業界最大4兆円IPOへ!Intel傘下Mobileyeの自動運転事業を徹底解剖

SoC事業と自動運転事業が相乗効果



モービルアイのアムノン・シャシュアCEO=出典:インテル

インテル傘下のイスラエル企業Mobileye(モービルアイ)が、米ナスダック市場に上場を申請した。発行する株数や価格などは未定だが、2022年の米国市場において最大級のIPOとなる見込みで、自動運転業界としても史上最大規模となる可能性が高い。

これまで以上に大きな注目を集めることになりそうなモービルアイだが、その絶大な評価を支える同社の魅力・武器はどこにあるのか。同社がこれまで積み重ねてきた実績とポテンシャルに迫ってみよう。


■モービルアイの概要
コンピュータビジョン技術を武器にADAS市場に参入

モービルアイは1999年、イスラエルのヘブライ大学でコンピューターサイエンスの研究を進めているアムノン・シャシュア氏が設立した企業だ。

独自のコンピュータビジョン技術を武器に、単眼カメラによるADASソリューションの開発・製品化を進めるほか、コンピュータそのもののパフォーマンスを引き上げるためSoc(システムオンチップ)の開発などにも力を注いでいる。業績は順調に伸び、2014年にニューヨーク証券取引所への上場を果たしている。

自動運転開発の加速とともにインテル傘下へ

これら高度な技術を武器に自動運転開発にも本腰を入れ始め、2016年にBMWやインテルと提携し、共同研究に乗り出す。この縁に端を発したかは不明だが、2017年にインテルによる買収案が合意に達し、インテルの傘下となる。


インテルはモービルアイの発行済み普通株式の約84%を取得した。その買収額は約153億ドル(約1兆7500億円)と言われる。この買収に伴い、モービルアイは上場を廃止した。

インテル傘下に収まった後も開発は促進され、自動運転システム「Mobileye Drive」などのソリューション化が進んでいる。

再上場計画浮上、企業評価額は300億ドル?

自動運転事業の本格化を見据え、インテルは2021年12月、モービルアイ再上場となるIPO計画を発表した。2022年半ばにもナスダックに上場する計画で、アムノン・シャシュア氏ら経営陣はそのままモービルアイに残り、インテルも過半数の株式を維持する。当時、企業価値は500億ドル(約7兆円)相当になると予測されていた。

ただ、2022年夏ごろ、相場環境の悪化を背景に一部メディアで上場延期が報じられた。動向に注目が集まる中、インテルは2022年10月、クラスA普通株式のIPOを申請したことを正式発表した。ティッカーシンボルは「MBLY」という。上場時期は未定だが、2022年末から2023年初頭ごろになるものと思われる。


なお、企業評価額を300億ドル(約4兆3,000億円)に引き下げたと報じるメディアもある。いずれにしろ、モービルアイの再上場はほぼ決定的なものとなった。調達した資金でどのように事業拡大を図っていくか、改めて注目が集まるところだ。

【参考】モービルアイの上場計画については「自動運転開発、シャシュア博士の天才的頭脳 Mobileye、Intel傘下で再上場へ」も参照。

■モービルアイのADASと自動運転技術
自動運転に向け進化するADAS「Mobileye SuperVision」

モービルアイのADASには、普及モデル向けの「ベースドライバーアシスト」やマッピングテクノロジーREMを活用した「クラウド強化ドライバーアシスト(Cloud-Enhanced Driver-Assist)」などがある。

また、次世代のハンズフリーADAS(レベル2++)と位置付ける「Mobileye SuperVision」も非常に完成度が高い。EyeQ5を2つ搭載し、長距離カメラ7台、短距離カメラ4台の計11台のカメラで車両の周囲360度の環境を認識する。高速道路におけるハンズオフ運転やオンデマンドのセルフパーキング機能が可能なほか、OTAアップデートでさらなる進化を遂げていくという。

モービルアイはこのMobileye SuperVisionを使用し、スペインからドイツに至る約2,000キロの長距離走行実証をはじめ、エルサレムや東京、上海、マイアミなど各地で走行している。2022年9月時点で、同社の開発用自動運転車は世界10カ国の約20都市で実証されているという。

Mobileye SuperVisionは中国GeelyのEVブランドZeekrの「001 EV」にすでに搭載されており、今後2つの新モデルにも導入する計画だ。量産車におけるレベル2+ソリューションとしてもシェアを拡大しそうだ。

【参考】Mobileye SuperVisionについては「カメラのみ!Mobileyeの左ハンドル車、東京を自動運転」も参照。

レベル4ソリューション「Chauffeur」や「Drive」

モービルアイは、コンシューマー向けの車両をレベル4にするよう設計されたターンキー式自動運転システム「Mobileye Chauffeur」の開発も進めているようだ。

2025年までに6,000ドル(約85万円)未満のコストを目指し、LiDARのカバレッジを備えたサラウンドビジョンを実現するという。

また、モービルアイの本命とも言うべき自動運転システムが「Mobileye Drive」だ。公共交通やモノの輸送といったさまざまなサービスにおいてほぼすべての車両を自動化できるターンキー自動運転ソリューションとして開発を進めている。

カメラのみで構成する自動運転システムと、ミリ波レーダーやLiDARで構成する自動運転システムの両方を備えることで冗長性を高めているのが特徴だ。各センサーシステムが相互にバックアップとして機能することで、どちらか片方のシステムにエラーが発生しても自動運転を継続することができる。

センサーはカメラ13台、長距離LiDAR3台、短距離LiDAR6台、ミリ波レーダー6台、SoCはEyeQ5を8つ搭載するという。このMobileye Driveを搭載した自動運転車両による公道実証もデトロイトなどで始まっているようだ。

サービスの展開に向けパートナー企業も続々

自動運転サービス展開に向けては、アラブ首長国連邦を拠点とする複合企業Al Habtoor GroupやフランスのRATP(パリ交通公団)、日本のWILLER、米Udelvなどさまざまな企業や組織とパートナーシップを交わし、着々と世界展開の準備を進めている。

当初予定ではドイツで2022年中のサービスインを計画していたが、諸情勢により遅れている可能性がある。このほか、イスラエルやドバイ、日本などで2023年にサービスインする計画もそれぞれ発表されており、今後の動向に注目が集まるところだ。

また、Zeekrとレベル4を搭載したコンシューマー向け車両を共同開発し、2024年にも中国で発売する計画も明かしている。サービス用途のみならず、自家用車における自動運転ビジネスの動向にも要注目だ。

出典:Intelプレスリリース

【参考】Zeekrとの取り組みについては「自動運転で未知の領域!「市販車×レベル4」にMobileyeが乗り出す」も参照。

自動運転を支えるREM

モービルアイの自動運転を支えるマッピングテクノロジー「REM(Road Experience Management)」も注目に値する技術だ。車載カメラの映像をクラウドに収集・蓄積し、世界の隅々に至るスケーラブルなマップを作製・更新することを可能にする。

モービルアイ製品を搭載した何百万台ものADAS車両から画像データを収集することで、ほぼリアルタイムでマップを更新することができる。データは匿名化され、小さなデータパケットでクラウドに送信・収集される。

作製されたマップデータはAVマップ「Mobileye Roadbook」となり、グローバルなマップデータとして自動運転車やADASのローカリゼーションなどに活用される。

データベースは200ペタバイト超に

約25年間に及ぶ研究開発において蓄積してきた走行映像は、200ペタバイト超に及ぶという。この世界最大級のデータセットをベースに2,500人を超える専門のアノテーターチームが自動と手動を交えながらラベル付けを行い、コンピュータビジョンの強化を図っているという。

SoC「EyeQ」シリーズは累計出荷1億個超に

高度な自動運転には高性能なコンピュータによるデータ処理能力が問われるが、これを可能にするのがSoC「EyeQ」だ。2004年に同社初となるSoCを発表して以来、第2世代、第3世代とバージョンアップを重ね、2021年には累計出荷数1億個を突破したという。

ボルボ・カーズやBMW、GM、テスラ、アウディなどが過去に採用しており、国内では日産が2016年にEyeQ3、ホンダが2019年にEyeQ4をそれぞれ導入しているようだ。

現在主力となり始めたのは第5世代のEveQ5シリーズだが、2022年1月には自動運転専用に構築された「EyeQ Ultra」やADAS向けの次世代シリーズとなる「EyeQ6L」「EyeQ6H」を発表している。

EyeQ Ultraは176TOPS(毎秒176兆回)の演算能力を誇り、「EyeQ5」10個分の性能を発揮するという。2023年後半に試作品を生産し、2025年に車載グレードの生産を開始する予定としている。パフォーマンスはもちろん、消費電力やコストの低減効果も大きく、レベル4ソリューションの低価格化に大きく貢献するという。

ADAS向けのEyeQ6Lは、EyeQ4の55%のサイズで低消費電力を実現しつつ高いパフォーマンスを発揮するという。すでにサンプル出荷を始めており、2023年半ばまでに生産を開始する。EyeQ6Hは「EyeQ5」2個分の能力を備え、ADASをはじめレベル3相当の自動運転機能をサポート可能という。こちらは2022年中にサンプル出荷を開始し、2024年末までに生産開始する予定としている。

■【まとめ】既存事業の信頼性の上に自動運転への期待値が乗る

自動運転サービス関連が本格的に収益を上げ始めるのはまだ先の話だが、モービルアイはADASソリューションやSoCといった製品群が自動車業界で堅実にシェアを拡大しており、企業としてのベースが整っているのが大きな強みだ。

既存事業で堅実な成果を上げることで市場の信頼を得つつ、自動運転という未来に向けた期待も背負うことができる。自動運転をMaaSに組み込んでいく世界戦略の展開次第でパートナー企業も増加し、SoC事業などと相乗効果を発揮しながら大きな成長を遂げる可能性がありそうだ。

▼Mobileye公式サイト
https://www.mobileye.com/

【参考】関連記事としては「Mobileye(モービルアイ)と自動運転(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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