ライドシェア、”小泉新首相”誕生なら「全面解禁」確実か 自動運転タクシーにも追い風

近付く総裁選、国民に人気の石破氏なら?



出典:首相官邸

2024年9月下旬──。任期満了に伴う自民党総裁選が近づいてきた。内閣総理大臣として在職日数1,000日を超えた岸田文雄首相はまだまだ意欲を示すのか、対抗馬は誰なのか……と日に日に噂話の熱が高まってきている。

派閥解散の影響で混とんとした様相を呈しているが、支持率低迷にあえぐ自民党としては、「新しい顔」の台頭に期待を寄せる人も多いのではないだろうか。


そうした顔の1人として期待されるのが小泉進次郎議員だ。地方の自民党組織からも推す声が上がっており、その動向に注目が集まる。あくまで仮の話だが、小泉氏が総裁選を勝ち抜き首相に任命されれば、モビリティ業界にとっては追い風となるかもしれない。

国が抱える諸問題と比べればライドシェア議論は非常に小さな存在だが、それ故舵取り役のリーダーシップ次第でその是非を大きく変えることができる。総裁選を経て日本のライドシェア議論は変わるのか、変わらないのか。その行方に迫る。

【参考】ライドシェア推進派については「ライドシェア推進派の政治家一覧(2024年最新版)」も参照。

■初期の自動運転施策に貢献

1981年生まれの小泉氏は、父・小泉純一郎元首相の後継として2009年に神奈川11区から出馬し、衆議院議員に。現在5期目で、これまで自民党青年局長や環境大臣兼内閣府特命担当大臣、衆議院安全保障委員会委員長などを歴任してきた。若手の顔役であり、情報発信力も強く依然として高い人気を誇る。


これまでの役職から気候変動やプラスチック汚染対策など環境関連の取り組みが目立ち、モビリティ関連ではゼロカーボン・ドライブキャンペーンなどEV(電気自動車)関連の絡みが多い印象だ。

イノベーションへの関心も高いものと思われ、2015年には、内閣府政務官(当時)として実現に向け取り組んでいる「近未来技術実証特区」の関連で日産自動車本社を訪れ、自動運転車の視察を行っている。

特区では自動運転導入を加速するための検討も行っており、そのための視察という。初めて自動運転車に試乗した小泉氏は「予想以上にスムーズにドライブを楽しむことができ、その高い技術力に驚いた」と語り、研究開発を進める国内外の企業や研究者が、他国ではできないレベルの実証が日本では可能と思ってもらえるような環境整備を検討していきたいとしている。


同年、「完全自動走行に向けた国家戦略特区プロジェクト」が始動し、デモンストレーションを含む発表が横浜スタジアムで行われた。発表にあたった小泉氏によると、「日本再興戦略」改訂2015において「完全自動走行を見据えた環境整備の推進」が閣議決定され、具体的な実証プロジェクトとして「藤沢市など湘南エリアを想定したロボットタクシー移送」「災害危険区域(仙台市荒浜地区)での道路や小学校校庭内におけるレベル4実証「名古屋市での3Dセンサーなどを用いた高度な実証」を計画していることも発表された。

2015年には「官民ITS構想・ロードマップ2015」も策定され、国の自動運転事業が大きく加速し始めた時期だ。自動運転施策そのものが小泉氏の手柄と言うわけではないだろうが、政府の旗振り役として貢献してきたことは紛れもない事実だ。

■現状のタクシー供給を問題視

ライドシェアに関しては、2023年8月以降に自らの考えを表明することが増加している。同月、菅義偉前首相が地方講演においてライドシェア解禁に向けた議論の必要性に言及したことを発端にライドシェア解禁論が急浮上した。

これを受け、小泉氏は8月25日のSNSで「最近ライドシェア議論が盛り上がりつつある。タクシー不足の現状を考えれば当然で、今日の横浜での講演でもこの話題に触れた。私の地元選挙区の三浦市では夜7時以降タクシーはない」とタクシー不足に言及した。

ドライバー不足の状況とともにタクシー営業に必要となる地理試験の是非にも言及し、「アプリやナビで充分。一日も早く地理試験を廃止したい。ライドシェアの議論と同時に、タクシーの供給量を今すぐ増やす即効薬の一つはこれ」と改革に意欲を示した。

また、8月27日の投稿では横須賀市のタクシー不足に言及し、「米軍の空母が横須賀にある時はタクシーが不足する。各社さまざまな事情はあると思うが、米軍の需要が多い時期だけでもライドシェアを解禁したらどうか」と提案している。

さらに、「インバウンドの増加、観光地でのタクシー不足などをきっかけにライドシェアの関心が高まっているが、ライドシェアに対する否定的な意見の中に『ライドシェアは事業主体が運行に責任を負わず安全が担保されない』というものがあるが、ライドシェア解禁という前提の議論の中で制度設計をすれば良いのではないか」とし、「タクシーもライドシェアも選べる社会にしたい。タクシー業界の規制緩和と、安全な制度設計のもとでライドシェアを導入することが今の時代の課題解決に繋がるのでないか」としている。

■超党派ライドシェア勉強会を立ち上げ

出典:小泉進次郎Official site

同年11月には、発起人の1人として超党派ライドシェア勉強会の活動も開始した。会員限定となる議連形式ではなく、ライドシェアに反対・慎重の立場の議員も含めすべての議員が参加できるオープンな場にするため勉強会の形にしたという。小泉氏が会長を務めている。

第1回の勉強会では、ライドシェアの法整備を求める「活力ある地方を創る首長の会」から提言を受け取り、全国の自治体の首長らと意見交換を行った。

タクシーもライドシェアも両方必要だという思いは共通しており、新たな交通手段を地域で導入する際に地域の利害関係者で構成される議論の場(地域公共交通会議)の改革を求める声があったことも1つのポイントとしている。

12月には、斉藤鉄夫国土交通大臣と、河野太郎デジタル行財政改革大臣に申し入れを行った。タクシードライバーの増加や賃上げ支援に向け、二種免許、地理試験、研修などの制度を抜本的に見直すことや、地域の首長のリーダーシップの下、タクシー会社も含め一定の要件を満たす事業者による自家用車と一般ドライバーを活用した新たなライドシェア制度を創設(道路運送法第78条3号)すること、ドライバーは雇用契約だけではなく業務委託など多様な働き方を認めること、ダイナミックプライシングの導入を認めること、自家用有償旅客輸送をスピーディに行えるよう制度を見直すこと、新たなライドシェア実現のため、新たな検討組織・会議体を政府に設け制度設計に向けた議論などを強力かつ速やかに推進すること――とする内容だ。

▼地域の足の課題を乗り越えるための政策提言
https://shinjiro.info/shinjiro_koizumi/wp-content/uploads/2023/12/f09b7484ed1e2d4c07ade7bfdb8d6345.pdf

2024年5月には、岸田首相へ申し入れを行った。岸田首相は先だって期限を設けず継続議論を進める方針を打ち出しており、これに対し「ライドシェアの法整備に向けた検討を年末に結論を出すこと」を目指すよう進言した。小泉氏は「期限を設けないのはやらないのと同じ」と強気の姿勢で、首相にくぎを刺した格好だ。

なお、提言では、自家用車活用事業の全国導入を早急に進めることや必要な制度の見直しを行うこと、日本にふさわしい「ライドシェア」の在り方について幅広い観点から議論を行い、年末にも結論を出すことを目指し法律改正または新法制定に向けた具体的検討を同時並行して行うこと――などを求めている。

■小泉内閣ではCASE領域が大きく進展?

小泉氏がライドシェア推進論者であることは間違いない。もちろん、無制限・無条件のライドシェア解禁ではなく、タクシーと共存可能で、一定の条件・規制を付したライドシェアを想定しているものと思われる。

小泉氏はライドシェアや自動運転といった交通イノベーションに恐れず立ち向かっていくものと思われる。同氏が首相に任命されれば、EV化を含むCASE分野の取り組みが大きく動き出す可能性が高そうだ。

■地元神奈川では小泉氏を推す声も

首相候補となり得るベテラン勢と比べれば小泉氏の実績・経験はまだまだ足りない感が強いが、父親譲りのカリスマ性とリーダーシップに期待を寄せる声は少なくない。

2024年7月には、自民党の神奈川県選出の国会議員と横浜市連のトップが次の首相に小泉氏を推す意向があることを公言している。岸田首相は政治と金の問題の責任を取って交代し、「党改革を遂行できるリーダーシップを持った人」が後任に望ましいとの考えのもと、小泉氏の名前を挙げたという。

仮に小泉氏が総裁選に出馬した場合、国会議員票は未知数だが、党員・党友票のシェアは大きく伸びることが予想される。当面は人気先行状態となりそうで、一刻を担う手腕としては不安をぬぐい切れないかもしれないが、小泉氏であれば優秀なブレーンが集まりやすいはずだ。何より、旧態依然とした体制を一新する象徴となれば、支持率低迷にあえぐ自民党の救世主となる。

小泉氏が実際問題出馬できるかどうか、本人にその意欲があるかどうかはさておき、少なからずモビリティ領域と自民党内にイノベーションをもたらすことができる人材としては適材ではないだろうか。

■石破氏や河野氏、茂木氏などは……?

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総裁選候補には、石破茂氏、河野太郎氏、茂木敏充氏、加藤勝信氏、高市早苗氏、上川陽子氏など、キリがないほどさまざまな名前が挙げられている。菅氏の返り咲きを期待する声も聞こえる。

フィクサー・キングメーカーと化した麻生太郎氏と菅氏が誰を推すかで絞られてくると思われるが、恐らく石破氏と河野氏は意欲を持っているのではないだろうか。岸田首相が出ないのであれば、茂木氏や林芳正氏などが浮上してくるのかもしれない。

有力候補の石破氏はライドシェアについて特に態度を明らかにしていない。一方、河野氏は本質的にイケイケの改革派で、この手に関しては小泉氏以上に積極的と言える。茂木氏もライドシェア解禁に意欲を示している1人だ。

【参考】茂木氏の発言については「ライドシェアで自民党分裂!タクシー会社限定に幹事長「おかしい」」も参照。

■【まとめ】まずは政治にイノベーションを……?

実際問題、支持率低迷を防ぐことができない岸田首相に対しては、党内からも公然と交代を求める声が上がっている。麻生氏がゴーサインを出さなければ、交代を前提とした総裁選となるだろう。

その後の総選挙も見据えるならば、「新しさ」「刷新」を想起させる総裁でなければならない。政治にイノベーションを求める声は非常に大きく、既得権益と向き合い、真っ向からぶつかることができるリーダーだ。

そうしたリーダーであれば、ライドシェアや自動運転をはじめとしたモビリティ領域においても納得の判断が得られるかもしれない。全面解禁ありきである必要もない。重要なのは、先々を見越した上での移動課題の解決だ。

まもなく候補者の選抜が進む時期を迎える。どのような顔が出揃うのか、要注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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