自動運転とAI(人工知能)の関係性解説(2024年最新版)

走行システムやマッピング、セキュリティで必須に



出典:Helm.ai公式サイト

この数年ほどで大幅な進化を遂げた自動運転技術。グーグルを筆頭に2010年代に開発が大きく加速し、一部ではすでに実用域と呼べるほどの技術水準に達している。

この進化を支えているのがAI(人工知能)だ。ディープラーニング(深層学習)をはじめとする第3次AIブームによってAIが大幅な進化を遂げたからこそ、自動運転技術も大きく前進したと言える。


この記事では、自動運転で活用されるAI技術について、最新情報をもとに解説していく。

<記事の更新情報>
・2024年4月18日:トロッコ問題に関する関連記事を追加
・2023年7月7日:関連記事を追加/ChatGPTなどの生成AIとの関連性について追記
・2022年6月9日:記事初稿を公開

■自動運転システム

画像解析におけるAI

自動運転システムは、車両に搭載されたカメラやLiDARミリ波レーダーなど各種センサーが映し出すデータを分析し、それをもとにAIが車両制御を判断して走行する。

カメラなどに映し出されたデータは、そのままの状態ではそこに何が映し出されているのかコンピューターは把握できない。初期のコンピューターは、赤ちゃんみたいなものだからだ。


そこで、各データに映し出されたものに対して、一つひとつ名前を付けて分類・区別していく作業=ラベリングが必要になる。車線や各種道路標識、信号機などをはじめ、人や自転車、さまざまな形をした車両など、道路交通に関係する全てのものを分別する。

この分別されたものをベースに、AIが各オブジェクトの特徴を学んでいく。データが多ければ多いほど特徴が浮き彫りとなり、オブジェクトの判別の精度が増していく。AIが脳となり、一つひとつのオブジェクトを学習し、その外観的な特徴や動作などを少しずつ学んでいくのだ。

この反復作業によってAIの頭脳は徐々に賢さを増し、画像に映し出されたものが何かを識別するとともに全体の状況を把握可能になっていく。コンピュータービジョンと呼ばれる技術領域だ。

なお、ラベリングそのものをAIに任せ、分類・区別を自動化させる手法もある。AIにおける「教師なし学習」と呼ばれるもので、AIが自動で仕分けしたグループの中から車両が分類されたものを見つけ、後から「これは車両です」などと教える手法だ。


【参考】画像解析技術については「「教師なし学習」で自動運転!ホンダも出資するHelm.aiの正体」も参照。

判断におけるAI

コンピュータービジョンによりカメラなどに映し出された状況を把握可能となったコンピューターは、それをもとに車両をどのように制御すべきか判断・意思決定を行う。これもAIの役割だ。

車両が区画線をはみ出しそうになったら横方向の制御を行い、前方の信号機が赤であれば縦方向の制御を行って減速・停止する。走行中に路肩を走る自転車がいれば適正距離を保ちながらかわし、横断歩道を渡りそうな歩行者がいればしっかりと停止する。

人間のドライバーが普段行っているのと同様の判断をAIが瞬時に下すのだ。リアルタイムで画像を解析し、瞬時に判断を迫られるため、高いデータ処理能力とともに高精度なAIの開発が強く求められる領域だ。

予測におけるAI

判断における要素の1つに「予測」がある。前方を走行する車両や歩行者などがどのような挙動を見せるかを予測し、それを踏まえたうえで車両を制御しなければならない。交通環境における他のオブジェクト全てに対し予想される動きを事前に割り出し、判断・意思決定に活用していく。

AIにおけるトロッコ問題

自動運転車が走行中、物陰から突然自転車が飛び出してきたとする。予測の範疇を超えた挙動の場合、自動運転車はこれを避けることができず、このままでは衝突が避けられない。避けるためには、急ハンドルを切って自動運転車を壁に激突させるしかない状況だ。

自転車か乗員のどちらかの負傷を避けられないような究極の選択を迫られた際、AIはどのような意思決定を行うべきか――といった、トロッコ問題もよくトピックに上がる。

開発者の意向が反映される部分となりそうだが、あくまで外部の人間を守るべきか、乗員を保護すべきか。人数の多寡で判断すべきか。あるいは急ブレーキを踏むなど最大限の努力を行い、成り行きに任せるべきか。

結論を出すことは簡単ではないが、例えばドイツで可決・施行された「自動運転法(改正道路交通法)」では、「人命へのリスクが避けられない場合は個人的な特徴を基に人命の重み付けを行わない事故防止システムを備えること」と定められている。1つの指針を示した格好だ。

■マッピング技術におけるAI

出典:内閣府(第30回 SIP自動走行システム推進委員会 資料)

自動運転における要素技術の1つに数えられるマッピング技術にもAIは活用される。高精度3次元地図やダイナミックマップは、一般的には車載カメラやLiDARなどのデータを用いて作製する。

【参考】関連記事としては「ダイナミックマップとは?自動運転に有用」も参照。

その際、車線をはじめ路肩縁や道路標識など、必要となる道路周辺の構造物もマッピングし、それが何かを示す情報を付加=ラベリングしていく。

初期におけるラベリング作業は手作業で逐一行うケースが多いが、自動運転システムにおける画像解析同様、ここでもAIが活躍する。画像に映し出されたものが何かをAIが自動判別してラベリングしていくのだ。

高精度3次元地図の更新作業においても、AIが活躍する場面は多そうだ。現在、一般的な車載カメラや衛星写真などを活用して高精度3次元地図の作製・更新を行う技術開発が進められているが、さまざまなデータを効率的に統合していく過程でAIが活用される可能性は高い。

このほか、SLAM(Simultaneous Location and Mapping)などのアルゴリズムを使用してリアルタイムでマップを生成していく技術などでもAIは重宝しそうだ。

【参考】関連記事としては「SLAM技術とは?」も参照。

【参考】マッピング・高精度3次元地図については「自動運転向け地図・マップ解説」も参照。

■ルート最適化におけるAI

自動運転車には、中継地や目的地などを総合的に判断し、最大限効率的な経路を導き出すルート最適化技術も必須となる。

目的地までの間の時間単位での渋滞予測や工事情報などをもとに車線単位で最適なルートを選択するほか、複数の乗客を需要に合わせてピックアップしていくオンデマンドモビリティでは、どの順で回れば最も効果的かつ最短かを瞬時に判断しなければならない。

発展系としては、ルートごとの事故率などをもとに危険性を分析して安全ルートを導き出す機能や、路面状況や右左折の回数、信号機の数などをもとに乗り心地を重視したルートを導き出す機能なども考えられる。

複数車両が運行する自動運転タクシーにおいては、エリア内で同時多発的に次々と生まれる需要に対し、どの車両を配車すればよいか全体最適化を図りながらルートを最適化していく必要がある。さらには、どの時間帯にどの場所で需要が発生しやすいかを予測し、これを念頭に置きながら配車していくことも将来的には必要かもしれない。

複雑化する需要に将来予測を加味しながら瞬時に答えを導き出す技術は、AIだからこそ成せると言っても過言ではなさなそうだ。

【参考】ルート最適化については「ルート最適化システム、市場拡大の予兆 日本郵便でも試行導入拡大」も参照。

■乗員とのコミュニケーションにおけるAI

提供:ニュアンス・コミュニケーションズ

ドライバーや保安員が不在となる自動運転車においては、乗員の状況や意思確認をはじめ、走行状況の伝達といった乗員とクルマのコミュニケーションをシステムが代替しなければならない。ここでAIが活躍する。

乗員が自動運転車に何らかの指示を出す場合、現状は車載機器やスマートフォン・タブレットなどを活用するが、利便性を高める技術として注目が高まっているのが音声認識技術だ。乗員の「コンビニまで行って」「ちょっと止まって」といった指示をはじめ、「おいしいレストランに連れて行って」などの要望にも的確に応えるため、乗員が発する言語を正確にとらえるとともに、乗員が何を求めているのかをしっかりと理解する必要がある。こうした際にAIが活躍するのだ。

さらには、乗員同士の会話と自動運転車への指示・要望をしっかりと判別することなども求められる。通り一遍の対応ではなく、フレキシブルな対応はAIだからこそ可能となる領域だ。

また、車内カメラなどの情報をもとに、乗員がどういった状態にあるかを分析し、能動的な対応をとることも考えられる。例えば、乗員が寝ていると判断した場合、車内の灯火類を落とし、リラクゼーション効果のある音楽を流すことや、乗員がせき込んでいる場合、最寄りのドラッグストアや診療所を案内することなどが考えられる。

将来の自動運転車は、VIPを乗せたドライバーさながらの対応をAIが行う可能性が高い。特に2023年に入ってから、ChatGPTを始めとした「生成AI」が一大ブームを巻き起こしており、自動運転車の中でも生成AIが人の質問に音声で応じるようになるのはもはや必然と言えるのかもしれない。

■セキュリティ技術におけるAI

コネクテッド化され、常時通信が行われる自動運転車においては、高度なサイバーセキュリティ対策が必要不可欠となる。この分野でもAIの活用が広がっている。

サイバーセキュリティにおいては驚異の検知と分析、対策などが必要となるが、サイバー攻撃の質や量、複雑さが増す中、膨大な量のデータやプログラムの収集・解析が欠かせない。こうした過程において、正常なプログラムと脅威となり得るプログラムをAIが学習し、未知のプログラムに特性をあてはめることで脅威となり得るものかを効率的に判定することができる。

IBMによると、AIは何十億に及ぶデータを取り込むことでサイバーセキュリティの脅威とサイバーリスクを把握し、悪意のあるファイルや疑わしいIPアドレス、内部関係者における脅威間にある関係などを数秒から数分で分析することができるという。

また、厳選されたリスク分析を提供することで、驚異の修復に向けセキュリティアナリストが行う決断にかかる時間を短縮することもできるとしている。

その一方、日立ソリューションズ・クリエイトによると、AI技術を悪用したサイバー攻撃も現実化しつつあるという。AI技術によってシステムのぜい弱性を発見するのも容易になるほか、機械学習アルゴリズムによって人間のふるまいを模倣することも考えられるという。

セキュリティをめぐる攻防はいたちごっこと言われるが、ここにAIが絡むことでその応酬はいっそう激化することが予想される。その意味でも、守る側におけるAIの導入は今後重要性を増すことになりそうだ。

【参考】サイバーセキュリティについては「「自動運転×セキュリティ」に取り組む日本と世界の企業まとめ」も参照。

■クラウドとエッジAI

膨大なデータを生成・分析し続ける自動運転車は、車両単体では情報処理が追い付かなくなるケースが考えられる。このため、クラウドにデータを送り、クラウド上で分析した結果を自動運転車に随時伝送し、効率的にデータ処理を行う手法もスタンダード化されている。

しかし、クラウドを経由することでデータ遅延が発生し、リアルタイム制御を損なう可能性もある。高速・大容量な通信網も完全整備されなければならない。エッジ側となる車両に搭載されたAIで一定の処理を行うことも必然と言える。

分散コンピューティングの観点で、エッジで活用すべきAIとクラウドで活用すべきAIの領域を明確化し、全体最適化を図っていくことも将来必要となりそうだ。

【参考】クラウドとエッジについては「自動運転でのデータ処理、「クラウド側」「エッジ側」の2パターン」も参照。

■【まとめ】伸びしろ未知数のAI さらなるイノベーションに期待

従来ドライバーが担っていた運転操作に関わる判断を、コンピューターによる「頭脳」として代替するのがAIだ。人間と比較し、現状は論理思考などの点でまだまだ及ばないものの、計算領域などは人間を軽く凌駕する。AIなくして自動運転は成り立たず、いっそうの進化が求められるところだが、伸びしろは未知数と言える。

AIそのものの、さらなるイノベーションに期待したい。

■関連FAQ

    自動運転においてAIはどのようなシーンで活躍する?

    「画像解析」「判断」「予測」などで活躍するほか、「マッピング」や「ルート最適化」、乗員とのコミュニケーションでもAIが活用される。

    「画像解析」でAI技術はどう使用される?

    センシングデータのラベリングの際などに活用される。例えば、センシングした構造物が「信号」なのか「街灯なのか」といった具合だ。

    「判断」においてAI技術はどう使用される?

    道路状況を鑑み、どのような運転操作をすべきか(もしくは最適か)、といった判断を行う。車両が区画線をはみ出しそうになったら横方向の制御を行う、といった運転操作でもAIが活用される。

    「予測」においてAI技術はどう使用される?

    さまざまなデータをAIに学習させれば、歩行者や対向車などの未来の動きをパターン化することができる。AIはそうしたパターンが起きることをリアルタイムに予測することで、安全性の高い自動運転を実現することができる。

    「ルート最適化」においてAI技術はどう使用される?

    複数の地点を経由する必要がある場合、どのルートで全ての地点を経由するのが最も最短距離もしくは最短時間となるかを判断するのが、ルート最適化AIだ。オンデマンド型の自動運転バスなどでの活用が期待されているほか、手動運転であっても、例えば配送トラックのドライバーにとっても有用なAIだ。

(初稿公開日:2022年6月9日/最終更新日:2024年4月18日)

【参考】関連記事としては「自動運転、歴史と現状」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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