動運転」で購入者の元へ」も参照。

完成度が高いレベル2+の動画が次々とアップされる

この実質自動運転による納車は、特別な仕様ではない。この1年ほどで、手動介入ほぼなしでFSDによってロングドライブを行う動画が次々とアップされ始めている。あくまでADASながら、限りなく自動運転に近づいているのだ。

その様子は、テスラの大ファンを称するYouTubeの「僕テス BOKUTES」チャンネルの動画がわかりやすい。

動画「【速報】テスラの自動運転が人間ムーブを披露」では、FSDが人間のような自動車制御を行う様子が紹介されている。丁字路交差点から、片側4車線以上のやや渋滞気味の幹線道路に右折で進入する様子が収められている。

テスラ車は、幹線道路に右折した後左折するため、奥の道路に進入しなければならないが、手前の直進レーンは渋滞気味だ。普通の自動運転車であれば、すべてのレーンが空くまで待機しがちだが、テスラ車は直進レーンに停車しているクルマとクルマの間を通り抜け、一番奥のレーンに右折したのだ。

これは、ペーパードライバーも躊躇するシチュエーションで、経験値の高い人間のドライバーならではの判断と言える。FSDはここまで進化しているのだ。

動画にはこのほか、草むらから道路を横断する小動物をいち早く検知し、徐行・停止する様子なども収められている。

もう一本の動画には、最新のFSD「V13.2.1」を搭載したサイバートラックが、ハンズオフで高速走行する様子や、観光地だろうか、歩道のない道路上を歩行者や自転車が進行する中、速度を落として右側の自転車を交わす様子や、対向車が来た際は自転車の間を縫うように右側に寄り、通過後に再びゆっくりと自転車を交わす様子などが収められている。実に人間らしい判断と制御方法だ。

こうした人間顔負けの挙動は、先行するWaymoなどが力を入れている部分だが、テスラもその域に達しつつあるようだ。

こうした動画を見ていると、テスラはすでに広範囲に及ぶ自動運転技術を確立したのではないか?と思えるほどのクオリティがうかがえる。

▼僕テス BOKUTESの動画
https://www.youtube.com/watch?v=ht9URDxZqcc
https://www.youtube.com/watch?v=WLos1YweDMU

現時点ではWaymoに及ばないものの……

もちろん、現実問題としてテスラはまだレベル4を実現していない。テキサス州オースティンで2025年6月にローンチしたロボタクシーは、運転席こそ無人だが助手席にオペレーターが張り付いている。実質レベル2、レベル3の状況だ。

しかも、自動運転可能なエリアをジオフェンスで区切っているという。こうした状況を踏まえると、現状はまだWaymoの足元に及ばない――というのが事実だ。

ただ、テスラはすでにカリフォルニア州パロアルト、ニューヨーク州ブルックリン、テキサス州ヒューストン・ファーマーズブランチ、アリゾナ州テンペ、ネバダ州ヘンダーソン、フロリダ州タンパ・クレルモン・マイアミの各都市で、オペレーターを募集している。

一部報道によると、パロアルト近辺では配車サービスの準備が整い、アプリのサービスエリアに追加されたという。ただ、自動運転による営業許可は下りておらず、運転席にドライバーを乗せた純粋な「配車サービス」として扱われているという。

早くも拡大路線を見据えていることは間違いなく、マスク氏は2026年に全米に拡大する構想を掲げている。

現状はWaymoに及ばないが、FSDはオーナー車から収集した膨大なデータをもとに進化を続けており、ロボタクシー事業に実際に足を踏み入れたことで新たなデータの収集・解析が進み、数年以内にWaymoに追い付き、追い越すポテンシャルを有しているのだ。

E2Eゆえ当面は時間を要するかもしれないが、技術が一定水準に達した後は、広域展開が一気に進む。業界にパラダイムシフトが到来するかもしれない。これがテスラのポテンシャルなのだ。

製造コストの低さも大きな武器

もう一点、興味深いのが「コスト」だ。マスク氏は、自動運転車の製造コストに関し「テスラ車はおそらくWaymo車のコストの20〜25%程度で済む」と発言している。

正確な数字ではないだろうが、テスラは自動車メーカーとして車両を自社生産でき、かつLiDARなどに依存しないシンプルな構成で自動運転システムを構築している。もともと、テスラはソフトウェアアップデートによって自家用車を自動運転化する戦略を採用している。ある意味、自家用車も自動運転車も同じなのだ。

他社から自動車を調達し、LiDARをはじめとするセンサースイートでガチガチに固めたWaymoと比較すると、確かにコストは低いだろう。

本格普及期を迎える際、こうした製造コストは大きな武器になることも間違いないだろう。

【参考】テスラの製造コストについては「テスラの自動運転タクシー、製造費は「Googleの20〜25%」」も参照。

テスラの自動運転タクシー、製造費は「Googleの20〜25%」

■【まとめ】業界にパラダイムシフトをもたらす存在

まとめると、テスラのFSDはレベル2、レベル2+ADASとして群を抜いた性能を誇っている。自動運転に関してはまだWaymoに及ばないものの、レベル5を見据えいち早くE2Eモデルを導入した開発は速度をどんどん増し、数年後に追い付き、追い越すポテンシャルを有している。

良くも悪くもマスク氏の発言によってバイアスがかかりがちだが、難易度は高めのアプローチで大博打といえ、テスラは自動運転業界にパラダイムシフトをもたらす可能性が最も高い存在と言えるのだ。

マスク氏のビッグマウスは、期限こそ守られないものの遅れて必ず実現する――と捉えれば、現在テスラが浴びている批判を大きく上回る期待感が近い将来待ち受けている。要はマスク氏の行動は「急がば回れ」というわけだ。

テスラ信者になる必要はないが、E2Eモデルの道を拓いたその開発力とポテンシャルにはしっかり注目したいところだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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