日本政府、なんと公用車に「自動運転車」採用へ

経産省の国会定期便を自動運転化



出典:首相官邸

公用車への自動運転車導入が今秋にも始まるようだ。経済産業省の国会定期便で自動運転実証を行い、公用車への導入可能性を検証するとともにスタートアップの育成を図っていく構えだ。

国が率先して自動運転業界を後押しする興味深い取り組みと言える。事業の概要を見ていこう。


▼モビリティDX戦略・モビリティDX検討会
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/automobile/jido_soko/index.html
▼「モビリティDX戦略」2025年のアップデート
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/automobile/jido_soko/pdf/mobilitydxsenryaku2025.pdf
▼「モビリティDX戦略」2025年のアップデート サマリー
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/automobile/jido_soko/pdf/mobilitydxsenryaku2025p1.pdf

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■公用車への自動運転車導入実証の概要

社会実装の先行事例や初期需要創出へ

公用車への自動運転車導入は、開発を担うスタートアップの支援・育成が狙いだ。政府調達・公共調達で政府・自治体が需要の牽引役となることで、自動運転技術などを搭載した SDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)市場の拡大を図りながら、スタートアップの事業をバックアップしていく狙いだ。

政府が先行的に公用車に自動運転技術を導入し、実証・調達を進めることで、スタートアップが持つ技術の社会実装の先行事例や初期需要を創出していく姿勢を示すという。

まず、経済産業省の国会定期便においてスタートアップの技術を活用した自動運転の公用車を導入する。一定期間実証走行を行い、自動運転の公用車利用における安全性や利便性、今後の横展開に向けた課題などの検証を行う。


出典:経済産業省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

国会定期便は、国会議事堂周辺の衆議院第1・第2会館、参議院会館、経済産業省本館・別館を結ぶ周回ルートだ。経産省が面する国会通りを走行し、国会議事堂の周囲をぐるっと回って戻る約2.5キロのルートとなる。

2026年以降の通年運行も視野に入れ、地理的特性や用途的特性などを踏まえたモビリティ上の課題を整理するとともに、自動運転技術の実用化に関する課題も抽出・整理する。

実証は自動運転レベル2以上とし、運行期間は遅くとも2025年末までの30日間程度を予定している。運行本数は協議により決定する。すでに公募は始まっており、6月23日に締め切られる。

出典:経済産業省公開資料

分散型庁舎など地方にも需要あり?

現在、国内各地で自動運転実証は100カ所程度行われているが、サービス化に向け継続的に運行している取り組みはそれほど多くないのが現状だ。


一方、政府や自治体の公用車のうち、特定のルートを走行するなど自動運転で置き換えることができる可能性があるものは全国に多数存在しているという。国会定期便はその好例と言える。地方でも、本庁舎と支所を結ぶルートなど、恒常的な移動需要があるルートが一定数存在するはずだ。

こうした場面に政府・自治体が率先して自動運転車を導入することで、社会実装の先行事例や初期需要の創出を図っていく狙いだ。

地方では、防災や公共施設整備計画、予算面などさまざまな理由から分散型庁舎となっている例は少なくない。市町村合併により支所を配置する例も多い。

これらの施設間は、職員を中心に住民を含め移動需要は一定数存在する。定型ルートのため自動運転も比較的実装しやすい。

自治体においては、これまで自動運転バスを主体とした公共交通への自動運転導入が中心だった。こちらは純粋な住民サービスのため、車内の設備や決済方法なども含め不特定多数を対象に利便性や満足度の向上を図っていかなければならないが、職員専用の公用車であれば過度に機能やサービスを付加する必要はなく、安全性重視のシンプル設計で用が足りるかもしれない。

公用車に関する予算上の問題が出てくるかもしれないが、利用者を限定したシンプルな移動サービスと捉えれば、民間でも相応の需要が見込めるものと思われる。自動運転バスなどとは異なる興味深い取り組みとなりそうだ。

モビリティDX戦略の一環

この実証事業は、モビリティDX戦略の最新版に盛り込まれている。モビリティDX戦略は、2030~2035年を見据え、SDVや自動運転、MaaSといった新たなモビリティサービス、企業を超えたデータ利活用など、DX全体を貫く戦略に位置付けられている。

以下、同戦略の2025年アップデートの内容を紹介していく。

■モビリティDX戦略の概要

SDVシェア3割目指す「モビリティDX戦略」

自動車・モビリティ業界ではGX・DXの2軸での産業構造変化が進む中、DX領域ではAI・デジタル技術によるゲームチェンジが加速している。特に米中の新興OEMやテック企業がAI・デジタル領域への大規模投資を拡大し、ソフトウェア人材の確保をはじめ技術力を高め、自動運転技術を中心とするSDVの社会実装に向けた国際競争が激化している。

このような中、国際競争力を高めるべく国は自動車のDX全体を貫く戦略として「モビリティDX戦略」を2024年5月に策定した。「2030年・2035年に日系グローバル市場におけるSDVシェア3割」を目標に掲げ、SDV・モビリティサービス・データ利活用の主要3領域と横断領域について、競争・協調領域を精査し、課題・取り組みの方向性を整理した。

2024年10月にはモビリティDXプラットフォームを立ち上げ、人材確保やスタートアップなどとの協業促進にも取り組んでいる。

一方、モビリティDXを取り巻く外部環境はさらに大きく変化しているという。一つ目は、E2Eモデルのような最先端AIの開発・実装などにより自動運転機能が大きく向上している点だ。

二つ目は、トランプ政権による米国関税に代表されるように、自動車産業を中心に経済・産業影響が懸念されている点だ。

こうした変化の中にあっても自動車産業が国際競争を勝ち抜き、現行戦略で設定した目標達成できるよう、関連政策の強化に取り組むべくアップデート版 モビリティDX戦略を2025年6月に発表した。

出典:経済産業省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

アップデートで取り組み強化

アップデートの主な内容は以下などのように、モビリティDX戦略が掲げる「グローバルのSDV日系シェア3割」の目標実現に向けた取り組み強化だ。

  • ①新たなAI技術を活用した自動運転モデルなど、官民協調体制の下でのSDV関連投資の加速化
  • ②SDV開発に対応した産業構造の構築
  • ③地政学上のリスクに対応したSC(サプライチェーン)の強靭化

安全かつ広範囲な自動運転の実装に向けたAI技術開発・業界協調での体制構築や、前述した政府調達の活用をはじめとした自動運転の早期社会実装に向けた取り組み、SDV関連部品などのグローバルSCの把握・強靭化のためのデータ連携の推進、SDV化に対応した車両の要件定義の共通ルール化、開発プロセスのデジタル化推進、モビリティDXプラットフォームなどによるソフトウェア人材不足の解消・企業間連携の推進などを掲げている。

SDV協調領域に関しては、オープンデータセットなど自動運転モデルを支えるAIを新たな協調領域に設定し、取り組みの具体化を図っていく。

新たなAI技術を活用した自動運転による日本の自動車産業の取組方向性としては、オールジャパンによる協調体制の検討や協調領域の具体化を進め、技術開発や業界協調でのルール形成などスピード感をもって後押しし、乗用車を含む高度な自動運転を日本市場で実装していくとともに、その成果を自動運転の普及が今後見込まれる海外市場への展開を目指すとしている。

自動運転モデルは勝負の余地あり

自動運転モデルは、従来からのルールベースに加え、近年はE2Eを実現するAIベースの開発が加速している。自動運転ソフトウェアや高精度三次元地図、LiDARを搭載した手法が主流のルールベースに対し、AIベースは高精度三次元地図などを必要とせず、柔軟に自動運転を実現する。走行エリアに限定されない自動運転を実現する手法だ。

前者の代表格は、今日の自動運転の礎を築いた米Waymoだ。走行するエリア・道路を事前にマッピングし、ODD(運行設計領域)の設定において明確にジオフェンスを引く形式だ。ジオフェンスの中のみ自動運転を行う仕組みだ。

一方、後者の代表格は米テスラだ。走行可能エリア・道路種別などにとらわれず、自由に走行できる自動運転システムの構築を目指す開発勢だ。ODDに縛られることなく現在地から目的地までを走行可能であるためE2Eタイプとされる。

出典:経済産業省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

E2Eタイプは、その実現困難性から数年前までは圧倒的少数派だったが、AI技術の著しい進化から近年は日本のTuringや中国DeepRoute.aiなど新興勢が開発に注力しており、存在感を増している状況だ。

米中勢が先行しているものの技術的には未完であり、課題が残る今、日本として自動運転におけるAI技術の構築と安全性の確保を両立し、差別化することができれば勝負の余地はある――というのがモビリティDX戦略における考え方だ。

最先端のAIを活用した自動運転技術の社会実装を担うOEMや自工会、関連ステークホルダーとの議論を進め、目指す成果やマイルストーン、取組体制・内容、社会実装に向け必要なアクションなどについて検討・施策の具体化を図り、今夏までに一定の結論を得るとしている。

オープンデータセットの協調領域化を促進

オープンデータセットを協調領域化する取り組みはすでに始まっており、2024年度の補正予算事業において、自動運転サービスの標準モデル・オープンデータセットの構築や自動運転サービスの標準モデル・オープンデータセットの構築事業に着手している。

出典:経済産業省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

実証による大量の走行データが集まる米中勢と比べ、日本は明らかに走行データが不足していることから、生成AI基盤モデルを用いてデータの拡充を図り、その成果をフィードバックすることで開発サイクルを加速する。

実データの収集と生成AIを活用したデータの拡張を2026年1月頃までに行い、2025年度中のデータセットの公開を目指すという。同事業にはティアフォーやTuringが参加している。

シミュレーション環境については、これまでSAKURAやDIVP、AD-URBANプロジェクトを通じ、安全性評価シナリオ検証とシミュレーション環境の構築を進めてきた。今後は、WP29での議論状況を踏まえ、2026年6月までに業界内での安全性評価手法の確立と環境構築、各プロジェクトにおける成果統合を進め、認証・認可におけるシミュレーション活用に関する官民議論を本格化していく予定としている。

半導体分野はSC強靭化

国際動向など環境変化の影響を受けやすい半導体分野においては、先端半導体などの競争力・生産基盤強化と、レガシー半導体の安定調達の両軸の取り組みがいっそう重要になる。自動車業界としては、まず半導体の世代標準化(新陳代謝)、安定調達を実現するツールとしての車載半導体データPFの検討・推進を行っているという。

政府としては、2022年に実施していた車載用半導体サプライチェーン検討WGを再開し、レガシー半導体領域についてのSC強靭化に向けた課題などを官民で集中議論することで、夏頃までにSC全体での課題を整理し、取り組みの方向性について官民で合意を図るとしている。

モビリティサービス領域では、ユースケース拡大し取り組みを強化

モビリティサービス関連では、現行プロジェクト「RoAD to the L4」において一定の成果が上がっている一方、サービスを広げていくためには、各地が直面する人流・物流の課題に対応するためのユースケース拡大が必要としている。

2026年度以降、円滑な運行のためのインフラ活用について実証済みユースケースの横展開、期待が高いと考えられる新ユースケースの類型化・実用化に向けた検討のための実証が必要で、将来的には、同様のアプリケーションで他地域へ横展開するのみでなく、他の応用も可能となる車両・インフラ連携の在り方の検討も視野に入れ、取り組みを強化していく方針だ。

データ利活用領域ではユースケース拡張を検討

データ利活用領域では、これまでに設定したユースケースに加え、2024年度のデータ利活用領域WGで新たに海外におけるユースケース拡張も検討している。

また、日本自動車工業会と日本自動車部品工業会は、SC強靱化対応として部工会が検討を進める有事のSC情報管理と自工会が検討を進める車載半導体DPF構築の取り組みを束ね、2025年度のユースケースとして実証を進め、ウラノス・エコシステムにおける取り組みでの実装を目指すとしている。

自工会が推進するMSP(モビリティスマートパスポート)構想の実現においては、ユースケース側の議論と合わせ、ID体系の整理やデータの競争領域・協調領域の区分、データ基盤の在り方、費用負担などさまざまな要素の検討が必要とされる。

2025年度以降は、車両登録手続のデジタル化や共助型ライドシェアサービスなどのユースケースの課題・ニーズに関する検討を深めるとともに、関係ステークホルダーとの議論を通じてMSP実現に向けさらなる検討を進めていくとしている。

出典:経済産業省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

モビリティDXプラットフォームは自律運営に向け制度整備

各種取り組みを推進するコミュニティ「モビリティDXプラットフォーム」関連では、人材の獲得・育成面において学生を含め裾野を拡大しつつ、2025年3月策定の「SDVスキル標準」を活用し、取り組みの体系化を進める。

企業間連携については、ビジネスマッチング機能を強化するほか、多様なプレイヤーが定期的に議論する場を設定し、企業間連携を加速する仕組みを構築する。

また、自動運転などに取り組む自治体や海外コミュニティとの連携の機会を拡大し、産官学での取り組みを強化しながら会員を増やし、自律的な運営に向けた制度整備を進めるとしている。

■【まとめ】どのように初期需要創出につなげていくか

公用車への自動運転導入は、スタートアップの育成、ひいては投資の呼び込みなどの側面があるようだ。地方自治体においては、「公用車に多額の予算を云々」……という議論が起きかねず、実際問題として補助なしでは予算措置が難しいところだ。

そう考えると、国の出先機関など含め実用実証を進め、技術の確立と導入費用の低下を実現するのが目下の第一フェーズとなりそうだ。

この事業を引き金に、具体的にどのように初期需要創出につなげていくのかなど、今後の動向を注視したい。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説」でまとめて発信しています。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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