車が「誤認識しやすいロゴ」、ランキング1位は?事例など踏まえ独自分析

天下一品や百均ロゴ、ENEOSのマークも?



ADAS(先進運転支援システム)の一機能として知られる標識認識機能。運転をサポートする機能としての認知度は低いが、近年にわかにSNSで注目を浴びている。


その理由は「誤認識」だ。標識と別のものを進入禁止や最高速度と間違う様子がウケてしまい、誤認識事例が相次いでSNSに上がっているのだ。

実際、どういった誤認識案件が上がっているのか。SNSにおける話題性や誤認可能性などを自動運転ラボが独自に分析し、ランキング化してみた。

■8位:県道などの番号標識→最高速度標識

県道番号標識を最高速度に誤認識

2つの画像はイメージ=出典:(左)小石川人晃/wikipedia(CC BY-SA 3.0 DEED)

レアケースな気がするが、実際に誤認識した事例が出ているため、県道60号線(茨城県)の標識を8位にランクインした。マツダ車が、同標識を最高速度標識に誤認識するという。

都道府県道を示す標識は、青地の六角形に白抜きで「県道 数字 都道府県名」が縦3列で記載されている。一方の最高速度標識は、丸い赤地の外枠で中は白抜きされており、青地で速度示す数字が記載されている。


色も形も違うが、間違ってしまったものはしょうがないのでランクインさせた。なお、この事例を考慮すると、国道番号を示す標識も危うい。こちらは丸みを帯びた逆三角形のような形状をしている。50号線や60号線、100号線といった速度標識に多い数字と一致するものは、注意が必要かもしれない。

【参考】県道60号線の標識については「似てる?マツダ車、道路の番号標識を「制限速度」と勘違い」も参照。

■7位:ピザハット→車両進入禁止

赤い丸×白抜き柄が車両進入禁止に類似……

世界最大級のピザチェーン店ピザハットの企業ロゴも車両進入禁止の標識と高い類似性を有する。


同社のロゴは、赤地の丸枠の中に白抜きで「屋根」が描かれたものだ。近年は、屋根の下に白抜きで「Pizza Hut」と書かれたものが多い。この赤い丸×白抜き柄は、車両進入禁止の標識と同じパターンと言える。特に文字が入っていないロゴタイプは誤認識してもおかしくないはずだ。

実際に誤認識した事例は見受けられないが、他社の事例を参照し「ピザハットも誤認するかも」……と疑問視する声がSNSで散見される。

なお、この白抜きの絵柄や企業名について、「ハット=帽子」と誤認識している人も多そうだ。「Pizza Hut」が示す通り、「Hut=屋根」を表している。創業者が店をオープンする際、看板には8文字分のスペースしかなく、「Pizza+3文字」しか入らない。悩んだあげく、店が山小屋に似ていたことから「Hut」を加えたという。

■6位:太陽生命→車両進入禁止

ポテンシャルが高い太陽生命

誤認識情報は目にしていないが、企業ロゴが持つポテンシャルを考慮し、太陽生命を6位に位置付けてみた。

同社の企業ロゴは、横長のやや楕円系で、赤地に白抜きで波形のグラフィックが3本入っている。太陽が水平線から昇る姿が水面に映し出されている様子をイメージしたものだそうだ。

素敵なロゴだが、標識認識機能がそれを評価してくれるとは限らない。車両進入禁止の標識との類似性は否定できないためだ。

比較的同社の看板はビルの高いところに位置していることが多く、もしかしたら自動車のセンサーが及んでいないだけの可能性もある。センサーの検知範囲内の看板が増加すれば、結果は変わってくる気がする。大幅ランクアップのポテンシャルを有しているのではないだろうか。

■5位:ガスト→車両進入禁止

ガストの看板も車両進入禁止と認識

ファミレスチェーン「ガスト」の看板も、車両進入禁止と誤認されたようだ。ガストのロゴ・看板は、丸い赤枠の中に黄色で「Caféレストラン」、そしてその下に白抜きで大きく「ガスト」と記載されている。

なるほど、目を細めて遠くから見れば、赤枠の中に白線が引かれているように見えなくもない……。実際、ホンダセンシングはこのロゴを車両進入禁止と認識してしまったようだ。

【参考】ガストのロゴについては「ガストのロゴ、ホンダ車が「進入禁止」と勘違い」も参照。

■4位:キャンドゥ→最高時速100キロ

「100円」をイメージしたロゴが最高速度に……

2024年に入って台頭してきたのが「100均ロゴ」だ。100円ショップ各社の企業ロゴに付随する形で掲げられた「100円」をイメージした丸いロゴが「最高時速100キロ」の最高速度標識に誤認識されたというのだ。

セリアとキャンドゥがこの「100円ロゴ」をよく用いている。悩ましいが、両社のうちキャンドゥを4位としたい。

最高速度を示す標識は、外枠が赤色で中は白抜きになっており、青地で速度示す数字が記載されている。一方、キャンドゥはオレンジ系の外枠を丸く白抜きし、100円玉をモチーフにした図柄を採用し、企業ロゴなどと一緒に店頭に表示している。

白抜きに対する数字のサイズ感と、外枠を含めた大雑把な色合いが似ていると言える。

【参考】キャンドゥのロゴについては「100均のCanDoのロゴ、ホンダ車が「100キロ制限」と誤認識か」も参照。

■3位:セリア→最高時速100キロ

色味以外は最高速度標識に類似?

キャンドゥを抑えて3位に推したいのが、セリアの「100均ロゴ」だ。セリアもキャンドゥ同様、企業ロゴに付随する形で100均ロゴを掲げていることが多い。

セリアの100均ロゴは丸く、外枠を茶色、中を白抜きとしている。この白抜きの中に、茶色で「100」と記載している。外枠の茶色部分には、白抜きで「100 YEN GOODS * COLOR THE DAYS*」と文字が入っている。

繰り返すが、最高速度を示す標識は、外枠が赤色で中は白抜きになっており、青地で速度示す数字が記載されている。

セリアのマークは、配色こそ違うものの外枠と白抜きのバランスや数字のサイズ感などが非常に酷似している。外枠内の文字がなく、色合いを変えれば最高速度標識に限りなく似たものとなりそうだ。

【参考】セリアのロゴについては「100均のセリアのロゴ、日産車が「100キロ制限」と誤認識」も参照。

■2位:ENEOS→車両進入禁止

遭遇率が高いENEOSも車両進入禁止

意外かもしれないが、ENEOSの看板・ロゴを車両進入禁止と誤認識する例も多い。SNSに上がっている報告件数では、おそらく1位に次ぐ数になるものと思われる。

「なぜENEOSが?」と思う人も多いのではないか。ENEOSの看板は基本的に四角いからだ。しかし、その絵柄をよく見ると誤認する原因が理解できる。

同社のロゴは四角いものの、その柄には赤~オレンジ系の渦状のデザインが施されており、その真ん中に白抜きで「ENEOS」と記載されている。この渦を円と認識すれば、赤い丸の中に白線が描かれている…と見えなくもない。少なからず、誤認する理屈は理解できる。

実際、日産プロパイロットやスズキのADAS「スズキセーフティサポート」などにおいて誤認識した事例が続々とSNSに投稿されている。

全国のロードサイドにくまなく立地し、自動車の利用が多いENEOS。誤認のしやすさはガストなどと変わらぬものと思われるが、その遭遇率の高さなどからこの分野では目立つ存在となってしまったようだ。

■1位:天下一品→進入禁止

不動の1位はあのラーメンチェーン

出典:Flickr / Tatsuo Yamashita (CC BY 2.0 DEED)
https://www.flickr.com/photos/yto/25702110213/

堂々のランキング1位は、ラーメンチェーン「天下一品」の企業ロゴだ。車両進入禁止の標識と色、形とも酷似しており、誤認識の草分け的存在としても知られる。現時点では不動の1位と言っても過言ではないだろう。

同社のロゴは、赤い丸枠の中に筆で描いたような「一」の字が白抜きで刻まれている。一方、車両進入禁止の標識は、赤い丸枠のなかに白抜きで太い「一」の字のような横線が入ったものだ。色合いや白抜きのバランス具合などが絶妙に酷似しており、肉眼でも遠めに見れば見間違ってもおかしくないほどだ。

この天下一品の店舗付近を通りがかったホンダ車のオーナーが、インストルメントパネルに「車両進入禁止」の標識が表示されているのに気付き、SNSに投稿した。

これに興味を示した他のホンダ車オーナーも検証に加わり、マイカーで天下一品を訪れ「ホンダセンシング、天下一品に入れない(笑)」といった投稿が相次いだ。この波は日産のプロパイロットなどにも及びお祭り状態となり、標識認識機能における誤認識の火付け役となったのだ。

その後、時を経て2024年にローソンが「天下一品こってりフェア」を開催したことでブームは再燃することになる。全国数多のコンビニ店頭に設置された天下一品フェアのノボリやポスターなどに掲載された天下一品の小さなロゴに標識認識機能がしっかりと反応してしまったのだ。

誤認識報告件数は群を抜いて多い。また、多くの人が「これは仕方ない(笑)」と感じるほど酷似しているのも事実で、標識認識機能のラスボスといえる絶対的存在となっている。

今のところ天下一品を脅かす存在は現れておらず、おそらく誰もが認めるランキング1位ではないだろうか。

【参考】天下一品のロゴについては「天下一品のロゴ、ホンダ車が「進入禁止」と再び誤認識」も参照。

■標識認識機能の概要

識別可能な標識は3~4種類?

標識認識機能(ロードサインアシスト)は現在、自動車メーカー各社のADASに広く搭載されている。

道路標識そのものは軽く100を超える種類が存在するが、標識認識機能は「最高速度標識」「一時標識」「車両進入禁止標識」を対象としている。一部、「はみ出し通行禁止標識」にも対応している。

現状、対象とする種類が少ないため誤認識の事例も最高速度標識や車両進入禁止標識に集中する結果となっている。仮に現在の識別水準のまま対象標識を増加させた場合、まちのあちこちで誤認識が相次ぐ可能性がありそうだ。

多くのモデルは、フロントガラス上部等に搭載したカメラで標識を検知・識別し、これをメーターなどが表示されたインストルメントパネルのディスプレイなどに表示する。さりげなくドライバーへ注意を促す機能だ。

なおプロパイロット2.0のように、ハンズオフ運転時、検知した最高速度を実際の車速に反映する機能を備えたモデルも登場し始めているが、大半はディスプレイ表示やアラートに留まるため、誤認識したとしても運転への影響はほぼない。

それゆえ、自動車オーナーの多くは誤認識を「おもしろ要素」として捉え、SNSなどで盛り上がっているわけだ。

自動車制御との連動で大幅アップグレード?

近い将来、プロパイロットのように自動車制御と連動し始めた場合、これまでのお祭り騒ぎは違う意味でのお祭り騒ぎとなる。

例えば、国道を走行中、ロードサイドの天下一品やENEOSなどの看板・ロゴを車両進入禁止標識と誤認識して急ブレーキをかける可能性がある。また、百均ショップの駐車場でいきなり時速100キロまで加速し始めることも考えられる。思わぬ事故を誘発する可能性が浮上し、リコールレベルの騒ぎとなるだろう。

こうした点を踏まえると、自動車メーカー各社が自動車制御と連動した機能を搭載する際は、標識認識機能も大幅にアップグレードされたことになる。同機能がアダプテッドクルーズコントロールなどに付加されると利便性が大きく増すことは間違いないだろう。

コスト面が足かせ?進まぬアップグレード

各社の技術としては、本質的に上記の標識を正しく認識する水準に達しているものと思われる。ただ、現状ADASの一機能としては搭載を見送っているだけではないだろうか。

各社が自動運転開発を推進していることは周知の事実であり、その技術水準を考慮すれば、標識の識別は初歩レベルのものと言える。ランキング1位の天下一品を車両進入禁止と判断していては、自動運転どころの話ではなくなるのだ。

では、各社はなぜ標識認識機能の精度を上げないのか。憶測だが、コスト面が大きいのではないだろうか。量産車に搭載しているカメラと、自動運転車に搭載しているカメラやLiDARなどは性能そのものが異なり、自動運転対応レベルのセンサーを搭載するとコストが跳ね上がるためだ。

レベル2+相当となるハンズオフ機能搭載モデルであれば費用対効果が認められるかもしれないが、それ以外であればユーザーに割高に感じ取られてしまう恐れがある。であるならば、今しばらくは現状を維持しようと考えてもおかしくないだろう。

自動運転においては標準化も必須に?

なお、自動運転に関しては、米国などで自動運転車両に対応した標識などの標準化を検討する動きが出ている。米国の道路標識はMUTCD(統一道路交通施設マニュアル)で標準化されており、この改訂時(2019年)に向け、文字標識の制限など自動運転車両が判別しやすい標識について議論する――といった内容だ。

最終的にどのような案が盛り込まれたかは不明だが、文字標識の制限や使用する際の表記の標準化、ピクトグラムの利用、赤外線読み取り式バーコードの埋め込み、自動運転車が容易に認識可能な可変式標識やメッセージ要件――などが議論されたようだ。

自動運転においては、道路標識の検知・識別は重要な要素となる。誤認識を誘発するセキュリティ対策を含め、こうした分野でも国際標準化を推し進める必要がありそうだ。

■【まとめ】自動車制御と連動で高精度化必須に?

現段階においては、やはり天下一品がランキング1位となった。誤認識ブームの火付け役からは、もはや絶対王者の風格が漂っている。

このように、誤認識を楽しめる状況はいつまで続くのか。先に触れたように、自動車制御と連動するならば高精度化は欠かせない。自動運転であればなおさらだ。

どこかの段階で本格的にADASや自動運転に組み込まれることになるだろう標識認識機能。各社が改善に向け本腰を入れるよう、尻を叩く意味で今しばらく燃料を投じたい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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