自動運転とフォールバック(2023年最新版)

レベル3・レベル4でも必要不可欠に



人間に代わってコンピュータが運転操作を行う自動運転技術。ドライバーは運転操作から解放される一方、コンピュータによる自動運転システムには高い安全性が求められる。


この安全性を高める1つの機能・手法に「フォールバック」というものがある。システムに異常が発生した際などにフォールバック機能が働くことで、自動運転車は急停止を行うことなく一定レベルの走行を継続することが可能になる。

自動運転に必須と言えるフォールバックとはどのようなものか、解説していく。

■フォールバックとは?
一部機能を制限しながらシステム稼働を継続

フォールバックは、日本語で「縮退運転」を意味する。システムに異常が発生するなど何らかの原因で通常の性能を発揮できなくなった際、一部の機能を制限(縮退)しながらシステムの稼働を継続することを指す。

例えば、走行中の自動運転車において、センサーの一部やECUの一部などに故障が発生し、100%正常な自律走行ができなくなった際、残ったセンサーやバックアップシステムなどで速度を制限しながら一定の走行を行う――といったイメージだ。


自動運転車は、何らかの異常を検出した際、その深刻度に応じて走行が継続可能かどうかを判断する。安全な走行に明らかな支障が出る場合は緊急退避措置として停止するが、致命的とまではいかない異常や一定のバックアップシステムが備わっている場合などは、機能を制限した縮退運転を行うことで、円滑な道路交通の維持や安全性を高めることができる。

緊急停止措置をとった場合、後続車の状況や道路環境によっては危険を伴う可能性があるため、異常を検知してもただちに停止措置をとるのではなく、残されたシステムや代替システムなどで一定の走行が可能であり、かつ停止するよりも安全を確保できると判断すれば、フォールバックを行ってより安全で運行に支障のない場所まで走行し続ける――といった選択肢を採用するのだ。

その意味で、フォールバックは自車両や周囲の安全を高めるための予備システムとも言える。

人間もフォールバックを行う?

制限される機能の代表例としては、速度が挙げられる。平時よりも低速走行を行うことでセンサーによる周囲の検知やAI(人工知能)の判断、自動車の制御に余裕が生まれるからだ。このほか、車線変更の制限なども考えられる。


こうした縮退運転は、人間のドライバーによる手動運転時にも意識せず行われている。豪雨や吹雪、強い西日などを受けた場合、ドライバーは平時よりも速度を落として慎重に運転操作を行う。

これらは外的要因だが、例えば運転中、片方の目にゴミが入って瞬きの回数が多くなった場合、重度であれば運転を停止するが、軽度であれば速度を落として目をこすり、走行を継続しながら様子を見ることもあるだろう。目のシステムに異常が発生した際の縮退運転と言える。

遠隔監視者による早期対応も可能に?

自動運転車が何らかの異常を検知し、フォールバックを行う場合、基本的にはその異常内容とともにフォールバックを行うことを遠隔監視者に通知する。

遠隔監視者は、通知された情報をもとに自動運転車のシステム状況や走行状況を把握し、バックアップシステムへの変更や走行停止判断、可能であればシステム復旧など必要な措置を講じる。

フォールバック機能が働くことで、自動運転車が完全に停止状態に陥る前に、遠隔監視者らが何らかの対応をとることが可能になる。この意味でもフォールバックは有効なのだ。

後続車無人隊列走行でもフォールバックは必要

フォールバックの例としては、高速道路における自動運転トラックの隊列走行が挙げられる。後続車無人システムの場合、有人の前走車両の挙動に合わせて後続車両を制御する電子牽引システムが採用されているが、前走車両と後続車両の間に他車両が割込む可能性が常に存在する。

他車両が割り込むと、前走車両との車間距離を伸ばさざるを得ず、協調走行・追従走行に支障が出る。こうした際、自動的に車速を一定速度以下に制限するなどフォールバック機能を有し、必要に応じてMRMに移行することが望ましいとされる。実際、後続車無人システムではこのフォールバックやMRM機能を重視した開発が進められているようだ。

レベル3ではフォールバック機能が運転引き継ぎを円滑に
レベル3が搭載されて発売されたホンダの新型LEGEND=出典:ホンダプレスリリース

フォールバックシステムは、自動運転レベル4だけでなくレベル3にも求められる。レベル3では、異常発生時のほか自律走行可能なODD(運行設計領域)を外れる際などにおいて、人間のドライバーに手動運転への切り替えを要請するテイクオーバーリクエストが発される。

ドライバーがこの要請に応じない場合、自動運転システムは走行継続が困難なため車両を安全に停止する制御に移行することになるが、一定のフォールバック機能を有することで、システムからドライバーへの引き継ぎ時間に余裕を持たせることが可能になる。

レベル3システムは、ODDを外れる少し前にテイクオーバーリクエストを発し、その後フォールバックシステムに移行すれば、ドライバーが運転操作態勢を整えるまでに猶予が生じ、スムーズかつ安全な引き継ぎを行うことができるのだ。

リスク最小化に向けた制御は「MRM」

関連する用語として、ミニマル・リスク・マヌーバー(MRM)などがある。MRMは、異常発生時など安全走行を継続できないと判断した際、路肩への停車など安全確保に向け最終的に車両が目指すための制御を指す。

異常発生時においてフォールバックができない場合、自動運転車はMRMへと移行する。なお、リスクを最小化するためMRMによって最終的に車両が目指す安全状態のことをミニマル・リスク・コンディション(MRC)という。

また、何らかのシステムに異常が発生した際、それに代わる代替システム・予備システムが存在し、こちらに切り替えて運行を続けることを「フェイルオーバー」、代替・予備システムから元のシステムに戻すことを「フェイルバック」という。

例えば、イスラエルのモービルアイが開発を進める自動運転システム「Mobileye Drive」は、ミリ波レーダーLiDARで構成する自動運転システムと、カメラのみで構成する自動運転システムの両方を備えている。

2つの自動運転システムをそれぞれ独立して機能させることができるため、片方のシステムに異常が発生しても、もう一方のシステムに切り替えることで自律走行を問題なく継続することができるという。高い冗長性を発揮することが可能で、フェイルオーバーの代表例と言えそうだ。

【参考】Mobileye Driveについては「業界最大4兆円IPOへ!Intel傘下Mobileyeの自動運転事業を徹底解剖」も参照。

■【まとめ】安全性や安心感を支える重要機能

レベル3をはじめとする自動運転において、フォールバックは有効かつ必然の機能であることが分かった。

フォールバック機能を有することは、自動運転システムの冗長性を高めることに直結するため、開発各社はフォールバック機能についても必然的に開発を進めている。

フォールバック機能が表立った話題となることは少ないが、こうした冗長システムが自動運転の安全性や安心感を支えているのだ。

【参考】関連記事としては「自動運転機能の市場化状況一覧(2023年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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