自動運転×デジタルツイン(2023年最新版)

トヨタからWaymoまで、各社の取り組みまとめ



出典:MORAIプレスリリース

近年、IoT技術の進化によってさまざまな分野でデジタルツインへの注目が高まっている。自動運転分野も例外ではなく、むしろ親和性が高いため研究開発にデジタルツインを活用する場面が増えているようだ。

この記事では、デジタルツインの概要とともに自動運転分野における取り組みについて解説していく。


■デジタルツインとは?

デジタルツインは、IoT技術などをもとに現実の物理空間のさまざまな環境をデジタルで仮想的に再現する技術を指す。コンピューター上に双子(=ツイン)を作り出す技術だ。

例えば、LiDARやカメラなどのセンサーを用いて都市空間をデータ化し、コンピューター上に精密な3Dマップを製作する。現実の都市を可能な限り再現した仮想都市を構築することで、現実では実施しにくい調査や研究、あるいは手間やコストがかかる実証などをコンピューター上で代替的に行い、その結果を現実にフィードバックしたり、リアルタイムでリンクさせたりできる。

マップだけでなく、道路上を走行する車両や歩行者、周辺の建物、そこで使用される電力量、天候――など、さまざまなデータを付加することでより多くの実証などを行うことが可能になる。

また、設計や製造環境をコンピューター上に再現することで、生産工程の手間や時間を短縮することもできる。バーチャルエンジニアリングの考え方だ。設計から製造に至る工程をリアルに再現することで、すり合わせや微調整、性能評価などもコンピューター上で行うことができるのだ。


仮想空間のため物理的に「モノ」を製造することはできないが、コンピューターで得た結果をもとに直ちに生産段階に移行することが可能になる。自動車製造の現場では、欧州などを中心にこのバーチャルエンジニアリングがすでに導入されている。

■自動運転分野におけるデジタルツインの活用

自動運転開発は、カメラなどのセンサーが取得したデータをフル活用した地道な反復作業が延々と続く。周囲の車両や歩行者、障害物などを正確に検知・判別するためには、あらゆる走行環境でデータを収集・分析し続け、正確性を99.9%、99.91%、99.92%……と高め続けていかなければならない。実用化後も続けるべき終わりのない作業だ。

こうした作業において、試験車両を逐一公道で走行させてデータ収集するのは時間もコストも手間もかかるが、ここでデジタルツインが大活躍する。

公道走行に加え、仮想空間に再現した都市内で仮想の自動運転車を走行させることで、コンピューター上でデータを効果的に収集し、分析することができるのだ。いわゆる自動運転シミュレーターだ。


自動運転車を走行させる予定のエリアのHDマップを緻密に再現し、車載センサーの能力なども正確に反映させることで、現実の世界を走行させる場合と同様の成果を得ることができる。こうしたシミュレーション技術は、自動運転開発で先行する米Waymoをはじめ開発各社が活用している。

車載センサーを主体とした自動運転システムのみならず、インフラ協調システムなどさまざまな技術開発に応用可能なほか、仮想空間上でさまざまなモビリティのデータ連携・分析などを行うことで、MaaSなどにも役立てることができる。

どれだけ正確に再現できるかがカギとなるが、現実世界の環境を緻密にデジタルコピーしたデジタルツインの活用は、今後さまざまな分野に拡大していくことになりそうだ。

【参考】Waymoの取り組みについては「たった1年で月3往復分!ウェイモの自動運転実験車の実証実績」も参照。

■各社の取り組み
デンソーはMaaS実現にデジタルツインを活用

デンソーは、MaaSを実現するコネクテッド技術の要素技術の中で、多様な車両情報を一元管理、共有するためのクラウド技術として「デジタルツイン」を掲げている。

同社はIoT技術で乗用車やバス、トラックなど多様なモビリティをクラウドで1つにつなげ、仮想のデジタル都市空間で現実の交通社会を再現する技術を開発している。この仮想のデジタル都市空間上で行うシミュレーション結果をもとに、さまざまな情報やサービスをモビリティにフィードバックし、安全で便利な移動手段を構築する方針だ。

実社会のモビリティとネットワークを活用したサービスをマッチングさせる技術としては、モビリティの状態を高精度にデジタル化してクラウド連携し、リアルタイムのデータ収集やデバイス制御を可能とする「Mobility IoT Core」や、そこから収集されたデータを使って実社会をデジタル空間に写像する「Digital Twin(デジタルツイン)」を挙げている。

Mobility IoT Coreが搭載されたモビリティの情報は、高精度なデータ収集機能と信頼性の高いデータ通信機能によってリアルタイムにクラウドに伝達される。クラウドはゲートウェイ技術で数百万台の同時接続が可能となり、各データはデジタルツインという時空間データベースに蓄積される。

デジタルツインはデジタル空間上に実空間をリアルタイムに写像したもので、時間や場所、車両、デバイスなどを指定することでアクセスが可能になる。各種モビリティサービスは、これらの技術を通じてデータを解析したりモビリティを制御したりすることができ、モビリティとサービスのマッチングが容易になることで開発期間やコストを大幅に削減できるという。

トヨタはスマートシティ開発にデジタルツイン技術を活用

トヨタは、NTTなどと開発を進める「スマートシティプラットフォーム」の中でデジタルツイン技術を活用している。

スマートシティプラットフォームは、スマートシティ実現のためのコア基盤となるもので、データマネジメントと情報流通、これらに基づくデジタルツインとその周辺機能により構成される。デジタルツインは特にまちづくりシミュレーションに活用されるようだ。

このプラットフォームをNTTと共同で構築してWoven Cityなどに実装し、その後他都市展開を図っていく構えだ。

取り扱う情報の中には、当然自動運転をはじめとしたモビリティも含まれることになる。プラットフォームに精密に設計された仮想都市は、実証都市をうたうWoven Cityの取り組みをいっそう加速させる基盤となりそうだ。

【参考】トヨタとNTTの取り組みについては「トヨタ自動車とNTT、スマートシティで協業 Woven Cityの取り組みを世界へ」も参照。

韓国MORAIは自動運転シミュレーションプラットフォームを開発

自動運転シミュレーションプラットフォームの開発を進める韓国スタートアップのMORAIは、高精度地図データをデジタルツインに自動変換し、精密な仮想シミュレーション環境を構築する技術を有している。

HDマップベースの3Dシミュレーション環境を使用し、さまざまな仮想テストシナリオをユーザーに提供可能なシミュレーターソリューション「MORAI SIM」を製品化しており、正解最大の技術見本市「CES 2022」では、クラウドを使用してハードウェアの制限なしに無数のシミュレーション環境を構築し、同時テストを可能にする「MORAI SIM Cloud」を発表している。

すでに世界の20都市以上を再現しており、2022年2月に発表した資金調達シリーズBラウンドでは、ヒュンダイなどから総額2,080万ドル(約24億円)の出資を受けている。

日産の「Invisible-to-Visible」も

日産が開発を進める、見えないものを可視化する技術「Invisible-to-Visible」もデジタルツインを応用したものと言える。

Invisible-to-Visibleは、リアル(現実)とバーチャル(仮想)を融合した3Dインターフェースを通じてドライバーに見えないものを可視化する技術だ。建物の裏側や濃霧など、現実世界では見ることができない状況において、クラウド上の仮想世界にあらかじめ再現したHDマップや車内外のセンサーが収集したデータをフィードバックし、現実の状況を可視化し、ドライバーの運転や自動運転などに役立てる技術だ。

【参考】日産の取り組みについては「日産、”ビルを透明化する”将来技術発表 自動運転車に搭載へ」も参照。

SIPでは仮想空間における検証プラットフォーム構築

SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)第2期では、現実の環境における実験評価と代替可能な実現象と一致性の高いシミュレーションモデルを特徴とする、仮想空間における検証プラットフォーム「DIVP(Driving Intelligence Validation Platform)」を構築するなど、デジタルツインを活用した取り組みが行われている。

一般的なシミュレーションは機能センサーモデルに基づいており、電磁波の空間伝播の検証結果を反映しないなどセンサーの弱点をモデルに反映させることは困難だが、DIVPでは電磁波やカメラ用可視光、レーダー用ミリ波、近赤外光の反射特性と透過特性に基づいたレイトレーシングシステムの空間伝搬モデルを開発するなど、実際の現象に基づいた一貫性の高いセンサーモデルの構築を進めている。

■【まとめ】デジタルツインは将来スタンダードな存在に?

「デジタルツイン」という表現が使用されていないものも含め、自動運転関連の開発領域ではすでにさまざまな場面でデジタルツインが活用されている。再現性にばらつきはあるが、自動運転の要素技術となる高精度3次元地図もデジタルツインの考え方と同義で、開発面だけでなく実用化面でも活用される技術と言える。

スマートシティやMaaSなども、都市空間のデジタルツインを活用することで各種データの効果的な利用を促進することが可能になる。

自動運転関連分野でデジタルツインが活用される場面は今後ますます増加し、スタンダード化していく可能性も十分考えられそうだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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