河野太郎氏、自動運転の規制に苦言「利益が出る状況じゃない」

米中に比べ日本は規制でがんじがらめ?



河野太郎大臣=出典:flickr / G20 Argentina (CC BY 2.0)

ライドシェア発言などで注目を集めるデジタル大臣の河野太郎氏。規制改革の旗頭として、自動運転技術の実用化・普及を推進する役割にも大きな期待が寄せられている。

早期実現が求められるところだが、日経新聞の取材において河野氏は「(自動運転は)規制があってとても商業的に利益がでる状況になっていない」と懸念を抱いているようだ。


自動運転の実用化・商用化においてどのような規制が障壁となっているのか。発言の真意に迫る。

■河野氏の発言
「本丸は自動運転」

規制改革を担う河野氏。近々ではライドシェア解禁に向けた動向に注目が集まっており、2023年9月26日のデジタル大臣記者会見では、記者から「ライドシェアやタクシーの規制緩和も経済対策の中で検討する考えはあるか」といった質問が飛び出した。

河野氏は「さまざまな地域でなかなかタクシーに乗車できないという悲鳴にも似た声が上がってきておりますので、まずこれに対応するためにタクシーの規制緩和、二種免許取得の規制緩和といったことを検討していかなればならない」とし、ライドシェアには言及しなかった。

記者が「まずタクシーの規制緩和を進め、ライドシェアはもう少し時間をかけて検討していくということか」と再質問したところ、河野氏は「本丸は自動運転だと思っている」と述べた。


ライドシェアに関する明言を避けた一方、自動運転への期待・意欲を示す格好となった。おそらくだが、自動運転技術が普及すれば、ライドシェアを導入することなくタクシー問題などを解決できる――といったビジョンが河野氏の頭の中にあるのだろう。

2023年9月の日経新聞によると、同紙の取材に対し河野氏は「最大のゴールは人手がいらない自動運転が自由に走り回ること」としている。やはり自動運転に大きな期待をかけているようだ。

その一方、河野氏は「規制があって商業的に利益が出る状況になっていない」と現状における課題を提起した。

河野氏が言う「規制」が何を指すかは不明だが、事実として実用化面で先行する米国や中国に追い付くようなイメージは湧かない。


米中ではドライバー不在のレベル4タクシーが次々とエリアを拡大する一方、日本では限られた空間でドライバーレスの自動運転バスをやっと実現した段階だ。保安要員を含む車内の無人化は商用面で非常に重要な要素となるが、日本ではこれがなかなか前に進まない。この差の背景には何があるのか。

■日本における法規制の現状
法整備は日本が先行

日本では、2020年4月施行の改正道路交通法及び道路運送車両法によって自動運転レベル3が解禁された。道路運送車両法に自動運行装置が規定され、その利用基準が道路交通法に明確に位置付けられた。

2023年4月には、車内ドライバー不在のレベル4に相当する自動運転を「特定自動運行」と定め、許可制で公道走行を可能にする改正道路交通法も施行された。

自動運転システムの開発者は、自動運転が可能となる場所や天候、道路条件、速度などのODD(運行設計領域)を記載した申請書を国土交通省に提出する。同省は、当該状況における自動運行装置の性能が保安基準に適合するか審査し、問題無しと認めた際に改めて走行環境条件を付与する。この条件が実質的なODDとなる。

この走行環境条件の付与を得た上で、運行事業者などが特定自動運行計画を策定し、都道府県公安委員会から許可を得ることで公道走行が可能になる仕組みだ。

レベル4を可能にする道交法改正制定などはドイツと並んで世界トップクラスの早さであり、国際基準策定面でも各国を主導している。

【参考】ODDについては「自動運転とODD(2023年最新版)」も参照。

規制緩和も随時実行

国は法整備以外にも、「自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン」(2016年発表)や「遠隔型システムの公道実証実験許可基準」(2017年発表)など、自動運転実現に向け実証を加速させる施策を実行してきた。

実証参加者の声を反映し、ハンドルやブレーキペダルといった従来の制御装置を備えない特別装置自動車の走行認定や、保安要員を必要としない条件設定、同一システムで同様の使用方法を行う際の車両審査の省略など、都度基準緩和も行っている。

既存のバス停における駐停車についても、道路交通法第44条第1項の規定により路線バスなど以外の車両が停まることは原則禁止されていたが、BOLDLYの要望を受け、路線バス事業者との合意などにより活用できるようになっている。

こうした状況を踏まえると、河野氏が言う「規制」が何を指すのかますますわからなくなりそうだが、BOLDLYの事例のように、指摘・要望を受け改めて規制緩和しなければ実現しない課題が水面下に多く眠っているのかもしれない。

■自動運転における課題
自動走行ビジネス検討会などは規制面には直接触れず

では、自動運転開発・実用化における現在の課題は何か。自動走行ビジネス検討会が2023年4月に発表した「自動走行の実現及び普及に向けた取組報告と方針 version7.0」では、自動運転サービス実装に向けた課題として「事業性」「技術」「環境整備」「社会受容性」を挙げ、解決に向けた議論を進めているようだ。

通信規格などのデジタル関連では、技術動向の急進性や不透明性、競争領域と協調領域のすみ分けの難しさなどを理由に、必要な政策支援の検討が十分に進められてこなかったことが指摘され、議論を重ねている。このほか、レベル4実証で得られた課題などの情報共有や、他地域への展開に活用可能な要素の整理なども進められているようだ。

一方、経済産業省・国土交通省が主導するレベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト「RoAD to the L4」において、2023年8月に発表された「安全設計・評価ガイドブック」では、「社会全体で許容できるリスクレベルの具体的定義」や「法令違反状態の他の交通参加者への対応」、「先行事例や類似事例などデータ共有し有効活用すること」「車内の乗客の安全」「ヒューマンエラーへの対策」などが課題として挙げられている。

いずれも解決すべき課題に違いはない。これらの中に「規制」が関わっているものもありそうだが、規制が主要因となっているものは少ない印象だ。特に、実用化や商用化の妨げとなっている規制に関わりそうなものはごく一部にとどまっているように思われる。

【参考】RoAD to the L4については「自動運転、「RoAD to the L4」とは?」も参照。

■米中と日本の違い
自由な米国、強権の中国、日本は……

米中と日本の差は、文化や風潮の違いによるところも大きいのかもしれない。米国の場合、あらかじめ規制が定められていなければ「やったもの勝ち」のような形で新規事業やサービスが展開されることも少なくない。問題があれば、後から規制するのだ。

自動運転で言えば、問題が発生した場合、起こった後に対処すればよい――といった風潮も感じられる。人命に関わるような事案は別だが、軽めの問題であればその都度修正していけばOK――といった感じだ。良くも悪くも、こうした社会環境は実証や実用化に適しており、技術やサービスの早期確立につながっていく。

中国は、政府がゴーサインを出せば企業も国民も従わなければならない強権性がプラスに働いている印象だ。政府が自動運転を推進する限り、実証やサービスにおいて少々の問題が発生しても誰も文句は言えない。

一方、日本は安全性や社会受容性が重視され、慎重な路線を歩みがちだ。安定や安全を望む国民性が強く、問題が発生する可能性があれば、それがクリアされない限り前に進ませない。規制やルールでがんじがらめにされた状態からスタートするのだ。

安全確保の観点からは間違いなく正しい対応だが、これをやり過ぎると早期イノベーションの妨げとなる。自動運転は、いかにリアルかつシビアな環境で走行を重ね、経験値を積み上げていくかが問われる。技術の向上には実証を重ねることが最重要なのだ。

以下の動画からも分かるように、実際に日本はアメリカや中国と大きな差がついている事実は重く受け止めなければならない。

【参考】関連記事としては「中国の自動運転タクシー事情(2023年最新版)」も参照。

自由度の高い開発推進に向けさらなる規制緩和を

米中では、自由度の高い自動運転タクシーが開発の軸となっている一方、日本は定路線を比較的低速で走行する自動運転バスが軸となっていることも背景にあり、実用化の進み方が違うのかもしれない。

自由度の高い開発を推進するためには、水面下できつく縛られたままのさまざまな規制をいっそう緩和し、場合によってはさらなる法整備を行っていく必要があるのかもしれない。

■【まとめ】強いリーダーシップでイノベーションを

米中と日本の差については、このほか「資金面」によるところも大きい。イノベーションに寛容な米国では開発事業者に多くの資金が寄せられるが、日本はまだまだスタートアップへの投資が鈍い。

こうした投資に対する意欲の違いも、長らく続いた不況や安全な預貯金大好きな国民性が背景にあるものと思われる。

大きな変化を好まない国民性を打破するには、ある程度強行的とも言えるぐらいのリーダーシップで世論を変えていかなければならない。

河野氏の言う「規制」が具体的に何を示すかまでは特定が難しいが、自動運転事業の加速に向けその手腕・手法に期待したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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