早ければ2040年代に!「手動運転禁止」6つのメリット

世論の転換点はいつ訪れるのか



現在、世界各国で開発が進められている自動運転車。道路交通の安全性向上や効率化、省人化を大義名分に、今後どんどん社会実装が推し進められていくことが予想される。遠い将来、自動運転車が主流となる社会が訪れることもほぼ間違いないだろう。


こうした未来においては、手動運転車が道路交通の危険要素と認識される可能性も考えられる。言い方は悪いが、自動運転車が構築する道路交通の安全を脅かす存在となるためだ。

こうした議論が過熱すれば、将来「自動運転義務化・手動運転禁止」に動く国が出てくる可能性も否定できない。道路上の走行車両を全て自動運転車とするメリットは、想像以上に大きいのだ。

以下、自動運転義務化・手動運転禁止とした場合のメリットを理由とともに解説していく。

■メリット1:事故件数の大幅な低下

道路を走行する全ての車両が自動運転化されれば、交通事故件数は大幅に低下することが予想される。交通事故の大半は、人間の過失に起因するためだ。


警察庁交通局の発表によると、2020年中に発生した交通事故は30万9,178件に上る。このうち、原付以上運転者の第1当事者(最初に交通事故に関与した事故当事者のうち、最も過失の重い者)の法令違反交通事故件数は28万8,995件となっている。事故全体の約93%で自動車などの第1当事者に法令違反があったと言える。

出典:e-Stat(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000032051740&fileKind=2

法令違反の内訳は、安全不確認やわき見運転、動静不注視、漫然運転、交差点安全進行などだ。こうした違反は基本的にドライバーによるヒューマンエラーであり、ドライバーが確かな知識のもとしっかりと安全走行を心がけていれば防げるものだ。

こうしたヒューマンエラーは、自動運転車においては排除される。自動運転システムは、道路交通法を順守し、歩行者などの交通弱者を可能な限り守るようプログラムされているからだ。

道路上の全ての車両が自動運転化されれば、理論上はこの93%の事故を未然に防ぐことが可能になる。もちろん、自動運転システムは100%完全なものではないため、ヒューマンエラーに代わってコンピューターの判断ミスなどに起因する事故が発生することが予想されるが、それは微々たるものだ。


自動運転は、交通事故のない社会づくりに大きく貢献することとなりそうだ。

【参考】交通事故については「自動運転の事故率は?抑止効果は9割以上?」も参照。

■メリット2:道路空間の有効活用が可能に

道路上の走行車両が全て自動運転車になれば、道路空間の有効活用も可能になる。車道の幅員を狭めることで歩道などのスペースを拡張することができるためだ。

道路構造令によると、一車線の幅員は道路の種別により2.75~3.75メートルの範囲で定められている。一方、一般的な乗用車の全幅は大半が2メートルに収まり、大型バスや大型トラックでもおおむね2.5メートルほどとなっている。手動運転における横方向のブレに対応するため、高速道路や国道などの幹線を中心にゆとりを持たせた造りとなっているのだ。

しかし、高精度なレーンキープ機能を備えた自動運転車のみが走行する場合、こうしたゆとりを削減することが可能になる。削減した分は、自転車や自動走行ロボット、新モビリティ専用レーンの設置や歩道空間などに有効活用することができる。片側複数車線の幹線道路であれば削減可能な面積も大きくなり、新たなレーンの設置が可能になるのだ。

実際、東京都などがこうした未来を見越したビジョンを策定している。車線数・車線幅員を縮小し再配分することで、カーブサイドなどを整備するといった内容だ。

出典:東京都(※クリックorタップすると拡大できます)

【参考】東京都のビジョンについては「東京都、「自動運転レーン」の先行整備を検討」も参照。

■メリット3:円滑な交通流を実現

自動運転社会が到来すれば、バスやタクシーといった公共交通をはじめカーシェアなどのモビリティサービスの利便性が高まり、自家用車離れが進むことが予想されている。効率的なモビリティの利用により、交通量は相対的に減少していく。

また、自動運転車は手動運転に比べ車間距離を短く保つことができる。車車間通信(V2V)によりアクセルやブレーキ情報などをリアルタイムで通信し合うことで、周囲の車両と連動した制御を行うことができるのだ。車間距離の短縮は、道路において高密度の輸送を可能にする。

さらには、速度制限の緩和も考えられる。自動運転システムが高度化すれば、車両同士の事故がほぼなくなるため、歩行者などに重点を置いた速度設定が可能になる。商業地や市街地などでは従来と同様の速度制限となるが、歩行者が少なく安全を確保しやすい郊外の道路などでは、最高速度の上限を引き上げることが可能になる可能性が高い。

これらの理由によって道路交通流に無駄がなくなり、円滑な移動や輸送が可能になる。道路のキャパシティに余裕が生じれば、片側複数車線の幹線道路などではレーンを減らし、道路空間を有効活用することも可能になる。

■メリット4:移動コストの低減される

ドライバーを必要としない自動運転車は、人件費削減分を運賃に反映させることができる。自動運転車導入時のイニシャルコストが上がる一方、導入後に常に必要となる人件費の削減効果は非常に大きく、車両のライフサイクルを通じたコストは大きく低減することが予測されている。

このコスト低減を反映させれば、従来の数分の一から十分の一ほどまで運賃を引き下げることが可能とする調査結果も複数公表されている。

こうした移動コストの低下は多くの人の移動そのものを促進し、それに伴う消費活動の増加にも期待が持たれるところだ。

■メリット5:移動時間の有効活用が可能に

自家用車も全て自動運転化されれば、マイカーにおける移動時間を自由に使うことも可能になる。車内で映画鑑賞やゲーム、仕事、食事、睡眠などさまざまなセカンダリアクティビティ(運転以外の行為)が可能になる見込みだ。

自由度を増した車内空間や移動時間を対象としたビジネスが創出され、新たな市場を形成しながら消費を喚起していくことも期待できる。

また、食事など日常的な行為を移動中に行うことで、毎日の時間に余裕が生じる。こうした時間も当然有効活用できるため、生活全般における効用を高めることもできそうだ。

■メリット6:災害時の対応も円滑に

自動運転車は災害発生時にも役立つ。大規模避難が想定される際、従来は自家用車で避難する人が集中し局所的に渋滞を招くこともある。しかし、自動運転車による道路交通の円滑効果により、渋滞をある程度緩和させ避難活動をスムーズに行うことが可能になる。

また、高齢者など徒歩での移動が困難な人も、AI(人工知能)オンデマンド方式により効率的に自動運転車で迎えに行くこともできる。

避難以外にも、災害発生直後など人の立ち入りが困難な場所に自動運転車を送り込み、現地の状況を把握することができそうだ。

救急搬送や火災現場に向かう自動運転救急車や消防車の走行も基本的には妨げがなくなる。V2Vにより走行経路を走行する全車両に救急車両の存在を知らせることで、一切の妨げなく最優先で救急車両を現着させることが可能になる。

■自動運転義務化・手動運転禁止は可能か

道路上の全車両を自動運転化する――というのは現実離れした話に聞こえるかもしれない。しかし、リサーチ企業の英IDTechExのように、将来手動運転を禁止する動きが出てくることを予測する見方も出ている。

同社が2021年に発表したレポート「自動運転車、ロボタクシーそしてセンサー 2022−2042」によると、2050年代には自動運転の事故が年間平均1件以下となり、人間による手動運転が最も危険な要素になるという。そして、多くの国で手動運転を原則禁止するという動きが出てくるのではないかと予測している。

▼自動運転車、ロボタクシーおよびセンサー 2022-2042年
https://www.idtechex.com/ja/research-report/autonomous-cars-robotaxis-and-sensors-2022-2042/832

また、予測ではないが、日本政府が設置した「デジタル改革アイデアボックス」に寄せられた意見の中に、「将来自動運転技術が確立した際、一定の年齢に達したドライバーに自動運転を義務付けてはどうか」――とする声も寄せられている。

自動運転車の技術が高度化し、その安全性が広く認められる段階に達すれば、こうした主張が大きなものへと変わっていく可能性が考えられる。

国レベルで手動運転禁止とするのは相当ハードルが高そうだが、レベル5に限りなく近い自動運転車が自家用車にも普及し、自動運転車の比率が手動運転車を上回るころには、手動運転と自動運転に対する世論は大きく様変わりしているのではないだろうか。

■「自動車を操作する楽しさ」を主張する声もあるが・・・

「手動運転による自動車を操作する楽しさ」を主張する声も根強いが、これは長らく手動運転社会に浸っているからこその意見だ。自動運転車がスタンダードな存在となり、主流となるころには、相対的にこうした声はどんどん小さなものへ変わっていく。場合によっては、道路において手動運転車は肩身の狭い思いをすることになるかもしれない。その時代の若者はもはや運転免許を持つ必要はなく、手動運転に価値を見出さなくなることも想定される。

将来、手動運転と自動運転に対する価値が大きく変わっていくことは間違いなく、道路交通全体の安全性を考慮し国家単位で自動運転義務化・手動運転禁止を図る動きが出てくる可能性は十分考えられそうだ。

こうした議論は、自動運転車の普及率に左右されるものと思われる。手動運転禁止には、レベル4ではなく限りなくレベル5に近い技術が求められる。仮に2030年代にレベル5に近い技術が誕生した場合、2040年代にかけて普及が進んでいく可能性が考えられる。

イノベーション次第ではあるが、レベル5相当の求心力は高く、普及が一気に加速することも想定される。早ければ、2040年代にも手動運転禁止に向けた取り組みが本格化する可能性がありそうだ。

出典:国土交通省(https://www.mlit.go.jp/common/001226541.pdf
■【まとめ】未来の道路交通への転換点はいつ訪れるのか

どの時点で自動運転と手動運転に対する価値観が逆転するかは明言できないが、自動運転が主流となる時代はまず間違いなく訪れる。自動運転専用レーンが各地に登場する可能性も高そうだ。

また、手動運転禁止に向け、都市部や限界集落、離島などを活用した大規模実証が行われる可能性なども考えられる。手動運転禁止を前提にさまざまな取り組みが進められ、徐々に世論も形成されていくのかもしれない。

現在の交通社会や技術水準をベースに考えると手動運転禁止はあり得なく感じられるが、将来、こうした議論が本格化する可能性は決して低いものではない。未来の道路交通への転換点がいつ訪れることになるのか。当面は自動運転車の普及スピードに注目したい。

【参考】関連記事としては「自動運転の目的・メリット」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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