JR各社のMaaS戦略(2022年最新版) バス・鉄道をどう活かす?

大動脈としての役割はMaaSにおいても健在



日本列島を縦断する鉄道網は、古くから公共交通の要として大きな役割を担ってきた。鉄道網や駅を基点に発展してきたまちも数多い。経済や人口の一極集中など時代の変化の影響を受けつつも、移動や輸送の大動脈という位置付けは今も変わらない。


人の移動においては、昨今MaaS(Mobility as a Service)の概念が浸透し、さまざまな交通サービスの統合・効率化を推し進める動きが加速している。移動の変革期を迎える中、鉄道にはどのような在り方が求められているのか。

この記事では、JR6社それぞれのMaaS分野における取り組みに迫る。

■JR東日本:MLP構想のもと、各地でMaaS実証に着手
出典:JR東日本発表のグループ経営ビジョン「変革 2027」

JR東日本は、2018年に発表した中期経営ビジョン「変革2027」の中で、検索・手配・決済の3つの機能をオールインワンで提供する「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム(MLP)」の構築を掲げ、列車の運行情報や混雑情報などを提供する「JR東日本アプリ」や、タクシーやシェアサイクルのシームレスな利用を目指す「Ringo Passアプリ」の開発など、さまざまな取り組みを進めている。

Ringo Passアプリは配車アプリ「S.RIDE」や「ドコモ・バイクシェア」などと連携するほか、お台場レインボーバスと神津島村営バスにも対応している。


【参考】JR東日本の取り組みについては「JR東日本が「Suica×モビリティ」事業 配車サービスも連携、巨額投資も」も参照。

エリア特化型のMaaSでは、伊豆における観光型MaaS「Izuko」を皮切りに、新潟エリア、群馬エリア、仙台・宮城エリアなど機能の充実を図りながら断続的に実証実験を行っている。

2019年4月にスタートしたIzukoの実証は、同年6月までのフェーズ1ではデジタルチケット対応が交通チケット2種、観光施設7種に限られていたが、同年12月からのフェーズ2では交通チケット8種、観光施設12種、観光体験・飲食9種と充実し、2020年11月からフェーズ3では交通チケット16種、観光施設21種、観光体験・飲食104種と飛躍的にサービスが拡充されている。その間、利用エリアの拡大や決済手段の拡充なども行われている。

【参考】Izukoについては「観光型MaaS「Izuko」、実証フェーズ3で機能・サービス大幅拡充」も参照。


仙台・宮城エリアの取り組みは東北6県に拡大し、地域・観光型MaaS「TOHOKU MaaS」として2022年度以降は期間を定めず継続的にサービスを提供している。

JR東日本は2020年9月に、JR西日本とMaaS関連で相互連携していくことに合意している。小田急電鉄や東急電鉄など、同業他社との連携も進んでいるようだ。

▼JR東日本のMaaS戦略について
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/content/001446444.pdf

■JR西日本:setowaやWESTERを展開
出典:setowa公式サイト

JR西日本は2019年に「MaaS推進部」を設置し、MaaSを重要なテーマとして捉えさまざまな取り組みを進めている。

その代表格は、観光型MaaSアプリ「setowa」と統合型MaaSアプリ「WESTER」だ。

Setowaは瀬戸内エリアの7県を対象とした広域MaaSで、鉄道をはじめ船舶やバス、タクシー、レンタカー、レンタサイクル、カーシェアリングなどの各交通機関が連携している。

自由周遊区間のJRや私鉄、バスなどが乗り放題になる周遊パスも岡山、広島、山口、岡山香川、四国の各エリアで商品化している。一部は観光施設の入館料などもセットになっており、チケットの有効期間も2~3日と観光にもってこいのサービス内容だ。

旅行前の準備・計画段階で観光スポットの検索やスケジュール作りを行う「旅マエ」や、旅行中に周辺の飲食店や観光スポットなどを調べる「旅ナカ」など、利用者目線でアプリを構築している点もポイントだ。

【参考】setowaについては「実証実験経て本格始動!JR西日本の観光型MaaS「setowa」」も参照。

一方のWESTERは移動生活ナビアプリという位置付けで、登録した区間の経路検索や現在地周辺の駅情報、直近の列車情報、クーポン検索など、さまざまな機能が搭載されているようだ。

WESTERを活用した京都サンガF.C.のグッズ抽選会やスタンプラリー、日本旅行やギックスとの「ならまち周遊デジタルスタンプラリー」などさまざまな実証が進められており、各機関や施設などの単純連携を超えた新たなサービス展開に期待が寄せられている。

2023年春には、JR西日本グループ共通のポイントサービスとして、鉄道や店舗・施設、ECサイト、ICOCAでの支払いなどで貯まる「WESTERポイント」も導入する予定だ。

JR西日本はこのほか、2025年に開催予定の大阪・関西万博に向け2019年に関西MaaS検討会を設立したほか、島根県邑南町と地方型MaaSの構築を進めるなど、さまざまな取り組みを行っている。

▼JR西日本が目指すMaaSのイメージについて
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/190920_00_maas.pdf

■JR東海:2023年夏に「EX-MaaS」を開始予定

JR東海は、JR西日本とともに東海道・山陽新幹線のネット予約&チケットレス乗車サービス「EXサービス(エクスプレス予約及びスマートEX)」を沿線各地区のMaaSと連携させる「EX-MaaS(仮称)」の開発を進めている。

EX-MaaSでは、新幹線とホテルや旅先の交通手段、観光プランなど、旅行全体をEXサービス会員限定サイトからシームレスに予約・決済できるようになるという。2023年夏をめどにサービスを開始する予定だ。

2020年9月にトヨタの「my route」や伊豆・静岡地区の「Izuko」、瀬戸内地区の「setowa」と相互リンクによる連携の試行を開始したほか、2021年秋には、沿線のホテルなど各種コンテンツを紹介するポータルサイト「EX 旅のコンテンツポータル」を開設した。

また、新しい旅行商品「EXダイナミックパッケージ(仮称)」も開発する。EXサービスから新幹線やホテル、観光プランなどを自由に組み合わせることができるパッケージで、予定に合わせてEXサービスで列車を変更し、チケットレスでスムーズに新幹線に乗車することができる。ネットで乗車直前まで新幹線の列車変更ができる旅行商品は国内初という。

長距離移動がベースとなる新幹線ならではのMaaS展開に期待だ。

▼EX旅のコンテンツポータル
https://jr-central.co.jp/ex/travel-portal/

■JR北海道:道南MaaSの実証に着手
出典:JR北海道公式サイト

JR北海道は2021年4月、北海道新幹線5周年キャンペーンの一環として観光型MaaS「道南MaaS」の実証実験を実施した。

新幹線が延線された道南地方におけるエリア周遊を促進するため、観光スポット情報の紹介や経路検索、周遊に便利なデジタルフリーパスの提供、スマートフォンの画面提示による乗降および特典サービスの提供などを行った。

MaaSプラットフォームには、JR東日本の「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」を活用したようだ。

2022年度は、鉄道オペレーションの変革の一環としてキャッシュレス化を推進する取り組みなどとともに「北海道MaaS」の実現を視野にデータプラットフォームの開発を検討することとしている。

今のところ地域の交通事業者と密接に連携したMaaS実証などは行われていないようだが、経営難が続くJR北海道では近年、路線廃止が相次いでおり、関連する自治体も廃止案を飲まざるを得ない状況となりつつある。

廃止された路線はバスなどの代替交通でまかなうことになるが、こうした公共交通再編にMaaSの概念を持ち寄り、持続可能な交通体系を構築する取り組みに期待したいところだ。

■JR四国:南予観光型MaaSなどを展開
出典:JR四国(※クリックorタップすると拡大できます)

JR四国は2022年度事業計画の中で、MaaSの考え方のもと各モビリティが特性を発揮し有機的に連携した利便性の高いモビリティの提供を目指し、モビリティ間の連携・交通結節機能の強化など、鉄道を利用しやすい環境づくりや利用促進に向けた取り組みを進め、「公共交通ネットワークの四国モデル」を追求するとしている。

MaaS関連では、2020年度から愛媛県南予地域の観光型MaaS「南予観光型MaaS」の実証に参画している。南予広域連携観光交流推進協議会やKDDI、全日空、伊予鉄バス、宇和島自動車、瀬戸内ブランドコーポレーション、愛媛県バス協会、石崎汽船とともに、広域版デジタルフリーパスのキャッシュレス決済などに取り組んでいる。

具体的には、エリア内の鉄道やバスが乗り放題となるデジタルフリーパスの商品化やNFCタグ・QRコードを活用したアプリ不要の取り組み、観光施設や農業、小売、保険、飲食などとの異業種連携による付加価値創出などに取り組んでいる。

また、2021年度には高松市スーパーシティ構想への協力として、高知県内の鉄道や空港連絡バス、路面電車、路線バス、周遊観光バスが利用可能な高知プレミアム交通Passの充実などを図っている。

このほか、四万十市における自動運転モビリティ導入に向けた実証への参画や、鉄路と道路をシームレスに走行可能な「DMV(デュアル・モード・ビークル)」の導入などを進めている。

▼南予地域における観光MaaSについて
https://www.mlit.go.jp/scpf/projects/docs/smartcityproject_mlit(3)%2053_nanyo_matsuyama.pdf

■JR九州:my route連携で各県内でMaaS提供
出典:トヨタプレスリリース

JR九州は、トヨタと西日本鉄道が取り組むマルチモーダルモビリティサービス「my route(マイルート)」に参画し、九州内各エリアで展開されているMaaSに貢献している。

【参考】my routeについては「引く手あまた!トヨタのMaaSアプリ「my route」、沖縄含め9県で展開」も参照。

九州内におけるMaaSは、2022年10月時点で宮崎、福岡・北九州、佐賀、由布院、長崎の5エリアで展開している。宮崎では、JRやバス乗り放題に加えショッピングチケットやクーポンを付けた特典付きチケットを商品化するなど、周辺施設との連携も進んでいるようだ。

佐賀では、MaaS推進プロジェクト「SAGA Mobility LABO(さがモビリティラボ)」が2021年12月にmy routeを導入し、デジタルチケットやフリーパスの商品化、温泉地を巡るラッピングバス「SaGa風呂バス」の運行などさまざまな企画が進められているようだ。

JR九州はmy route参画に際し、西日本鉄道と輸送サービスにおける連携に関する覚書を2019年に締結したほか、2022年3月には九州産交バスとTaKuRooとも同様の覚書を交わしている。九州産交バスとTaKuRooとの取り組みでは、my routeを介した取り組みのほか、AIオンデマンド型交通サービスと路線バス・鉄道・タクシーが連携した新しい地域交通サービスの導入などにも取り組んでいくという。

MaaSをきっかけに同一エリアの交通事業者の連携が加速する好例と言えそうだ。

▼JR北九州のMaaSサイト
https://www.jrkyushu.co.jp/maas/jrs_maas/

■【まとめ】鉄道各社の役割はますます大きなものに

MaaSを主導するJR東日本やJR西日本をはじめ、プラットフォーマー主導のもと積極的に連携を図っていくJR九州、エリアの交通事業者が一体となって取り組むJR四国など、さまざまな形でMaaS構築に関与し、それぞれが大動脈としての役割を担っているイメージだ。

各エリアのMaaSは、鉄道やバスといった路線型の移動手段を軸に構築される。鉄道駅が交通ハブとなるエリアも多く、鉄道各社がMaaSで担うべき役割は今後ますます大きなものとなりそうだ。

【参考】関連記事としては「MaaS解説(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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