車両をソフトウェア定義!日仏連合の2030年計画、EV以外で語ったこと

OTAによる無線アップデートも推進



出典:日産プレスリリース

ルノー・日産・三菱自動車のアライアンスは2022年1月、モビリティのバリューチェーンに焦点を当てた共通のプロジェクトと実行計画「Alliance 2030」を発表した。2030年に向け、3社の強みを結集し新たな未来を切り拓くための共通ロードマップだ。

アライアンスの存在は誰もが知るところだが、具体的な取り組みについてはあまり知られていない印象が強い。この記事では、Alliance 2030の内容とともに、同アライアンスの取り組みについて解説する。


■Alliance 2030の概要
5種の共通プラットフォームでEV化加速

同アライアンスは、これまでに電動化の推進に100億ユーロ(約1兆3,000万円)以上を投資し、各社の15の工場で10車種のEV(電気自動車)の部品やモーター、バッテリーの生産を行っており、100万台以上のEVを販売している。

今後5年間で総額230億ユーロ(約3兆円)以上を投資し、2030年までに35車種の新型EVを投入する予定で、そのうちの9割は5つの共通EVプラットフォームをベースにするという。

プラットフォームは、最も手頃なプラットフォームとなる「CMF-AEV」、「軽EV専用プラットフォーム」、「LCV(小型商用車)EV専用プラットフォーム」、グローバルかつフレキシブルな「CMF-EV」、最も競争力のあるコンパクトEV用の「CMF-BEV」の5つで、CMF-EVは2022年に発売される日産の新型アリアにも採用されている。

競争力確保に向けバッテリー戦略も策定しており、共通のバッテリーサプライヤーの選択や、共通パートナー企業との協業によるスケールメリットでコスト低減を実現し、バッテリーコストを2026年に50%、2028年に65%削減することを目指す。そして2030年までに世界の主要生産拠点で合計220GWhのEV用バッテリー生産能力を確保する。


また、全固体電池(ASSB)の量産を2028年までに開始し、将来的に1kWhあたり65ドルまでコストを下げることでエンジン車と同等のコストを実現し、EVシフトの加速を図っていく方針だ。

集中管理型のアライアンス・クラウドへの接続車両を順次拡大

ADAS・コネクテッド関連では、プラットフォームと電子システムの共用化によって、2026年までにアライアンス全体で45車種に運転支援技術を搭載し、延べ1,000万台以上を販売する見込みだ。

すでに300万台の車両が接続されているアライアンス・クラウドには、2026年まで年間500万台以上の車両を順次接続し、計2,500万台規模とする。また、世界で初めてグーグルのエコシステムを車両に搭載することも発表している。

また、2025年までに完全にソフトウェア定義された車両を発売する計画で、OTAによるソフトウェアアップデートでライフサイクル全体を通じて充実したサービスの提供やメンテナンスコストの削減などを図っていくこととしている。


ADAS・コネクテッド関連のスピーチは、日産の内田誠CEO(最高経営責任者)とルノーのルカ・デメオCEOが担当した。以下、両者のスピーチ内容を掲載する。

■ADAS・コネクテッド関連の戦略概要
プラットフォームの共通化とともにADAS搭載車種を拡大(内田CEO)
出典:日産公式YouTube動画

電動化の未来はインスピレーションに溢れたものであり、よりクリーンなモビリティを提供できるだけでなく、各社においてドライバーアシストやインテリジェンス技術を開発することで、事故を減らし、カスタマージャーニーをエンパワーし、社会自体もエンパワーし、モビリティの選択肢を提供できる。

また、スマートコネクティビティの要素を搭載することで、顧客はよりパーソナライズされたスペースを享受することができ、オンボード・オフボード体験を提供することができるとし、これをより多くの顧客にとって現実ものとするために、共通電気・電子アーキテクチャ(EEアーキテクチャ)を重要要素に挙げた。

アライアンスではこの分野ですでに大きな前進を遂げており、競争力の高いEEアーキテクチャを開発済みで、これには電子、ソフト、ハードのアプリケーションなどが搭載され、最大限のメリットを提供している。

2019年に初めてルノーのクリオ、日産のジュークで採用され、それ以降CMFプラットフォームを土台とするすべての車種に搭載されている。将来的なビークルシステムの複雑性をマネージメントするため、また顧客に最新の機能を提供し続けるため、2026年までに共通のEEアーキテクチャをアライアンスのほぼすべての車種に統合し、OTAのケイパビリティやインテグレーション、そしてサービス性を強化していく。

アライアンスとしての共通目標の一つにより多くの人にモビリティを提供するというものがあり、過去20年の間、アライアンスメンバーはモビリティのパイオニアとして君臨し、ドライビングの安全性、利便性、そしてFun to Driveを改善してきた。

インテリジェントビークルを革新し、運転支援技術を実現してきたが、その良い事例は日産のプロパイロットシステムで、今日、アライアンスメンバーにおいては24の車種において150万台に技術が搭載されている。

現実的かつインパクトのある改善を実現し、顧客にとって安全性、利便性、快適さを高めていくため、2026年までに、プラットフォームと電子システムの共用化によって45車種に運転支援技術を搭載し、1,000万台を世界中で走らせる。

この自動運転技術の進化によって、モビリティの選択肢が都市や農村部においても実現でき、これによって社会の多くの人の生活の質を高め、コネクティビティを高め、より便利で安全な旅を実現できる。

ソフトウェア定義型自動車を導入(デメオCEO)
出典:日産公式YouTube動画

共通エレクトロニクスアーキテクチャの車両はすでに300万台の車両がアライアンス・クラウドに接続され、常に情報交換が行われているが、我々はこれで止まるつもりはない。

グーグルオートモーティブサービスが使えるソフトウェアプラットフォームを共同開発し、グーグルのエコシステムを車上で使えるグローバルマスマーケットのOEMとして先陣を切った。

2026年までに年間500万台以上の車両を新たにアライアンス・クラウド・システムに接続し、トータルで2,500万台体制とする。OTA技術により、ライフサイクルを通じて新たな価値を開いていく。車両をデジタルエコシステムにシームレスに統合し、カスタマイズされた体験を提供可能な新たな高度なサービスを構築していく。

ソフトウェア定義型自動車は、接続されたオブジェクトやユーザー、インフラと通信することができる。この基礎にあるのは集中管理型のEEアーキテクチャで、コンピュータが頭脳の役割を担い、各ECUを高速ネットワークで結び付ける。多くの機能を統括し、エレクトロニクスセンサーやアクチュエーターを管理しながらECUが車両全体をカバーする。

集中管理型を採用することで、システム重量は10%程度まで低下する。重量が下がることでEVの航続距離も伸びる。カーボンフットプリントも抑えることができる。プロダクトも進化させやすくなり、市場投入までの期間も今まで1年以上かかっていたものがバーチャルによって1週間に短縮される。車載コンピュータの能力は自動車のライフサイクルをカバーする高い計算能力を持つよう設計され、将来を見据えた車両になっていく。

こうしたソフトウェア定義型の車両がかつてない膨大な量のデータの入り口になる。これこそが自動車産業の次のフロンティアであり、アライアンスは先駆者として取り組んでいく。

■アライアンスのこれまでの取り組み
近年は最先端分野における協業を深化

アライアンスはルノーと日産により1999年に結成され、2016年には三菱自動車が加わり今の体制となった。経営難に陥った日産をルノーが救い、同様に燃費偽装問題などでガバナンスが崩壊した三菱自を日産が救う形で3社連合が形成された格好だ。

車体プラットフォームの共通化やOEM供給による相互販売などで相乗効果を発揮してきたが、近年は最先端分野における研究開発でも協業を深化させており、競争力と収益性向上に向け2020年に発表したビジネスモデルにおいては、自動運転(運転支援技術)開発分野やコネクテッド技術における中国市場向け開発を日産、アンドロイドベースのプラットフォームや電気電子アーキテクチャのコアシステム開発をルノー、C・Dセグメント向けPHEVの開発を三菱自がそれぞれリーダーとして役割を果たしていくことなどに合意している。

スタートアップへの投資にも積極的

アライアンスは2018年、車両の電動化や自動運転システム、コネクテッド技術、AIといった新しいモビリティに焦点を当てたテクノロジーの成長・獲得を目的に、最大10億ドル規模のベンチャーキャピタルファンド「Alliance Ventures」を設立した。

これまでに、自動運転開発を手掛ける中国WeRideをはじめ、催場0セキュリティ開発を手掛けるUpstream Security、マルチモーダル輸送モバイルアプリを開発するTransit、スマート充電V2Gテクノロジープラットフォーム開発などを手掛けるやThe Mobility House、AI向けプロセッサ開発を手掛けるKalrayなど12社に出資を行っているようだ。

■【まとめ】日産のリーダーシップに注目

開発分野においては、これまで車体プラットフォームなどハード面での取り組みが多数を占めていたが、ソフト面にも注力し、電動化とともに自動車のコンピュータ化・コネクテッド化を促進していく流れだ。カルロス・ゴーン氏の問題で大きく揺れたかのように思われたアライアンスだが、その結び付きはより強固なものとなっているようだ。

今回の発表では自動運転領域における踏み込んだ内容はなかったが、自動車のコンピュータ化・コネクテッド化は、当然ADASや自動運転技術の搭載・進化に結び付いていく。ADAS領域でリーダーシップを発揮する日産が、アライアンスにおいてADAS、ひいては自動運転技術をどのように浸透させていくか、こちらも注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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