ホンダ・日産、自動運転技術を「共通システム化」か GM Cruiseとも一本化?

SDV共同開発きっかけに一大アライアンス結成か



ホンダ日産が大きく距離を縮めている。両社は2024年8月、次世代ソフトウェアディファインドビークル(SDV)向けのプラットフォーム領域において、基礎的要素技術の共同研究契約を締結したと発表した。


両社は3月に戦略的パートナーシップの検討開始に関する覚書を交わし、自動車の知能化・電動化時代に向け協議を進めている。今回、パートナーシップに三菱自動車も新たに参画し、今後協業領域をさらに拡大していく構えのようだ。

SDVに関する共同開発が、後に自動運転開発の協業につながっていけば、そのインパクトは非常に大きなものとなる。

パートナーシップの内容とともに、自動運転領域における協業の可能性に触れていく。

【参考】関連記事としては「SDV(ソフトウェア定義型自動車)の意味は?自動運転化の「最低条件」」も参照。


■ホンダ・日産・三菱自の協業概要

知能化・電動化に向けホンダと日産が検討を開始

出典:ホンダプレスリリース

ホンダと日産は2024年3月、自動車の知能化・電動化時代に向けた戦略的パートナーシップの検討開始に関する覚書を交わした。

協議の結果、まずは次世代SDVプラットフォームに関する基礎的要素技術の共同研究に着手することに合意した。

SDVの基礎研究を1年以内に完了

SDVの普及や進化に向けては、両社それぞれが各種技術の研究開発や投資を進め強化を図っていくが、自動運転やコネクティビティ、AIなど今後クルマの価値を決定づけ、競争力の源泉となるソフトウェア領域は技術革新のスピードが速く、技術的知見や人材などリソースの融合による相乗効果が得やすい領域との結論に達したようだ。

すでに研究をスタートしており、1年を目途に基礎研究を完了し、成果が出ればその後量産開発の可能性を含め検討していく方針としている。


バッテリーや駆動ユニットについても検討

また、新たに交わした戦略的パートナーシップをより深める覚書では以下についても幅広いスコープで協議・検討を進めていくとしている。

  • ①バッテリー領域
  • ②e-Axle領域
  • ③車両の相互補完
  • ④国内のエネルギーサービス、資源循環領域

①では、キーコンポーネントとなるバッテリーに関して両社間での仕様共通化、相互供給など、短期および中長期的な観点で協業範囲を検討する。

バッテリーセル・モジュールの仕様については、中長期視野で共通化を図ることに基本合意済みで、各社が供給するバッテリーをどちらの車にも搭載可能にする方針だ。

ホンダは2023年、韓国のLGエナジーソリューションと合弁L-H Battery Companyを米国に立ち上げ、EV用リチウムイオンバッテリーの量産を強化する計画だ。このバッテリーを2028年以降北米市場で日産に供給することも検討していく。

②のe-Axle(イーアクスル)は、駆動用モーターとギア、インバーターで構成されるパッケージ化された駆動ユニットで、電動車において従来車のエンジン・トランスミッションの役割をなす。

このe-Axleについて、中長期的に仕様の共通化を目指していくことに基本合意し、第一ステップとして、基幹領域となるモーターとインバーターを共用していくことで合意している。

③では、両社のグローバルモデルについて短期~中長期的な視野で車両の相互補完を検討する。短期的には相互補完の対象とするモデル・地域に基本合意するとともに、両社合同での商品検討体制などのアウトラインに合意した。

④では、充電・エネルギー機器やバッテリーを活用したエネルギーサービス、充電サービスなど、国内におけるエネルギーサービスや資源循環領域についても協業の可能性を検討していくことに合意した。

三菱自動車もパートナーシップに参画

今回のSDVに関するリリースとともに、両社の戦略的パートナーシップの検討の枠組みに三菱自動車が加わることも発表された。三菱自独自のSDV開発などはほぼ表に出てくることはなく、主要株主でありアライアンスメンバーの日産の方針に従う向きが強い。今回も日産に追随する形で参画した印象だ。


■SDV協業の未来

協業はSDV共通化に留まらない?

三社はSDV領域をはじめ、将来的にバッテリーや駆動ユニットなどの仕様共通化も図っていく計画のようだ。今後シェアを増していくEV(BEV)関連やSDVにおける多くの場面で協業を進めていく形となり、年を重ねるごとに存在感を増す本格的なパートナーシップとなりそうだ。

ソフトウェア領域では、自動運転システムやコネクテッド関連の扱いにも今後注目集まりそうだ。プレスリリースは、あくまでSDVプラットフォームに関する基礎的要素技術の共同研究を進める内容であり、共通のソフトウェアプラットフォームの開発に留まる。

これをベースに各社がアプリの追加やソフトウェアアップデートを行い、付加価値を高めていくということだ。つまり、そこに上乗せされる自動運転システムなどは個別に開発を進めていくことになる。

しばらくはそうした方向で自社独自性を出しながら事業展開するものと思われるが、今後の市場動向や経営環境次第ではそうも言っていられなくなる。自動車市場のEVシフトが進めば進むほど新興勢力が芽を伸ばし、テスラやBYDのように大量生産・販売にこぎつけるメーカーが登場する可能性が高くなる。

当然既存メーカーもBEV開発・販売で対抗することになるが、今まで培ってきたブランド力・信頼や販売網という強みの裏には、総合自動車メーカーとしてしがらみ的に抱え込んでいる多くのコストが存在する。

スリムな経営体系をしく新興勢に対し、既存メーカーは選択と集中を余儀なくされる可能性があるのだ。

自動車業界の地図の塗り替えが始まった際、両社の提携はさらに進み、ソフトウェア全般についても共有化が進んでいく可能性がある。

自動運転システムは協業効果が高い?

特に、自動運転システムは統合効果が高いものと思われる。競争上開発は必然ながら、その開発には膨大な開発コストがかかり、実用化後も研究開発を継続していかなければならない。

各社の力が試される重要技術だが、こうした面までも協業しなければならない状況にならないとは言い切れない。自動車メーカー各社の自動運転開発は予定通り進んでいないケースが大半であるため、むしろ「自社開発」というプライドを捨てて力を合わせたほうが業界をリードする結果となるかもしれない。

世界初の自動運転レベル3自家用車を生み出したホンダと、国内メーカーの中でいち早く自動運転レベル4の公道実証に着手した日産。仮に自動運転開発面で協業する場合、主導権をどちらが握るかも大きなポイントとなりそうだが、相乗効果がしっかりと発揮される連携が前提となるだろう。

■各社の自動運転開発

ホンダはGM勢とパートナーシップ

出典:Cruise公式ブログ

ホンダは自動運転領域で米GM、Cruise勢とパートナーシップを結んでいる。ひと悶着合ったが、Cruiseの自動運転技術は世界トップ水準と言われており、米カリフォルニア州などでドライバーレスの自動運転タクシーサービスを展開していた。

人身事故をきっかけに無人サービスは中止を余儀なくされているが、それでも日本の自動車メーカー勢より2歩も3歩も先を歩んでいる印象だ。

ホンダは、3社で共同開発した自動運転専用モビリティ「Origin」を導入し、2026年初頭に東京都内で自動運転タクシーサービスを開始する計画を発表している。

近々では、GMがOrigin開発を中止したことが発表されており、紆余曲折する可能性もありそうだが、今のところホンダからの発表はない。自家用車ベースの自動運転車での展開などに変更されるかもしれないが、サービス実現に向け前に進んでいることは間違いなさそうだ。

日産は独自開発進行中

一方、日産は自社技術による無人移動サービス「Easy Ride」の実証を早い段階から取り組んできた。2024年に発表した最新のロードマップによると、2024年度に横浜みなとみらい地区で走行実証に取り組み、2025〜26年度には20台規模のサービス実証を行う。そして2027年度、地方を含む3~4市町村において車両数十台規模のサービス提供開始を目指すとしている。

国内自動車メーカーのレベル4実証としては先行している印象が強いが、Cruiseと比べるとどうしても経験値が及ばない。

日産の自動運転戦略(2024年最新版) プロパイロットの技術力、Easy Rideの計画は?

Cruiseの技術への一本化が近道?

仮にホンダと日産が自動運転システムの統一化を図る場合、一番の近道はやはりCruiseの技術を流用することだろう。

その場合、日産は今まで築き上げてきたものを手放すような印象を受けるかもしれないが、改めてホンダ・GM・Cruise陣営とパートナーシップを結び、自社技術をCruiseの自動運転技術に積み増すような形となれば、これまでの経験値はしっかりと生きるはずだ。

さらには、2027年度を目途に計画を進めている自動運転サービスもホンダが計画しているものと統一することで、開発・実装速度が増していくものと思われる。ホンダ・日産+三菱自による自動運転サービスとして新ブランドを立ち上げて統合できれば、そのインパクトは非常に大きなものとなる。

三社が今後どこまでの協業を考えているのか、要注目だ。

■各社のパートナーシップ

ソニー・ホンダモビリティはどうなる?

気になるのは、ホンダ、日産それぞれの他社とのパートナーシップだ。ホンダはソニーと2022年に合弁ソニー・ホンダモビリティを立ち上げ、新ブランド「AFEELA」を展開していく計画だ。

ソニーの色を濃く反映したクルマ作りとなりそうだが、このAFEELAのソフトウェアはどうなるのか。自動車制御面は概ねホンダ、車内エンタメなどはソニーの得意領域となるが、車載OSはどちらが担当するのか。共同で構築していくのか。

その際、ホンダ・日産勢が開発するソフトウェアプラットフォームの出番はあるのか。気になるところだ。

AFEELA第1弾の商品は2025年前半から先行受注を開始し、同年中に発売予定となっている。納車は2026年春に北米から開始し、日本では2026年後半からとなる見込みだ。

タイミング的には、今回の日産との協業成果を反映させるのは難しいものと思われる。もし、ソニー・ホンダモビリティにおけるOS開発をホンダが主導しているのであれば、次期モデルから採用――といったことも考えられるが、ソニーが主導していた場合、別路線になる可能性が高い。

果たして、ホンダと日産の提携がソニー・ホンダモビリティに影響を及ぼすのか否か。こうした点にも注目したい。

【参考】ソニー・ホンダモビリティについては「ソニーとホンダ、自動運転車で「運転以外の楽しみ」提供」も参照。

ソニーとホンダ、自動運転車で「運転以外の楽しみ」提供

ルノーとのアライアンスはどうなる?

一方、日産は仏ルノー、三菱自動車とアライアンスを組んでいる。資本関係を結ぶ強固な一大アライアンスで、日産としてはホンダとの結びつきよりも強い。

アライアンスが2022年に発表したロードマップ「Alliance 2030」によると、2030年に向けEVとコネクテッド・モビリティに注力することとしている。

2026年までに車体プラットフォームの共用化率を80%まで向上させるほか、日産は全固体電池の技術開発をリードし、アライアンスでそのメリットを享受する。日産の「プロパイロット」に代表される知能化や運転支援の技術革新もアライアンスで推進していく。

ルノーは、一体型の共通電気・電子アーキテクチャーの開発をリードし、2025年までにSDV車を市場投入する計画だ。

このロードマップを見る限り、アライアンスにおいては日産が自動運転技術やバッテリー技術をリードし、ルノーがSDV領域をリードするように感じられる。

ホンダ・日産陣営が開発するだろうソフトウェアプラットフォームを、アライアンスはどのように扱うのか。また、ルノーが開発するソフトウェアプラットフォームはどうするのか。各社の関係に注目したい。

【参考】ルノー・日産・三菱アライアンスについては「車両をソフトウェア定義!日仏連合の2030年計画、EV以外で語ったこと」も参照。

車両をソフトウェア定義!日仏連合の2030年計画、EV以外で語ったこと

■【まとめ】自動車メーカー5社連合も?

SDV開発を通じて、最終的に自動運転領域でホンダ勢と日産勢が一大アライアンスを組むと非常に面白い。

ホンダ、GM+Cruiseに、日産、ルノー、三菱自が自動運転領域でパートナーシップを組むのだ。5メーカーが資本関係を結ぶ可能性は限りなく低いが、自動運転領域で結束する可能性はゼロではない。

もしこれが実現すれば、日産・ルノー勢と形式上手を組んでいるものの特に進展がないWaymoをはじめ、世界の自動車メーカーが驚愕するのではないか。5社が結束すれば、それだけのインパクトと影響力を発揮することになる。

スタートアップの活躍ばかりが目立つ自動運転分野。自動車メーカーもそろそろ本腰を入れなければならない時期に差し掛かっているはずだ。業界地図が今後どのように変化していくか必見だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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