日産の自動運転タクシー、商用化は中国から!?

現地子会社が蘇州で展開へ、WeRideも協力



日産自動車が自動運転実用化に向け大きく動き出した。その舞台は、日本ではなく中国だ。現地子会社がモビリティサービス事業を手掛ける新会社を設立し、自動運転タクシー(ロボットタクシー)サービスに乗り出す。同社によると、グローバルメーカーで中国に自動運転タクシー専門の会社を設立するのは初めてという。


自動運転タクシーの領域で先行する中国で、日産はどのような事業を展開していくのか。その取り組みに迫る。

■日産の中国における取り組み
日産モビリティサービスを設立

日産の中国現地子会社である日産(中国)投資=NCIC=は2021年3月、蘇州高鉄新城管理委員会と「蘇州市におけるインテリジェント交通システムの構築を目指す基本協定」を締結し、同州におけるインテリジェント交通システムの開発プロジェクトに着手した。

NCICは、中国における投資の管理や部品の輸出、政府機関渉外などを担う日産100%出資の子会社だ。

コネクテッドカーのエコシステムの開発とさらなる発展に向けた検証を行うとともに、スマートシティのビジョン実現に向け関連企業や関連組織との提携の有効性なども検討する。また、将来的な自動運転技術を用いたサービス導入も見据え、自動運転実証なども進めていくこととしている。


2022年11月には、中国で開催された「第5回中国国際輸入博覧会(CIIE)」で、NCICが新会社「日産モビリティサービス(日産出行服務)」の設立を発表した。

江蘇省蘇州市相城区に本社を置き、蘇州高鉄新城と連携しながらモビリティサービスへの投資と自動運転タクシーサービスの事業展開に取り組むこととしている。

WeRideが技術面でサポート

事業においては、ルノー・日産・三菱アライアンスの戦略的ベンチャーキャピタルファンド「アライアンス・ベンチャーズ」が出資している中国スタートアップWeRideが、プロジェクトに技術的サポートを提供する予定という。

NCICの木俣秀樹社長は「蘇州市相城区は、ルノーと日産の研究開発を担う合弁がある上海に近く、事業展開への支援と協業の機会があることから、新会社の拠点として選ばれた」としている。


また、日産の専務執行役員でNCICの会長を務める山﨑庄平氏は「中国市場における50年間の発展のマイルストーンと、市場に対する新しいコミットメントを表している」とコメントしている。

一方、WeRideのCOO(最高執行責任者)である張力氏も「自動運転技術の研究開発から運用まで幅広く参加し、全面的にサポートする予定」と前向きに協力していく構えだ。

本格商用化は2025年以降?

日本経済新聞によると、日産モビリティサービスは2023年3月からリーフ2台を導入し、10月には第2期としてアリア5台を追加導入するようだ。どの時点でサービス実証に着手するかは不明だが、2025年以降の本格商用化を目指す方針としている。

海外企業による自動運転サービスは中国では異例

各都市で自動運転タクシーの運用が始まっている中国だが、外国企業が中国国内でこの手のサービスを導入する場合、合弁などを通じて中国企業が実質的な主体となる形で臨むのが一般的と思われる。言わば中国ルールだ。

例えば、日産と東風汽車の合弁(東風インフィニティ汽車)を介し、WeRideとタッグを組んで事業に臨む――といった形だ。

しかし、今回のケースは中国法人とはいえ日産直系の企業であり、事実上国外グローバルメーカーによる初の事業展開となる。今後の中国自動運転市場を占う意味でも、これは注目すべきポイントだ。

日産は日本より中国で先に?

また、日産としては、日本国内よりも先に中国で自動運転サービスを展開することになるかもしれない。後述するが、日産は日本国内においても自動車メーカーの中でいち早く自動運転のサービス実証に乗り出している。

しかし、自動運転タクシーの受容性を考慮した場合、日本よりも明らかに中国の方が進展しており、百度やAutoX、WeRide、Pony.aiなど多くの先行勢がサービス実証段階に達している。百度などは一部エリアでドライバーレスのサービス許可を得ており、社会実装という観点では日本よりも一歩も二歩も進んでいる状況だ。

日本も2023年4月までに改正道路交通法が施行され、レベル4の実装が本格化することが見込まれるが、前例が豊富な中国の方が現時点においては事業者や自治体にとって取り組みやすく、住民にとっても受け入れやすいものとなっているのではないだろうか。

今回の取り組みが日産からの呼びかけによるものなのか、あるいは自治体側などからの呼びかけによるものなのかは分からないが、公道実証やサービス実証に着手しやすい環境が揃っていそうだ。

■日産の日本における取り組み
新たな交通サービス「Easy Ride」を開発

日産は国内において、自動運転による新しい交通サービス「Easy Ride(イージーライド)」の実証を神奈川県横浜市で進めている。

日産は2017年1月、DeNAとの協業のもと自動運転技術を活用した新しい交通サービスの開発に着手した。DeNAは仏EasyMileの自動運転シャトルを導入するなど自動運転サービス実用化に向けた取り組みを進めており、日産のモビリティに関する先端技術やDeNAのIoT技術など、それぞれの強みを生かしたサービスの実現を目指す方針としている。

2018年3月に横浜市のみなとみらい地区周辺でEasy Rideのサービス実証に着手し、一般モニター乗車のもと、約4.5キロのルートを往復運行した。

翌2019年2月にも実証を行い、配車アプリで目的地を指定できるようにするなどより実際のサービスに近づける形で実証に臨んでいる。

続く2020年2月には、当時DeNAが提供していた配車アプリ「MOV(モブ)」専用の配車端末を使用し、タクシー事業者などを対象に体験会を実施した。

4度目となる2021年9月には、新たにNTTドコモをパートナーに迎え、自動運転車両を用いたオンデマンド配車サービスの実証を行った。

Easy RideとドコモのAI(人工知能)を活用したオンデマンド交通システム「AI運行バス」を組み合わせ、将来の完全自動運転による交通サービスをイメージさせるような最新技術やサービスを提供することとしている。

これまでの実証はセーフティドライバーが同乗する実質レベル2で運行していたが、動向法が改正されレベル4が解禁される今後は、より本格的な実証に着手する可能性が高そうだ。

【参考】関連記事としては「2018年から4度目!日産が自動運転タクシー「Easy Ride」実証」も参照。

■【まとめ】国内事業と中国事業、どちらが先行するか

国内における自動運転サービス「Easy Ride」の取り組みも2023年度以降加速するものと思われ、中国事業とどちらかが先行することになるのか、これも1つの注目点だ。

また、中国では、日産がWeRide、トヨタがPony.ai、ホンダの現地法人がAutoXとそれぞれ提携するなど、独特の構図が形成されている。今回の日産の動きを見て、トヨタやホンダが新たな取り組みに着手するのか――といった点にも注目していきたいところだ。

▼WeRide公式サイト
https://www.weride.ai/

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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