「米国底打ち」で孫正義復活へ!自動運転企業に期待感

金利政策転換とともに株式市場活性化?



出典:ソフトバンクグループ公式ライブ中継

米国の長期金利がピークアウトに向かうとする観測が強まっている。すでに足元ではピークアウト感がうかがえ始めている状況だ。

一般的に、政策金利と株価は反比例の関係にある。このため、株式市場からは利上げ打ち止めに期待する声が大きく聞こえてくる。


こうした状況は、ソフトバンクグループにとって追い風となるかもしれない。2023年3月期上期(2022年4~9月)に4兆円超の投資損失を出したソフトバンク・ビジョン・ファンド事業(SVF事業)が、再び上昇トレンドに乗るかもしれないからだ。

一時累計663億ドル(約8兆8,000億円)まで膨らませた利益を溶かしてしまったSVFだが、株式市場の上昇トレンドを背景にV字回復を達成することができるか、大きな注目が集まるところだ。

■世界の株式市場の動向は?
2022年10月を底に上昇基調に?

世界主要23カ国の株式をもとにモルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナルが算出しているMSCI世界株価指数の推移を見ると、2022年は年初の600ドル台から徐々に減少し、10月には一時400ドルを割った。その後再び上昇傾向となり、12月に500ドル台まで上がっている。

S&P ダウ・ジョーンズ・インデックスが算出している米国の代表的な株価指数S&P 500も同様で、2022年初の4,600ドル台から10月には3,500ドルあたりまで値を下げ、その後4,000ドル付近まで上昇している。


2023年はどのように推移するか。景気後退局面となれば金利が下がり、代わって株価は上昇トレンドに入るかもしれない。さまざまな要因が絡み合うため一概には言えないが、こうした見方をする投資家は少なくない。

株式市場の低迷でグロース銘柄は大打撃

2022年までの株式市場の低迷は、テック企業をはじめ低迷するグロース銘柄も少なくなかった。未来における成長、株価上昇への期待よりも、株式市場全体の低迷が上回ったのだ。

自動運転分野も例外ではなかった。顕著な例は米Aurora Innovationだ。同社は2021年11月にナスダック市場への上場を果たしたが、当初13ドル台だった株価は2022年中に下落する一方で、現在は1ドル台で推移している。2022年秋には、AppleやMicrosoftへの身売りを検討していることが報じられたほど資金面で苦しんでいるようだ。

自動運転トラックを開発する米TuSimpleは、2021年4月のナスダック上場時38ドル台だったが、2022年に入って下落が続き、こちらも1~2ドル台で推移している。


LiDAR開発を手掛ける米Luminar Technologiesは、2021年2月のナスダック上場時27ドルの値を付けていたが、現在は5ドルほどとなっている。

もちろん、こうした株価の低迷は、市場全体の影響のみならず業績など各企業特有の事情を反映したものだろう。ただ、自動運転関連のビジネスが本格化するのはまだ先の話であり、開発企業の多くはまだ蕾を付けたばかりの状態だ。厳密に業績を求める段階には達していないのだ。

仮に、新型コロナウイルスや紛争、米中摩擦などの懸念が発生していなかったとしたら、各社の株価はどのように推移していただろうか。あくまで仮定の話ではあるものの、順調に市場から資金を確保して開発を加速し、社会実装を今より一歩二歩先に進めていたかもしれない。

出典:ソフトバンクグループ公式ライブ
SVFはグロース銘柄の卵の宝庫

SVFは、こうしたグロース銘柄の卵に盛んに投資を行ってきた。大きく価値を高めるだろう将来を見越し、さまざまなテック系スタートアップらに先行投資を行ってきたのだ。

2017年に運用を開始したSVF1、これに続くSVF2やラテンアメリカ・ファンドなどを含めると、これまでの投資先は400社を軽く超えている。

投資損益は2019年度のQ1 まで右肩上がりを続け、累計201億6,600億ドルの利益を生み出した。SVFはソフトバンクグループの顔となる絶対的な主力事業へと成長したのだ。しかし同年、WeWork問題などで運用業績は一気に悪化し、Q4までに201億ドルの利益が吹き飛ぶ事態となった。

その後、2020年度はコロナ禍の経済対策などに起因して株式市場は急伸し、2020年度末に累計608億2,100万ドル、2021年度のQ1にはピークとなる累計663億7,400万ドルに達した。

ただ、こうした株式市場の急伸はバブル状態であったため2021年度からは下落が続き、2022年度のQ2には累計マイナス14億6,000万ドルと再びこれまでの利益が吹き飛ぶこととなった。

SVFもさすがにポートフォリオを維持できず、GM傘下Cruiseや配車サービス大手Uberなどの全株を売却している。

【参考】Uber株売却については「ソフトバンクG、まさかUberを「底値」で売っちゃった?」も参照。

卵がかえればSVFも息を吹き返す?

苦境に立たされたSVFだが、株式市場が好転すれば、再び数百億ドル単位、日本円で数兆円単位の利益を生み出すことは十分考えられる。市場の上昇トレンドとともに再びSVFが浮上し、ソフトバンクグループが息を吹き返す展開に期待したいところだ。

■Auroraの復活やNuroの躍進に期待

SVFが投資している自動運転関連企業としては、Aurora Innovation、Nuro、DiDi Autonomous、Robotic Researchなどが挙げられる。

前述したAurora Innovationはすでに上場済みで、株価は限りなく底に近い状態だ。破産や身売りの可能性も否定できないが、トヨタやUberなどとの繋がりを武器に再浮上するポテンシャルを秘めている。2022年12月には、トラックと荷主を結ぶマッチングサービスUber Freightを活用した自動運転パイロットの拡大を発表している。

【参考】Aurora Innovationについては「自動運転業界のスター技術者、Appleへの「身売り」検討」も参照。

Nuroは車道を走行する自動配送ロボットの開発を手掛けており、業界における注目度も非常に高い。2022年に第3世代となる車両(ロボット)を発表し、中国EV(電気自動車)メーカーBYDの米国法人BYD North Americaと車両製造に向けた協業を進めるとしている。ネバダ州にも2022年中に稼働予定の生産施設があるようだ。

また、小売大手Krogerとのパートナーシップを拡大し、第3世代車両による配送をテキサス州ヒューストンで行うほか、Uberとも10年間に及ぶ提携を交わし、カリフォルニア州マウンテンビューとヒューストンでUber Eatsの配送にロボットを導入すると発表している。

商用化、量産化に向けた取り組みが着々と進められており、そろそろIPOに向けた動きが本格化する可能性もある。SVFにとっても重要な1社となりそうだ。

【参考】Nuroについては「ついにUber Eatsが自動運転配送!配送車開発のNuroと契約」も参照。

■DiDi Autonomousの巻き返しは?

DiDi Autonomousは、配車サービス大手DiDi Chuxing(滴滴出行)の子会社で、自動運転開発を進めている。親会社のDiDiは米中紛争に巻き込まれるような形でニューヨーク証券取引所からの撤退を余儀なくされるなど苦難が続いているが、世界トップクラスの配車プラットフォーム事業を武器に巻き返しに期待したいところだ。

米Robotic Researchは、オフロード車両をはじめタグボート、UAV(無人航空機)、シャトル、大型輸送バス、フルサイズの物流トラックに至るまで、さまざまなプラットフォームに適用可能な自動運転システムの開発を進めている。軍事車両からまちなかを走行するバスまで広い守備範囲が大きな武器となりそうだ。

このほかにも、インドの電動バイクメーカーOla Electricが 2024年までに自動運転車を発売する計画を立てていることが報じられている。

ADASやロボット関連企業も

ADAS関連では、フリートやドライバー管理、ドライブコーチングシステムなどを開発するNetradyneや、AI搭載ドライブレコーダーを商用化しているNautoなどにも出資している。

ロボット関連では、自律移動ロボット(AMR)向けのソフトウェア開発を手掛ける米Brainや、配膳ロボットの開発を進める中国Keenon Roboticsなどに注目だ。

Brainは1万6,000台を超える自動運転ロボットを世界展開しており、同社が開発した自動運転OS「BrainOS」は、ソフトバンクロボティクスが取り扱う自動清掃ロボットなどにも採用されている。

一方、Keenon Roboticsが開発した配膳ロボットはコロナ禍による非接触需要を背景に日本でも飲食店などで導入する動きが活発化している。

このほか、農業用ドローンの開発メーカーである中国XAGは、農地で物資の運搬や農薬散布などを可能にする量産型無人車も製品化している。

■【まとめ】市場動向とともにSVF事業の成果に注目

SVFは事業である限り勝ち続けなければならない宿命を背負うが、ここ数年は予期しきれない情勢が世界を覆い、その影響をもろに受けた印象だ。

景気に波があるように、株式市場にも当然波が存在する。次の波にしっかりと乗り、どこまでのV字回復(W字回復?)を遂げるのか。世界の市場動向とともにSVF事業の成果に要注目だ。

【参考】関連記事としては「ソフトバンクビジョンファンドとは?」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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