1兆円規模を超えたドローン配送市場、海外で実用化加速

WalmartやAmazonがサービス本格化



陸地で実用化が進む自動運転車と同様、空ではエアモビリティ実用化に向けた取り組みが大きく加速している。特に物流を担うドローン配送は実用化域に達しており、米国を中心にサービスエリアがどんどん拡大しているようだ。

この記事では、ドローン配送の今に迫る。


■海外におけるドローン配送の取り組み
ウォルマートがドローン配送エリアを6州に拡大
出典:Walmartプレスリリース

小売大手の米Walmart(ウォルマート)は2020年、ドローン配送事業を手掛けるFlytrexと新しいパイロットプログラムとしてノースカロライナ州フェイエットビルでサービス実証を開始した。

Flytrexのドローンは最大6.6ポンド(約3キログラム)の荷物を積載し、往復約5マイル(約8キロメートル)飛行することができる。現在、ノースカロライナ州の3地区とテキサス州グランベリーでサービス展開している。

また同年、新型コロナウイルスの影響が深刻化したことを受け、臨床検査を手掛けるQuest Diagnosticsとドローンデリバリーサービスを手掛けるDroneUpと提携を結び、ネバダ州ノースラスベガスとニューヨーク州チークタワーガで検査キットの試験配送を開始した。

その後、2021年にウォルマートはDroneUpに出資して関係を強化し、アーカンソー州ベントンビルの店舗から11月に本格的な配送サービスを開始した。


2022年5月には、ドローン配送ネットワークを年末までに34サイトに拡大する計画を発表した。アーカンソー州のほか、アリゾナ州、フロリダ州、テキサス州、ユタ州、バージニア州の6州で400万世帯にリーチし、年間100万個以上のパッケージを配達できる可能性があるという。

対象商品は数万点に及び、合計10ポンド(約4.5キログラム)までの商品を配送料3.99ドル(約550円)で30分以内に注文・配達できる。

ウォルマートはこの1年で一気にドローン配送を強化した格好だ。安全性の検証と各州の規制次第で、さらなる拡大路線を歩む可能性が高い。陸でサービス実証を進める自動運転車とのすみ分けにも注目だ。

アマゾンはカリフォルニア州でサービス開始予定

EC大手の米Amazon(アマゾン)も早くからドローン配送構想を掲げている。同社会長で元CEOのジェフ・ベゾス氏は2013年に「Amazon Prime Air」に言及し、2015年にカナダで実証を開始したほか、2016年には英国政府と提携し、同国で初めてのドローン宅配を行ったようだ。


それ以後も20以上のプロトタイプを設計するなど研究開発を積み重ねており、2022年6月、満を持してカリフォルニア州ロックフォードで年内にPrime Airサービスを開始すると発表した。

目視の必要がなく、より遠くまで監視・操作可能なセンスアンドアボイドシステムを開発し、飛行中や離着陸時の安全性を高める感知回避システムなどを搭載するという。

巨大ECプラットフォームと配送網、そしてドローン開発技術も自社内に蓄えるアマゾン。今後規定路線としてサービス拡大を図っていくことはほぼ間違いなく、米国以外における展開にも要注目だ。

グーグルはグループ企業Wingが3カ国でサービス展開
出典:Wing公式ブログ

米グーグル(アルファベット)は、次世代技術の研究開発を手掛けるGoogle Xのもとドローン開発に着手し、2018年に子会社Wingがスピンオフした。現在、米国、オーストラリア、フィンランドでサービスを展開している。

オーストラリアでは、クイーンズランド州ローガンにある商業施設運営事業者Vicinity Centersと提携し、施設屋上にドローン配達拠点を設置した。ドリンク類や市販医薬品などの配送を行っており、最初の1カ月間で2,500件以上配送したという。

フィンランドでは食料品店チェーンのAlepaや菓子メーカーのFazer、Crunch Brunchなどと提携し、ヘルシンキで幅広い種類のランチアイテムやスイーツなどを配送しているという。

米国では、テキサス州ダラスで最初の米国のメトロドローン配送サービスを開始する準備をしている。 オペレーションは、地元の小売店と同じ場所に配置され、統合されているという。ドローンフライヤーが管制空域での飛行許可を簡単に要求できるようにするために、米国で無料のドローンフライヤーアプリであるOpenSkyがリリースされた。

米国では、テキサス州ダラスで薬局チェーンWalgreensと提携しサービスを行っている。同社は2021年中、3カ国で計14万件以上の配送を行ったという。

ドローンは最大時速104キロメートルで往復20キロメートル飛行可能で、5.6キログラムまで商品を積載することができるという。

FPSも医療用品配送をスタート 大型機導入計画も

物流大手の米UPSは2019年、ドローン配送を手掛けるMatternetと提携し、医療用品を病院へ輸送するサービスに着手した。同年にはドローン配送を担う子会社UPS Flight Forwardを設立し、事業を加速している。

2021年3月には、ドローン設計・運用を手掛けるZiplineと提携し、ガーナでCOVID-19ワクチンの配送を支援する事業を開始した。また同年、Beta Technologiesから電気垂直離着陸(eVTOL)を購入する計画も発表している。2024年から同社のeVTOL10機で空の配送事業を開始する予定で、今後最大150機を購入する予定としている。貨物容量630キログラム、航続距離400キロメートルの大型モデルだ。

Ziplineは医薬品配送で活躍 豊田通商との提携も

ZiplineはFPSとの協業のほか、ナイジェリアやルワンダ、ワシントン州タコマなどでも各種パートナー企業や政府とともに医薬品のドローン配送を行っている。

2021年11月にはウォルマートとのパートナーシップのもと、アーカンソー州北西部のピーリッジで商品配送サービスを開始すると発表した。

また、2022年3月には、豊田通商と日本市場におけるドローン物流サービスの社会実装を目的とした戦略業務提携契約を交わしたことも発表されている。豊田通商は2018年に同社に出資しており、ガーナでの協業なども推進してきたという。

■ドローン配送の市場規模

市場調査企業のMarketsandMarketsのレポートによると、世界におけるドローン配送の市場規模は2020年の5億2,800万ドル(約725億円)から2030年には390億1300万ドル(約5兆3,500億円)まで拡大すると予測している。背景には、高速配送需要の増加やドローン活用に向けた新たな規制の枠組みの創出などがあるようだ。

また、Emergen Researchによると、2020年の世界のドローンロジスティクス・輸送市場規模は75.3億ドル(約1兆300億円)で、2028年には318.4億ドル(約4兆3,700億円)に達するという。この間のCAGR(年平均成長率)は19.5%に上る。

一方、国内市場に関しては、IT関連メディア事業を展開するインプレスのレポート「ドローンビジネス調査報告書2022」によると、2021年度の国内ドローンビジネスの市場規模は2308億円と推測しており、前年度比25.4%の伸びを見せている。

2027年度には、サービス市場5,147億円、機体市場1,788億円、周辺サービス市場998億円で計7,933億円に達すると見込んでいる。この間のCAGRは22.8%に達する。点検サービスなど配送以外の事業も含んでいるが、物流をはじめとするさまざまな分野でドローンの利活用が大きく進展していくことになりそうだ。

■日本国内におけるドローン配送の取り組み
2023年度から本格導入へ

海外で実用化が進むドローン配送だが、日本国内はどうか。国は空の産業革命に向けたロードマップ2021の中で2022年度まで実証実験を充実し、事業採算性確保に向けた課題整理や目視外飛行を可能とする制度整備などを進め、2023年度から離島や山間部などを皮切りに人口密度の高い地域やより多くの機体の同時飛行など、サービス拡大を図っていく方針を掲げている。

【参考】ドローンに関する取り組みについては「ドローンの「自律飛行レベル4」が広げる新ビジネスの可能性」も参照。

楽天がいち早くドローン配送事業に着手

国内企業では、楽天がいち早くドローン配送実証に着手している。2016年に千葉県御宿町のゴルフ場内でデリバリーサービスに取り組んだのを皮切りに、2017年に福島県南相馬市におけるローソンからの配送サービス、2019年に神奈川県横須賀市の西友から無人島の猿島への配送サービスなどを実施している。

2021年には、三重県志摩市のマックスバリュから約4キロメートル離れた間崎島までの配送サービスや長野県白馬村における山岳ドローン配送、千葉県市川市の物流施設から千葉市の超高層マンションへのオンデマンド配送など、さらに取り組みを拡大している印象だ。

国の実証も盛んに

国の実証関連では、2018年度に長野県白馬村に山岳ドローン物流の実証(白馬館など)や、福島県南相馬市・浪江町における郵便局間の荷物配送実証(自律制御システム研究所など)、福岡県福岡市における離島への配送実証(ANAホールディングスなど)、岡山県和気町における河川上空を活用した荷物配送実証(Future Dimension Drone Instituteなど)、埼玉県秩父市における送電設備上空を活用した荷物配送実証(楽天など)が行われている。

大分県佐伯市では、NTTドコモなどがciRoboticsのドローンを活用し、目視外飛行によるドローン定期配送の実証に取り組んでいる。

その後も実証は加速しており、産業用ドローンの開発を手掛けるエアロネクストは山梨県小菅村と2020年11月に連携協定を結び、2021年4月に試験配送をスタートした。セイノーホールディングスとともに無在庫化・無人化を実現するスマートサプライチェーン「SkyHub」を開発し、効率的なロジスティクスの実現に取り組んでいる。同年9月末までにドローン配送の利用は182回あったという。

【参考】エアロネクストの取り組みについては「自動運転化の先にある、「無在庫」が当たり前になる未来」も参照。

出典:KDDIプレスリリース

KDDIは、長野県伊那市で伊那ケーブルテレビジョンとともにドローンによる商品配達を行う支え合い買物サービス「ゆうあいマーケット」を2020年に開始している。食料品などの日用品をケーブルテレビを介して注文を受け、当日配送を実現する試みだ。

豊田通商は2022年4月、グループ会社「そらいいな」を設立し、医療用医薬品のドローン配送事業を長崎県五島列島で開始すると発表した。発着拠点を五島市福江島に設置し、提携するZiplineの機体を活用して五島列島に点在する医療機関や薬局へ医療用医薬品を配送する。

大分県津久見市では、ciRoboticsやANAホールディングス、NTTドコモ九州支社、エスティケイテクノロジー、モバイルクリエイトが無垢島を実証フィールドにドローン物流の社会実装を推進している。

■【まとめ】ドローン配送が空の可能性を拡大

人の移動を担う空飛ぶクルマと比べドローン配送は小型モデルで安全を確保しやすく、実用化が大きく加速している印象だ。FPSのように大型のeVTOLの活用を模索する動きも出ている。

ドローン配送によって空路の安全かつ効率的な利活用手法が確立されれば、それは空飛ぶクルマにもそのまま応用できる。空の可能性を大きく広げていく取り組みに今後も期待したい。

【参考】関連記事としては「空飛ぶクルマとは?」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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