【2022年8月の自動運転ラボ10大ニュース】日本初の空飛ぶタクシー向けの駅が判明?

EUにレベル4を見据えた動き



国内では、2022年3月期に続き2023年第1四半期も巨額の赤字を計上したソフトバンクグループの投資事業が話題となっている。一方、大阪で進められている空飛ぶクルマ事業やトヨタのWoven Cityなどもトピック化されている。


海外では、EUに動きが出始めそうなほか、イスラエルのInnoviz Technologiesが大型契約を発表するなど、変わらず自動運転業界は活況なようだ。

2022年8月の10大ニュースを1つずつ振り返っていこう。

■米Cruise、自動運転事業に1日7億円超!妥当な先行投資?(2022年8月2日付)

米メディアによると、Cruiseが2022年第2四半期(2022年4〜6月)に消費した金額は5億ドル(約670億円)に上るという。1日あたり約7億4,000万円の計算だ。

Cruiseは現在カリフォルニア州でサービス実証を行っており、8月1日までにサンフランシスコで25万回を超える無人運転や数千回に及ぶ無人乗車を実施したという。下半期には、次のステップとして営業時間やサービス提供エリアを増強し、自動運転タクシーとして使用している「Bolt AV」のフリートを拡大するほか、「Cruise Origin」の試験も予定している。


カリフォルニアでの取り組みが中心となっているが、日本やドバイなど近い将来サービスを導入する予定のエリアに関する事業や、さらなる自動運転開発なども並行して進めているものと思われる。

こうした自動運転開発全般に対する先行投資費用が1日あたり約7億4,000万円と考えると……決して安いとは言えないが、その妥当性は将来ビジネス化が本格化した際に確かめることができる。自動運転分野では、こうした未来に向けた投資が盛んに行われているのである。

■自動運転車の取り扱い「女性の方が上手」 英大学調査(2022年8月3日付)

英ニューカッスル大学の調査によると、レベル3などにおけるテイクオーバーリクエストへの反応は男性より女性の方が早いという結果が示された。

調査では自動運転車のシミュレーターを使い、運転をシステムから引き継ぐようアラートを出した際の応答時間を計測した。平均反応時間は女性2.45秒に対し、男性は2.63秒だった。また、引き継ぎ後のハンドルの安定性においても女性の方が高い結果となったようだ。

自動運転システムとドライバーによる運転が混在するレベル3では、こうした反応時間は思いのほか重要だ。また、遠隔監視・操作のレベル3やレベル4においても、オペレーターの迅速な対応・判断が求められるケースは多い。こうしたオペレーター職も、もしかしたら女性の方が適役かもしれない。

今後、年齢別やセカンダリアクティビティ別の反応時間に関する調査なども行われる可能性も考えられる。徐々に市民権を拡大させ始めているレベル3の動向として、こうした調査にも気を配りたいところだ。

■空飛ぶタクシー、「日本最初の駅」は大阪港など3駅濃厚(2022年8月5日付)

国家戦略特区諮問会議における審議を経てスーパーシティに採択された大阪府大阪市。データ連携や先端的サービスに向けた内閣府による採択事業から、2025年大阪・関西万博で実現予定の空飛ぶクルマ事業の概要の一部が明らかになった。

大阪府・大阪市は、スーパーシティの区域指定を契機に空飛ぶクルマの社会実装に向けた取り組みを加速し、大阪ベイエリアにおける離発着ポートや飛行経路の実現性を検証することとしている。

この中で万博会場周辺のエアタクシーの航路イメージを示しており、「桜島」(USJ)、「大阪港」(海遊館)、「夢洲」(万博会場)の3駅が設定されていることがわかった。

あくまで現時点における候補地だが、これらの離発着ポート周辺の風況や地盤などの調査を行い、その実現性を検証していく構えだ。

離発着ポートの設置は2023~2024年度を想定しており、合わせてインフラ開発や整備、デモフライトなども実施していく。

具体化が進む空飛ぶクルマ事業の今後の動向に注目だ。

■EUで法案提出へ!レベル4自動運転車の販売認可か(2022年8月6日付)

米メディアによると、EUが自動運転車に関する新たな規制を設ける方向で動いているようだ。先進的な自動運転技術を搭載したモデルに対し、加盟国は毎年最大1,500台の自動車の登録と販売を個別に承認できるようにする内容で、安全を担保する技術的な規制も改訂するようだ。

EUは現在、レベル3車両の販売に関する枠組みを策定しているようで、間を置かずレベル4車両についても販売ルールを明確にし、市場化・実用化を推進していく構えのようだ。

実際にどのような案が出されているのか不明のため詳細は分からないが、提案は2022年9月末までに行われる予定という。続報を待ちたい。

■InnovizのLiDAR、VWの全自動運転車に搭載へ!40億ドルの先行受注(2022年8月8日付)

フォルクスワーゲングループのソフトウェア開発子会社CARIADが、自動運転車セグメント向けのLiDARサプライヤーとしてInnoviz Technologiesを選んだ。先行受注額40億ドル(約5,330億円)、総受注額66億ドル(約8,800億円)に上る巨額契約だ。

CARIADはフォルクスワーゲングループにおけるソフトウェア統括企業であり、自動運転やADAS開発なども手掛けている。今回の契約は、自動運転車のみならず高度なADAS車両も含む相当な規模となっている。

Luminar Technologies同様、費用対効果の高いLiDAR開発企業が続々と躍進を遂げており、今後も自動車メーカーやティア1などとのビッグビジネスがトピックに上がる可能性が高そうだ。

なお、Innoviz Technologiesはこれまでに大林組や日本郵便など日本企業との取引も成立させている。大林組は自動タワークレーンシステムに活用し、日本郵便は郵便配達車に取り付けデジタルマップを作成するという。

利用可能な用途も今後どんどん拡大していく見込みで、新たな販路や技術を求めLiDAR開発競争はまだまだ続きそうだ。

■孫氏「7兆円がほぼゼロに」 ビジョンファンド累計利益(2022年8月8日付)

ソフトバンクグループが2023年3月期第1四半期決算を発表した。世界的株安などを背景に、四半期としては世界最大の3兆1,627億円の赤字を計上した。

孫正義会長が「7兆円あったビジョンファンドの利益はほぼゼロになった」と語った通り、近年同グループをけん引してきた投資事業は振り出しに戻った感が強いが、こうした投資事業は新興企業の成長を促進する観点からも意義深いものだ。

特に、自動運転分野のように日進月歩で技術が進化していく分野では必要不可欠な存在と言える。市場では大きな波が続いており予断を許さないが、追い風となるビッグウェーブが到来する可能性もある。荒波を乗り越え、再び躍進することに期待を寄せたい。

自動運転レベル3「高級車が先行」 市場調査会社が予測(2022年8月10日付)

富士キメラ総研が最新の調査レポート「2022 自動運転・AIカー市場の将来展望」を発表した。レベル3やレベル4の展望などに触れる内容だ。

高価なセンサーを多数搭載するレベル3は、コストパフォーマンスの観点からまず高級車から採用が進み、大衆車への普及など本格的な市場化は2025年以降になると予測している。

一方、レベル4は自動運転タクシーやバスといったMaaS車両が先行してすでに市場が立ち上がっており、米国・中国でレベル4サービスが顕著に拡大しているとしている。オーナーカーにおけるレベル4は一部で動きがあるものの、市場が形成されるのは2030年以降になると予測している。

レポートではこのほか、AI(人工知能)に関する動向や自動運転に必要な電装機器やデバイス、ソフトウェアの動向、E/Eアーキテクチャーの進化や法律整備、インフラ整備などにも触れているようだ。

本格的な拡大期を迎えつつある自動運転市場が、今後短期間でどのように成長していくのか、要注目だ。

■トヨタWoven City、「バーチャル版」も作成へ(2022年8月17日付)

オウンドメディア「トヨタイムズ」の中で、Woven Cityの方向性をウーブン・プラネット・ホールディングスのジェームス・カフナーCEOが語っている。開発中のポータブル水素カートリッジやまちのバーチャル・バージョンの作製など、新しい試みが目白押しのようだ。

現在Woven Cityで進められているのはフェーズ1の建築工事で、早ければ2024年にオープンする。その後のフェーズ2は設計中で、並行してデジタルツイン技術を活用した街全体のバーチャル・バージョンの導入も検討しているという。

バーチャルによるシミュレーション環境の構築は、数々の実証を進めるWoven Cityと相性が良いものと思われる。将来、メタバースも導入され、仮想空間でさまざまな最新技術の検証やサービス開発が進められる可能性なども考えられそうだ。

リアル環境とバーチャル環境の併用・融合も、未来の都市を象徴する取り組みになるのかもしれない。

【参考】詳しくは「トヨタWoven City、「バーチャル版」も作成へ」を参照。

■超有望タッグ!英Arm、自動運転でGM傘下Cruiseと提携(2022年8月19日付)

半導体設計を手掛ける英Armのオートモーティブ部門の幹部がこのほど、米Cruiseとの取り組みについて発表した。両社は数年前から協業関係にあり、自動運転開発を加速しているようだ。

ArmのCPUを活用したセンサー処理ソリューションの開発に始まり、コンピューティングシステムの効率とパフォーマンスの両立を図りながら、Cruiseの自動運転プラットフォームのスケールアウトをサポートするため幅広く開発を進めているようだ。

インテルやNVIDIAなど自動運転分野で活躍する半導体企業は多いが、設計に特化したArmは言わば縁の下の力持ちで、大きく表に出てくることは少ない。しかし業界における存在感は高く、あらゆる場面で開発を支えているのだ。

親会社のソフトバンクグループはCruise株を売却したが、ArmとCruiseの関係は今後も続きそうだ。

Appleの自動運転技術、中国人による盗難が確定(2022年8月24日付)

米アップルの元エンジニアが、企業秘密を盗んだ疑いで逮捕された。エンジニアは2018年、中国EVメーカーXpengの自動運転開発子会社X motors.aiに転職し、中国に出発する直前に自動運転向けの回路基板関連のデータをダウンロードしていた。空港で身柄を拘束され、当初は無罪を主張していたが、このほど司法取引に応じて罪を認めたという。

アップルではこのほかにも、同様の容疑で別のエンジニアが係争中のようだ。人材引き抜き合戦はWaymoテスラなど米国企業間で依然活発だが、中国をはじめ多国籍なエンジニアが集まっていることから、今後国際的な引き抜き合戦もさらに激化しそうだ。

同時に、こうした案件が増加することも間違いない。サイバーセキュリティが肝要な自動運転業界だが、社内部のセキュリティ強化も図らなければならないほど技術や情報の価値が高騰しているようだ。

【参考】詳しくは「Appleの自動運転技術、中国人による盗難が確定」を参照。

■【まとめ】EUの動向に要注目

自動運転に関するEUの動きは広く波及する可能性が高く、続報待ちとなるが今後の動向に要注目だ。

国内では、Woven Cityや大阪の空飛ぶクルマ事業などのプロジェクトが着々と進められており、概要とともに徐々に詳細な点が明らかになり始めている。突如ビッグニュースが飛び出す可能性もあり、こちらも期待を込めつつ注目し続けたいところだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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