ライドシェア解禁、河野太郎氏にタクシー業界が激怒!「断固阻止」を決議

デジタル行財政会議で議論の俎上に



河野太郎大臣=出典:flickr / G20 Argentina (CC BY 2.0)

デジタル大臣を務める河野太郎氏ら有力議員の間でライドシェア導入を模索する動きが活発化し始めている。河野氏率いるデジタル庁では、ライドシェアが正式に議論の俎上に載せられる見込みだ。

ライドシェアに関し、河野氏はどのような青写真を描いているのか。また、ライドシェアと競合するタクシー業界はどのような反応を見せているのか。今後激化することが予想されるライドシェアをめぐる攻防の「今」に迫る。


■ライドシェアをめぐる国の動き
河野氏や菅氏がライドシェア導入検討に前向きな姿勢示す

河野氏は2023年8月、出演したテレビの報道番組において、地域ごとにライドシェアや自動運転サービスを自動解禁していく独自案を明かした。タクシーの供給不足が都市圏や観光地を中心に恒常化していることを念頭に置いたもので、利用者のタクシー待ち時間などに条件を設定し、サービス品質を維持できない場合には地域ごとにライドシェアや自動運転サービスを解禁していく――といった内容だ。

同時期、菅義偉前首相も地方講演でライドシェア解禁に向けた議論の必要性に言及しており、ライドシェア解禁の是非をめぐる議論が熱を帯び始めた。

デジタル行財政会議の中で正式に議論

2022年8月発足の第2次岸田改造内閣でデジタル大臣に就任した河野氏は、2023年9月の第2次改造内閣においても同大臣を留任し、デジタル行財政改革担当、デジタル田園都市国家構想担当、行政改革担当、内閣府特命担当大臣(規制改革)を兼務するなど、権限と発言権を強めた格好だ。

2023年9月22日に行われた大臣記者会見では、記者の質問に答える形で早速タクシー改革とライドシェアに言及した。


河野氏は、「おそらくコロナ禍でタクシーのドライバー数が相当減少したと思う。各社の努力で少しずつ人数は戻ってきていると認識しているが、インバウンドの回復で京都をはじめ観光地でなかなかタクシーが捕まらないということ、過疎地においては恒常的に運行している台数が少ないためになかなか地域の足が確保できないといったことがある」と現状の課題を指摘した。

その上で、「解決策として、タクシーに関連するさまざまな規制緩和を実施していく必要があると思う。もう1つは、ライドシェアといわれる仕組みを取り入れていく。その中で、おそらくライドシェアに関して、例えばタクシーで行っているアルコール検知をどのように明確にするのか。やる方の運行管理や健康管理をどうするのか。そういったことも合わせて議論し、公共交通サービスを提供できない地域を中心にしっかりとサービスを提供できるのか、そういう議論を積極的にやっていきたい」と意欲をのぞかせた。デジタル行財政会議の中で議論をしていく予定という。

ライドシェアに関する私案も徐々に明るみに

日経新聞によると、河野氏は同紙の取材に対し「『ある地域で一定時間内に迎車できるタクシーの割合』などの基準を設け、下回った場合に交通手段を増やす手立てが必要」と話したという。その上で、ライドシェアは個人タクシーに準ずる形で台数を増やせるとしている。

また、タクシードライバーについても、第2種運転免許の試験を外国語対応にして外国人ドライバーを増やしたり、教習時間を柔軟に設定したりする案などを示し、タクシードライバー自体の総数も引き上げやすくしていく構えのようだ。


斉藤国交大臣はスルー

河野大臣の発言を受け、国土交通省でもライドシェアに関する質疑があった。斉藤鉄夫国土交通大臣は9月26日の会見でライドシェアに対する国土交通省の考え方を問われ、「ライドシェアの議論については承知しているが、国交省では安全、安心を大前提に利用者の需要にしっかり応えられるよう、タクシーなどの移動手段について各種の支援や規制緩和などに取り組んでいきたい」と話し、是非に関する明言は避けたようだ。

■タクシー業界の反応
日の丸交通はタクシーの安全性を主張

こうした動向を受け、ライドシェアと競合するタクシー事業者では反発する声が高まっている。NHKの取材によると、新規ドライバーの採用を促進し急増する需要への対応を図っている日の丸交通の富田和孝社長は、タクシーの強みとして「安全性」を挙げている。

二種免許に加え、しっかりとした社内研修を実施しているほか、アルコールの呼気チェックや、タイヤの空気圧など20超の項目を出発前に必ず確認しているという。移動サービスを担うプロ組織としての安全確保策だ。これをライドシェアで厳密に守るのは事実上難しいのも事実だ。

なお、余談となるが、日の丸交通は2020年12月、Uberとタクシー配車サービスにおける業務提携を締結している。Uber Japanはこのとき、「Uberは違法なライドシェアに反対する立場として、タクシー会社とともにタクシー業界の発展に貢献していく」としている。

ライドシェアサービスの代名詞的存在のUberも、日本では現状同サービスの提供を諦め、タクシー事業者との協調路線を歩んでいると言える。

全国ハイヤー・タクシー連合会は反対決議を重ねる

全国5,000以上の事業者が加盟する一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会は、2023年6月に開催した通常総会において、「国民の安全を脅かすとともに地方創生の担い手である地域公共交通の存続を危うくする『ライドシェア』と称する白タク行為を断固阻止する決議」を採択した。

「国民の安全を脅かすとともに地方創生の担い手である地域公共交通の存続を危うくするライドシェアの解禁断固阻止」を軸とする決議で、与野党の議員連盟や行政機関、自治体などと緊密な連携を取りながら力を尽くすという。

また、日本においてライドシェアが不要であるということを示す意味でも、タクシーが進化し、社会からの信頼を得ていくことが不可欠であり、各地の協会や事業者での取り組みが重要としている。

さらに、河野氏や菅氏の発言を受けてのものと思われるが、9月27日開催の全国ハイヤー・タクシー事業者大会でも改めて同様の決議を行っている。

新しい決議文では、3月開催の「新しい資本主義実現会議」において民間議員からライドシェア解禁が提案されたことや、インバウンド需要の回復を受け解禁を主張する声が出てきたことにも言及し、「ライドシェアと称する白タク行為は、事業主体が運行及び車両整備管理などについて責任を負わない点が最大の問題」とし、「地域公共交通機関たるタクシー事業の根幹を揺るがすとともに、改正タクシー特措法の意義を著しく損なうもの」と断固反対の姿勢を強めている。

ちなみに、新しい資本主義実現会議においてライドシェア解禁を提案したのは、現在はLINEヤフーの代表取締役会長(※当時はZホールディングスの代表取締役社長)を務める川邊健太郎氏だ。デジタル田園都市国家構想における地域交通ネットワークの再構築に関し、「一般道での完全自動運転の実現はかなり先のことであり、現実的ではない。それよりもライドシェアサービスの拡充に努めるべき」といった主旨の発言を行ったようだ。

利用者サイドは賛成45%、反対33%の状況

サービスを享受することになる国民の反応はどうか。紀尾井町戦略研究所が2023年9月に行ったライドシェアに関するオンライン意識調査によると、どちらかと言えばを含め、ライドシェア解禁について賛成45%、反対33%となったようだ。

ただ、ライドシェアという言葉を理解できている人は51%にとどまっており、今後の流れ次第で賛成・反対の比率は大きく変わっていく可能性も高そうだ。

【参考】ライドシェア解禁に関する意識調査については「ライドシェア、解禁派は主に「意識高い系」?全体では賛成45%にとどまる」も参照。

■【まとめ】タクシー業界との共存がカギ?

ライドシェア導入をめぐっては海外でも推進派と反対派に分かれている。東南アジアなど、タクシーサービスの質があまり良くない国ではライドシェアが非常に重宝される一方、ギグワーカーの労働問題やドライバーによる犯罪などを契機にライドシェアに規制をかける動きもある。

日本のタクシーサービスはおそらく世界トップクラスだ。まったく問題がないわけではないが、マナーや法令違反などはあくまでごく一部にとどまる。しかし、現在の状況では大きな波のある移動需要に柔軟に対応するのはコスト的に難しいのも事実だろう。

議論がどの方向に進むかは不明だが、ライドシェアが全面解禁される可能性は限りなく低い。特段の条件無しで解禁された場合、既存タクシー事業者の経営を圧迫し、地方などで事業撤退が相次ぐ懸念があるためだ。

タクシー事業者が一度撤退すれば復活は難しい。一方、個人の集合体的サービスとなるライドシェアは、安定したサービスの提供を保証するものではない。「雨が強いから今日は休む」といった不安定さが必ずつきまとうのだ。

解禁される場合、タクシー業界との共存を維持するための厳しめの条件が付される可能性が高そうだ。

【参考】関連記事としては「ライドシェアとは?意味は?(2023年最新版)」も参照。


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