自動運転レベル4、メルセデスが北京で「テスラより先」に試験認可を獲得

中国企業以外では初の許可



テスラのイーロン・マスクCEO=出典:Flickr / Public Domain

ドイツの高級車メーカーであるメルセデス・ベンツが、中国・北京でレベル4の自動運転走行テスト許可を取得した。中国以外の企業として初のことだ。レベル4は、特定エリア内では完全自動運転が可能な技術水準を指す。

その一方で米EV(電気自動車)大手のテスラは、中国に現地法人や生産工場を設立しており積極的に中国進出を進めているものの、まだ自動運転レベル4の試験許可は得ていない。


2024年春ごろには何度か中国を訪問し、関係当局トップなどと急速に親交を深めていたテスラCEO(最高経営責任者)のイーロン・マスク氏にとっては、非常に悔しい出来事と言えるのではないだろうか。

■北京におけるレベル4のテスト走行許可

出典:WeRideプレスリリース

北京市では、自動運転技術の開発を支援するための規制案を2024年6月下旬に策定しており、すでに中国のIT大手Baidu(百度)や第一汽車が生産する高級車ブランド・紅旗、自動運転ベンチャーWeRideがレベル4の自動運転テスト許可を取得している。

中国以外の企業の承認は、今回のメルセデスが初めてとなった。同社の発表によると、レベル4の自動運転の路上試験では駐車やUターン、ラウンドアバウトの出入り、料金所の通過、前方車両が減速した場合の車線変更などを行うという。北京市は1,160キロ以上の公道を試験走行のために開放しているようだ。


メルセデスは、2023年12月にレベル3の自動運転走行テスト許可を得ている。レベル3とレベル4の大きな違いは、「人に依存しない」という点だ。レベル3では、一定条件下においてドライバーに代わってシステムが全ての運転操作を行う。レベル4は、レベル3同様一定条件下においてシステムが全ての運転操作を行うが、ODD(運行設計領域)内で自動運転を行う際は、原則としてドライバーの存在を前提としない走行を実現する。

自動運転中に万が一の事態が発生した際も、自動運転システムがリスクを最小化する判断を下し、安全に路肩に停止するなどの措置をとる。レベル4は、この安全措置も含め人の手を煩わせることなく自動運転システムが走行を完結させなければならない。

なお米国でGoogle系の自動運転開発であるWaymoが商用展開しているドライバーレスの自動運転タクシーは、レベル4となっている。

【参考】関連記事としては「自動運転、レベル3とレベル4の違いは?(2024年最新版)」も参照。



■中国での展開に前のめりなテスラだが・・・

テスラのマスクCEOは2024年4月に中国を訪れ李首相と会談したのに続いて、5月にも金壮竜工業情報化相ら政府高官と会談した。EVや自動運転車などについての意見交換を行ったようだ。また中国商務省の王文濤商務相とは、米中の経済や貿易での協力などについて意見交換したという。

マスク氏は、完全自動運転のロボットタクシー事業を中国国内で展開するため、中国当局の同意を求めているようだ。積極的に中国進出を進めているテスラだが、レベル4のテスト許可においてはメルセデスに先を越されることになってしまった。

なおメルセデスは、2023年12月から米国内で自動運転レベル3(条件付き運転自動化)が可能な車両の販売をスタートしている。テスラは「完全自動運転」(Full Self-Driving)という英語を略した「FSD」という運転支援ソフトを有料展開しているが、自動運転レベルは「2」で、ADAS(先進運転支援システム)レベルにとどまっている。レベル3の発表はいまだに実現していない。

米国での自動運転車の販売に続き、中国での自動運転試験許可でもテスラはメルセデスに負けたということになる。

■中国が自動運転車実装のターゲット国に

国を挙げて自動運転の実用化を進めている中国。百度は、北京など10以上の都市で自動運転タクシーサービス「Apollo Go」をサービス展開している。武漢市では500台の自動運転タクシーを走行させているが、それを1,000台まで拡大することを2024年5月に発表している。

北京市でも開発各社が自動運転レベル4の走行試験を行っていくことで、自動運転タクシー商用化が進む米国を押しのけて、中国がテスト中の自動運転車数では世界最多となるようだ。走行データ収集が多ければ多いほど、精度の高い自動運転の実現に寄与することができる。

テスラも2024年内には北京でのレベル許可を得る計画だ。トヨタは中国の自動運転開発スタートアップPony.aiと合弁を設立し、自動運転タクシーを量産化することを発表している。

中国で自動運転車の覇権を握るのはBaiduなのか、レベル4に特化した開発を行っているWeRideなのか、はたまたメルセデスやテスラ、トヨタなどの外国企業になるのか、今後の動向を追っていきたい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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