カメラのみ!Mobileyeの左ハンドル車、東京を自動運転

「Mobileye SuperVision」の実力とは?



自動運転技術を開発する米インテル傘下のイスラエル企業Mobileye(モービルアイ)はこのほど、自社の「Mobileye SuperVision」を活用し、左ハンドル車で東京都内を自動運転する動画を公開した。

Mobileye SuperVisionはカメラセンシングによるADAS(先進運転支援システム)技術で、ハンズオフでの自動運転を可能にする実力を備えており、映像を見る限りその完成度は非常に高い。


モービルアイのカメラセンシング技術はどれほどのレベルに達しているのか、動画とともに同社の取り組みに迫っていく。

■動画の概要
首都高から一般道までハンズオフ運転を継続

動画は「Unedited Autonomous Vehicle Ride in Tokyo with Mobileye SuperVision」というタイトルで、モービルアイのMobileye SuperVisionを使用した車両が東京都内を走行する車内からの様子を収めたものだ。一部倍速されており、3分19秒の長さにさまざまなシチュエーションをクリアする様子が凝縮されている。

映像は首都高速に乗るところからスタートする。左ハンドル車の運転席に座るドライバーが料金所でチケットを受け取り、ハンドルのボタンを押すと車両が走行を始める。以降、ドライバーは基本的にハンドルを触ることなく、ハンズオフ状態で運転している。


やや渋滞中の本線に合流すると、すぐに事故による車線規制が目前に迫り、車両は右レーンに進路を変える。その後も、トンネル内におけるローカリゼーションやトンネルから抜け出た際の防眩状況、合流地点などを次々とクリアしていく。

一般道に降りた後も、カメラによる信号機の識別や右折待ち車両の追い越し、道路上の作業員の認識、歩行者が多い横断歩道の通行、矢印タイプの信号機の判別など、都市における複雑な交通環境に円滑に対応していく。

映像では確認できないが、ドライバーはアクセル・ブレーキ操作も基本的に行っていないように見え、映像を見る限りドライバーは運転に介入していない。

エルサレムの街を走行する動画も

過去には、類似したシステムでエルサレムの街を走行する動画も公開している。別稿とともにぜひ参照してほしい。


【参考】エルサレムの走行動画については「Mobileyeの自動運転、未編集25分動画で空と車内からリアル体験!インテル傘下」も参照。

■Mobileye SuperVisionの概要
カメラ11台によるコンピュータビジョンで外部認識

Mobileye SuperVisionは、次世代ハンズオフADAS技術としてモービルアイが提供しているシステムだ。モービルアイの真骨頂であるカメラのみのセンシング技術によって、車両の周囲360度を高度に認識する。

現行型は、長距離カメラ7台、短距離カメラ4台の計11台のカメラが搭載されているようだ。主な機能としては、AEB(衝突被害軽減ブレーキ)やACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)、LKA(レーン・キーピング・アシスト・システム)といった基本的なADAS機能をはじめ、高速道路における車線変更を含むハンズオフ運転やオンデマンドのセルフパーキング機能、路上の危険な緊急事態を事前に回避する自動予防ステアリング・ブレーキ機能などを備えている。

OTAアップデートにも対応しており、都市部におけるハンズオフ運転など進化を続けていく。モービルアイが現在進行形で進めている研究開発の成果を提供するADASソリューションだ。

システムには2つのEyeQ5Hチップを使用しているほか、独自のマッピングテクノロジー「REM(Road Experience Management)」に基づくAVマップ「Mobileye Roadbook」や、安全性に関する数式モデル「RSS(責任感知型安全論/responsibility-sensitive safety)」なども活用している。

【参考】安全性に関する数式モデルについては「自動運転車の安全を「数学的」に証明!日本の研究チーム」も参照。

世界各地でMobileye SuperVisionによる走行実証を実施

モービルアイは2022年8月、Mobileye SuperVisionを活用した長距離実証の成果について発表した。スペインのバルセロナを出発し、フランス、モナコ、イタリア、オーストリア、そしてドイツに至る約2,000キロの行程を4日間かけて走行した。

実証では、コンピュータービジョンシステムだけでどれほど機能するかを示すため、大部分でマッピングシステムを活用しないマップレスモードで走行したという。

使用したハイブリッドセダンの開発車両は、エルサレム、テルアビブ、パリ、ミュンヘン、シュトゥットガルト、デトロイト、ニューヨーク、マイアミ、東京、上海でテストした車両と同じという。このほど公開された東京の走行動画も、おそらくこの実証の1つの過程であると思われる。

吉利グループがMobileye SuperVisionを採用
出典:Intelプレスリリース

Mobileye SuperVisionは、モービルアイとパートナーシップを結ぶ中国の自動車メーカー・吉利汽車(Geely)がEV(電気自動車)ブランドなどへの採用を広げているようだ。

Geelyは2020年9月に開催された北京モーターショーで高級車ブランドLynk & Coの新モデル「Zero Concept」を発表した。そのモデルは、Mobileye SuperVisionによる高度ADAS「CoPilot」が搭載されるとしている。

また、2022年7月には、2021年に設立されたGeelyのEVブランドZeekrのモデル「001 EV」にOTAアップデートを施し、最も高度なハイウェイアシスト機能を実装したと発表している。この「001 EV」は、どうやらLynk & Coの「Zero Concept」とほぼ同一の姉妹車のようだ。

余談だが、モービルアイとZeekrは2022年1月、レベル4を搭載したコンシューマー向けの車両を共同開発し、2024年にも中国で発売する計画を明かしている。

【参考】モービルアイとZeekrの取り組みについては「自動運転で未知の領域!「市販車×レベル4」にMobileyeが乗り出す」も参照。

トヨタやフォードもモービルアイの技術を活用

モービルアイは2020年7月、米フォードとの提携を強化し、製品ラインナップ全体において最先端ADASを提供していくと発表した。2021年5月には、トヨタの複数のプラットフォーム向けのADAS開発ベンダーに独自動車部品大手ZFとともに選ばれたことも発表されている。

トヨタがMobileye SuperVisionをそのまま活用するとは思えないが、モービルアイのカメラやコンピュータビジョンなど技術の一端を活用し、ADASの底上げを図ることは考えられる。ADAS開発ベンダーとしての取り組みにも注目だ。

■モービルアイの自動運転戦略
自動運転システムの本命は「MobileyeDrive」

ちなみに、モービルアイが開発を進める「レベル4」の自動運転システムは、Mobileye SuperVisionではなく「MobileyeDrive」だ。MobileyeDriveは、カメラによる認識システムとLiDAR・レーダーによる認識システムがそれぞれエンドツーエンドの自動運転機能を有する、言わば二重の自動運転システムで、非常に高度な冗長性を確保している点がポイントだ。

このうちの1つであるカメラのみによる認識システムは、Mobileye SuperVisionの延長線上に存在する。つまり、Mobileye SuperVisionを使用した世界各地での走行実証は、MobileyeDriveの広範囲における実用化に直結するのだ。

さらに、Mobileye SuperVisionをADASソリューションとして市販車への搭載を加速することで、世界各地の走行データを効率的に収集することができる。

Mobileye SuperVisionの進化と普及がモービルアイの自動運転技術を大きく底上げすることになりそうだ。

■【まとめ】モービルアイの世界戦略に大注目

カメラのみのセンシングでこれほど高度なADASを実現したモービルアイ。事実上自動運転と言って良さそうなクオリティだが、あくまでADASソリューションとして提供し、普及とさらなる進化を加速していく方針のようだ。

本命の自動運転も、2022年中にドイツで自動運転タクシーサービスを開始することを発表するなど、大きく加速している。先行する米国、中国勢を猛追するモービルアイの世界戦略に今後大注目だ。

▼Mobileye公式サイト
https://www.mobileye.com/

【参考】モービルアイの取り組みについては「Mobileye(モービルアイ)と自動運転(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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