人やモノの移動・輸送を無人化する自動運転技術。人の移動においては自動運転バスやタクシー、モノの輸送においては自動運転トラックや自動配送ロボットなどの開発がそれぞれ進められている。
物流においては、ファーストマイル・ミドルマイル・ラストマイル(ラストワンマイル)といった具合に運搬の各過程が大別され、それぞれに適したモビリティを導入することで物流全体の最適化を図ることが求められる。
この記事では、ミドルマイルとラストマイルに焦点を当て、自動運転技術導入に向けた取り組みについて解説していく。
記事の目次
■ラストマイルにおける自動運転配送
小口多頻度化が進む宅配需要に自動配送ロボットが活躍
物流におけるラストマイルは、宅配に代表される配達先に至るまでの最終的な配送を指す。各エリアに設けられた物流倉庫や店舗から、各家庭など荷物の注文者に商品を受け渡すまでの区間で、多頻度小口配送を求められるケースも多い。
国土交通省によると、2021年度の宅配便取扱個数は49億5,000万個、メール便を含めると100億個超となっている。これに加え飲食店デリバリーのような類の需要も増えており、ラストマイル需要は留まるところを知らず伸び続け、ドライバー不足を深刻化させている。
こうした膨大な労力を補う技術が自動運転だ。主に歩道を走行する自動配送ロボット(自動宅配ロボット)の実用化が進められており、国内でも実証が加速している。
自動配送ロボットは、1個から複数個の荷物を積載し、歩行者並みの低速で数キロ以内のエリアを対象に歩道を走行して荷物を届ける。
2023年4月までに施行予定の改正道路交通法で新たに「遠隔操作型小型車」が定義され、自動配送ロボットもこの区分に含まれることとなる。改正法施行とともに社会実装を見据えた取り組みが一段と加速することとなりそうだ。
車体の大きさなどの明確な規定は今後発表されるものと思われるが、恐らく電動車いすと同等の最高時速6キロ、長さ120センチ、幅70センチ、高さ120センチ以内、動力に電動機を用いることなどの規定が適用される可能性が高い。
【参考】改正道路交通法については「【資料解説】自動運転レベル4を解禁する「道路交通法改正案」」も参照。
自動配送ロボット実用化に向けた取り組みは大きく加速中
海外では、自動配送ロボットのパイオニア的存在となっている米Starship Technologiesが米国や英国、ドイツなどですでに累計350万回超の配達を行うなど、本格実用化の段階に達している。
国内でも開発は加速しており、国内パイオニア的存在のZMPを皮切りに、スタートアップのHakobot、ティアフォー、パナソニック、ホンダ、川崎重工業など、新規参入が相次いでいる。
ZMPは2017年に「CarriRo Delivery(現DeliRo/デリロ)」を活用した実証を森ビルと共同で実施したほか、2018年にはローソンと慶應義塾大学SFC研究所とともにコンビニ商品の無人配送サービス実証も行っている。
公道実証環境が整った2020年以後も、日本郵便との国内初の歩道における輸配送実証や、ENEOSホールディングスとエネキャリとの複数店舗の商品を宅配する国内初の実証などを行っている。
パナソニックホールディングスは2022年4月、自動配送ロボット「X-Area Robo」が完全遠隔監視・操作型(フルリモート型)の公道走行許可に関わる審査に合格したと発表した。
遠隔管制システム「X-Area Remote」やサービスサポートシステム「X-Area Connect」とともにソリューション化したエリアモビリティサービスプラットフォーム「X-Area(クロスエリア)」の本格運用を見据えた取り組みを進めており、楽天や西友とともに神奈川県藤沢市や茨城県つくば市でサービス実証に着手している。
車道を走行するロボットも登場
京セラコミュニケーションシステムは2021年8月、北海道石狩市内で自動配送ロボットが車道を走行する国内初の実証を行った。ロボットは中国Neolix製で、歩道走行タイプのロボットより一回り大きく、軽車両並みの速度で走行することができる。
国内ではまだこのタイプの開発は本格化していないようだが、海外ではNeolixのほか米NuroやエストニアのClevonなどが開発を進めている。
Nuroはこれまでにドミノ・ピザやCVS Pharmacyなど複数の小売とパートナーシップを結び、カリフォルニア州などでサービス実証を進めている。
車道を走行するため規制は強めだが、歩道走行タイプに比べ積載容量が多く、比較的高速に長距離配送できる利点がある。従来の宅配車両のように、複数の注文者宅を回ることができそうだ。海外では自家用車などをベースに改造した自動運転車で宅配する試みなども行われている。
道路環境や宅配需要などに合わせ、各種ロボットを選択したり組み合わせたりするなどして最適なラストマイル配送の実現を図っていく試みが今後進む可能性が高そうだ。
【参考】京セラコミュニケーションシステムの取り組みについては「日本初!自動配送ロボットが車道走行 京セラ子会社、北海道で実証実験」も参照。
空を利用したラストマイル配送も
ラストマイル配送では、空を活用したドローン配送の実証も始まっている。国の「空の産業革命に向けたロードマップ2021」によると、2023年度にも離島や山間部などを皮切りに社会実装を開始する見込みとなっている。
海上や山間部、河川上など比較的安全を担保しやすいエリア・ルートでサービス化を進め、徐々に対象エリアを拡大していく運びだ。
【参考】ドローン配送については「1兆円規模を超えたドローン配送市場、海外で実用化加速」も参照。
■ミドルマイルにおける自動運転配送
米国で実証加速、国内は法改正待ちか
物流におけるミドルマイルは、ラストマイルの手前、例えば各エリアの配送拠点や店舗間輸送などを指す。ラストマイルと比べ大口で、比較的まとまった量の荷物を配送することが多い。このため、車両には大きめのバンやトラックなどの商用車をベースとした自動運転車両を用いる。
あらかじめ定められた一般車道上のルートを走行するため、技術的には自動運転バスに近いものと思われる。
国内では高速道路における後続車無人の隊列走行実証が進められているが、一般道における取り組みは特に進められていないのが現状だ。
一方、米国では小売り大手とのパートナーシップのもと、継続的な実証が行われているようだ。自動運転トラックの開発を手掛ける米Gatikはウォルマートと提携し、バンタイプの自動運転車両などを活用してウォルマートの物流倉庫から数キロ離れた各店舗に商品を配送する実証を行っている。
セーフティドライバー同乗のもと7万マイル(約11万キロ)超の走行実証を積み重ね、2020年には無人走行にも着手している。
なお、ウォルマートはラストマイル向けにNuroとも協業を行っており、ファーストマイル・ミドルマイル・ラストマイルそれぞれに自動運転車を導入してサプライチェーンを最適化する取り組みを推し進めているようだ。
【参考】Gatikの取り組みについては「米Walmartがついに完全無人の自動運転配送!Gatik社と共同で2021年から」も参照。
■【まとめ】カギを握る「パートナーシップ」
ミドルマイル・ラストマイルとも、荷物・商品を取り扱う宅配事業者や小売事業者の協力が欠かせない。自動運転開発が進んでも、各事業者が導入に向けた取り組みに本腰を入れなければ社会実装もビジネス化も進展しないからだ。
国内では、楽天や西友が自動走行ロボットなどの導入に向けた各種実証を主体的に進めている以外は受動的な印象が強い。
今後、レベル4を可能にする改正道路交通法の施行とともにこうした情勢も変化していくのか、また国内でもミドルマイルに向けた取り組みが本格化するのかなど、各分野の動向に要注目だ。
【参考】関連記事としては「自動配送ロボット(宅配ロボット)最新まとめ!国内外で開発加速」も参照。