ドローンの「自律飛行レベル4」が広げる新ビジネスの可能性

市街地でのドローン物流や警備、空撮が可能に



ドローンの飛行需要が右肩上がりの伸びを見せている。国土交通省によると、ドローンの飛行許可申請数は2016年度の1万3,535件から2020年度には6万68件と4年間で約4.4倍まで増加している。


今後、技術の進化や航空法の整備などによりドローンの可能性はさらに拡大し、ビジネス用途の道も大きく拓ける見込みだ。ドローンが有するポテンシャルはまだまだ未知数のようだ。

さて本題。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2022年2月24日、「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」の研究成果として「運航管理システムを使ったドローン運航ビジネスの姿」 を公開した。今後のドローンビジネスの可能性を探ったレポートだ。

この記事では、同レポートをもとに、有人地帯で目視外飛行を実現する飛行レベル4の可能性に触れていく。

▼「運航管理システムを使ったドローン運航ビジネスの姿」などの公開|NEDO
https://nedo-dress.jp/topics/3032.html


■ドローンによる空の産業革命の概要

レポート「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」は、国の事業「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」のもと、飛行レベル4社会においてさまざまなエリア・ユースケースで機能する運航管理システムと、持続可能なビジネスモデルの構築について検証したもの。KDDIとパーソルプロセス&テクノロジーが研究を受託している。

レポートでは、以下についてそれぞれ取りまとめられている。各項の内容については後述する。

  • ①ドローン運航ビジネスの可能性
  • ②運航管理システムの活用
  • ③ビジネスモデル構築方法の具体例
無人航空機とは?

航空法において、無人航空機は人が乗ることができない飛行機や回転翼航空機、滑空機、飛行船で、遠隔操作または自動操縦によって飛行させることができるものと定義されている。具体的には、ドローンやラジコン機、農薬散布用ヘリコプターなどが該当する。航空法改正により、2022年6月20日から無人航空機の登録が義務化される。

ただし、重量が200グラム未満(2022年6月20日からは100グラム未満)のものは模型航空機として分類し、無人航空機の飛行に関する規制は適用されない。


飛行レベルとは?
出典:NEDO(※クリックorタップすると拡大できます)

自動運転車同様、無人航空機も可能とする飛行形態によってレベル分けされている。レベル1は「目視内における操縦飛行」でレベル2:は「目視内における操縦無しの飛行」、レベル3は「無人地帯における目視外飛行(補助者の配置なし)」、レベル4は「有人地帯における目視外飛行(補助者の配置なし)」と定義されている。

レベル4は人が生活する空間の上空などにおいて、オペレーターの目が届かない範囲まで自動運転技術によって無人航空機を飛行させるものだ。

空の産業革命に向けたロードマップ2021によると、レベル4は2022年度をめどに実現する目標を掲げている。まずは離島や山間部でレベル4を実現し、その後人口密度の高い地域での飛行や多数機同時運航へと発展させていく流れだ。

【参考】無人航空機や飛行レベルについては「小型無人機(ドローン等)の飛行レベルとは?航空法改正で「レベル4」が可能に」も参照。

■ドローン運航ビジネスの可能性
航空法改正でレベル4飛行が可能に

航空法の改正により、機体の安全性を認証する「機体認証制度」と、操縦者の技能を証明する「技能証明制度」が創設される予定で、ドローン飛行をリスクに応じて3段階に分類し、レベル4が該当する最もリスクが高い飛行を行うオペレーターには、第一種機体認証と一等ライセンスの取得、安全確保措置などを義務付けていく方針だ。

比較的リスクの高い飛行については、第二種機体認証と二等ライセンスを有し安全確保措置が講じられており、個別審査が不要とされる飛行を行う場合は、現行の個別審査の手続きを簡略化していく案も示されているという。

物流や空撮、警備など広範なサービスが可能に

レベル4の実現により広がるビジネスのユースケースとして、以下を挙げている。

  • ①物流
  • ②警備
  • ③空撮
  • ④測量
  • ⑤点検
  • ⑥農業
  • ⑦災害

①では、市街地や中山間地域、離島などにおける玄関先への医薬品や食料品の配送などを例示している。②では、有人のイベント施設や広域施設、離島の警備をはじめ、害獣や密猟者対策、海難捜索など、③では、有人地帯に位置する観光名所の空撮やスポーツチームの戦術分析を目的とした試合の空撮などを挙げている。

④では、有人地帯上空を含む建設現場などの測量や森林資源量調査、⑤では、橋梁、砂防ダム、煙突、工場設備の点検、⑥では、有人地帯上空を通過して行う農薬散布や点在する耕作地の農作物の生育状況の把握や害獣侵入の確認、⑦では、市街地や孤立集落における災害時の救助活動や救援物資の輸送や被害状況の確認、ドローンに取り付けたスピーカーなどを活用した避難誘導などを挙げている。

出典:NEDO(※クリックorタップすると拡大できます)
■運航管理システムの活用
運航管理システムの導入がビジネス拡大につながる

運航管理システムの定義や機能・役割については各国・各機関で異なるが、オペレーターや運航事業者にとっては、以下のようなサービスを提供するものが主体となる。

  • ①衝突リスクの軽減
  • ②各種申請の簡素化
  • ③飛行に必要な情報の提供

①は、気象や制限情報が反映された2D・3D地図上でのフライトルート作成支援や、自機や近接他機の位置情報の提供、計画逸脱・衝突アラートの発信、遠隔監視・制御機能の提供などが挙げられている。

②では、機体や操縦者の登録、飛行計画や電波利用の申請・申請結果の受領、飛行日誌や事故情報の作成などが挙げられている。

③では、空域情報の提供やドローンの運行条件の提供などが挙げられている。

こうした運行管理システムを活用することで、例えば自機や周辺機体の情報把握により目視外自動運航や高頻度・高密度運航が可能になるなど、ビジネスの拡大やオペレーションの効率化、安全な運航が可能になる。また、多様化するニーズへの対応や運航データの蓄積・二次利用などの可能性についても触れている。

オペレーションの効率化の観点では、NEDOの実証における運航管理システム導入前後の費用比較が参照されている。これによると、物流、警備、空撮、測量、点検、農業、災害の7つのユースケース平均値で、システム導入前後で21.3%の費用削減効果があったという。

物流においては、既存の人件費率の多寡や運用環境に左右される傾向があるものの、平均で約35%の費用削減効果が示されている。

■ビジネスモデル構築方法の具体例
ドローンの相対的優位性や地域特性を確認

レベル4の実現によりビジネスの可能性が広がり、さまざまなビジネスモデルの誕生が予期されるが、このビジネスモデルの検討において、以下のような設定手順を示している。

  • ①顧客価値を定める
  • ②地域の特性を理解する
  • ③プロセスを確立する
  • ④経営資源を確認する/利益の見通しを立てる

①では、地域が抱えている課題のもと解決策となるドローンを活用したサービスの内容を設定し、ドローン以外のサービスも踏まえたうえでドローンサービスに相対的な優位性があるかなど、顧客目線で定義していくことが肝要としている。

相対的優位性が認められるサービス例としては、作付け状況の把握や警察・消防の現場確認、離島や観光地での物資輸送、密猟監視などが挙げられている。

②では、地権者・施設管理者・住民の理解醸成や通信環境、気象・気候、地形・障害物の確認など、地域特有の状況把握の必要性を説いている。

通信手段には主に衛星通信とLTE通信がある。LTEは高速大容量がメリットとなるが、障害物の影響を受けやすい。一方、衛星は通信速度や伝送遅延の面で劣るもののLTE網未整備エリアなどでは代替手段として有効としている。

④では、持続的なサービス提供に必要となる経営資源として、一等技能証明を持つオペレーターや運航管理担当者、業務スタッフなどのヒト、第一種機体認証を受けたドローン本体をはじめ運航管理システムへの送信装置やドローンに搭載する機器などのモノ、オペレーター育成費や機体購入費、機体保守費、運航管理システム利用費といったカネを挙げている。

利益の見通しにおいては、サービス提供にかかる全費用項目の把握やサービス提供量と価格による売り上げの試算などから損益を試算し、サービスが持続可能かどうかを検証する。収益構造に問題がある場合には、サービスの提供体制を見直す必要がある。

■【まとめ】レベル4でビジネス利用が拡大

有人地帯における自律飛行が可能になると、ドローンの活用の道は大きく広がる。ビジネス用途のドローンの市場化が本格化し、市街地の低空を当たり前のように飛行する時代が到来するのだ。

こうした低空域の利用は、人が乗ることを可能にする「空飛ぶクルマ」実用化の際にも経験値として生きるはずだ。今後、空の交通網がどのように形成されていくか、要注目だ。

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記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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