ホンダの自動運転戦略まとめ 世界初のレベル3量産車を発売

レベル4サービス・自動配送ロボット実証に着手



出典:ホンダプレスリリース

米GM、Cruise(クルーズ)との自動運転モビリティサービスに向けた協業や、世界初の自動運転レベル3搭載量販車の販売など波に乗るホンダ。自動運転分野では目立たず静観している印象が強かったホンダが、ついに本領を発揮し始めたようだ。

この記事では、ホンダの自動運転戦略を紐解いていく。







■ホンダの自動運転開発に対する考え方
根本は本田宗一郎氏提唱の「積極安全」

ホンダの自動運転は、「事故に遭わない社会」を追求する思想の延長線上にある。1970年代、創業者の本田宗一郎氏が事故を未然に防ぐ「積極安全」を提唱して以来、脈々と続く研究開発の賜物だ。

ホンダが1981年に世界初となるカーナビゲーション「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」を実用化したことは有名だが、実はこのカーナビも将来の自動運転を見据えた開発の成果・過程という。5年後の1986年には、自動運転の研究に本格着手した。

1987年には、国産車で初となるエアバッグをレジェンドに搭載したほか、2000年に世界初の屋内型全方位衝突実験施設を建設するなど、事故などの際に人体への影響を最小限に抑える「パッシブセーフティ」に力を入れる一方、事故を未然に防ぐ「アクティブセーフティ」の開発・実用化においても世界最先端を走り続けてきた。

レーザーレーダーとカメラによって外界を認識し車速や車間、車線維持を図る「HiDS」を2002年にアコードに搭載すると、翌2003年には、世界初の追突軽減ブレーキ「CMS」をインスパイアに搭載した。現行のADAS「Honda SENSING」の基礎となっていく技術だ。

レベル3開発におけるホンダは「亀」

事故ゼロ社会を目的に自動運転開発を進める自動車メーカーは少なくないが、ぶれることなく早くから安全性を追求してきた結果が、世界初のレベル3量販車へとつながった。

同社公式ホームページ内に掲載されているインタビュー記事の中で、エグゼクティブチーフエンジニアとしてレベル3開発に携わった本田技研先進技術研究所の杉本洋一氏は「ホンダの安全に対する向き合い方の特長は愚直さ」とし、レベル3開発においても「初期段階で安全に関わる基本的な部分にしっかり向き合い、根幹となる構想を固めることにかなりの時間を費やした」と話す。

その上で「(ホンダは)『ウサギと亀』の亀のようなもので、その段階では外から見ると技術開発が遅れているように思えたとしても、結果としてそれが一番早いやり方だった」と回顧している。

レベル3開発に向けては、初期段階で想定ケースを洗い出してシミュレーションを重ねた上で、想定外を減らすために実証実験車両で高速道路を地球30周以上に相当する約130万キロ走行した。収集したデータに基づいてシミュレーションを行う作業を繰り返し、約1,000万通りもの膨大なシミュレーションを行ったという。

レベル3開発に向けた取り組みの進捗などをほぼ公表していなかったため、「ホンダは自動運転開発に慎重?」とする見方も出たが、これはウサギばかりを追いかけ亀から目を離していたからに過ぎない。ゴールが迫った段階で、初めて亀の研究開発の完成度に気付かされたのだ。

自動運転時代も運転する楽しさを

自動運転技術の特徴として「ドライバーレス運転」が挙げられるが、ホンダは運転する楽しさやワクワクする感覚、目的地を決めずにドライブそのものを楽しむこれまでの価値を今後も提案し続けていくことを強調している。

自由な移動を実現しつつ、交通事故も渋滞も環境汚染もない社会・経済・環境面でのプラスの影響を究極まで高めたモビリティが、ホンダが目指す「自動運転システム」だ。

トヨタなどと同様、自家用車においては運転する楽しさと自動運転による快適性や安全性などの両立を図っていくことが根底にあるようだ。

■ホンダのレベル3「トラフィックジャムパイロット」

ホンダは2020年11月、自動運転レベル3 システムの型式指定を国土交通省から取得し、2021年3月に渋滞時に自動運転を可能にするトラフィックジャムパイロットを実現した「Honda SENSING Elite」と、それを搭載する新型LEGEND(レジェンド)を発表した。レジェンドは100台限定のリース形式で販売された。

Eliteは、高速道路や自動車専用道でシステムがアクセルやブレーキ、ステアリングを操作・支援し、ハンズオフ運転を実現する高度なレベル2システムを搭載している。また、ハンズオフ機能で走行中に渋滞に遭遇すると、システムがドライバーに代わって周辺を監視しながらアクセル、ブレーキ、ステアリングを操作するレベル3システム「トラフィックジャムパイロット」の使用も可能になる。

新型レジェンドは、LiDAR5基、ミリ波レーダー5基、カメラ2基、超音波ソナー12基を搭載しており、自車周辺360度の状況を高精度で把握することができる。これら各種センサーとGNSS、高精度3次元地図を活用することで、レベル3を実現したのだ。

▼Honda SENSING Elite トラフィックジャムパイロット(渋滞運転機能)エンジニアトーク|ホンダ
https://www.honda.co.jp/tech/articles/auto/EngineerTalk_TJP/

トラフィックジャムパイロット作動時、ドライバーは車両周囲の常時監視義務を免れ、ナビ画面でテレビやDVDを視聴したり、スマートフォンを操作したりできる。

一方、システムから手動操作要求があった際は、ドライバーは直ちに運転操作を行う必要がある。操作要求に応じずにいると、警告類やシートベルトの振動で注意を喚起し、それでも反応がない場合は、ハザードランプとホーンで周囲のクルマに警告を発しながら減速・停車を支援する。路肩がある場合には左車線への車線変更も支援する。

停車後は自動でパーキングブレーキをかけ、シフトポジションを「P」に変更しドアを解錠する。また、緊急案件としてヘルプネットでコールセンターに接続する。

また、ナビ画面の左脇に近赤外線ライトを内蔵したドライバーモニタリングカメラを搭載しており、ドライバーの顔の向きや目の開閉状況、動作の有無などを検知し、システムからの操作要求に対応できる状態かどうかを見守りながらシステムを作動させる。

【参考】ホンダのレベル3については「ホンダが自動運転レベル3車両を3月5日発売!新型「LEGEND」がデビュー」も参照。

■自動運転分野における協業
Waymoと米国で公道実証

ホンダは2016年12月、米グーグル系の自動運転開発企業Waymo(ウェイモ)と米国で自動運転技術領域の共同研究に向けた検討を開始したと発表した。

ウェイモの自動運転技術を構成するセンサーやソフトウェア、車載コンピューターなどをホンダが提供する車両に搭載し、共同で公道実証実験に使用する方針としている。

なお、今のところ進捗に関する続報はなく、ホンダが後にクルーズと手を結んだことで協業関係は解消されたと見る向きが強いようだ。

SenseTimeとAI技術を共同研究

ホンダは2017年12月、自動運転技術の確立に向け、中国スタートアップのSenseTimeとAI技術に関する共同研究開発契約を締結したと発表した。

SenseTimeが持つ移動体認識技術とホンダの「シーン理解」「リスク予測」「行動計画」といったAIアルゴリズムを融合することで、複雑な交通状況の市街地でも走行を可能にするより高度な自動運転技術の開発を目指す方針だ。

開発期間は5年間で、自動運転のみならずロボティクスにも拡大していく予定としている。

自動運転モビリティ開発に向けGM Cruiseと協業

ホンダは2018年10月、GMとGM傘下のクルーズと自動運転技術を活用したモビリティの変革に向け協業を行うことに合意したと発表した。

将来的なグローバル展開の可能性も視野に入れながら、クルーズ向けの無人ライドシェアサービス専用車を共同開発していくとした。

また、協業に向けホンダがクルーズに7億5,000万ドル(約850億円)出資するほか、今後12年間に渡る事業資金として約20億ドルの合計27億5000万ドル(約3,000億円)を支出する予定としている。

協業は順調に進み、2020年1月にクルーズはサービス専用自動運転車「Origin(オリジン)」を発表した。2021年1月には、日本における自動運転モビリティサービス事業の展開に向け年内にも技術実証に着手すると発表した。

実証は同年9月に開始し、高精度地図の準備が整い次第、2022年には栃木県宇都宮市と芳賀町で公道実証を実施する計画を明らかにした。車両にはクルーズが開発した「クルーズAV」を活用する。

なお、GMとホンダはバッテリー技術をはじめ、北米向けの複数セグメントにおいて内燃機関エンジンと電動パワートレーンを含めたプラットフォームの共有に向けた検討を進めている。近い将来、本格的なパートナー関係に昇華する可能性もあり、2社の動向に要注目だ。

【参考】クルーズとの取り組みについては「自動運転タクシー、日本一番乗りはホンダ濃厚か 日産やティアフォーの動向は?」も参照。

中国ではAutoXと提携

中国では、ホンダの現地法人が自動運転開発スタートアップのAutoXと2021年4月に提携を発表した。ホンダ車にAutoXの最新の自動運転システムを搭載し、自動運転タクシーのフリートを構築していく方針のようだ。

【参考】AutoXとの取り組みについては「ホンダ車が中国で自動運転タクシーに!?AutoXとの提携で予感されるもの」も参照。

■CESに見るホンダの将来技術
自動ライドシェア機能を備えたAIコンセプトカー「Honda NeuV」

毎年米ラスベガスで開催される世界最大の技術見本市「CES」では、世界各国の企業が最先端の技術をお披露目する。ホンダは2017年、AI技術「感情エンジンHANA(Honda Automated Network Assistant)」を搭載した自動運転コンセプトカー「Honda NeuV」や、遠隔操作が可能なパーソナルモビリティ「UNI-CUB β」を出展した。

NeuVは、ドライバーの表情などからストレス状況を判断して安全運転のサポートを行うほか、ライフスタイルや嗜好を学習し、ドライバーとの自然なコミュニケーションを実現する。また、所有者が使用しない待機時間に、所有者の許可のもと自動運転で移動しライドシェアを行うアイデアも発表している。

一方、UNI-CUB βは着座して利用する超小型モビリティで、身体を傾けて体重移動することで前後左右や斜めに自由に移動可能という。また、遠隔操作を活用することで、無人で荷物を運んだりあらかじめプログラムしたルートで人を案内したりするなど、さまざまな活用が可能という。

アタッチメントでさまざまな用途に活用可能なロボット出展

CES2018では、チェア型のパーソナルモビリティ「3E-B18」や、AI搭載のサポートロボット「3E-C18」、AI搭載のプラットフォーム型ロボティクスデバイス「3E-D18」などを発表した。

いずれも上部のアタッチメントを変えることで、ベビーカーや荷物カート、物販、移動広告、消火活動、農作業など、さまざまな用途に活用できる。2021年に発表した自動配送ロボットも、これらのロボットをベースにしている。

CES2019では、前年の「3E-D18」をベースに開発した自動運転モビリティプラットフォーム「Autonomous Work Vehicle」を出展したほか、前後・左右・斜め360度自由自在に移動できる独自の車輪機構「Honda Omni Traction Drive System」や、ロボティクスソリューションの開発を容易にするソフトウェアプラットフォームコンセプト「Honda RaaS Platform」、コネクテッドカー技術によってスムーズな交通の流れの実現を目指す技術コンセプト「SAFE SWARM」などを発表した。

SAFE SWARMはCES2017で発表された技術で、2018年初頭からV2X技術を搭載した車両で米オハイオ州において実証実験を行っている。

自動運転を超える自由運転コンセプトも

CES2020では、完全自動運転が実現した時代のパーソナルモビリティのコンセプト「Augmented Driving」を発表した。自動運転を超え、クルマが黒子になって運転をサポートすることで、ドライバーが興味を抱いた場所に意のままに立ち寄ることを叶えるような自由な移動の実現を目指す「自由運転」という概念だ。

出典:ホンダプレスリリース
■モビリティサービス関連

ホンダはカーシェアサービス「EveryGo」を2017年11月に開始したほか、2020年1月には中古車を活用した月極定額モビリティサービス(サブスクリプションサービス)「Honda Monthly Owner(ホンダ マンスリー オーナー)」も開始している。

2020年2月には、モビリティサービス事業を担う事業会社「ホンダモビリティソリューションズ」を設立した。将来的に自動運転モビリティサービスやロボティクス・エネルギーなどを組み合わせた新しいサービスを提供していく構えだ。

■自動配送ロボットの開発にも本格着手

ホンダは2021年7月、楽天グループと自動配送ロボットの走行実証実験を開始すると発表した。ホンダが開発した自動配送機能を備えた車台に、楽天が開発した商品配送用ボックスを搭載し、一部公道を含む筑波大学構内で実証を行った。

自動運転機能に加え、交換式バッテリー「Honda Mobile Power Pack(モバイルパワーパック)」を採用している点も注目だ。ロボットの稼働時間に柔軟性を持たせ、配送サービスを継続して提供することができる。

なお、自動運転機能を搭載したロボット関連では、ロボット芝刈機「Miimo」をすでに製品化している。

【参考】ホンダの自動配送ロボットについては「トヨタとホンダ、「無人配送」でもガチンコ勝負 自動運転技術を応用」も参照。

■【まとめ】レベル3の進化やレベル4サービス実用化に向けた戦略に注目

レベル3、レベル4、自動配送ロボットなど自動運転分野で大きく動き出したホンダ。今後の注目ポイントには、レベル3のODD(運行設計領域)拡大に向けた取り組みや、レベル4サービス実用化に向けた具体的な戦略などが挙げられる。

特にレベル3量産車は、今後中国や欧州メーカーが相次いで発売し、機能面を含め競争が本格化するとともに、自家用車における自動運転の在り方が消費者の間でもトピック化し、社会受容性に大きな影響を及ぼすことが想定される。

それだけにリードオフマンとなったホンダの存在は非常に大きく、今後の動向に引き続き注目したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)









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