自動運転に欠かせないセンサーとなりつつあるLiDAR。カメラとは異なる仕組みで環境認識することが可能なため、レベル4を実現する多くのモデルがLiDARやカメラを併用し、センシング技術の底上げを図っている。
一方、自家用車においてもLiDARを搭載する動きが加速している。市場化が始まったレベル3をはじめ、高度なレベル2搭載車両への採用も進んでいるのだ。
香港に拠点を置く市場調査会社Counterpointの調査によると、すでに13の自動車メーカーがLiDAR搭載車両を市販化、もしくは市販予定という。以下がCounterpointの調査結果だ。
この記事では、同調査をもとに各メーカーの動向に迫る。
記事の目次
■トヨタ×デンソー
トヨタは2021年4月、ハンズオフ運転機能を備えた高度なレベル2システム「Advanced Drive」を新型「MIRAI」とレクサスの新型「LS」に搭載すると発表した。
一方、デンソーも同月、新開発したLiDARなどの製品がMIRAIとLSに採用されたことを発表している。製品群はLiDARをはじめ、2種類のカメラで前方環境を検知するロケーター望遠カメラ、高精度で自車位置を特定するSIS ECU、これらの製品から得られる情報を高速処理するADS ECU、ADX ECUに及ぶ。LiDARとロケーター望遠カメラはそれぞれ200メートル以上先まで検知することが可能という。
なお、トヨタは2022年1月に「アドバンストドライブ(渋滞時支援)」を備えた新型ヴォクシー・ノアを発売しているが、こちらはLiDAR非搭載で、カメラとミリ波レーダーを主体としたデンソーの第3世代の予防安全システム向けの製品「Global Safety Package 3」が採用されている。
【参考】デンソーの取り組みについては「トヨタ新型車にデンソー製LiDAR!グループ外企業にチャンスは残されている?」も参照。
■レクサス×デンソー
レクサス「LS」もMIRAI同様「Advanced Drive」を搭載し、デンソーのLiDARを採用している。高度運転支援技術「Lexus Teammate」のもと、高度な予防安全技術などを備えている。
【参考】新型LSについては「トヨタの新型LS、「人とクルマが仲間」な自動運転レベル2搭載」も参照。
■Xpeng Motors×Livox Technology
中国EVメーカーのXpeng Motorsは2021年1月に中国企業Livox Technologyと戦略的提携を交わし、最新の認識システムの構築を進めていくことに合意した。同年4月に開催された上海オートショーで公開した最新セダン「P5」のブースにLivoxも参加し、LiDAR「Livox HAP」が搭載されたことを発表している。
P5にはXpengのADAS「X PILOT」が搭載されており、バージョンは現在3.5までアップグレードされている。レベル2機能を主要道路で利用することができるようだ。デュアルカメラビジョンをLiDARとミリ波レーダーで補完した、業界初の4重認識融合ソリューションを組み込んでいるという。
2023年前半には「XPILOT 4.0」のリリースも予定しており、まだまだ進化を遂げていくようだ。
近々では、Xpengが自動運転タクシーの開発に向け新会社を設立したことが報じられている。同社によるLiDAR活用もさらに拡大していくことになりそうだ。
【参考】関連記事としては「まるでテスラ!中国Xpeng、EVも売って自動運転タクシーも展開へ」も参照。
■Lucid Motors×RoboSense
公式発表は見当たらないが、米EVメーカーLucid Motorsは2021年に市場投入した同社初のモデル「Lucid Air」にRoboSenseのLiDAR「RS-LiDAR-M1」を採用したという。
LiDAR1機と可視光カメラ14機、サラウンドビューカメラ4機、ミリ波レーダー5機、超音波センサーなど計32のセンサーを搭載し、高速道路におけるハンズオフ運転を可能にするADAS「DreamDrive Pro」を実現している。
■長城汽車×Ibeo Automotive
中国の長城汽車は2020年、独Ibeo Automotiveの新型ソリッドステートLiDARを2022年に生産開始するレベル3車両に採用すると発表した。プレミアムSUVブランド「WEY」の量産モデルに搭載予定としている。
なお、公式サイトによると、2022年9月時点でWEYの最新SUV「Mocha」に搭載されている認識モジュールは、ミリ波レーダー5機、超音波レーダー12機、知覚カメラ1機、サラウンドビューカメラ4機となっており、LiDARは見当たらず、搭載機能もADASにとどまっている。
一方、2022年8月に開催された成都国際自動車ショーで「WEY Mocha DHT-PHEV LiDAR Edition」が発表されており、RoboSenseがソリッドステートLiDAR「RS-LiDAR-M1」2機を搭載するという。
競合するIbeoとRoboSenseの行方とともに、今後レベル3機能へのアップデートが行われるのかなど要注目だ。
■ホンダ×Valeo
ホンダは2021年3月、量産車両で世界初となるレベル3実装車「レジェンド」を市場投入した。同社に搭載されているレベル3システム「トラフィックジャムパイロット」は、高速道路渋滞時に条件付きで自動運転を可能にしている。
レジェンドには、LiDAR5機、ミリ波レーダー5機、カメラ2機、超音波ソナー12機が搭載されており、このうちLiDAR5機とフロントカメラ2機はValeo製だ。サプライヤーは当初公表されていなかったが、ホンダの2021年サプライヤーアワードをValeoが受賞したことで公式発表されている。
なお、LiDARは「Valeo SCALA 3D LiDAR」が採用されている。
【参考】レジェンドについては「ホンダの自動運転戦略(2022年最新版) レベル3市販車「新型レジェンド」発売」も参照。
■メルセデス・ベンツ×Valeo
メルセデス・ベンツは2022年5月までに、SクラスとSクラスのEVモデル「EQS」にレベル3システム「DRIVE PILOT」を有料オプション化したことを発表した。
Sクラスには、Valeoの第2世代LiDARが初めて搭載された。毎秒25回に及ぶスキャンと、200メートルを超える長い検出範囲と広い視野を兼ね備えているという。
余談だが、ValeoのLiDARは2017年発売のアウディ「A8」にも搭載されている。A8はレベル3を可能としつつも法規制などを理由にレベル3システムを封印し続けているが、ホンダのレジェンド、メルセデスのSクラスなど初期レベル3量販車を独占する格好となっている。
【参考】メルセデス・ベンツのレベル3については「自動運転、2社目の「レベル3提供」はメルセデスベンツ」も参照。
■BMW×Innoviz Technologies
BMWは、2022年中を目標に北米向けにレベル3システムを投入する計画だ。同社幹部が米メディアの取材で語っている。
報道によると、次世代型の「7シリーズ」のフルサイズセダンにレベル3を実装し、その後5シリーズなどにも拡大していく予定という。
BMWは2018年、自動運転開発に向けティア1サプライヤーのマグナとその開発パートナーであるInnoviz Technologiesの採用を発表している。Innoviz Technologiesは早い段階から内定を受け、着々と準備を進めていたのだ。
BMWはレベル2のハンズオフ機能も続々と各モデルへの搭載拡大を進めている。レベル3もその技術をフラッグシップに留めることなく拡大する戦略をとるのか、要注目だ。
【参考】BMWのレベル3については「自動運転、北米でついにレベル3量産車販売へ!BMW、2022年後半に」も参照。
■NIO×Innovusion
中国EVメーカーNIOは、2022年発売のセダン「ET7」にInnovusion製LiDAR「Falcon」を1基搭載した。将来の自動運転化を見据えたシステム構成となっている。
ET7には、長距離LiDAR1機をはじめ高解像度カメラ7機、感光サラウンドビューカメラ4機、ミリ波レーダー5機、超音波センサー12機を搭載する「NIO Aquila Super Sensing」で360度の視界をカバーしている。
自動運転システム「NAD」は現状ADASだが、高速道路や都市部、駐車場、バッテリー交換ユースケースなどを徐々にカバーし、A地点からB地点までのより安全な自動運転体験を可能にするという。
Innovusionは米国、中国に拠点を持つ中国系スタートアップで、LiDAR「Falcon」は視野角120度、最大500メートル先の検知が可能としている。
【参考】NIOについては「中国のEVメーカー「NIO」を徹底解剖!独自開発の自動運転技術にも注目」も参照。
■Li Auto×Hesai Technology
中国EVメーカーLi Autoは、中国LiDAR開発企業のHesai Technologyとタッグを組んでいる。2022年6月にリリースしたフラッグシップSUV「L9」 にHesai製LiDAR「AT128」1機を搭載した。
AT128は、120×25.4度の視野角で、200メートル先まで検知できる量産モデルだ。L9は、AT128のほかカメラ11機、ミリ波レーダー1機、超音波センサー12機を搭載し、360度全方向認識を実現している。機能としては、レベル2ADASや駐車スペースの検知、呼び出し機能などを備えている。
■Weltmeister×RoboSense
中国のEVメーカー・Weltmeister(WM Motor)は、2022年に発売予定のフラグシップセダン「WM M7」にRoboSenseの第2世代スマートソリッドステートLiDAR「RS-LiDAR-M1」を3つ搭載した。
最大 0.05度の角度分解能で330度以上をカバーするLiDARをはじめ、超高解像度カメラ7台、高解像度カメラ4台など計32機のセンサーで360度センシングを実現する。NVIDIA Orinによる高速処理を合わせ、駐車場から都市部の道路、高速道路まであらゆるシナリオを網羅する運転機能が備わっているという。
WM M7の自動運転レベルは不明だが、RoboSenseは「画期的なレベル5の自動運転を実現する」と発表している。さすがに現時点でレベル5は搭載されておらず、将来的なアップデートで――といったニュアンスなのかもしれない。
WM Motorは百度のアポロ計画に参画しており、すでに他モデル「W6」に自動バレーパーキングなどを実装している。発売時点でWM M7にどれほどの水準の技術が実装されるのか、要注目だ。
■ボルボ・カーズ×Luminar Technologies
ボルボ・カーズは2018年からLuminar Technologiesと提携し、自動運転車両に同社製LiDARを採用してきた。2021年にはLiDARデータセット「Cirrus」の公開や、ボルボ・カーズ傘下のソフトウェア開発企業ZenseactとLuminar Technologiesがフルスタック自動運転システムの開発に乗り出すなど、両社のパートナーシップは深まる一方だ。
2022年1月には、自動運転システム「Ride Pilot」を搭載した新型フラッグシップSUVを米カリフォルニア州で導入する計画を発表した。Luminar TechnologiesのLiDAR「Iris」を含む20以上のセンシングシステムで、高速道路を中心とした推定レベル3を提供する予定だ。2022年半ばまでにカリフォルニア州の公道で実証を開始するとしている。
自動運転機能の詳細などは公表されていないが、おそらく2022年中に具体的な続報が発表されるものと思われる。
【参考】Ride Pilotについては「ボルボ・カーズ、条件付自動運転機能「ライドパイロット」発表」も参照。
■Polestar×Luminar Technologies
Geely及びボルボ・カーズ傘下のブランド・Polestar(ポールスター)は、2022年10月に公開予定の同社初のSUV「Polestar 3」にLuminar Technologies製のLiDARを搭載する。
2023年に生産開始予定のBEV(純電気自動車 )で、航続距離は目標600キロ超としている。LiDARとNVIDIAの高性能チップで高速道路における自動運転機能を提供するという。おそらくレベル3に相当するものと思われる。
当初は、米国内のボルボ・カーズの工場で生産され、米国向けに販売するとしており、おそらくレベル3は米国内で実現するものと思われるが、2022年6月の発表では、米国と中国で製造する予定としている。中国市場なども視野に入れ、順次対象エリアを拡大していくのか注目だ。
■【まとめ】LiDAR搭載モデルは今後も増加
このほかにも、例えばInnoviz Technologiesはフォルクスワーゲングループとの巨額契約を結んでいる。RoboSenseはSAIC(上海汽車)やFAW(第一汽車)、BYDなどとパートナーシップを結んでいる。Luminar Technologiesは、日産が開発を進める運転支援技術「グラウンドトゥルースパーセプション」に協力している。
レベル3搭載車両の増加はもちろん、レベル2の高度化に伴いLiDARを採用するモデルが今後も続々と登場することになりそうだ。システム実装にあたり、各自動車メーカーがどのLiDAR企業と手を組むか――といった観点にも注目していきたい。
【参考】関連記事としては「LiDARとは?読み方は?(2022年最新版)」も参照。