日本の自動運転「なんちゃってレベル4」で出遅れ鮮明 下山哲平の現状解説

このままでは差はどんどん広がる?



撮影:自動運転ラボ

世界各地で実用化の波が押し寄せている自動運転。米国や中国では無人の自動運転タクシーが商用化され、有料サービスを提供している。

一方、日本でも一部で自動運転レベル4の商用無人サービスがスタートしたが、これは米中の自動運転サービスとは基本が異なる。自動運転に関する専門家で自動運転ラボ主宰の下山哲平氏は、現時点における国内のレベル4を「なんちゃってレベル4」と指摘する。


米中のレベル4と日本のレベル4の何が違うのか。下山氏の解説を交えながらその差について解説していこう。

■日本のレベル4
国内第1号は「車道外の磁気マーカー式」

日本でも自動運転の実用化が喧伝されているが、下山氏に言わせると、これらは「なんちゃってレベル4」だ。

2023年10月現在、国内で実用化されているレベル4の代表格は、福井県永平寺町で運行する「ZEN drive Pilot」だ。同システムは2021年3月、国内初の遠隔監視・操作型のレベル3自動運行装置として認可を受け、遠隔常時監視による車内無人走行をいち早く実現した。

2023年3月には国内初のレベル4として自動運行装置の認可を受け、同年5月に特定自動運行の許可も取得し、遠隔監視のみの無人走行を行っている。今のところ、レベル4の自動運行装置として国土交通省の認可を得たのは同システムのみとなっており、紛うことなきレベル4の代表と言える。


しかし、そのODD(運行設計領域)を見てみると、道路条件は「福井県吉田郡永平寺参ろーど」で、「永平寺町荒谷~志比間の約2キロ」となっている。参ろーどは、京福電気鉄道永平寺線の廃線跡地を活用した遊歩道だ。歩行者や自転車は混在するが、車道ではないため他のクルマと交わることはない。

また、電磁誘導線とRFIDを活用しており、電磁誘導線上に自車両があることも必須となる。このほか、走行条件としては「運行速度が時速12キロ以下であること」、気象条件としては「周辺の歩行者などを検知できない強い雨や降雪による悪天候、濃霧、夜間などでないこと」が定められている。

街中に磁気マーカーは埋められない

下山氏は「永平寺町の取り組みは、一般的な車道ではない限定空間を低速で走る上、磁気マーカーを道路に引くなど実用化を考えると現実的な技術ではない。横展開を考えた場合、街中にも磁気マーカー埋めるのか?という話になる」と語る。

続けて、「実証の延長線上に公道における商業利用がなければならない。しかし、導入エリアが限られる磁気マーカーは広域展開できるものではなく、未来から逆算した実証実験になっていない」と指摘する。


これまでに、磁気マーカーを活用した実証は、滋賀県東近江市や北海道大樹町、長野県伊那市などの道の駅や、羽田空港、仙台空港、中部空港、成田空港の制限区域内、岩手県大船渡線BRTの一部、新石垣空港から離島ターミナル区間などで行われている。

純粋な市街地での活用を見込んだ取り組みは特になく、閉鎖空間や制限区域、交通量の少ない一般車道に留まっている。路面工事が必要で、かつ比較的簡素な自動運転システムで構成されているため、下山氏の指摘通り広く柔軟に横展開するには適していない技術と言える。

もちろん、初期の自動運転時代におけるスローモビリティの展開や積雪地域などでは重宝するかもしれず、車両コストも低いため輸送量の低い地方部では一定の需要があるものと思われる。バス停などの正着制御でのワンポイント活用も有効だ。

レベル4には違いないが、海外で進められている一般的な自動運転開発とは異なる特殊な技術であり、磁気マーカーに依存するため日本のどこでも導入可能か?と問われれば、難しいところがありそうだ。

【参考】磁気マーカーシステムについては「自動運転車、落としどころは電車のような「誘導型」?」も参照。

実証の多くが「レベル2状態」

下山氏によると、国内各地で進められている自動運転実証の大半も「なんちゃってレベル4」にすら達していないという。多くは運転席にドライバーが座るレベル2状態から脱却できていないのだ。

自動運転実証は、基本的にセーフティドライバーが同乗して常時車両の走行状態や環境をチェックしながら走行する実質レベル2からスタートする。レベル2状態で走行を重ね、安全性が高まれば徐々にドライバーの介入を少なくしていく。

ドライバーを助手席に配置したり、遠隔操作拠点に配置したりと徐々に車内無人の状態に近づけていくイメージだ。常時監視を必要とせず、万が一の際も車両が自動停止したり安全な場所まで自律走行したりする段階に達すれば、晴れてレベル4達成となる。公道走行を幾度も重ねた結果、たどり着く領域だ。

日本は自動運転バスの実用化を第一の指針に据えており、実証の大半は特定ルートに限定した走行を行っている。自動運転タクシーに比べ特定ルート上における安全確立を図りやすいはずだが、それでもレベル4の領域に達せず、多くがレベル2~3の実証に留まっているのだ。

本格的な自動運転は2025年度以降に

2023年4月の改正道路交通法施行でレベル4サービスの提供が可能になり、各地で実用化を目指した取り組みが加速している。中には、2024年度にもレベル4サービス実用化を計画しているものもあるが、それですら現状レベル2の実証に留まっていたりするのだ。

例えば、石川県小松市は、JR小松駅と小松空港を結ぶ路線に自動運転バスを導入する計画で、2023 年度中の長期実証を経て、2024 年度中に小型自動運転 EV バスの定常運行実現を目指すという。

ただ、本格的なレベル4は2025年度以降を予定しており、日経新聞によると、2024年度は運転手が同乗し、必要に応じて手動運転に切り替えるレベル2で運行を行うという。

つまり、本格的な自動運転は2025年度以降となるのだ。それまでは「なんちゃってレベル4」以下の取り組みが続くことになる。

ティアフォーが運転席無人で実証

では、日本国内における自動運転タクシーの取り組みはどうなっているのか。古くはZMPらが取り組んでいたが、近年は実証のリリースも行われていない。

代わって台頭してきたティアフォー勢は、2019年から自動運転タクシー実用化に向けた取り組みを本格化し、東京都内などで公道実証を進めている。2020年11月の実証では、遠隔監視のもと一部区間で運転席無人の走行が行われたようだ。

ただ、その後の進捗については特に明かされておらず、2022年以後を事業化段階と見据えていた当初計画も、最速で達成には至らなかったのが現実だ。

【参考】ティアフォーなどの取り組みについては「自動運転タクシー、もう「普通の人々」も乗れる段階!西新宿でも「運転席無人」で」も参照。

■米国や中国の自動運転

一方で、海外においては自動運転の実用化・商用化に向けた動きはどのような段階にあるだろうか。日本と大きな差があるだろうか。答えは「YES」だ。大きく差がある状況だ。

WaymoCruiseが無人サービスを展開

米国では、2018年末にグーグル系Waymoがアリゾナ州フェニックスで自動運転タクシーの商用サービス「Waymo One」を開始した。翌2019年末には、一部でドライバーレスの運行を開始するなど、常に先陣を切ってきた。

2021年8月には、第2の都市としてカリフォルニア州サンフランシスコでもパイロットプログラムに着手している。同市ではGM系Cruiseも同年、従業員向けのサービス実証を本格化させており、Cruiseは2022年2月に一般住民を対象としたサービスを開始するなど、2社による競争が加速している。

両社ともすでにドライバーレスでサービスを提供しており、Cuiseは無人車両による有料サービスを展開している。2023年8月には、24時間運行の許可も発表されており、拡大路線はまだまだ続く見込みだ。

なお、Waymoはアリゾナ州とカリフォルニア州のほか、テキサス州オースティンでも試験走行を開始しているようだ。Cruiseもアリゾナ州とテキサス州でサービスを開始している。Cruiseは、2023年12月から中東ドバイでも有料サービスに着手するようだ。

【参考】WaymoとCruiseの取り組みについては「Googleの自動運転タクシー、「24時間営業」解禁でマネタイズに道筋」も参照。

中国でも無人サービスの普及が一気に加速

中国では、IT大手百度を筆頭に、WeRide、AutoX、Pony.aiなど開発各社が自動運転タクシーサービスを各市で提供している。

北京や重慶、広州などでは完全無人タクシーがすでにサービスを提供しており、無人タクシーの有料サービスも拡大を始めているようだ。競合するライバルが多いためか、米国以上のスピードで普及が進み始めている。

国策の形で政府が強力にバックアップしており、各社はリスクを恐れることなくチャレンジしている印象だ。百度は2030年までに中国内100都市でのサービス提供を目標に掲げている。

中国勢の躍進に関し、下山氏は「リスクをいとわない国のスタイル。国を中心に資金的なバックグラウンドと法的サポートで手厚くバックアップしている」と話す。

【参考】中国国内の取り組みについては「中国の自動運転タクシー事情(2023年最新版)」も参照。

自動車メーカーとの協業も原動力に

米国、中国では、開発各社が自動車メーカーとしっかり手を結んでいる点も見逃せない。WaymoはFCA(現ステランティスグループ)やジャガーランドローバー、日産・ルノー、ボルボ・カーズなど各社と提携している。Cruiseは親会社のGMに加えホンダも交えた3社体制で開発を促進している。

中国勢も、中国メーカー各社と手を結ぶほか、WeRideは日産、Pony.aiはトヨタ、AutoXはホンダなど世界各国のメーカーとパートナーシップを結び、さまざまな車両プラットフォームに自社開発した自動運転システムの統合を図っている。

バスに比べ、タクシーは多くの台数が必要となるため、こうしたメーカーとの協業も欠かせないのだ。

こうした勢いに飲まれてか、日産は2023年3月、現地子会社がモビリティサービス事業を手掛ける新会社を中国内に設立し、自動運転タクシーサービスに乗り出すことを発表した。WeRideが技術的サポートを行うようだ。

トヨタも2023年8月、グループの中国統括企業とPony.aiなどとともに自動運転タクシー量産化に向け合弁を立ち上げることを発表した。

2社とも、日本での展開よりも中国での取り組みのほうが先行する形となりそうだ。日本と中国、それぞれの国における業界の取り組み状況や環境の違いがこうした結果につながっているのかもしれない。

【参考】日産の取り組みについては「日産の自動運転タクシー、商用化は中国から!?」も参照。

【参考】トヨタの取り組みについては「トヨタ、中国で自動運転タクシーを本格量産へ Pony.aiと合弁設立」も参照。

自動運転タクシーは技術向上に大きく貢献?

こうした違いの背景には何があるのか。一つは、「バス」と「タクシー」の違いだ。

定路線を走行するバスに比べ、タクシーは一定エリア内を縦横無尽に走行する。タクシーのほうが不確定要素が高く、それ故自動運転システムに求められる性能もより高度なものとなる。米中勢は、こうした柔軟な自動運転システムの開発・実用化を最初から進めているのだ。

また、タクシーは複数台でフリートを組んでサービスを提供することがスタンダードとなるため、必然的に実証台数も増える。実証台数が増えれば、それだけ多くのデータを収集し、短時間で多くの経験値を得ることができる。

車体が大きく重いバスは特有の難しさを抱えるが、特定の路線に特化した開発を進めることが基本となるため、収集データに限りがある。一方のタクシーは、より広い範囲でさまざまなデータを複数台で収集できるのだ。この差が自動運転技術向上の差へとつながっているのは間違いない。

参考までに、米カリフォルニア州道路管理局(DMV)が発表したデータによると、2022年(2021年12月~2022年11月)に同州で登録された自動運転車両(有人)は、Waymoが688台、Cruise388台、Zoox142台、AutoX44台、Pony.ai41台となっている。対する日本勢は、トヨタ4台、日産6台の状況だ。

すべての車両が走行したわけではないが、Waymoは総計290万マイル(約464万キロ)を走行している。日産は1194マイル(約1910キロ)、トヨタは4774マイル(約7638キロ)で、文字通りケタが違う。

技術の差を縮めるには、公道実証の経験値を埋めることが肝要となるのだ。

特区やさらなる法整備で実証加速を

制度整備の違いを指摘する意見もある。下山氏は「現在のレベル4解禁はバスなどを想定したものでまだ不十分。自動運転特区やさらなる法整備の加速で、民間企業が実証・実用化をしやすくする環境を整えていくことが重要」と指摘する。

続けて、「慎重を期しながら技術を実用化させていくのは日本的な動きと言えるが、それでは世界との差は広がるばかり」と警鐘を鳴らし、国内でのさらなる取り組みを促している。

最近は日本政府も現在の国内の状況にようやく危機感を感じ始めている状況にある。デジタル大臣の河野太郎氏は「(自動運転は)規制があってとても商業的に利益がでる状況になっていない」と指摘。自動運転化が進んでいない状況に「忸怩たる思い」とも述べている。

■【まとめ】開発各社が公道実証しやすい環境づくりを

レベル4実現に向けた法整備をいち早く進めた日本だが、このままでは米中開発勢との差が埋まるばかりか、離される気がしてならない。

自動運転バス実用化に捕われ過ぎず、開発各社が柔軟に公道実証しやすい環境について改めて検討し、制度設計や規制などの面でブラッシュアップを図ってもらいたいところだ。

【参考】関連記事としては「自動運転、どこまで進んでいる?(2023年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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