【2022年9月の自動運転ラボ10大ニュース】日本初の次世代モビリティ専門職大学が認可

モービルアイが国内実証、TURINGも着手



2022年も早秋を迎えた。国内では、次世代モビリティの研究に特化した日本初の専門職大学が文部科学省の認可を受け、来春にも山形県内で開学するようだ。また、TURINGやモービルアイによる公道実証も行われているようで、開発勢もいっそう厚みを増した感を受ける。


2022年9月の10大ニュースを振り返り、着実に前進を続ける自動運転業界の今に迫ろう。

■打倒テスラ!TURING、千葉の公道で自動運転実証スタート(2022年9月5日付)

レベル5の完全自動運転車の開発を目指すTURINGが、千葉県柏市内で公道実証を開始すると発表した。創業から約1年での公道デビューだ。

同社は2021年8月設立で、2022年7月にシードラウンドで10億円を調達したばかりのスタートアップだ。テスラを超える自動車メーカーを目標に掲げ、レベル5の完全自動運転EV(電気自動車)の実現時期を2025年に設定するなど、見据える目線の高さは規格外とも言える。

千葉県柏市に本社を構えており、これまで三井不動産の屋外モビリティ開発拠点「KOIL MOBILITY FIELD」をはじめとするテストフィールドで開発を進めてきた。2022年夏ごろから公道実証に着手し、自動運転ソフトウェアのさらなる高品質化・高信頼化に取り組んでいくとしている。


機体の申請が今後どのような道を歩んでいくのか、興味は尽きない。今後の動向に引き続き注目したい。

■未発売でもAppleが3位!米国での自動車購入意向調査(2022年9月7日付)

米コンサルティングStrategic Visionの新車購入意向に関する調査によると、まだ車両を発表していないアップルが3位に入ったという。

米国内で新たに車を購入したユーザー約20万人を対象に毎年実施している調査で、今回の調査から対象ブランドの中にアップルを加えたところ、トヨタホンダに次ぐ3位にいきなりランクインしたようだ。

アップルブランドへの期待値の表れと言えそうだが、アップルのすごいところはこの期待をしっかりと上回る成果を上げることだ。

自動運転EVとなることはほぼ間違いなさそうだが、バスやタクシーなどの商用向けなのか、自家用向けなのかもいまだに謎に包まれている。いずれにしろ、高い期待に応えるためには、機能やデザイン、サービスなどあらゆる面で想像の斜め上を行かなければならない。

「自動運転」というモノ・サービスに対し、アップルはどのような答えを出すのか、要注目だ。

■テスラの自動運転ソフト「1万5,000ドルの価値ない」(2022年9月9日付)

CNN Businessの調査によれば、テスラの有料オプション「FSD(Full Self-Driving)」のオーナー13人中11人が「1万5,000ドルの価値はない」と判断したという。

FSDは現段階でADAS(先進運転支援システム)に過ぎないが、OTA(Over the Air)アップデートを重ねて自動運転を実現するソフトウェアだ。サービス提供開始から少しずつ値上がりしており、その価格は2022年9月時点で1万5,000ドル(約210万円)となっている。

仮に210万円でレベル4が利用可能になるのであれば、費用対効果は悪くないのかもしれない。しかし、現状のレベル2相当のADASと捉えると、コスパが悪いと感じる人は少なくないだろう。

また、将来自動運転を実現する確証があれば我慢できるかもしれないが、その確約もない。イーロン・マスクCEO(最高経営責任者)の「今年(来年)末には実現できる」というお決まりのフレーズが並ぶのみでは、不満を募らすオーナーが増加してもおかしくはなさそうだ。

■カメラのみ!Mobileyeの左ハンドル車、東京を自動運転(2022年9月10日付)

モービルアイがこのほど、東京都内で「Mobileye SuperVision」を活用した公道走行実証を行った。「これが自動運転の最前線の技術か」――と感じさせる精度の高さだ。

Mobileye SuperVisionはカメラセンシングを主体とした自動運転技術で、同社は「次世代ADAS」と位置付けている。ハンズオフ運転にあたるが、高速の合流や事故による車線規制への対応、一般道における信号の識別や横断歩道対応など、ドライバーが介入することなくつつがなく自動運転をしているように見える。

このMobileye SuperVisionをADASキットとして自家用車に統合できれば、とんでもない訴求力を発揮しそうだ。

同社は、このMobileye SuperVisionに別途LiDAR・レーダーによる認識システムを加え冗長化を図った「MobileyeDrive」の開発も進めている。こちらはレベル4相当の技術で、自動運転タクシーなどの移動サービスを中心に実装が進められていく見込みだ。

先行する米国・中国勢に対し、同社がどのような世界展開を図っていくか。注目度は増す一方だ。

■「Slowな自動運転」でマネタイズ!中国で無人清掃車が稼働(2022年9月12日付)

中国WeRideが運用を開始した自動運転清掃車をとっかかりに、低速自動運転車におけるマネタイズの魅力に触れた記事だ。

低速走行を前提とした自動運転車は、一般的な速度の車両に比べ安全を確保しやすい。車両が止まるまでの制動距離・時間が短く、また万が一衝突した際の被害も小さく収まりやすいためだ。

この特性は、自動運転実用化において非常に有利に働く。その意味で、低速走行が前提となる自動運転清掃車に目を付けたWeRideのマネタイズ手法は見事と言える。スロウなモビリティは社会実装の初期段階において絶対的優位性を持つのだ。

国内でも、ゴルフカーをベースにした低速自動運転モビリティが実用化段階に差し掛かっているほか、名古屋大学が開発を進める「ゆっくり自動運転」も着々と公道実証を進めている。

ただし、一般車道などの混在空間で制限速度を明らかに下回る低速で走行するには、周辺車両の理解が必要不可欠となる。互いの配慮なしでは、渋滞やあおり運転の原因となりかねない。

自動運転清掃車のように低速走行への理解を得やすそうなモデルもあるが、移動サービスなどにおいても低速モデルを導入しやすい社会環境もまた求められそうだ。

■メーカー・車種別のLiDAR供給元一覧(2022年最新版)(2022年9月13日付)

ハンズオフを可能にする高度なレベル2やレベル3の実用化により、LiDARを搭載する自家用車も徐々に増えてきた。一部で量産化が始まったレベル4を含め、LiDAR市場は大きな成長を遂げていきそうだ。

この記事では、リサーチ会社の調査をもとに各自動車OEMらがどのLiDAR開発事業者を採用したかについて解説している。

あくまで現段階としては、レベル3以下の自家用車を扱う自動車メーカーは、従来から取引があるティア1サプライヤーを採用する傾向が強そうだ。一方、EV開発を手掛ける新興勢は、LiDAR新興勢と結びつく傾向が強いのかもしれない。

ティア1の武器は、これまでの取引実績と安定感だ。しかし、こうしたものは自動運転やEV開発新興勢には通用しない。Luminar TechnologiesやInnoviz Technologies、中国勢などが次々と台頭する中、性能やコスト、トータルソリューション、共同開発など、あらゆる面で他社と差別化を図り、競争を勝ち抜いていく必要がありそうだ。

■日本初!自動運転などに特化した「専門職大学」開学へ(2022年9月14日付)

次世代モビリティの研究に特化した日本初の専門職大学「電動モビリティシステム専門職大学」が2023年春に誕生する見込みだ。赤門自動車整備学校などを運営する学校法人赤門学院が、山形県飯豊町で開学する。

電気自動車システムの専門4分野「電池」「モーター・インバータ」「車体」「自動運転」を軸に、関連する知識や技術、スキルを体系的に学ぶことが、大学の学位である「学士(専門職)」を取得できる。未来のモビリティ産業と社会をけん引する人材を育成する構えだ。

大学でも、東京大学や名古屋大学、群馬大学、埼玉工業大学のように次世代モビリティ関連の研究開発センターや機構などを設置し、研究を強化する動きも盛んだ。

特に自動運転分野は実証が必要不可欠となる。学内での学びにとどまらず、企業や自治体とのパートナーシップのもと実際の交通環境下で走行させることで課題が見つかり、研究が進展する。同大学が今後どのような課程を構築していくか注目だ。

■さよならNVIDIA?GM Cruise、自動運転チップを自社開発(2022年9月16日付)

米GM Cruiseが、自動運転向けの半導体チップの開発を自ら推し進めるようだ。ロイターによると、これまで採用してきたNVIDIAは価格交渉の余地がないことが要因となっているようだ。

Cruiseは2年前までNVIDIAのGPUに大金を支払ってきたが、購入量が少ないため交渉の余地がないという。自社開発に向けた投資も膨大なものとなるが、車両の生産規模を拡大することで回収できると判断し、内製化に踏み切るようだ。

自動車メーカーをはじめ、高い開発力を有するスタートアップなどは、NVIDIAとパートナーシップを結びつつ自社開発も進めているケースは多いものと思われる。自動運転開発においてNVIDIA製品の活用は効率的かつ効果的だが、依存度を高め過ぎると自社開発能力が相対的に落ち、他社との差別化を図りにくくなるためだ。

なお、Cruiseは半導体設計のArmともパートナーシップを結んでいる。こちらの協業の行方にも注目が集まるところだ。

■LiDARをトヨタへ?Innovizが「アジアの車会社」と大型契約(2022年9月21日付)

イスラエルのInnoviz Technologiesがこのほど、アジアを拠点とする大手自動車OEMから量産乗用車向けのLiDARサプライヤーに選ばれたと発表した。OEM名は明かしておらず、どのメーカーとパートナーシップを結んだのか気になるところだ。

これまで、トヨタはデンソー、ホンダは仏ヴァレオ製品をそれぞれ採用している。また、日産は現在米Luminar Technologiesと共同開発を進めており、日本のトップ3の線は薄そうな印象だ。残るアジアは、韓国ヒョンデや中国勢だ。

いずれにしろ、Innoviz TechnologiesにとってはBMWやフォルクスワーゲングループなどに次ぐ4つ目の大型契約といい、着実にシェアを拡大している様子だ。

ヴァレオをはじめデンソーやボッシュなどもLiDAR開発を促進しているが、相次ぐ新興勢の台頭に、ティア1サプライヤーもうかうかしていられない状況だ。

■早ければ2040年代に!「手動運転禁止」6つのメリット(2022年9月24日付)

将来、自動運転義務化・手動運転禁止となる動きが出るかもしれない――という趣旨のコラムだ。現時点では想像しにくい内容かもしれないが、決して絵空事ではない。レベル5相当の技術が確立・普及が始まるころには、議論が本格化する可能性は十分考えられる。

公道から手動運転車を無くし、自動運転車のみにした場合、交通事故の大幅な減少や円滑な交通流の実現、道路空間の有効活用など、さまざまなメリットが生じる可能性がある。運転する楽しさを味わうことができなくなるが、レベル5相当が普及するころにはこうした趣向の持ち主はマイノリティとなり、サーキットなどで楽しんで……となるかもしれない。

仮に2030年代にレベル5相当の技術が確立した場合、2040年代に普及期を迎える。その状況を踏まえ、一定年数経過後に「手動運転禁止」が施行されるといった流れが想定される。2050年代となる可能性が高そうだが、自動運転技術の普及に意欲を燃やす国家であれば、2030年代のうちにこうした未来を予測し、2040年代にいち早く施行できるよう動いたとしてもおかしくはない。

鬼が笑う話かもしれないが、手動運転と自動運転に対する価値観が逆転する日はほぼ間違いなく訪れる。その際、道路交通の在り方はどのように変わるのか――といった観点で思考を重ねてみるのも一興だろう。

■【まとめ】レベル4解禁に向けた取り組みがますます加速

国内ではTURINGやモービルアイといった新たな開発勢が公道走行を開始した。今後、各開発勢のレベル4解禁に向けた取り組みがますます加速していきそうだ。

海外では、Innoviz Technologiesが新たな大型契約を発表し、勢いに乗る。レベル3自家用車やレベル4サービス車の実用化が波に乗り始めた印象で、今後もLiDAR搭載車が続出する可能性がある。ADASや自動運転の進化とともに、自動車の装備も変わり始めているのだ。

2022年度下半期に突入する10月はどのようなニュースが飛び出すのか、引き続き注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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