CASE(コネクテッド、自動運転、サービス、電動化)に象徴される変革期を迎えた自動車業界。自動車メーカー各社は、次代のモビリティの在り方を探るべくこのCASEに沿う形で研究開発を進めている。
各社のベクトルは基本的に同一方向に向かっているが、そのアプローチには相違が生じ始めているようだ。この記事では、自動運転開発における各社の軸足に迫っていく。
記事の目次
■自動車メーカーの動向
一般自動車メーカーは自動運転モビリティサービスに直接関与
自家用車の製造・販売を主力とする各自動車メーカーは、基本的にCASEの全分野において研究開発に力を入れている。自動運転開発もモビリティサービスも電動化も進めていないメーカーが稀な存在であることは、言うまでもないだろう。
では、「自動運転モビリティサービス」に対する取り組みはどうだろうか。言葉の通り、自動運転技術をモビリティサービスに導入していく取り組みだが、この領域では各社の温度に多少なり違いが生じている。
例えば、トヨタはサービス用途向けの多目的自動運転車「e-Palette(イー・パレット)」の開発を進めており、モビリティサービスパートナーとして米EC大手のアマゾンや米配車サービス大手のUberなどと手を組み、新たな自動運転サービスの創出を進めている。
また、ソフトバンクとの合弁MONET Technologiesを通じてMaaSに自動運転の導入を図っていく事業や、米Aurora Innovationとの協業のもと、配車サービスに自動運転車を投入する取り組みなども進めている。
一方、日産は無人運転車両を活用した新しい交通サービス「Easy Ride」、ホンダもGM・Cruiseとの協業のもと自動運転車を活用した移動サービスの実証に乗り出した。
海外勢では、米GMがCruise、米フォードや独フォルクスワーゲンが米Argo AIとそれぞれ手を組み、自動運転タクシーを主体とした移動サービスの実用化を推し進めている。
また、ステランティス系列のフィアット・クライスラー(FCA)は早くから自動運転サービス向けに車両を供給する戦略を進めており、米Waymoなどと密接な関係を築くことで自動運転サービス分野における存在感を発揮している。
アプローチはさまざまだが、自動運転技術を活用したモビリティサービスに直接関わっていく意志が感じられる。
高級車メーカーは自動運転とモビリティサービスを切り分ける傾向に
一方、比較的高価格帯に軸足を置く独メルセデス・ベンツ(ダイムラー)や独BMWといった高級車メーカーはどうか。両社はそれぞれ自動運転開発にもモビリティサービスにも積極的で、一時合弁を立ち上げ協業していたほどだ。
メルセデス・ベンツに至っては、業界の指針とも言うべき「CASE」という概念を生み出し、いち早くMaaS分野に進出するなど先見の明が光る1社だ。
しかし、自動運転技術を活用したモビリティサービスにおいてはトーンダウンが否めない。メルセデス・ベンツは2018年、ボッシュと自動運転車を活用したオンデマンドライドシェアサービスの実証実験を2019年後半に米国で開始すると発表しているが、その後の進展については特に報じられていない。
BMWも同様だ。他社と比較すると、自動運転開発とモビリティサービスを切り分けている印象が強い。現状、自動運転開発はコンシューマー向け、つまり自家用車向けのものに注力しているように感じられる。
「超」がつく高級車メーカーはさらに特殊だ。イタリアのフェラーリやランボルギーニといった高級スポーツカーメーカーは、運転する楽しさ重視のため自動運転開発そのものに消極的だ。サービス用途で使用されることも少ないため、自動運転モビリティサービスなど眼中にないものと思われる。
英ロールス・ロイスは、過去に発表したコンセプトカー「ビジョン・ネクスト 100」に自動運転機能を搭載したものの、同社CEOは「我々のクルマはショーファードリブンカー(※専属の運転手が運転する車のこと)であり、すでに運転手が付いている」旨発言している。自動運転システムの能力がお抱え運転手の能力を超えない限り、採用することはなさそうだ。
高級車メーカーはUXやUI向上に注力
フェラーリやロールスロイスなどは別として、こうした高級車メーカーは自動運転関連でどの領域の開発に注力しているのか。
その1つの解は、レベル3以上を見据えた車中エンターテインメントをはじめとするUX(ユーザーエクスペリエンス)やUI(ユーザーインターフェイス)の向上だ。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などの技術を活用し、移動時の利便性や質を向上させる取り組みだ。
以下、各社の事例を紹介していく。
■各社の取り組み事例
メルセデス・ベンツはARナビを実用化
メルセデス・ベンツはARナビゲーションの開発・実用化を進めている。フロントウィンドウに投影するヘッドアップディスプレイによる情報を実際の車載風景と重ね合わせ、より直感的でわかりやすいナビゲーション機能を提供する。
従来のナビでは、画面上の地図をベースに「左折まであと20メートル」など表示されるが、ARナビではフロントガラス越しに視界に収めている道路上に矢印などが投影されて見える。
BMWも没入型の拡張現実インターフェースを開発
BMWもAR技術の活用に力を入れているようだ。世界最大の技術見本市「CES 2020」で発表した「BMW i Interaction EASE」は未来の自動運転車におけるインテリアに主眼を置いており、フロントガラス全体に広がるパノラマヘッドアップディスプレイシステムが風景と融合し、没入型の拡張現実インターフェースを実現する。
エンターテインメントモードでは、パノラマヘッドアップディスプレイシステムがムービースクリーンとなり、車内と外部環境を完全に遮断することもできるという。
さらに、エンジョイモードではシートを浮遊感のある居心地に変え、ディスプレイを暗く、サイドウィンドウなども不透明にすることで車内を静かで快適なプライベートスペースに変えるという。
キャデラックもUX・エンタメに焦点
GM系の高級車ブランド・キャデラックも、「CES 2022」において自動運転時代のUX・エンタメにスポットを当てたコンセプト「InnerSpace」を発表している。
ルーフとボディサイドに広大なパノラマガラスを備えることで開放感を演出するとともに、大型の没入型パノラマディスプレイ「SMDLED」によってさまざまなコンテンツを楽しむことができる仕様だ。
乗客は、拡張現実エンゲージメント、エンターテインメント、ウェルネスリカバリーのテーマからドライブを選択することができるという。
ポルシェはARスタートアップに出資、コンペ開催も
フォルクスワーゲングループのスポーツ高級車メーカー・ポルシェは2018年、ホログラフィック拡張現実ヘッドアップディスプレイを開発するスイスのWayRayに出資するなど、AR技術の取得に力を入れている。
2019年には、ポルシェAPIを使用したオープンイノベーション推進を目的に「NEXT OI Competition」を開催し、未来に向けたアプリ開発や運転体験のアイデア・技術を募っている。
アウディはXRエンターテインメント開発に注力
フォルクスワーゲングループのアウディは、同社からスピンオフしたHolorideが車内におけるXRエンターテインメント開発を手掛けており、2022年からVRエンターテインメントの実用化を本格化する。
後部座席の乗客がVRグラスを着用することで、自動車の動きなどと連動したさまざまな仮想コンテンツを楽しむことができるという。
同社は「自動運転が実現した将来、新しい形のエンターテインメントが可能になるだけでなく、道路で学び、働く機会が増える。ドライバーも将来、仕事や読書、映画鑑賞、ゲームなど他のことに注意を向けることができる」としており、車載エンターテインメント開発への注力をさらに進めていく考えだ。
■【まとめ】自動運転開発の軸足は自家用車展開と商用車展開に分岐?
自動運転モビリティサービスに力を入れる企業群と、自家用車向けを主体に自動運転車内のエンタメをはじめとしたインフォテインメント開発に軸足を置く企業群に分かれ始めた印象だ。自家用車展開と商用車展開のどちらに主眼を置くか――といった相違とも言える。
もちろん、両者に明確な区別はなく、それぞれの知見や技術は分野を横断して融合していくものと思われる。自動運転関連の研究開発が今後どのように進展していくか、要注目だ。
【参考】関連記事としては「自動運転が可能な車種一覧」「「手放し運転」が可能な車種一覧」も参照。