ライドシェア、政権交代でも「全面解禁」見送り濃厚 立憲民主党も反対姿勢

議論はどのような行く末を辿る?



自民党の岸田文雄首相(左)と立憲民主党の泉健太代表(右)=出典:衆議院議員岸田文雄公式サイト/wikipedia commons CC BY-SA 4.0 (File:Kenta Izumi 2022-6-26 (cropped).jpg)
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Kenta_Izumi_2022-6-26_(cropped).jpg

本格版ライドシェア解禁をめぐる結論が先延ばし状態となっている。岸田文雄首相は現時点で期限を設けず議論を進めるよう指示しており、仮にゴーサインが出ても、法案が審議されるのは2025年の次期国会となる。

これまで議論を推進・主導してきた岸田首相や規制改革担当大臣を務める河野太郎氏らがここにきて慎重寄りの姿勢を見せており、結論に至るまでの道のりは長期戦の様相を呈してきた。


2024年9月には自民党総裁選が行われる予定で、その後も2025年10月に衆議院議員の任期が満了するため、それまでの間に総選挙が行われることになる。

議論の主導者はもとより、場合によっては国のかじ取りが代わる可能性もある。政権交代により流れが変わることはままあるが、ライドシェア議論はどのような行く末を辿るのか。

タラレバ論ではあるが、政権交代した場合の議論の行方に迫ってみよう。

■政権交代とライドシェア

総選挙ではライドシェアが対立軸に?

自民党総裁選においてライドシェアが議論対象に上がることはないだろうが、総選挙においてはモビリティ施策の一つとして言及される可能性が高い。結論が長引けば、次期総選挙で各党がライドシェアに対する姿勢・方針を固めることになる。


現在、党としてライドシェアに対する姿勢を明確にしているのは反対派筆頭の共産党くらいだ。与党の自民党をはじめ、立憲民主党などは党内で意見が分かれており、立憲民主党は慎重派・反対派が多勢を占めている印象だ。

仮に結論が出ないまま総選挙を迎えた場合、自民党はおそらく党内意見をまとめきれず、「慎重に議論を進める」といったあいまいな施策を打ち出すのではないだろうか。推進派、慎重派両方に配慮した、どっちつかずの方針だ。

一方、第二党の立憲民主党などは、対立軸をつくるべく「ライドシェア反対」を明確に掲げる可能性が考えられる。中には推進派もいるだろうが、政争の材料とすべく党としての姿勢を慎重派から反対派へ明確にするのだ。

政権交代を狙う第二党として、立場を明確にして対立軸を作ることは珍しくない。ライドシェア絶対反対派のタクシー業界は、おそらく解禁の道を残す自民党には票を入れない。こうした勢力の受け皿となるには、姿勢を鮮明に打ち出さねばならないのだ。


依然として慎重派が多いライドシェアは、政争の具としての条件が揃っている。選挙における争点の一つに上がってもおかしくはないだろう。

立憲民主政権下ではライドシェア議論は立ち消え……?

現在の状況においてライドシェア解禁の行方は不透明だが、仮に総選挙で政権交代が起こり、立憲民主党政権が樹立した場合、議論はどうなるか。

おそらく、現在ライドシェア議論を進めている規制改革推進会議が消滅し、議論そのものが立ち消えとなるのではないだろうか。解禁見送り……と言うよりも、完全にシャッターを閉ざされる感じだ。

ただし、移動サービスそのものの課題は残るため、タクシー規制改革などの代替策を推進することになりそうだ。

また、立憲民主党がライドシェア慎重派のまま政権を奪取したケースはどうだろうか。この場合、議論は継続される可能性があるものの、自民党以上に慎重派が多いものと思われるため、やはり解禁見送り……ということになりそうだ。

限りなく反対に近い慎重派

立憲民主党が2023年12月に発表した「モビリティ政策~ 都市部、地方・過疎地域における有償運送(有償ライドシェア)に関する考え方 ~」では、ライドシェアについて以下のように記されている。

「歴代政権が示してきた『運行管理や車両整備等の責任の主体をおかないままに自家用車のドライバーのみが運行責任を負う形態を前提としており、安全の確保、利用者の保護等の観点から問題があると考えている』、『特区でも認めない』との見解のとおりである」

「その導入は、利用者の安全の確保やタクシー産業への影響にとどまらず鉄道やバス事業にも大きな影響を与え、結果として持続可能な地域公共交通の実現とも矛盾する政策と考える。さらにはこうした雇用環境の不安定なギグワーカーの増加は、政府がめざす持続的・構造的な高水準の賃上げを中心とした労働市場改革とも相反するものである」

明確に「反対する」とは断言していないものの、安全性や労働面などを問題視する内容となっている。時事通信によると、同党の泉健太代表は、ライドシェア議論が加速し始めた2023年10月、無許可・無資格で乗せるのは危険との認識を示し、タクシーの運転手不足解消に向けた規制緩和を優先すべきとしている。

また、同党の辻元清美議員は同月、「ライドシェアをめぐる世界各国の犯罪事案等と禁止・規制事例に関する質問主意書」を提出し、その答弁を得ている。ライドシェアの危険性を明るみに出すような内容だ。

立憲民主党は限りなく反対派に近い慎重派と言える。

【参考】ライドシェア反対派・慎重派については「ライドシェア解禁、「反対勢力」一覧」も参照。

ライドシェア解禁、「反対勢力」一覧

日本維新政権下では解禁を強行……?

では、第三党の日本維新の会が政権を担うこととなった場合、どうなるか。同党は「維新八策」の「成長戦略:運輸・交通」の中で、「財やサービスの所有から利用への転換を見越し、ライドシェアや民泊普及の障壁となる規制を撤廃し、シェアリングエコノミーを強力に推進」「ライドシェアにおける複数の交通サービスを IT で統合し、一括して予約・決済する仕組みを導入するなど、 MaaS (モビリティ・アズ・ア・サービス)をよりいっそう推進」としている。

賛成派として、明確にライドシェアを推進していく内容となっている。お膝元の大阪では、同党共同代表の吉村洋文府知事が大阪・関西万博開催時に「時間や台数制限のないライドシェア」実現を要望していることもあり、恐らく政党としてはナンバーワンの推進派と言えるだろう。

改革熱が強い政党でもあり、仮に維新の会が政権を担うことになれば、半ば強行的と言えるほどライドシェア解禁を推進していくことになるのではないだろうか。

【参考】ライドシェア推進派については「ライドシェア推進派の政治家一覧(2024年最新版)」も参照。

ライドシェア推進派の政治家一覧(2024年最新版)

超党派勉強会がライドシェアを議論

ライドシェアをめぐっては、自民党の小泉進次郎氏らが2023年11月に超党派勉強会を立ち上げ、党派を超えて前向きな議論を重ねているようだ。解禁ありきではないが、自民、公明、立憲民主、維新、国民民主から計21人が設立メンバーに名を連ね、導入の在り方を探っている。

2023年12月に提言をまとめ、斉藤鉄夫国土交通大臣と河野太郎デジタル行財政改革大臣に申し入れを行っている。道路運送法第78条3号に基づく新たな「ライドシェア」制度創設や「自家用有償旅客運送」の見直し、多様な主体による多様な移動サービスが可能になるよう、2024年中の法律改正または新法の制定――が主な内容だ。

自家用車活用事業の実施とともに、別途法律を伴う移動サービス実現に向けた提言となっている。

2024年5月末には、岸田首相に提言を提出した。新たに制度化された日本版ライドシェアと大幅に改善された自治体ライドシェアの推進や検証を伴う不断の改善、必要な制度の見直し、日本にふさわしいライドシェアの在り方に関する幅広い観点からの議論を進め、年末を目標に結論を得るべし――といった内容だ。

首相は期限を設けない方針だが、小泉氏は「期限を設けずに検討するのはやらないのと同じ」とし、議論の活発化を強く求めていく姿勢のようだ。

■ライドシェアをめぐる議論の動向

規制改革推進会議では解禁に向けた継続議論が要求される?

ライドシェア関連の議論を進めている規制改革推進会議は2024年5月の会合で、ライドシェア事業に係る法制度の論点整理を行っている。

自家用車活用事業や自家用有償旅客運送の制度の効果について、現時点では期限を定めず定量的に評価を行い、適時適切に改善を不断にしていくことが望ましいとし、また取得可能なデータの対象地域や内容に限界があることを踏まえ、少なくともアプリなどでデータが把握可能な12都市については適切なデータを検証するとしている。

ただ、会議における議論では、自家用車活用事業や自家用有償旅客運送制度では以下を理由に、社会課題の解決に対し十分な制度になっていないことも指摘されている。

  • ①運営主体がタクシー事業者に限定されている点
  • ②ドライバーの確保の点
  • ③移動の制約への全国的な対応の点

①では、既存のタクシー事業者だけでなく、意欲・技術があるさまざまな企業が果敢にチャレンジできるフェアな環境を整備すべきで、業界目線でなく利用者起点の制度設計を行うべきと指摘している。安全性に関しては、ライドシェア業を創設して適切な規制を課すことにより、運営主体をタクシー事業者に限定せずとも確保可能としている。

②では、ドライバー確保の観点から好きな時間に自律的に柔軟に働くことの重要性を説いている。自家用車活用事業はタクシー事業に関する規制を準用した制度に留まっており、デジタル技術によって遠隔で乗客やドライバーの安全を確保する方法にアップデートする選択肢を用意すべきとしている。

③では、自家用車活用事業は地域・時間帯・時期・台数などが限定された局所的な運用となっている点を不安視している。事業者からも人口密度が低い地域では事業が成立しづらい点が指摘されており、同制度では全国的な移動の足の確保につなげていくことは根本的に難しいとしている。

これらの点を踏まえ、まずは自家用車活用事業などの効果を適切に把握し、不断のバージョンアップを順次実施した上で、年内にも可能な限りデータによって丁寧に検証すべきであり、同時に、次の段階に円滑に移れるよう内閣府や国土交通省が行った論点整理を踏まえ、タクシー事業者以外の者が行うライドシェア事業を位置づける新たな法制度についても、次期通常国会の法案提出を視野に年末に向けて法案化作業を直ちに開始すべきとしている。

規制改革推進会議の地域産業活性化ワーキング・グループとしては、本格版ライドシェア解禁に向けた取り組みを順次進めていくよう提言を行っているのだ。

【参考】ライドシェアの動向については「ライドシェアとは?(2024年最新版)日本の解禁状況や参入企業まとめ」も参照。

ライドシェアとは?(2024年最新版)日本の解禁状況や参入企業まとめ

議論が長引くと……

議論に時間を要し過ぎると、別の観点の議論がライドシェアに覆いかぶさってくることになる。自動運転タクシーだ。

まだまだハードルが高いとは言え、自動運転タクシーが実現すればドライバー問題は一気に解決する。コンピュータが車両を制御する無人運転の安全確保に議論の焦点が移り、有資格の職業ドライバーが運転するタクシーも、一般ドライバーが運転するライドシェアも関係なくなるのだ。

特に、自動運転タクシーの実現が具体化すれば、一般ドライバーによるライドシェアはほぼ必要なくなる。一般ドライバーの運転リスクに議論を費やすより、未来志向の無人運転のリスクを精査したほうが建設的だ。

自動運転タクシーはティアフォーやホンダなどが開発・実用化に向けた計画を具体的しており、予定通り進めば1~2年の間にサービスが始まることとなる。ただ、比較的広範囲を自由に移動可能なサービス水準に至るまでは、さらに数年単位の開発が必要になるものと思われる。

おそらく、当初は狭いエリア内、あるいはオンデマンドシャトルサービスに近い形でサービスインすることになるのではないかと思われる。

ただ、どういう形であれサービスが始まれば、無人運転に関する議論は飛躍的に進み、そのポテンシャルを見越したサービス設計の在り方や既存サービスとの共存、区別、統廃合に向けた議論も本格化することが予想される。

こうした近未来を考慮すると、本格版ライドシェアを実現するならば、早期に結論を得なければならないのではないだろうか。

【参考】自動運転タクシーとライドシェアの関係については「自動運転時代に花開く「つなぎビジネス」の先見性!」も参照。

自動運転時代に花開く「つなぎビジネス」の先見性!

■【まとめ】各党は総選挙までにスタンス固める?

現時点では「期限を設けず継続議論」という慎重寄りの方針が示されているが、総裁選、そして総選挙を見据えた各党が、改めてライドシェアを俎上に載せることになるのか。または急進派が動き、総選挙までに一定の道を開くことができるか。

今しばらくモヤモヤした状況が続きそうだが、総選挙までに各党がスタンスを固める可能性は高い。自家用車活用事業のアップデートの状況でも幾分結果は変わってきそうだ。

今後の議論と検証の行方に要注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事