100均のCanDoのロゴ、ホンダ車が「100キロ制限」と誤認識か

「100円玉モチーフ」のロゴが新たな天敵に?



ホンダセンシングの標識認識機能に新たな誤認識疑惑が浮上した。100均大手キャンドゥだ。同社の企業ロゴに付された「100均」を示すロゴを時速100キロの速度制限標識と認識してしまうようだ。


ホンダセンシングをはじめ、各社のADAS(先進運転支援システム)の一機能として搭載されている標識認識機能が誤認識する素材は、まちのあちこちに潜んでいるようだ。中には、何を基準に標識を識別しているのか……と問いたくなるようなものもある。

まだまだ誤認識素材が出てきそうな標識認識機能の今に迫ってみよう。

■標識認識機能の新たな誤認識

100円玉モチーフのロゴを誤認識

SNS「X」上では、新たに「ワシの車が近所の100円ショップの看板を100キロの速度制限標識と誤認識しやがる」や「なんか100km/h制限の標識を車載器が誤認識した事件があって、現場を確認したらあっ😂 高速道路の終端部の突き当たりでこれは致命的かもしれない」――といった文章とともに、キャンドゥの看板が投稿された。


キャンドゥの企業ロゴの脇に、100円玉をモチーフにしたようなロゴが据えられており、これを速度規制標識に誤認してしまったようだ。片方の投稿には、ホンダ・ヴェゼルのメーターと思われる画像も添付されている。

過去には、同様に日産オーナーが100円ショップのセリア(Seria)の看板を誤認識した事例も判明している。「100均」をモチーフにした、丸枠の中に100の数字を入れたロゴは、各社の標識認識機能の天敵となり得るようだ。

【参考】過去の誤認識については「100均のセリアのロゴ、日産車が「100キロ制限」と誤認識」も参照。

火付け役は天下一品の企業ロゴ

ロゴマーク誤認識の火付け役は、ラーメンチェーン大手の天下一品だ。同社の企業ロゴは、赤い丸枠の中に筆で描いたような「一」の字が白抜きで刻まれており、「車両進入禁止」の標識と非常に酷似しているのだ。

ホンダセンシングに限らないが、このロゴに敏感に反応した標識認識機能がインパネに「車両進入禁止」を表示し、それに気づいたオーナーがSNSに「天下一品に進入できない(笑)」――といった感じで投稿してプチお祭り騒ぎとなった。


その後数年が立ち、2024年にローソンが「天下一品こってりフェア」を開催したことで巷に天下一品のロゴがあふれることとなり、標識認識機能の誤認識に再び注目が集まる格好となった。

また、「うちのクルマは○○にも反応する」――といった形で誤認識そのものの注目度が高まった様子で、その祭りが100均などにも派生し始めているのだ。

【参考】天下一品のロゴ誤認識については「天下一品のロゴ、ホンダ車が「進入禁止」と再び誤認識」も参照。

誤認識は意外と多い?

このほか、マツダ車では、道路の番号標識と最高速度標識を誤認識する事例も出ているようだ。青地に白抜きで「県道 60 茨城」などと記載された六角形の標識を、「最高速度時速60キロ」と認識してしまうという。ここまでくると、もはや「何を基準に識別しているのか?」と問いたくなるレベルだ。

現在、多くのクルマに標識認識機能が搭載されているが、おそらく大半のオーナーはこの機能を気にかけていない。インパネのディスプレイに標識が小さく映し出されても、気づかず、あるいは気にせず走行しているのではないだろうか。

あなたのクルマも、知らず知らずのうちに誤認識を繰り返しているのかもしれない。

【参考】マツダ車の誤認識については「似てる?マツダ車、道路の番号標識を「制限速度」と勘違い」も参照。

各社はなぜかアップデートせず?

こうした誤認識が最初に話題になってから数年経過しているが、特に標識認識機能の改善は図られていないように感じる。最新モデル・最新バージョンのクルマやADASの状況は不明だが、少なからず旧モデルに関してはアップデートされていないようだ。

車載通信機の搭載が始まった以後の新しいモデルであれば、ソフトウェアアップデートをOTAで容易に行うことができる。しかし、それ以前のモデルであれば基本的にメーカー対応となり、ディーラーなどに持ち込む必要がある。場合によっては、センサーとなるカメラの交換なども必要かもしれない。

現行の標識認識機能はあくまでオマケ的な機能であり、精度に問題があっても特段安全を害するものではない。それゆえ、アップデートには消極的になっているのかもしれない。

各社の技術は向上しているはずなのに……

そもそも技術的に改善可能なのか?――といった疑問も出てきそうだが、各社のセンシング技術はリアルタイムで向上し続けており、少なからず100均ロゴを誤認識するレベルから抜け出せていないことはないはずだ。

後述するが、こうしたセンシング技術は高度なADASや自動運転で必須となる主要技術だ。自動運転レベル3を達成済みのホンダをはじめ、早くからADAS高度化に力を入れていた日産などが、100均ロゴを誤認識するレベルでハンズオフ機能やレベル3を実用化できるわけがない。

こうした点を踏まえると、やはり各社は標識認識機能の改善を後回しにしているのかもしれない。

■標識認識機能の未来

近い将来自動車の制御と連動?

標識認識機能は、車載カメラなどのセンサーが道路標識を検知し、識別した標識をインパネやヘッドアップディスプレイに表示してドライバーへ注意を促す機能だ。全ての標識に対応しているわけではなく、多くは速度制限や一時停止、車両進入禁止など主要な標識のみを対象にしている。

現行ADASにおいては、ドライバーに注意を促すアラート機能にとどまるが、一部のADASでは検出した制限速度を設定車速に反映する支援機能なども出始めている。

このように、標識認識機能が高度化すると、自動車の制御支援に応用することができる有力な機能だ。例えば、一時停止の標識を認識したものの、車両が一定速度を保ったまま該当場所を走行しようとした場合、衝突被害軽減ブレーキ同様自動でブレーキをかけて車両を制御する……といった具合だ。

自動運転では必須の技術

自動運転でも同様だ。道路わきに設置された交通標識を漏らさず認識・識別し、その指示に準じた走行を行う。

多くの自動運転システムは高精度3次元地図を併用しており、最新の交通標識が反映されたデジタルマップを使用しているため直接カメラで標識を認識する必要はないとも言えるが、カメラと地図の両方で標識を確認することで精度を高めることが可能になる。

高精度3次元地図を使用しない自動運転システムの場合は、センシング技術で確実に標識を検知・識別しなければならない。ドラレコに使用される地図でも交通標識の網羅は可能だが、自車位置とのずれが発生する懸念があるため、カメラなどの車載センサーでしっかり標識をとらえる必要がある。

標識認識は意外と難易度が高い?

自動運転では、標識をはじめ、周囲を走行する車両や歩行者、自転車、道路上の障害物、信号機など、あらゆるものをリアルタイムで検知・識別しなければならない。動きがあり、さまざまな形状をした車両や歩行者などを検知するよりも、微動だにしない標識を検知する方がかんたんに思われるが、意外と一筋縄ではいかないようだ。

標識は一般的に薄っぺらく、角度によって見え方が変わりやすい。また、光の反射の影響も受けやすい。街路樹などで一部が隠されているケースや、汚れや変形で正しく認識しづらいケースもある。

何より、種類が豊富だ。国土交通省の「道路標識一覧」を見ると、最高速度や車両進入禁止などの規制標識は67種類、停止線や横断歩道などの指示標識は14種類、幅員減少や踏切ありなどの警戒標識は27種類、日曜・休日を除くやこの先100mなどの補助標識は31種類あり、それぞれ派生形も存在する。このほか、都府県や高速道路入り口の方向、駐車場などを示す各種案内標識もある。

人間が識別しやすいよう、例えば警戒標識は黄色地に黒で矢印などが示されている。規制標識は赤地、あるいは青地に白抜きといった具合で統一されているが、コンピューターにとっては区別しづらいため識別しづらい要素になり得る。

さらに言えば、世界の国々においても統一されていない。ウィーン条約やジュネーブ条約により道路標識に関する国際ルールが定められているものの、その形状などにバリエーションを認めるなど緩めの基準となっているため、そのパターンは非常に多い。

たかが標識と思えども、100%正確に識別するのは高度なセンシング技術が必要となるのだ。

偽標識を見抜けるか?

ローソンの「天下一品こってりフェア」では、のぼりに小さく記された天下一品のロゴなどにも標識認識機能が敏感に反応していた。

海外では、「STOP」を示す道路標識をプリントしたTシャツを身にまとい、自動運転車の反応を試す試みも行われたようだ。

出典:Instagram@jasonbcarr

【参考】Tシャツ実験については「Googleの自動運転車、Tシャツの「STOP」絵柄に騙される」も参照。

グーグル系Waymo自動運転タクシーをターゲットに行われた実験では、4回中3回Waymoの車両は一時停止してしまったという。

いたずらレベルの取り組みに思われるが、結構深刻な問題を指摘する格好となった。道路標識を正確にコピーしたTシャツや看板、のぼりなどを設置すれば、自動運転車は容易にそれを誤認識してしまう恐れがある。

素材や設置位置などで区別することもある程度できそうだが、識別難易度は格段に跳ね上がる。

過去には、米ワシントン大学の研究チームが道路標識にシールを貼ってセンサーやAI(人工知能)を誤認識させる実験を行っている。実験では、「停止」の標識を「速度制限」と認識させることに成功したという。

シンガポールの南洋理工大学も、道路標識にLEDで特定のパターンの光を当てることでセンサー・AIを誤認識させることに成功しており、自動運転車を対象とした攻撃に警鐘を鳴らしている。

【参考】南洋理工大学の実験については「自動運転車にLED攻撃、標識の認識を「無効化」 脆弱性が浮上」も参照。

こうした点を踏まえると、将来の自動運転車は物理的な道路標識認識機能に依存しない方が良いのかもしれない。デジタルマップなどに常に最新の標識情報を蓄え、これと統合させながら走行する仕組みだ。デジタルマップに記載のない道路標識は「怪しい存在」としてマークし、情報共有を進めていくような形だ。

■【まとめ】天下一品のロゴを登竜門に?

標識認識機能の誤認識は現在「面白い話題・ネタ」として注目されているが、そろそろ各社とも本気でアップデートを図らないと、技術水準を疑われるようなことになりかねないのでは……と心配が尽きない。

100均ロゴはもちろん、まずは天下一品のロゴを登竜門に据えてこれをクリアできる水準を目指し、「うちのクルマは天下一品を識別できます!!」とアピール合戦を繰り広げ、競争しながら技術向上を図ってほしく思う。

【参考】関連記事としては「ホンダセンシング、標識の「勘違い事例」をまとめてみた」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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