ホンダセンシング、標識の「勘違い事例」をまとめてみた

進入禁止は「天下一品」にとどまらない!?



出典:Flickr / Tatsuo Yamashita (CC BY 2.0 DEED)
https://www.flickr.com/photos/yto/25702110213/

ADAS(先進運転支援システム)の一機能「標識認識機能」がSNS上で小さなお祭り状態となっている。ホンダセンシングがラーメンチェーン「天下一品」の企業ロゴを「車両進入禁止」の道路標識に誤認識したことに端を発し、「うちのクルマは〇〇を誤認する」……といった報告が相次いでいる。

現状、自動車メーカー各社の標識認識機能はどのようなものとなっているのか。各社のシステム概要とともに実例を紹介していこう。


■メーカー各社の標識認識機能

ホンダの標識認識機能

ホンダのADAS「Honda SENSING」に備わっている標識認識機能は、システム(カメラ)が道路標識を認識し、一時停止や進入禁止は標識の手前、最高速度やはみ出し禁止は標識通過時など適切なタイミングでディスプレイ表示し、ドライバーに注意を促す。

システムが正常に作動しない場合があるケースとしては、以下が挙げられている。

  • ①標識が自車から遠く離れた位置にあるとき
  • ②カーブの先に標識が設置されているとき
  • ③標識が明瞭に見えないとき

③に関しては、色あせた標識や街路樹などで一部が隠れている標識、ヘッドライトの光が届きにくい位置にある標識が挙げられているほか、誤表示例として、のぼり旗や看板など標識と類似したものや、トラック背面のステッカーが挙げられている。

以前は、看板の例として「中華そば」の看板を掲載していたが、これは削除したようだ。


▼標識認識機能|安全運転支援システム Honda SENSING|Honda公式サイト
https://www.honda.co.jp/hondasensing/feature/srf/

出典:ホンダ公式サイト

トヨタはロードサインアシスト機能を搭載

トヨタは、「Toyota Safety Sense」にロードサインアシスト(標識読み取りディスプレイ)機能を搭載している。

ヤリスの取扱説明書を参照すると、最高速度、車両進入禁止、一時停止、はみ出し通行禁止などを検知する。ドライバーが制限速度を超過して走行しているとシステムが判断した場合、告知表示やブザー音で警告する機能も備えている。

機能が作動しない状況としては、先行車両後部のステッカーや標識と類似したものを認識したときなどが示されている。


日産は制限速度支援機能も

日産のADAS「プロパイロット」における標識検知機能では、進入禁止標識、一時停止標識、最高速度標識を検知し、ディスプレイに表示する。ナビゲーションシステム搭載車両では、新しく最高速度標識を検出した場合、新しい速度を自動または手動で設定車速に反映する制限速度支援機能もあるようだ。

正常に検知できないケースについては、ホンダセンシング同様一部が隠れた標識などが示されている。「標識色、形に似たものが周辺にあるとき」の例としては、消火栓標識が例示されている。

▼標識検知機能に関する注意事項
https://www.nissan.co.jp/OPTIONAL-PARTS/NAVIOM/SAKURA_SPECIAL/2206/index.html#!page?ke0j1-b898c60e-9780-454f-8255-7b293fe1ac16

メーカー各社は標識認識機能を軽視?

多くの場合、検知した標識をディスプレイに表示し、場合によってはアラートを発する機能のため、仮に誤認識したとしても走行する上での実害はほぼないと言える。そのため、誤認識に遭遇したドライバーの多くがこれを「ネタ」として楽しむ余地があるのだろう。

メーカー各社も、あくまでアラートを発するレベルの機能と考え、特段のアップデートを図っていないように感じる。また、認識精度を厳格に高めれば高めるほど認識の誤差がなくなり、少しだけ汚れた標識なども認識しなくなりかねない。

こうした認識システムには、一定の誤差を許容する「遊び」が必要となるが、この遊びを絶妙に設定するのは意外と大変だ。標識そのものに誤差を許容しつつ、類似したオブジェクトは「違うもの」と認識しなければならない。AIを活用したパーセプション技術をしっかりと磨かなければならないのだ。

自動運転では誤認識は許容されない

今後、プロパイロットの制限速度支援機能のように、検知した標識の内容を車両制御に反映するシステムが増えていく可能性があるが、制御と連動させる場合は認識精度を高めなければ危険性が増す。

例えば、ハンズオフ運転を可能とする自動運転レベル2+などと連動させた場合、車速を標識に合わせて随時変更していくことが考えられる。一方、ドライバーは周囲の常時監視義務があるとはいえ、ハンズオフシステムに慢心して速度標識を見落とす可能性が通常時と比べ高まる。こうした中、誤認識によりいつの間にか制限速度と異なる速度で走行していた……ということも考えられる。

また、前走車後部のステッカーなどを「止まれ(一時停止)」と誤認識し、自動でブレーキをかける可能性なども考えられるだろう。運転支援が高性能であればあるほどドライバーがその誤認識に気付くのも遅れがちとなる。こうした認識機能が自動車の制御と結びつくと、ドライバーには特段の注意が必要になるのだ。

一定条件下で自動運転を実現するレベル3になると、こうした誤認識は許されないものとなる。ドライバーは常時監視義務を負わず、システムから要請があった場合に運転操作に戻ればよい状態だ。

こうした状況下でシステムが誤認識し、間違った認識のもと車両を制御したとしても、ドライバーは基本的に気づくことはない。事故やトラブルが発生した際も、イベントデートレコーダーを確認するまで原因に気付かない可能性も高いだろう。

自動運転にこうした標識認識機能を活用するには、絶対的な精度が必要不可欠となる。メーカー各社ともすでに自動運転に対応したパーセプション技術を有しており、この技術をADASに落とし込むことも可能と思われるが、その場合コスト増も避けられず、よって現状はゆるゆると認識機能を提供しているのかもしれない。

■誤認識の事例

各社を惑わす天下一品

道路標識誤認問題で最もメジャーなのは、ホンダセンシング×天下一品だ。この組み合わせは早くから度々報告されており、複数メディアでも取り上げられている。ホンダ車が天下一品のロゴを「車両進入禁止」の標識に読み違えるのだ。

車両進入禁止の標識は、赤地に白抜きで横棒を入れた丸い標識だ。一方、天下一品のロゴは、赤地の丸枠の中に漢数字の「一」を筆で描いたような柄が白抜きで刻まれている。

遠目には、人間が見間違えてもおかしくないほど「車両進入禁止」に酷似しているため、「これは仕方ない(笑)」……といった具合で話題となった。

なお、ホンダ以外のADASでも誤認識は確認されているが、SNS上ではなぜかホンダ車が他を圧倒していた。

誤認識ブームは下火となっていたが、2024年2月にローソンが「天下一品こってりフェア」を開催したことで再びプチブームが到来した。コンビニ店舗に掲げられたフェア用のノボリやポスターなどに掲載された天下一品ロゴを、ホンダセンシングが見逃すことなく検知したためだ。

コンビニ店舗は数が多いため遭遇率が高まり、「ローソン、進入禁止だそうですw」「これが噂のw」……といった投稿がSNSに相次いだ。ほぼすべての投稿が誤検知を糾弾するものではなく楽しんでいるため、ある意味ローソンや天下一品にとっては良い宣伝になっているのかもしれない。

【参考】ホンダセンシング×天下一品については「天下一品のロゴ、ホンダ車が「進入禁止」と再び誤認識」も参照。

ガストやENEOSも……?

こうした投稿を受け、SNSには他の誤検知情報も寄せられ始めている。あるホンダオーナーは「ガストもなるで」と投稿した。

ガストの看板は、丸い赤地に白抜きで「ガスト」の文字が入っており、その上部に黄色で「Caféレストラン」と記載されている。天下一品には及ばないものの、目を細めれば標識に見えないこともない……。

また、日産のプロパイロットがENEOSのロゴを誤認識したこともあったようだ。ENEOSのロゴは四角いが、赤系の渦柄に白文字で「ENEOS」と入っている。渦部分を赤丸に認識すれば、これを車両進入禁止と読み違えることもできるかもしれない……。

「ああ、確かに」……と思えるほど酷似しているわけではないが、間違うための理屈は理解できるような気がする。

このほか、太陽生命の看板を誤認識した例もあったようだ。同社のロゴは赤地のやや楕円系で、白抜きで波形のグラフィックが3本入っている。太陽が水平線から昇る姿が水面に映し出されている様子をイメージしたものだそうだ。

赤い丸型に白抜きの文字や柄を入れたロゴを使用している企業は、「進入禁止」に誤認される覚悟が必要なのかもしれない。今のところ報告は上がっていないが、ピザハットなども注意を払う必要がありそうだ。

【参考】ガスト誤認識については「ガストのロゴ、ホンダ車が「進入禁止」と勘違い」も参照。

「100円」をPRするマークも標的に……?

標識の誤認識は、車両進入禁止にとどまらない。最高速度、特に「時速100キロ」を誤認するケースも出ている。

最高速度を示す標識は、丸枠の外側が赤字で中は白抜きとなっており、そこに青色で最高速度が示されている。100キロの場合は「100」の数字が刻まれているが、これに類似したロゴが巷にあふれているのだ。

その代表格が「100均」だ。ダイソーやキャンドゥ、セリアなど各社のロゴは標識とはまったくの別物であり誤認識されないが、「100円均一」であることを示すロゴが付されていることが多く、このロゴを車載カメラが目ざとく認識するようだ。

例えば、セリアは企業ロゴの看板に100均ロゴを付しているケースが多い。丸枠の外側は茶色で、白抜きの中に「100」の文字が入っている。これを「最高速度100キロ」と認識するケースだ。これはスバル車などでも確認されているようだ。

この速度制限誤認識は、もしかしたら回転寿司でも発生するかもしれない。「一皿100円」をPRするロゴ・マークを誤認識する可能性が考えられるためだ。

100円や50円などを売りにする企業も、ロゴやマーク次第で誤認識を覚悟しなければならないのかもしれない。

【参考】関連記事としては「100均のセリアのロゴ、日産車が「100キロ制限」と誤認識」も参照。

マツダ車は「県道60号線」を「60キロ」

このほか、マツダ車が「県道60号線」の標識を「最高速度60キロ」と誤認識するケースも報告されている。県道60号線の標識は、六角形の青地に白抜きで「県道」「60」などの文字が記載されているものだ。

最高速度標識とは色も形も異なるため、共通点はもはや「60」の数字しかない。ここまでくると、さすがに何を基準に道路標識を識別しているのかが気になるところだ。

【参考】マツダ車の誤認識については「似てる?マツダ車、道路の番号標識を「制限速度」と勘違い」も参照。

WaymoはプリントTシャツにだまされる

米国では、「STOP」という道路標識をプリントしたTシャツを着込み、グーグル系Waymoの自動運転車がどのような反応を示すか検証した動画もアップされている。

結論から言うと、Waymoの自動運転車はプリントされた道路標識を誤認識し、停止することとなった。天下のWaymoといえども、プリントした標識を見抜けなかったようだ。

悪意ある人がこうした行為を模倣する可能性を考慮すると、早急な対策が必要となる事案だ。自動運転車には、酷似したマークを識別する能力だけではなく、意図的に模倣したニセ標識を見破る能力も求められるのかもしれない。

【参考】Waymoの誤認識については「Googleの自動運転車、Tシャツの「STOP」絵柄に騙される」も参照。

■【まとめ】お祭り状態が続けばアップデートのきっかけに……?

上記のような誤認識の報告は、圧倒的にホンダが多く、日産が続いている状況だ。スバル、マツダ、スズキのオーナーも投稿している。たまたまか必然かは不明だが、トヨタはほぼ見かけない。

ADASにおける標識認識機能は、現段階においてはおまけレベルの機能にとどまるため、ユーザー目線ではネタ扱いして楽しむ余裕がある。しかし、開発メーカーサイドとしては笑えない事態ではないのだろうか。「自社の認識機能の誤認識が笑いの対象となる」ことは、パーセプション技術のレベルを笑われていることに他ならない。

こうしたプチ祭り状態がもう少し広がれば、各社が現行システムを見直し、アップデートを図るきっかけになるかもしれない。ADASの高度化や将来の自動運転化を見据えれば、こうした認識機能の向上も欠かせないものとなる。

その意味では、今しばらく「燃料」を投下し続けたほうが良いのかもしれない。

【参考】関連記事としては「自動運転の「トラブル事例」一覧(2024年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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