自動運転車が普及する社会について論じられるとき、「人が運転しなくてもよくなる」という視点を軸にメリットが挙げられることが多い。
この視点は当然最も重要であり、人が運転しなくてもよくなることで、人が「運転に使っていた時間」が「可処分時間」(※自由に使える時間)となることから、その可処分時間を狙ったビジネスが将来多く誕生するはずだ。
一方、この記事では別な視点の提供も試みたい。それは、自動運転で「最も恩恵を受ける層」はどんな人たちか──という視点だ。
■「享受できる恩恵」で比較してみると
自動運転社会になれば、「今まで自動車を運転していた人」は、「運転しなくてもよくなる」という恩恵を享受できるようになる。このメリットは確かに大きい。
では次のケースだ。「今まで自動車を運転できなかった人」は、「自動車で移動をできるようになる」という恩恵を享受できるようになる。
ここで比較してみてほしい。「今まで自動車を運転していた人」と「今まで自動車を運転できなかった人」、個人として享受できる恩恵はそれぞれ違うが、どちらがインパクトが大きい恩恵と言えるだろうか。
筆者は後者だと考える。「今まで自動車を運転できなかった人」は「移動」自体に難を抱えていた。しかし、自動運転社会になればその「移動」の難が解消される。これは非常に大きい。前者の場合、少し極端に言えば、「手間」がなくなることに恩恵は限定される(もちろんこちらも大きなメリットではあるが…)。
■サービスのアイデアが生まれる起点に
こうした視点は、自動運転向けのビジネスを企画・展開する上でも役に立つはずだ。「今まで自動車を運転できなかった人」が自動運転車を利用する際に発生するニーズを先回りして予測すれば、サービスのアイデアが思いつくかもしれないからだ。
例えば、身体的な障害が原因で自動車を運転できなかった人が自動運転車を利用することを想定すれば…
乗るときと降りるときの大変さを解消する機器があれば便利なのではないか──。有人タクシーなら人の支援があるが、自動運転車は基本無人だから必要性が増すはず──。
視覚に障害がある人が自動運転車に乗っている最中、付近の施設や現在の天候などについて音声ナビをするシステムを搭載すれば、便利に使ってもらえるのではないか──。
こうした発想から新たなビジネスを着想できるかもしれない。
【編注】本記事では、こうした人たちが具体的にどのくらいの人数になるのか(※つまり見込み客はどのくらいの規模なのか)までも言及したかったが、いまのところ紹介できそうな公的データは見つからなかった。ちなみに令和3年度の障害者白書によれば、身体障害者の人数は436万人となっているが、この中には自ら運転ができる人も含まれる。(参考:https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/r03hakusho/zenbun/siryo_02.html)
■「ニーズ」を先回りして想像する重要性
コラム的な記事になったが、要は今後実用化が進んでいく自動運転車に関しては、将来生まれるであろう「ニーズ」を先回りして想像してサービスを用意した方が、その分野で先駆者になりやすいということだ。
自動運転社会で「最も恩恵を受ける人」は──。これはあくまで切り口の一つでしかない。ぜひほかにもさまざまな考えをめぐらせてみてほしい。
【参考】関連記事としては「自動運転車が普及すると「車庫」が無くなる!」も参照。