完全自動運転とは?(2023年最新版)

レベル4とレベル5の違いは?課題は?



自動運転実用化に向けた開発が世界中で加速している。法規制も進み始め、今後数年のうちに世界各国でサービスインする見込みだ。


ところで、現在スポットが当てられている自動運転技術は、そのほとんどがレベル4に相当する。いわゆる「高度運転自動化」であり、完全自動運転ではないのだ。

では、完全自動運転とはどのようなものか。この記事では完全自動運転の概要とともに、2023年2月時点の情報をもとに、実現に向けた課題に迫っていく。

自動運転レベルの概要
レベル3以上が自動運転に相当する
渋滞時の高速道路で自動運転レベル3のシステムを稼働できるホンダの新型LEGEND=出典:ホンダプレスリリース

アメリカの自動車技術会(SAE)が策定した基準によると、自動運転レベルは0~5に分けられる。レベル0は運転自動化なし、レベル1は運転支援、レベル2は部分運転自動化、レベル3は条件付き運転自動化、レベル4は高度運転自動化、そしてレベル5が完全運転自動化となる。

【参考】関連記事としては「自動運転レベルとは?定義・呼称・基準は?」も参照。


レベル1~2は自動運転ではなく先進運転支援システム(ADAS)に位置付けられ、レベル3からが自動運転に相当する。

レベル3は、一定の運行設計領域(ODD)において自動運転システムが全ての運転制御を担う。ただし、ODD内であってもシステムからの運転引き継ぎ要請(テイクオーバーリクエスト)があれば、ドライバーは手動で運転操作を引き継がなければならない。最も初期段階の自動運転技術と言える。

このため、レベル3はドライバーが必須となる。遠隔操作型のレベル3もあり、車内が無人の状態で走行するケースもあるが、この場合も遠隔地にいるオペレーターがドライバー扱いとなる。

なお、ODDは走行するエリアや道路の種別、道路インフラ、速度、天候などさまざまな条件をもとに自動運転システムごとに開発事業者が設定する。例えば、「好天時の自動車専用道路において時速60キロ以下で走行する場合」といった具合だ。


ちなみにレベル3に関しては、ホンダが2021年に、メルセデスが2022年に市販車への搭載をスタートさせている。

レベル4は無人化を実現する
シャトル車両として自動運転レベル4の走行が可能な仏NAVYA社のARMA=出典:NAVYA公式サイト

これがレベル4に進化すると、一定のODD内においては原則自動運転システムが全ての運転制御を担う。ドライバーが介入する必要がなくなるため、ODD内の走行に限り無人走行が可能になる。想定外の事態に陥った際に手動介入するケースもあるが、基本的には自動運転システムが安全な場所まで自律走行して車両を停止させるなど、高度なミニマルリスクコンディションを実現する。

現在実用化が進められている自動運転移動サービスや配送サービスの多くがレベル4を目指したもので、バス路線のような一定路線、あるいはタクシーサービスのような一定エリア内を無人で走行する技術の確立に力を注いでいる。

自動運転レベル4は現在、市販車ではなく無人シャトル用車両や無人タクシー向け車両の搭載のための研究開発が主だ。すでにレベル4の自動運転タクシーは、Google系Waymoなどが展開をスタートさせている。

レベル5は制限なしの自動運転を実現する

では、レベル4がレベル5に進化するとどうなるか。完全自動運転を実現するレベル5は、ODDによる制限を受けず、原則いかなる状況においても自律走行を可能にする。

口語的定義としては、「運転自動化システムが全ての動的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答を持続的かつ無制限に実行する。作動継続が困難な場合、利用者が介入の要求に応答することは期待されない」とされている。「持続的かつ無制限」は、ODDに左右されないことを意味し、作動継続が困難に陥った際も手動介入に依存することなく対応することが求められている。

自動車専用道、一般道問わず手動運転車が走行可能な道路を網羅し、道路の脇を歩行者が歩いていてもしっかり対応する。多少の悪天候時もセンサーを駆使して安全走行を実現し、各道路の制限速度を満たす速度で走行することを可能にする。燃料やバッテリーが少なくなれば、ルート上の給油所や給電ステーションに向かい、自動で補填する。

つまり、手動運転で可能な走行を全て実現するのだ。ゲリラ豪雨や猛吹雪、地震、周囲で発生した事故の影響などで走行が困難な場合は安全な場所に一時退避し、走行可能な状況に復帰すると再び自律走行を行う。

信号機が故障し、警察官が手旗信号で対応している場面においても、その指示を的確に認識して従うことも望まれる。さまざまな場面にフレキシブルに対応する「完全自動」の能力が求められるのだ。

自動運転開発における大目標であり、目指すべき到達点と言えるだろう。

■実現に向けた課題
センサーやAI技術のさらなる高度化が必須に
LiDARによるセンシングイメージ=出典:Velodyne Lidarプレスリリース

完全自動運転の実現に向けては、第一にセンサー類とAI、コンピューターのさらなる高度化が必要不可欠となる。自動運転はLiDARやカメラ、ミリ波レーダーなどの各種センサーがそれぞれの長所を生かし、また短所を補い合いながら「目」の役割を担っている。

このセンサーが映し出した画像をもとにAIが周囲の物体や状況を把握・分析し、車両の制御命令を発する仕組みだ。

完全自動運転においては、各種センサーは走行速度や天候などの影響を極力小さなものとし、より高精度にさまざまな物体を映し出す必要がある。同時に、AIやコンピューターにはそこに映し出されたものが何かを見分け、どういった挙動を行うかを予測し、瞬時に判断を下す能力が求められる。

また、例えば信号機が正常に稼働中の交差点において警察官らしき人が手信号で誘導指示を出している場合、どのような判断を下すかも求められる。一般的には手信号が優先されるが、「警察官らしき人」が本当に警察官なのかどうかなども判断しなければならない。人間のドライバーでも混乱するような状況下においても、柔軟かつ迅速に何らかの決断を下さねばならないのだ。

高精度化と判断能力、リアルタイム性を追求し、人間と同等、もしくはそれ以上の能力を実現してこそ完全自動運転は達成されるのだ。

インフラ協調で安全性を向上

不測の事態を避けるには、センサーやAIが把握可能な領域を拡大することも求められる。例えば、交差点における死角やセンサー精度が落ちる荒天時などだ。ビルの死角など通常は把握できない視界領域も、交差点に設置されたセンサーと連動することで死角の情報を入手し、不測の事態に備えることが可能になる。

日産が開発を進める将来技術「Invisible-to-Visible」などが代表的な例だ。コネクテッド技術によって建物の裏やカーブの先など見ることができない場所をドライバーの視野に投影する技術で、3Dインターフェースを通じて車内外のセンサーが集めた情報とクラウド上のデータを融合する形で実現する。ドライバーが対象となっているが、自動運転システムに対しても当然応用可能な技術だ。

こうした技術の実現には、車両と協調可能な道路情報インフラの整備とともに、5Gに留まらない高速・低遅延で安定した通信技術が必要となりそうだ。

【参考】Invisible-to-Visibleについては「日産、”ビルを透明化する”将来技術発表 自動運転車に搭載へ」も参照。

高精度3次元地図の網羅も必要に?

情報インフラとして重要視されているのが高精度3次元地図やダイナミックマップだ。現在実証や実用化が進められているレベル3やレベル4の大半は、高精度3次元地図をベースに自車位置推定やプランニングを行っている。

AIファーストで高精度3次元地図に依存しない自動運転システムの開発を進める動きもあるが、情報を補完しAIの負担を下げる意味でも高精度3次元地図が有用であることは間違いない。課題は、地図の整備と更新だ。

全ての道路を走行可能なレベル5向けに高精度3次元地図を整備するには、当然全ての道路を網羅する必要がある。さらに、細かな変更点がないかをチェックするため、定期的な更新も必要になる。膨大な労力だ。

こうした地図の整備には、道路上を日常的に走行している多くの車両の車載センサーから常時情報を収集し、地図を作製・更新する技術が必要となるかもしれない。

こうした技術へのアプローチとしては、ウーブン・プラネット・ホールディングス(旧TRI-AD)のウーブン・アルファが開発を進める自動地図生成プラットフォーム「AMP」などに注目だ。

セキュリティの高度化や法規制も

その他、レベル4なども同様だが高度なセキュリティ技術をはじめ、有事の際の対応や責任の在り方、免許制度などについてもより明確なものへと変えていかなければならない。

法規制や運用ルールなどはレベル4に向け一定の整備が進められているが、そこからレベル5に向けどのような課題が浮き彫りとなるか。まずはレベル4の定着を待ってからの問題かもしれない。

■実現時期は?

現在、明確にレベル5の実現時期を示している開発事業者はほぼいない。過去に米テスラのイーロン・マスクCEOが完全自動運転に言及し「2021年中に提供できる」旨の発言をしていたが、マスク氏が言う完全自動運転がレベル5を示すものかは不明で、またレベル4にしろレベル5にしろ、実現できていないのが現状だ。

実現時期として、2030年代を目標に据える開発事業者や各国政府も多いが、正直なところ明確な根拠はなく、漠然と定めている面が強い。

■【まとめ】レベル5実現には技術的ブレークスルーが必要不可欠

レベル5はレベル4の延長線上に位置する存在だが、その実現にはさらなるイノベーション、技術的ブレークスルーが必要不可欠と見られる。

ただ、ディープラーニングの登場がAI開発を過熱させたように、ブレークスルーは突如訪れる可能性がある。マスク氏が奇想天外な発想を実現するかもしれないし、今は名もないスタートアップが花を咲かせる可能性もある。

AIが爆発的進化を遂げ、人間の知能を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」が2045年に訪れるとする見方もあるように、AIは今後も進化を続ける。レベル5もいつの日か実現すると信じ、いっそうの開発加速に期待したい。

■関連FAQ
    完全自動運転の自動運転レベルは?

    自動運転レベル5の水準となる。自動運転レベルは0〜5の6段階で定義され、レベル5は最上位となる。自動運転レベルについては「自動運転レベルとは?」で詳しく説明しているので、参照してほしい。

    完全自動運転の定義は?

    完全自動運転、すなわち自動運転レベル5の定義を簡単に説明すると、自動運転システムが全ての運転タスクを担い、どこでも、どんなときでも自動運転システムを稼働させることが可能な水準を指す。自動運転レベル4とレベル5では、この「どこでも」「どんなときでも」という点に違いがあり、レベル4は自動運転システムの作動領域が限定的だが、レベル5はそれらに制限がない。

    完全自動運転が実現する社会はいつ訪れる?

    記事でも説明したとおり、レベル5の実現時期を明確に示している開発事業者はほぼいない状況だ。各国政府からもレベル5の実現時期までの計画・施策をまとめた具体的なロードマップの話は聞こえてこない。そのため現時点で完全自動運転が実現する社会がいつ訪れるのかについては、具体的に言及するのは難しい状況だ。

    完全自動運転の実現に向けた課題は?

    自動運転技術やAIの高度化、道路インフラのアップデート、法律の改正、社会受容性の向上、通信速度の高速化、セキュリティ技術の向上などが挙げられる。

    完全自動運転の一歩手前である「レベル4」の実現時期は?

    移動サービス用の自動運転タクシーや自動運転バスでは、一部ですでにレベル4が実現している。例えばGoogle系Waymoは、すでに一部車両で車内に安全要員などを乗せずに無人タクシーサービスを展開している。

(初稿公開日:2022年5月5日/最終更新日:2023年2月3日)

【参考】関連記事としては「自動運転、歴史と現状(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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