【2023年5月の自動運転ラボ10大ニュース】国内初の特定自動運行認可

ポルシェがMobileyeと高度ADAS導入へ



2023年5月中、国内では自動運転車をはじめ鉄道や空飛ぶクルマ自動化に向けた取り組みがそれぞれトピックにあがった。


一方、海外では高級自動車メーカーのポルシェや自動運転開発を手掛ける米May Mobilityなどに動きがあったようだ。

徐々に浸透し続けている自動運転技術。2023年5月にはどのような新情報があったのか、10大ニュースを1つずつ振り返っていこう。

■自動運転、首長の舵取りに注目!街の未来を変える重要施策に(2023年5月1日付)

自動運転サービス導入に向けた取り組みが徐々に本格化の兆しを見せ始めている。自治体の意向を受けた実証も今後加速するものと思われるが、ここで重要となるのが首長の方針だ。事業化には市民の意向や議会における議決などが欠かせないが、その前段となる首長の施策があってこそ事業が立ち上がるのだ。

先行する茨城県境町では、町長の強いリーダーシップのもと自動運転事業が大きく加速している。一方、2018年度から実証を重ねてきた滋賀県大津市では、実証中の事故が影響したかは定かではないものの、2020年に就任した現市長からは、市として主体的に取り組む意向が感じられない。


自動運転ではないが、類似するケースは静岡県裾野市でも発生している。同市では、トヨタのWoven City建設に合わせスマートシティ化を図るプロジェクトがスタートしたが、市長交代により同プロジェクトは停止された。

どちらが良い・悪いというものではないが、首長の意向で事業が加速する場合もあれば、逆にストップする場合もあるということだ。

多くの自治体が何らかの交通課題を抱えている。今後、課題解決に向け自動運転技術の導入を図っていくべきか否か――が問われることも多くなりそうだ。

【参考】詳しくは「自動運転、首長の舵取りに注目!街の未来を変える重要施策に」を参照。


■トヨタ、さすがの出資判断!米May、自動運転サービスを実現(2023年5月2日付)

May Mobilityが、アリゾナ州サンシティでオンデマンドによる自動運転交通サービスを開始した。ミシガン州やインディアナ州、オハイオ州、テキサス州に次ぐ新たな展開だ。

自動運転シャトルを中心に開発を進める同社は近年、レクサス車やトヨタのAutono-MaaS車両「シエナ」をベースにした自動運転車の開発を加速しており、オンデマンド移動サービスなどの実用化を推し進めているようだ。

同社に対しては早くにトヨタが出資しているほか、ソフトバンクも2022年に業務提携を交わすなど日本企業との関わりも深く、広島県で行われたMaaS実証にも参加している。

自動運転車が国境を超えて活躍する場面も今後間違いなく増加する。May Mobilityはすでに日本法人も設立しており、同社の自動運転車が本格的に日本国内で走行し始める日もそう遠くないのかもしれない。

■自動運転、トヨタ出資のPony.aiが広州で初「完全無人」許可(2023年5月9日付)

中国Pony.aiが、広州市で完全無人による自動運転タクシーの運行許可を取得した。同市における完全無人は初という。

同社は北京や米国などでも実証を重ねているが、広州市では自らがタクシーの営業ライセンスを取得し100台規模の自動運転車を導入する計画を立てるなど、力を入れている様子だ。

今回の許可のもと、無人走行可能な自動運転車を17台配備する予定という。競合する百度やWeRideなどとの開発・実用化競争もますます過熱していくことになりそうだ。

Apple、自動運転開発でレイオフ!テスト運転手を約25%削減(2023年5月10日付)

米カリフォルニア州車両管理局(DMV)の資料によると、米アップルが自動運転車のテストドライバーを25%ほど削減したようだ。完全無人化に向けた動きか?――と見たいところだが、同社はDMVから無人走行ライセンスを取得していないため、純粋な人員削減のようだ。

アップルの自動運転開発は水面下で進められており、これまでも人員削減したかと思えば開発企業を買収するなど、実用化に向けた取り組みの加減速が激しい印象が強い。

最新情報では、サービス向けのレベル4ではなく、オーナーカー向けのレベル3を2025年ごろをめどに発売するのでは――とする見方が強い。こうした背景を考慮すれば、テストドライバーの削減にも納得がいく。

まだまだ紆余曲折しそうなアップルの自動運転開発だが、アップルブランドへの高い期待にどのように応えていくのか、要注目だ。

■日本が誇る「新幹線」の自動運転化が加速!JR東とJR西がタッグ(2023年5月15日付)

JR東日本とJR西日本が、新幹線の自動運転化に向けた技術協力について検討を開始した。まずは相互直通運用を行う北陸新幹線のE7系/W7系をベースに、自動運転実現に向けたシステム開発などにおいて協力体制を構築していく構えだ。

JR東はこれまで、ATO(自動列車運転装置)の開発などドライバーレス運転実現に向けた取り組みを進めており、2020 年代末に上越新幹線の新潟駅~新潟新幹線車両センター間の回送列車、2030 年代中頃に東京駅~新潟駅の営業列車の自動運転化を目指している。

一方のJR西も2022 年度から北陸新幹線白山総合車両所敷地内において車両を自動加速・減速させ定位置に停止させる技術開発など、機能評価と課題抽出を行うための実証に着手している。

自動車同様、鉄道においても自動運転化しやすい路線などさまざまな条件があり、JR各社がそれぞれ取り組んでいるところだが、新幹線自動化に向けては各社の協調体制が必須となる。

多方面から進む鉄道自動化の取り組みに要注目だ。

■JAL、空飛ぶクルマを「無操縦者」で社会実装へ!新たな挑戦に注目(2023年5月15日付)

JALと米Wisk Aeroが手を組み、無操縦者航空機の実用化に向け共同検討していくようだ。現在、社会実装に向けた取り組みが加速する空飛ぶクルマの多くはパイロット付きだが、その先の未来を見据えた協業だ。

JALはWisk Aeroのほか、米Bell Textronや独Volocopterともパートナーシップを結んでおり、次世代エアモビリティの実用化を加速している。大阪・関西万博では、Volocopterと運航サービスを提供する予定だ。

日本では大阪・関西万博をマイルストーンに空飛ぶクルマの実用化が始まる見込みだが、当面はパイロット付きだ。その後、技術を高度化して無人飛行の安全性を向上・立証するべく無操縦飛行の実証が徐々に本格化するものと思われる。

目下のところ空飛ぶクルマの実用化に注目が集まっているが、その後はこうした無操縦飛行への注目も高まっていくことになるのだ。

■自動運転、日本でのレベル4初認可は「誘導型」 米中勢に遅れ(2023年5月17日付)

福井県永平寺町で実証が重ねられている自動運転サービスが、道路交通法に基づく「特定自動運転」の許可を取得した。改正道交法で認められたレベル4の国内初の事例だ。

同町では、国の事業のもと産総研が指揮を執り、ヤマハ発動機や三菱電機、ソリトンシステムズとともに自動運転の研究開発を進めてきた。2023年3月末に遠隔監視のみのレベル4自動運行装置を備えた車両として認可を受けていた。

この車両を用いた運行に向けた特定自動運行に係る許可が下りたのだ。これにより、車内をはじめ遠隔地にも運転者がいない状態での運行が可能となった。特定自動運行主任者が3台を運行する計画だが、常時遠隔監視不要で、不具合などで自動停止した際の対応を行う。

電磁誘導線を活用した自動運転システムで、かつ経路は一般車道ではない廃線跡地のため横展開には制限がかかりそうだが、貴重な一歩であることには違いない。2023年度内にこうしたレベル4運行がいくつ認可されるのか、注目したいところだ。

■ポルシェ、ついに「自動運転化」に興味?米Mobileyeと提携(2023年5月18日付)

高級スポーツカーメーカーにも、ついに自動運転や高度ADASの波が押し寄せたようだ。ポルシェがモービルアイと手を結び、ハンズオフ運転を可能にする「Mobileye SuperVision」の導入を推進するという。

Mobileye SuperVisionは、11台のカメラによるフルサラウンド高解像度コンピュータビジョンを用いたADASで、コンシューマー向け自動車、つまり自家用車でハンズオフ運転を可能にする技術だ。将来的にはアイズオフ運転を可能にし、「自動運転への架け橋」となる技術に位置付けられている。

ポルシェが属するフォルクスワーゲングループは自動運転開発が盛んな一方、グループ内においてハンズオフ運転を導入した車種は未だ発売されていない。意外にもポルシェが先陣を切り、自家用車におけるADAS・自動運転の導入をリードしていく可能性が急浮上した印象だ。

■自動運転シャトル「300円以下では事業化困難」 マネタイズに必要なことは?(2023年5月19日付)

JKK東京と群馬大学がこのほど、自動運転サービス実証の結果報告書をまとめた。これによると、1乗車300円以下では事業性の確保が困難で、さらなる技術革新によるコスト削減や運賃以外の収入源確保などの検討が必要という。

自動運転サービスは、職業ドライバー不足の解消や道路交通の安全性向上とともに、人件費減によるコスト低減効果にも期待が寄せられているが、現状はイニシャルコストとなる車両価格が高く、社会受容性もまだまだ不足している。「ビジネス」としての採算性を論じるには早過ぎるのだ。

ただ、早計であることを踏まえたうえで今回のように利用者の希望運賃水準などを調査し、事業性を検討していくことは非常に重要だ。

数年後には自動運転技術が一定水準に達し、車両価格も落ち着くものと思われる、社会受容性もある程度醸成されているだろう。どの段階で採算ラインを突破し、事業としての継続性が生まれてくるのか、要注目だ。

■日立が解決!狭い道路での自動運転、「対向車の意図」を理解(2023年5月20日付)

日立Astemoが新たな自動運転技術の開発を発表した。対向車両と協調行動をとることで狭路などでも安全にすれ違うことができる技術だ。

LiDARなどのセンサーで得られた三次元情報を統合し、車両周辺の走行環境を立体的に認識するとともに、検知したフリースペースや対向車両の挙動から進行意図を理解して経路予測を行うことで、対向車両と協調した狭路でのスムーズなすれ違いを可能とする技術を開発したという。

将来的には、2023年に販売開始した汎用性の高い新型の高精度ステレオカメラとの連携を視野に入れている。新型ステレオカメラは、あらかじめ機械学習で識別パターンを記憶させることで高精度な歩行者や自転車の検知・測距を可能にし、特に交差点右左折時の衝突防止に貢献するという。

フリースペースの検知や対向車の挙動予測などにより、早い段階でリスクを回避できる速度や軌道などに自車両を制御可能になる。混在交通下における自動運転に有用な技術だ。

■【まとめ】永平寺に続く特定自動運行認可の動向に注目

レベル4が解禁された国内では、さっそく特定自動運行に向けた動きがあったようだ。今後、永平寺町と同様のシステムを活用した沖縄県北谷町や、BOLDLYらと手を組む茨城県境町、北海道上士幌町などの動向にも注目したいところだ。

海外では、米中で引き続き動きがあったほか、ポルシェとモービルアイのパートナーシップも興味深い。高度なADAS、そしてレベル3導入に向け、自動車メーカーと他企業が手を組む好例となり得る。

同様の動きが続くものと思われる6月には、どのようなニュースが飛び交うのか、要注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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