「教師なし学習」で自動運転!ホンダも出資するHelm.aiの正体

2016年創業、2020年にステルス状態から脱却



出典:Helm.ai公式サイト

ホンダがこのほど、AI(人工知能)画像認識技術を開発する米スタートアップのHelm.aiに出資した。AI技術やコンピュータビジョン領域におけるソフトウェア技術の開発強化を図る構えだ。

Helm.aiはAI分野において「教師なし学習」に特化した研究開発を進めており、この技術が自動運転開発にイノベーションを起こすとしている。この記事では、同社の概要とともに教師なし学習の有用性について解説していく。


■Helm.aiの概要

Helm.aiは、数学者のVladislav Voroninski氏が2016年に設立したスタートアップだ。「教師なし学習」に関する独自のAI技術で自動運転分野における認識領域にイノベーションを起こそうと2020年にステルス状態から脱却した。

2020年に発表したシードラウンドで1,300万ドル(約15億円)、続く2021年のシリーズBラウンドでは計3,000万ドル(約35億円)をそれぞれ調達している。

ホンダはシリーズBに参加しており、公表されている出資者の中では唯一の自動車メーカーとなっている。Helm.aiとは、ホンダのオープンイノベーションプログラム「Honda Xcelerator(ホンダ・エクセラレーター)」を通じて2019年にコラボレーションを開始するなど、いち早く注目していたようだ。

今回の出資によって両社の関係をいっそう強化し、Helm.aiのAI技術とホンダの技術を融合した独自のソリューションの研究開発を加速していくとしている。


なお、Helm.aiはこの資金調達ラウンドに際し、Honda XceleratorやNVIDIAとのパートナーシップ以外にも複数のOEMとの商業契約や主要なTier1、チップ、センサー企業とのパートナーシップにも言及している。水面下で協業などを進めている様子だ。

■教師なし学習とは?
「教師あり学習」はラベリングが必須

自動運転に必須とされる認識技術においては、カメラなどのセンサーが取得した画像データに映し出されたオブジェクトが何かを正確に判別するコンピュータビジョンの技術が第一に求められるが、ここでAIが活躍する。画像に映し出された車両や歩行者、信号機などをAIが自動判別するのだ。

この自動判別を実現するには、あらかじめ膨大な数の画像を用意し、AIにオブジェクトを学習させる必要がある。例えば車両を判別する場合、さまざまな形状、色の車両を、あらゆる角度や異なる時間帯、気象条件下などで映し出した画像を大量に用意し、車両の特徴を学ばせるのだ。画像が多ければ多いほどあらゆるパターンの車両データを学ばせることができ、車両判別の精度が増す。

この作業においては、一般的に「教師あり学習」を行う。1枚1枚の画像に映し出された車両にラベル(注釈)を付け、「これが車両です」とAIに教えるのだ。AIはこのラベルをもとに車両の特徴を学習し、最終的にはラベリングされていない画像においても車両の判別を可能にする。


このラベリング作業が教師あり学習のネックとなっている。1枚1枚の画像に手動でラベルを貼る作業が膨大なためだ。AIの学習には数百万、数千万枚といった画像を扱うケースも珍しくなく、この作業に要する手間や時間、コストがAI開発の足かせの1つとなっているのだ。

「教師なし学習」はラベリングなしでAIがオブジェクトを分類

一方、教師なし学習は、教師あり学習同様AIに大量の画像データを学習させるが、ラベルなしのまま画像を付与する。いわゆる教師が不在のため、AIは画像に映し出されたオブジェクトが何かはわからないものの、各オブジェクトの特徴などをもとに類似したものを自動で分類し、グループ化していくのだ。

教師ありに比べ精度が落ちる可能性があるが、AIが仕分けしたものの中から車両が分類されたグループを見つけ、後から「これは車両です」と教えれば良いのだ。この手法であれば、AI開発のコストを格段に下げることが可能になる。

■Helm.aiの教師なし学習技術
ディープティーチングが教師なし学習を飛躍的に進歩させる

Helm.aiは、教師なし学習を飛躍的に進歩させる技術・手法として「Deep Teaching(ディープティーチング)」を導入している。詳細は不明だが、同社は最先端の数学的モデリングとエンジニアリングに裏打ちされたDeep Teaching技術によってニューラルネットワークをトレーニングし、ラベルやシミュレーションなしで異なる何千ものドライブレコーダービデオからの数千万枚に及ぶ画像からレーンを検出することなどに成功しているという。

また、同社はこの技術を活用し、1台のカメラと1台のGPUのみで峠道を自律走行可能なフルスタック自動運転車を構築し、数十のオブジェクトカテゴリのセマンティックセグメンテーションや単眼視力予測、歩行者インテントモデリング、LiDAR-Visionフュージョン、HDマッピングの自動化など、AVスタック全体にディープティーチングを適用してきたという。これは、手元にあるオブジェクトのカテゴリやセンサーなどに捉われることなく自動運転を可能にすることを意味するようだ。

Helm.aiの創業者でCEOのVoroninski氏は「手動で注釈を付けたデータに依存する従来のAIアプローチは、人間レベルのコンピュータービジョンの精度を必要とするセーフティクリティカルシステムのニーズを満たすには適していない」とし、その上で「ディープティーチングは教師なし学習を飛躍的に進歩させる。最先端の応用数学を活用したHelm.aiのテクノロジーは、安全な自動運転システムを大規模展開するためのディープラーニングの可能性を最大限に引き出す」と語っている。

同社はソフトウェアのライセンシング事業を目指しており、高度なレベル2・レベル3を実現する「ヘルムハイウェイパイロット」や「ヘルムアーバンパイロット」、高速道路でレベル4を実現する「ハイウェイトラック」などの開発を進めている。

■【まとめ】進化続けるAI技術、Helm.aiやホンダの取り組みに要注目

教師なし学習はMeta(旧Facebook)も開発を進めており、2021年に10億枚もの画像でトレーニングしたAIモデル「SEER」を発表している。クラスタリングと呼ばれる手法によって類似画像をグループ化し、この類似性をもとに最大6分の1の時間で従来の自己監視学習を改善したという。

教師なし学習を活用したAI開発が今後どのように進展していくかは未知の領域となるが、未知だからこそ大きな可能性を秘めていると言える。

同社の今後の動向とともに、その技術を取り入れたホンダが自動運転技術をどのように進化させていくか要注目だ。

▼Helm.ai公式サイト
https://www.helm.ai/

【参考】関連記事としては「自動運転で注目!国内外スタートアップ45社を総まとめ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事