自動運転、事故発生が再認識させる「人間くささ」の重要性

大津市、車両の急制動で乗客転倒しけが



⾃動運転バス実験⾞両(⽇野ポンチョ型)。2022年12月10日から2023年2月4日にかけてはこの車両が使用されることが説明されている=出典:大津市公式サイト

滋賀県大津市内で実証中の自動運転バスで、乗客がけがを負う事故が発生した。接触事故などではなく、車両の急制動によって転倒したという。

自動運転関連の事故は、これまで接触や衝突といった直接的な事故が多かったが、今後はこうした車内の事故・事案が増加することが予想される。


今回の案件とともに、自動運転時代に求められる安全確保について解説していく。

■車両加速時に乗客が座席から転落

事故は2023年1月11日、大津市内で2022年12月から実施中の自動運転バスの実証運行時に発生した。 乗客が車内でけがをしたという。当時、ドライバーが運転席に座って安全を確保する自動運転レベル2の状態で走行していた。

公式発表では詳細に触れていないが、報道によるとホテル敷地内で前方の駐車車両を避けるためドライバーが手動でハンドルを切ったところ、前方の障害物がなくなったと判断した自動運転システムが車両を時速10キロまで加速した。その際に乗客が座席からすべり落ちたようだ。

▼令和4年度中心市街地における自動運転バスの実証実験について(現在、実験を中止しております)|大津市
https://www.city.otsu.lg.jp/soshiki/036/1801/g/kotsu/3485125.html


市は、人が運転するような滑らかさがなかった可能性に言及し、直ちに実証を中止して事故原因や対応策について関係機関と協議を進めるとしている。人が運転するような滑らかさ……いわゆる自動運転システムの「人間くささ」が今後重要視されていくかもしれない。

出典:大津市公式サイト
■大津市における自動運転実証の概要
2018年度から実証5年目

大津市では2018年度から自動運転バスの実証を行っており、5年目を迎えた。実証には、運行を行う京阪バスや自動運転システムを開発する先進モビリティなどが参画しており、営業路線に自動運転バスを導入し実質レベル2の状態で実証を進めている。

これまで、一部区間への磁気マーカー埋設や信号連携、踏切連携、車載LiDARが検知可能な特殊塗料を道路上に塗布するターゲットラインペイントなど、さまざまな技術の導入を図ってきた。

2020年度の実証では、縁石や歩道柵と接触する事案も発生している。縁石との接触は、自動運転システム起動時にハンドル中点がずれていたため、左折時に通常よりも内側を通るルートとなり、接触したという。自動的にハンドル中点を設定する機能を追加することで対応している。


歩道柵との接触は、Uターン時に操舵介入した際、ドライバーが目測を誤って接触したものだ。センサー搭載位置の変更や、中型から小型バスへの変更などさまざまな対策を実施している。

2022年度はやや小型のバスを使用

2022年度の実証は、12月から2月に日野ポンチョ、2月にBYD製EVバス「J6」をそれぞれ活用し、ドライバーと安全監視員、運行記録員が乗務する形式で行う。日野ポンチョは定員28人、J6は同27人乗りの小型自動運転バスで、最高時速40キロで運行する。

また、電子チケット導入による回遊性向上や、移動需要喚起アプリを活用した利用促進なども図っていく。本年度の目標は、1便あたりの手動介入回数0.26回以下、信号・踏切連携による急ブレーキゼロ、運転手の満足度向上、1日あたりの運賃収受運行バス利用者40人以上、アプリから乗車券購入者クーポン利用率50%以上――を掲げている。

▼大津市で自動運転バスがこの冬走ります!!(令和4年度大津市自動運転実証実験リーフレット)|大津市
https://www.city.otsu.lg.jp/soshiki/036/1801/g/kotsu/3485125.html

出典:大津市(※クリックorタップすると拡大できます)
■自動運転車における車内の安全確保
今後の自動運転サービスの問題を提起する形に

今回の事故が、自動運転システムの挙動に起因するものかどうかは、現時点では判断のしようがない。加速時に座席からずり落ちるということは、よほど不安定な挙動だったということになる。

可能性としては、座席に浅く腰かけており、加速によって上半身が後ろに持っていかれた反動で重心が前寄りになり、座席から滑り落ちた――などが考えられるが、こうしたケースは、ドライバーによる通常運行でも起こり得るものだろう。

自動運転システムが、プロドライバー同様スムーズな加減速を実現するよう進化が求められるのは必然で、障害物を回避する安全走行とともにこうした観点を重視した開発も進められている。

ただ、今回の事故に関しては、どれほどの加速度だったのか、またどのような座り方をしていたかなど、詳報を待つほかなさそうだ。

一方、見方を変えると、今回の事故は今後の自動運転サービスにおける新たな問題を提起したと言える。車内における乗員の安全確保の観点だ。

これまでの事故の大半は外部との接触事案

これまでの自動運転実証やサービス実証時に発生したインシデントの多くは、車両が外部のものと衝突・接触した案件だ。センサーの誤認識や自動運転システムの誤作動、設定時のミス、セーフティドライバーの不注意などさまざまな要因のもと、車両が外部のものと接触する事故・事案だ。

公道実証の増加とともに、こうした事案も当然増加している。事故が発生しないに越したことはないが、重要なのは要因をしっかり突き止め、同じミスを繰り返さないことだ。

サービス本格化とともに車内の事故も増加?

また、今後、ドライバーなどのオペレーターが車内に常駐しない無人移動サービスの本格化とともに発生が危惧されるのが、車内の乗員に起因する事故やトラブルだ。

大半の乗員は指示に従い、法律やマナーを遵守して大人しく乗車しているが、無軌道に動き回る子どもや身体的な問題を抱える人、マイルールにのみ従う身勝手な人など、さまざまな乗員が存在することも事実だ。

ドライバーや添乗員が不在の場合、通常に比べ車内の状況を把握することが難しく、こうした乗員に注意を促したり手助けしたりすることも困難となる。自動運転サービスが今後解決すべき問題だ。

多くの自動運転車はこうした事態を想定し、カメラによる車内監視システムや遠隔管制センターと乗員がコミュニケーションを図る手段などを導入している。問題となりそうな乗員の動態などを早期に把握し、注意を促す仕組みだ。

無人の自動運転サービスにおいては、従来ドライバーが担っていた運転以外の役割をどのように代替していくかが問われることになる。

安全確保に向けた要件を国も議論

国もこうした事態を想定した議論を進めている。国土交通省所管の検討会では、運転操作以外の業務を行う者を「自動運行従事者(仮)」として法令に位置づける案などを示し、その要件をまとめている。

非常時の連絡体制や応急手当に対する考え方、扉の開閉手法、旅客に求めるべき要件など、安全確保のために必要となる装置や体制などについて、さまざまな意見が出されたようだ。

【参考】自動運行従事者については「自動運転車に「従事者」の概念 国交省検討会が論点整理」も参照。

■【まとめ】安全確保に向けた開発動向に注目

乗員の安全をめぐっては、自動運転システムがプロドライバーのようなスムーズな加減速を実現することをはじめ、無人の状態でどのように乗員を守っていくかが問われることになる。

自動運転システムは改良を重ね進化を遂げていくことは間違いなく、円滑で安定した走行を実現していくだろう。

一方、車内の安全確保に関しては、サービス導入当初は遠隔地から適時監視や注意を行う手厚いシステムが採用されることが多そうだが、近い将来、無人化の観点から人の手を介さない手法が強く求められることになる。

こうした安全確保に向けたシステムや仕組み、サービスの開発動向にも今後注目が集まりそうだ。

【参考】関連記事としては「自動運転車の事故」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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