自動運転、首長の舵取りに注目!街の未来を変える重要施策に

導入するかが議論の的に?



(左)滋賀県大津市の佐藤健司市長(右)茨城県境町の橋本正裕町長=出典:大津市公式サイト/境町公式サイト

滋賀県大津市で長年続いている自動運転実証が岐路を迎えているようだ。日経新聞によると、記者会見の席で、同市の佐藤健司市長は「現時点で自動運転事業化に向けた新たな計画はない」ことを明かしたという。

公式発表が出されていないため推測となるが、恐らく定例記者会見の席で記者から自動運転に関する質問を受けた際の答弁だ。同市の実証では、2023年1月に乗客がけがを負う事故が発生し、実証を休止したいきさつがある。


5年連続で実証を重ねてきた同市は、自動運転に対しどのようなスタンスをとっていくのか。自動運転導入に向けては、今後政治的判断が求められるケースが増加していくことが予想される。

この記事では、同市の事例などに触れつつ、政治的判断の必要性に迫っていく。

■大津市における自動運転実証
自動運転実証は「事業者が主体的に運行につなげること」

日経新聞によると、佐藤市長は自動運転実証について「実験で得られるものは得た」とする一方、実証の目的については「事業者が主体的に運行につなげること」とし、今後についても「事業者が主体的に考えること」といった考え方を示したようだ。

行政として一定の成果を上げた一方、実証については事業者主体であり、受け皿となっている大津市としては現時点で主体的に取り組む意思はない――といった印象だ。サービス事業者が自動運転技術の導入を推進する場合、自治体として協力していくものと思われるが、自らが率先して導入を推進する姿勢は見受けられない。


2018年度から毎年自動運転実証を実行

大津市では、国の事業のもと2018年度から毎年度自動運転バスの実証が行われてきた。2020年度に車両が縁石や歩道柵に接触する事案が発生したが、その都度対応策を施し、改善を重ねてきた。

2022年度は、新たにターゲットラインペイントの導入や電子チケットの導入なども図り、さらなる安全性の向上や回遊性の向上などを図った。

しかし、2023年1月11日、ホテル敷地内のスロープを上る際、バス停手前に停車していたトラックを避けようと手動介入したところ、前方障害物がなくなったと判断した自動運転システムが加速を行い、乗客が座席から転倒した。加速の際に2速から1速へのキックダウンが発生してアクセル指示値が増加し、ギア接続時の加速度が大きくなったことが要因のようだ。

その後、手すりの設置や安全監視員による注意喚起、キックダウン時の急加速の防止といった対策を行っている。


【参考】大津市の自動運転バス事故については「自動運転、事故発生が再認識させる「人間くささ」の重要性」も参照。

大津市自動運転実用化プロジェクト会議によると、今後は国の動きや自動運転技術の進展、国内における実用化の動向などを注視し、関係者間による協議のうえ進め方を検討していくとしている。

なお、この取り組みとは別に、道の駅「妹子の郷」を拠点とした自動運転実証も国土交通省主導で2019年に行われている。こちらは、長いトンネル区間の存在や対象道路を走行する他の車両の平均速度が比較的速いことなどがネックとなり、実証全区間の自動運転化は困難と判断したようだ。

【参考】ターゲットラインペイントについては「自動運転向け「人間に見えない塗料」、日の丸技術に世界驚く」も参照。

■自動運転に求められる政治的判断
賛否両論引き起こす自動運転

自動運転技術は、道路交通の安全やドライバー不足対策などに資する技術として大きな期待を寄せられる一方、未知の技術への不安や多額の開発費用などを理由に反対する声も少なくない。

大津市議会では過去、「葛川地域など交通不便地域への自動運転の導入など、デジタルサービスを活用した地域住民の安全で安心な移動について検討を進めてはどうか」といった前向きな一般質問が行われている。

その一方、自動運転バスの実証調査経費を「急ぐ必要のない国主導の事業」とし、多額の予算計上を疑問視しつつ「交通量が多い公道での実験運行は行うべきではない」とする意見も出されている。

積極派や慎重派、否定派がまだまだ混在するのが実情で、この傾向はいましばらく続くものと思われる。

佐藤市長は、実証途中の2020年1月に現職後継候補を破り市長に当選した。市長が推進派・慎重派のどちらに属するかは不明だが、さまざまな意見が飛び交う事業においては、最終的に政治的判断が求められることになる。

現時点では「自動運転の実装はあくまで民間主体」――といったスタンスがうかがえるが、今後明確な選択を迫られる可能性もありそうだ。

「積極派」代表の茨城県境町

自動運転積極派の事例としては、茨城県境町が好例だ。同町はBOLDLYやマクニカの協力のもと、2020年11月に国内初となる自動運転バスを活用した定路線・定常運行を開始した。

車両は仏Navya製「ARMA」で、セーフティドライバーが同乗する実質レベル2での運行形態となっているが、近い将来のレベル4実現を見据えた取り組みだ。ふるさと納税や補助金を有効活用し、町の支出を限りなく抑える取り組みなどにも積極的だ。

2022年10月には、新スマート物流構築に向け、エアモビリティと自動運転車を組み合わせた陸と空の物流連携実証にも取り組んでいるようだ。

こうした事業を先頭に立って推進しているのは、同町の橋本正裕町長だ。町役場職員、町議を経て2014年に町長に就任した橋本町長は、鉄道路線が通らない同町の交通施策の一環として自動運転モビリティの導入に踏み切った。

トップダウンによるスピーディな判断が「国内初の自動運転バスによる定常運行」につながり、業界における境町の知名度を飛躍的に向上させた。他の自治体などからの視察も相次ぎ、受け入れを有料プログラム化する取り組みなどもスタートしている。

【参考】茨城県境町の取り組みについては「自動運転バス、自治体の負担「ゼロ円」 茨城県境町の注目モデル」も参照。

町議会では、自動運転の実験ではなく実用に踏み切ったことについて「東京都でもなく茨城県でもない、境町が行動を起こしたことに大きな希望があると感じる」と評する声や、「町民の皆さんにとって自動運転バスが走行する光景は日常的になっている。自動運転バスが唯一走っている町として話題に上がり、町民のシビックプライドの醸成にも貢献している」と賛辞する声が多い。

全ての事業が望むべき成果を上げるかは分からないが、少子高齢化で疲弊する地方においては、こうした力強いリーダーシップで未来への道をこじ開けていく攻め手が必要であることは言うまでもないことだ。

【参考】陸・空の物流連携事業については「陸&空の連携!茨城県境町、配送革命へ実証 自動運転バスやドローンを活用」も参照。

自動運転がマニュフェストに?

各地の交通施策にデマンド交通が盛り込まれることは珍しくなくなったが、今後は自動運転やMaaSが盛り込まれていく時代となる。

先行地域における成果や課題が浮き彫りとなり、改善を加えながら取り組みエリアを拡大していくことは間違いない。徐々に「うちの地域にも自動運転を導入すべきか」といった議論の種が大きくなり、有権者の注目も高まっていく。

賛否両論はなお続くものと思われるが、だからこそ自動運転の導入を「公約」に組入れ、選挙に臨む首長や議員の姿も増加していくのではないだろうか。

■【まとめ】4年後の統一地方選では「自動運転」が焦点の1つに?

統一地方選挙は終わったばかりだが、4年後には自動運転の導入が争点の1つとなる地域が少なからず出てくるはずだ。

積極派、様子見する慎重派、否定派……それぞれのスタンスがぶつかり、有権者の審判をあおぐ格好となる。

まだまだ他人事と捉えている首長や議員は多いと思われるが、次世代交通施策を考える上で、自動運転は議論を避けては通れないソリューションとなる。今のうちに知識習得を開始し、情勢を見極めながら方針を打ち出していくことをお勧めしたい。

【参考】関連記事としては「最大1.8億円補助!自治体のバス自動運転化、国が支援」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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